第71話 第3回戦 VS「筋肉塾♂」①
前回のあらすじ
・ワシが筋肉塾塾長、青龍寺時貞である!
・押忍!
時間が来た。ロッカールームに転移陣が現れそれに飛び乗ると一瞬で目の前の景色が変わる。
転移陣から一歩外に出た途端に激しく打ち付ける熱気。喉を焼き、空気すらも焼き焦がさんとばかりの熱気を肌で感じる。
「ここが次の試合会場か・・・」
思わずゲンナリとしてしまう。ここは灼熱の地底火山をモチーフにした球場でその名前の通り、グラウンドのあちらこちらを溶岩が流れており、ベンチの外に出るとHPが削られるという超極悪ステージなのだ。
さらに時々間欠泉が吹き上がったり、溶岩が氾濫を起こしたりする。HPの削られ具合で言えばこの球場がダントツで1番だ。戦いにくさではまた別の球場が1番だけどな。
このHPの削れ方だが、そのまま直接ゼロになってゆくのではなく、普段は緑で表示されてるHPバーが赤く変化してゆく。この赤いバーはベンチなどフィールド効果の及ばないところに避難すれば回復する一方で、ダメージを受ければ防御力など一切関係なしに赤い部分全てが吹き飛ぶという仕様になっているぞ!
ちなみに、この仕様のためかピッチャーの投球には時間制限が設けられているぞ!
「そして、対戦相手があれか・・・」
俺とレイの視線の先にはフンドシ姿のゴリゴリのマッチョメンたちが一心不乱に筋トレをしている。そしてその中心には一際大きい大男が溶岩の満ちた桶の中で座っている。
「あ、あれはまさか!」
「知っているのか!レイ」
「あれは筋肉塾名物「溶岩風呂」!敢闘精神の元、心頭滅却すれば火もまた涼しを体現した伝説の溶岩風呂だよ!筋肉を鍛えて極みに達したものは筋肉の発する熱量がありとあらゆる熱量をも上回るからこそ可能なあの名物!つまりあの男は・・・!」
「ワシが筋肉塾塾長、青龍寺時貞である!!!」
突然風呂の中から立ち上がった男が大声で叫ぶ。空気で振動するような凄まじい大声だ。そしてひしひしと伝わってくる強者独特の雰囲気。なんでもありの殺し合いなら負けることは多分ないが1対1のタイマンなら良くて互角だろう。この競技だとどうだろうか?
「そなたらが召喚騎士殿に閃光殿か!噂はかねがね。ご高名なお二方と戦えると聞き、ワシを筆頭に塾生もワシの筋肉たちも歓喜に震え、躍動しておるわ!のう、塾生諸君!ワッハッハッハッハー!」
「「「「押忍!ごっつあんです!」」」」
塾生達が一斉にポージングを取り、自らの筋肉を誇張させながら青龍寺の言葉に答える。えーい!暑苦しいな!ただでさえ熱いのに!!!
「そりゃどうも。」
「うむ、筋肉こそ足りぬがワシを前にしても一歩も引かぬその態度、面構え。相当な修羅場を潜っているとお見受けする。」
そこまでいうと、青龍寺、そして塾生の雰囲気がガラリと変わった。全身から立ち上る闘気。熱気ではなく、その凄まじい闘気で空間が揺らいでいる。
「だが、勝つのはワシら筋肉塾である!我が筋肉塾に敗北の二文字なし!」
ならば俺もその漢気に答えようじゃないか。第1回イベントの時に交換していたランダムスキルオーブから獲得した新スキル、【魔纏】を発動。【魔力操作】で極限まで高められた魔力を全身に纏う。これはおそらく闘気の魔力版。魔力で全身を強化するとんでもないスキルだ。
「生憎だな青龍寺。俺たち「高天原」にも敗北の二文字はねぇんだよ!」
お互いの意地と意地、プライドとプライドが試合前から火花を散らす。優勝候補の一角を担う両チームが激突する注目の3回戦の幕が上がる。
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「プレイボール!」
今回の主審ロボはなぜかペンギンだ。熱いのに平気なのだろうか?まぁいいや。この試合は俺たちが先攻になった。この球場ではフィールドギミックはなく全部ランダムなので先攻後攻で有利不利はないはずだ。
相手の投手は・・・やはりこの男か!青龍寺時貞!先頭バッターは俺だ。俺が一番スキルが多彩でどんな状況にも対応できる。相手が青龍寺なら尚更何が出てくるかわからない。俺が出るのが一番だろう。
「ガッハッハッハー!行くである!國士無双流投球術・一球入闘」
「くっ!?魔振・無重力!」
とっさに自分の重さをゼロにしたおかげで青龍寺の放った魔球から逃れることができた。しかし、俺を襲った超巨大なボールは若干軌道が逸れ、近くの岩山に激突。そのままその岩山を木っ端微塵に粉砕した。
「マジかよ・・・」
わずかに触れた俺のもつバットの先っぽが消滅している。一応魔力で覆ってたはずなのに一瞬にして消し飛ばされた!
「これが青龍寺の魔球・・・」
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「これが青龍寺の魔球・・・」
『知っているのか?そこの人間』
冷や汗を流す桃を眺めるベンチではレイと本日初先発のルシファーが話をしていた。
「噂でしか聞いたことないけど、あれは青龍寺が独自に編み出した流派で闘気を自由自在に操って戦う流派らしい。彼のあの圧倒的な肉体と溢れる生命力から編み出される闘気の量は莫大にして強力無比。そのあまりに強大なエネルギーはもはや凶器となり、生半可なものだと触れたそばから消滅する究極の流派だよ。そしてその真髄はその膨大な量の闘気の緻密なまでの操作。それができるからこそ青龍寺は今の地位にいるんだ。」
『ほう、人間にもまだそのような英傑がいるとはな。』
「その英傑を倒さないと勝てないんだよ。この試合は。頼りにしてるよ?桃の切り札君?」
『ふっ、せいぜい足を引っ張らぬようにな。』
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「ガッハッハッハー!ワシの投球を初見で躱すとはなかなか見所があるではないか。だが逃げているだけでは話にならんぞ?では第2球目である!さっきよりも力をいれるゆえ、死ぬでないぞ?」
やばい、正直に言って予想以上に強い!さっきはとっさに体重を軽くして迫りくる風圧で飛んで逃げたからどうにか逃げられたけど、今度はそれすらも封じてきている!闘気が回転して渦を作ってやがる!
「くそ!これは温存しておきたかったけど仕方ねぇ!【百科事典】発動!青龍寺の魔球の全てのデータを読み解きやがれ!そして魔振・反逆流転ノ魔纒!」
万物には全て流れが存在する。ベクトル、回転、闘気の流れ、独自の癖。全てが流転している。その流れをあらゆる角度から分析し数値化して全てを見通す【百科事典】。それで読み取った情報を元に【魔力操作】で自身に纏った魔力を操作して青龍寺が放つ魔球と正反対となる流れをバットに纏わせる。
これで理論上は相殺できるはずだ。あとは信じるのみ!
「うおおおおおお!」
魔球と魔振が激突。ぶつかりあったエネルギーが膨大であったためか衝撃波が周囲を縦横無尽に破壊する。
「むっ!?」
「グッ!?」
俺と青龍寺、双方がダメージを受けて吹き飛ばされる。すでにバッターボックスやマウンドなんてもものは衝撃波で消滅している!
「まだまだである!バッターボックスもマウンドもないのであればどこで投げても同じことである!」
重量ゆえに一足先に地面に落ちた青龍寺が空中で吹き飛ばされている俺に向かって3球目を投げてきた!狙いは俺のゲーム除外か!
「させるかよ!」
スパイクに刻印してあるマジックシールドを足場にして空中に降り立つ。青龍寺は俺へのトドメを優先したのか2球目よりは闘気が籠っていないからさほど集中しなくてもいい。それでもこれまでのモブピッチャーのボールなんかよりもはるかに強力!そのまま受けてはやられる!
「ぐっ・・・重い!けどバットで受けれたぞ!!!青龍寺!!!魔振・全反撃!」
渾身の力を込めてボールを弾き返す。スキルによって倍以上に増幅された魔球が青龍寺を襲う。
「國士無双流奥義・菩薩掌底破!」
しかし、青龍寺は一切動じず、闘気を纏った素手で拍手をするようにボールを受け止め完全に勢いを殺しそのまま掴みやがった。
「ピッチャーライナー!アウト!」
こうして俺と青龍寺の対決は青龍寺の勝利で幕を開けた




