第75話 第3回戦 VS筋肉塾♂⑤
前回のあらすじ
・ルシファーのホームラン!
・達磨ヒゲさようなら
2回の裏、マウンドに立つのは俺だ。そして打席には4番青龍寺。先ほど2回の表に1点を失った青龍寺はより一層闘気を爆発させている。
その青龍寺は手に何も持っていない?
「ワシの武器はこの鍛え上げた肉体である!バットなどというモノは不要!・・・であるがシステム上何かしらを媒介せねば技が使えない故にこれを使う。これが青龍寺のバットなり!」
先ほどから青龍寺が「これ」と言って掲げてる拳によく目を凝らす。・・・なるほど、よく見てみると青龍寺の右拳には銀色に鈍く輝くメリケンサックが嵌められていた。
うん、野球のルールを知っているのか小一時間ほど問い詰めたいところではあるがメリケンサックがバットと言い張るのであれば仕方ないな。
「ワシをかばい逝った達磨ヒゲの遺志だ。漢と漢の約束だ、この青龍寺、命にかけても果たさせてもらうぞ!」
「またそのセリフか?もう聞き飽きたぜ。俺にだってな召喚主として、そしてこのチームを率いるものとしてのプライドがある!ルシファーが見せてくれたんだ。負けるわけにはいかねぇんだよ!」
「お互い引けぬモノがあるというわけであるな?ならばこれ以上の御託は無用。ただ互いの意地と意地、どちらが上か凌ぎを削るのみ!」
「もう隠し玉はなしだ。全力でてめぇをぶっ倒す!」
「國士無双流闘気術弐ノ型・暁。【暁】は防御を捨て、身体強化に使っている闘気の全てを破壊力に特化させる闘気術。そなたが何をしようとも、全て真正面から打ち砕くのみ!」
青龍寺の闘気の質がガラリと変わった、それはまるで太陽を身に纏ったかのように燃えるように熱く、溶岩地帯の熱すら吹き飛ばすほどの猛烈な熱気と圧が俺を襲う。まさに全てを燃やし尽くす破壊の権化だ。
青龍寺は防御を捨てたと言っているがそれは正しくないな。必要がないんだよ、防御が。青龍寺の今の状態は灼熱に変化させた闘気を身に纏っている。そのせいで生半可な攻撃は全て届く前に焼かれる。だからこそ防御を捨てられるんだ。
「これが青龍寺の本気か。なら勝つためにはもっと上を行かなきゃダメか。ふぅ・・・」
深呼吸して呼吸を整える。そしてイメージ。肉体の構成を隅々まで意識する。骨、筋肉、神経、血管、およそ人体を構成するとされている全ての要素を闘気で内側から強化する。そして外側からは全身を魔力で包み込むように魔纏う。
「ぐっ・・・キッツイなぁ!」
流石に強化の度合いが強すぎて全身が軋んでいる。ルシファーの話を聞いて出来ると踏んだがこれは流石にやばいか?地形効果も相まってHPがどんどん減っているな。
けど強化率は【闘気】と【魔纏】の相乗効果で跳ね上がっているはずだ。
「いくぞおおお!」
魔球を発動する余裕などなく、ただ純粋に強化された力のみでボールを投げる。なんの変哲もないボールではあったが、その強化率は俺が持っていたよりも凄まじいらしく、ボールが音速を超えた。
と、いうよりは投げた瞬間にはヴィクティムが構えたミットの中に入っており、その数秒後、周囲を凄まじい衝撃波が襲った。流石の青龍寺も全く反応ができておらず、衝撃波をモロにくらっていた。
「ぬぅ、まさかこれほどまでとは。だが負けるわけにはいかんのだ!」
吹き飛ばされた衝撃で内臓でも傷つけたのか血を吐き捨て、口元を拭いながら青龍寺が立つ。
「ぐっ、かなりきついがこれならいける!」
俺の方も割とダメージを負っている。すでに体は軋み、骨にヒビが入っている。そしてHPはすでに残り6割ほどになっている。まさに自壊覚悟の技だな。こりゃ。
続けて第2球を投げる。体の強化の感覚は掴めるはずなんてないけど、2回目なら1回目よりもうまく投げられるはずだ。出来る工夫を考えろ!
相手は青龍寺だ。ただ早いだけなら次からは対処してくるはず。そして衝撃波もダメージを与えることはできても致命傷には程遠い。よりもっと強力に削るしか勝ち目はない。
「魔、魔球・刹那の弾丸。ぐああああ!」
なんとかして魔球を発動するも頭が割れるように、いやそれどころじゃない。脳をスプーンでかき混ぜられるような経験したことのない痛みが襲う。きっと魔力の使いすぎによるオーバーヒート。それに俺のチンケな脳じゃ制御力が不足してるか!
流石に闘気に魔力を追加して魔球はやりすぎたような気がしないでもない。しかし青龍寺を打ち取るにはこれぐらいの無茶はしないと相手にすらならない。
使った魔球は【付与魔法】のクロックアップだ。時魔法は対処の時間を加速させるがクロックアップは対象の速度を上昇させる。小細工は通用しない。だったらさらに加速させるだけだ!
「ふんぬ!うおおおおお!」
全く反応できずに衝撃波まで食らった初球よりもさらに速いはずの俺の魔球を青龍寺は捉えてきた。しかし、流石の青龍寺とは言ってもあの速度についてゆくのが精一杯だったようだ。タイミングが全然あっておらず、なんとかファールにしたといったところ。そして・・・
プラーン。
「ぬぅ、腕が折れたか。」
俺のボールの威力が青龍寺の闘気を突き破って大ダメージを与えた。なんとかボールあてにきた青龍寺の腕は俺のボールの威力をモロに受け、だらりと力なく垂れ下がっている。折れたと本人が言っているのであれば本当だろう。もうこの試合では使い物にならないはずだ。
「だが、この程度でワシが倒れてはワシをかばった達磨ヒゲに顔向け出来ぬ!ワシら筋肉塾が掲げる敢闘精神はこの程度のことでは折れぬ!はああああ!」
青龍寺は闘気を右腕に集中させた。どうやら無理矢理闘気で折れた右腕を操作しているようだ。気を失うほどの激痛が襲っているはずだがその様子は一切見せていない。
こんな風に冷静に青龍寺を眺めているが俺だって余裕があるわけではない。HPの残りは3割程度。全身の筋肉はズタズタで骨はボロボロだろうな。そして割れるような頭痛。はっきり言って最悪のコンディション。多分これがこの試合最後の投球になるだろうな。
「いくぞ青龍寺いいい!!!!」
2球目までのただ速いだけのボールだと間違いなく打たれる。たとえ青龍寺は腕が砕かれていようと闘気で体を操作してでも無理矢理打ってくるだろう。青龍寺はすでにこのあとのことを考えていないだろう。奴の目はここで俺のボールを打ち砕くことしか見えていない!
そんな化物相手に同じ技が二度も通用するはずもない。であるならばさらに進化した魔球を投げないと負ける。
「魔球・|暴風と爆炎の狂宴、己が魂の全てを賭けて目の前の敵を打ち砕く圧倒的な暴虐」
もう体が壊れるのも、オーバーヒートで目や鼻から血が流れ、激痛が頭に走ろうとも構わない。ただこの一球に全てを賭けて青龍寺を打ち取ることだけを考える。
朦朧とする意識と残りのMPから考えても使える魔法は少ない。さっきみたいに【付与魔法】とかは多分使えない。使えるのはこれまでになんども使ってきて体に馴染ませて無意識でも使いこなせるようになった基本属性のみ。
俺が選んだのは火と風。この2つをうまく組み込めれば爆発的な加速力を生み出すことが出来る。その威力に俺の身体能力が合わされば常人では捉えるどころか音速を超すであろうボールによって生み出される衝撃波と熱風で即死させられるほどの威力があるはずだ。
「いっけえええええ!」
「いかな魔球であろうとも!このワシの筋肉に打ち砕けぬモノなし!國士無双流究極秘奥義!拳骨!」
青龍寺が繰り出した技はただただ鍛え上げた己の肉体を信じ、これ以上ないほどに練り上げた闘気を右拳の一点に集中させて放つシンプルにして最強の技。
足、尻、腰、腹、胸、腕と一切のロスなくエネルギーが右拳に集まり、天地まとめて一切合切を打ち砕き滅ぼしかねない威力の拳骨が繰り出される。
そして両者が激突。
爆風、衝撃波なんて生やさしいほどの破壊の力がグラウンドを灰塵へと変えてゆく。すでにボールの威力と青龍寺の闘気でマウンドとバッターボックスは消えている。それどころか流れ込んだ溶岩でさえ巻き込まれ消し飛ばされてゆく。
「うおおおおお!」
「ぬうううううう!」
もはやお互いにHPは尽きている。それでもなお立ち続け、魔球と魔振を発動出来ているのは偏に気力だけだ。
このまま敵味方関係なく全てを飲み込んで破壊するかと思われた魔球と魔振の激突は唐突に終わりを告げる。
それは同時の出来事だった。あれほどの破壊力をもっていたボールに込められた魔力と全てを消しさらんと荒れ狂っていた闘気が突如ふわりとなんの前触れもなく掻き消えた。
そしてポトリとその場に落ちるボールとマウンドがあった場所、バッターボックスがあったであろう場所にドサリと崩れるように倒れ落ちる両者。
落ちたボールをヴィクティムが拾い上げて青龍寺に触れる。
「キャッチャーゴロアウト!そしてプレイヤー名青龍寺時貞、及び桃、戦闘不能!」
この時点で俺の意識は途絶え、気がつけばロッカールームに飛ばされていた。さて、試合はどうなるかな?
この話では頭痛だのなんだのと本当に感じるの?って感じの描写が多々ありますが盛り上げるためのご都合主義的な感じでご理解お願いします。




