第70話 試合と試合の合間の間話?
前回のあらすじ
・レイがブチギレ
・英霊の魔振炸裂
・アルバセロがトドメ☆
2回戦を突破した俺たちは転移の光に導かれ、控室となっているロッカールーム型の別空間に戻ってきていた。
「無事に2回戦を突破したけど、最後のアルバセロの魔振は一体どんな仕組みだったんだい?まさか【不壊】の効果が付与された天井があそこまでぐちゃぐちゃに壊れるなんて驚いたよ」
試合の余韻が落ち着き、一息入れたところでレイがさっきの試合のアルバセロの魔振について聞いてきた。うん、俺もキーマンというか切り札として考えていたけどまさかあそこまで効果が発揮されるとは思いもしなかった。
「あれなぁ、正直に言ってあそこまで効果があるとは俺も思ってなかったんだよ。まず、アルバセロの装備に刻印したのは全て土魔法か魔力操作の魔法系スキルだ。それに加えて魔振の基本属性も土属性だった。ここまではいいよな?」
「もちろんだとも」
「それでだ、あのグラウンドは天井まで地面扱いだっただろう?そしてあの最後の場面では天井が下がっていてアルバセロのバットが天井にも触れていた。そしてアルバセロは土を司る神だ。英霊となって力そのものは衰えているせよ神が魔法バフをガン積みされた状態で土に働きかける魔振を使ったんだ」
「そうか!あの天井は地面扱いだから一緒に操作できたのか!」
「その通り。あれは壊してるんじゃない。形を変えただけだ。だから【不壊】のスキルでは邪魔できなかったんだよ。まぁ、もしかしたら運営はそこまで想定していたのかもしれないけどな。だって本気で天井を固定するなら【状態固定】とか【干渉不可】とかにすれば良かったんだよ。それなのにわざわざ壊れないって書いてるんだもん、自由に使ってくれってことだろうよ。」
「そんな発想をするのは君だけだと思うよ・・・。まぁ、何はともあれ無事に2回戦突破だね。」
「そうだな。」
レイが言わないってことはあの魔振については触れない方がいいんだろうな。多分ここで見せるつもりはなかったはずだ。きっとあれはPVPに向けたレイの必殺技の1つだろうし。
「他のところは・・・あー、またアーサーのところが圧倒的強さで瞬殺してやがるな」
やはり本命はアーサーのチームのようだ。第2回戦も難なく突破している。それもそのはずで、噂によれば全員がレベル60に到達した猛者たち。さらにトレスの迷宮の属性ウルフをギルド規模で狩り、その素材を市場に流すことで資金を獲得。その資金を以て市場から希少金属や素材を買い集めて装備を強化したり、いろんなスキルの情報を買っては獲得しているそうだ。
つまり、全員がこのイベントに向けてスキルを獲得しており、手札が多い。これに勝つには最初から選手を減らす以外に方法はないが、優秀な生産職を抱えているのかダメージの通りが悪く、結局地力の差で負ける。このパターンのチームが多いようだ。
「確かに地力が強いのも認めるけど、やっぱりアーサー本人の実力もかなり上がってるよね」
そう、高々地力が強い程度のチームがレート戦で無敗なんて記録を作れるわけがない。もちろんチーム全体の強さもそうだが、やはりアーサー本人が抜きん出て強い。
スキル選択、威力、身のこなし、そのどれを取っても一級品。PSに頼って大技ドッカンな俺とはまた違ったゲームに即した強さだ。それゆえに正統的に強い。うん、俺はどちらかといえば邪道な魔王系の強さでアーサーは勇者的な強さだ。
本人も勇者を気取りたいのか主に光系と雷系、それから回復系のスキルを好んで使っている感があるな。そして切り札を1つも切っていないだろうな。
「まぁ、あいつらと当たるとしたら決勝だ。気にしても仕方ないだろうな。レイ、俺たちの次の対戦相手は決まったか?」
「うん、たった今決まったよ。ある意味アーサー以上に最悪な相手かもね。相手は予選通過第2位【筋肉塾♂】だよ。場所は・・・これまた最悪、灼熱の溶岩球場だ」
なるほど、確かに最悪の相手と場所のようだな。
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とあるロッカールーム
「ふん!ふん!ふん!ふん!」
試合が終わったばかりだというのにロッカールームは熱気に包まれていた。その熱気はその部屋の中心にいるたった1人の男から発せられたものだった。
もちろんその周囲には彼の賛同者が多く集っており、一緒になって己が肉体に磨きをかけているがそれでも中心にいる男には及ばない。
その異様な雰囲気のロッカールームの中でただ一人、唯一服を着てモニターを見ていた男が不意に声をあげた。
「押忍!塾長!筋トレ中失礼します!次の試合の対戦相手が決まりましたー!」
そう、その熱気の正体は男たちの汗。彼らは先ほど試合が終わったばかりだというのにずっと筋トレに勤しんでいたのだ。もちろん由緒正しく上裸にフンドシの格好である。そう、彼らはある男たちに憧れを抱いている世代でもあったのだ。
その中の中心人物、天下無双と書かれたフンドシを締めた2メートルを越す巨体で周りが惚れ惚れするほどの筋肉をその身に纏ったその男がピタリと動きを止めた。
その男、現在はスクワットをしているようであった。ピタリと止まったその男の頭上には100キロはゆうに越そうかという巨大な岩がピクリとも動かずに乗せられていた。
その男は先ほど声をかけた男が目の前に掲げた文章にちらりと目を通すと徐に立ち上がり、頭上の岩に片手を触れるとそのまま真上へと放り投げた。当然重力にしたがって大岩は落下してくる。もしこのまま落ちてくれば周囲にいる人間もろともみんなぺちゃんこになることは楽に予想ができた。
しかし誰も動かない。それどころか不安の色すら一切見えない。なぜなら、そこにいる全員がこの男に心酔しているからである。
「ふん!」
落ちてきた大岩に拳を振るう男。たった一撃、たった一度殴りつけただけでその大岩は木っ端微塵に砕け散った。
「傾聴ー!」
いつの間にかその男に報告した男が竹刀のようなものを持ち、他の男たちに向かって大声で叫んだ。その瞬間全ての男たちがピタリと動きを止め、一瞬にしてその男の前に集合した。
「ワシが筋肉塾♂塾長、青龍寺時貞である!」
「「「「「押忍!!!」」」」
大地を揺るがすほどの怒号が塾長である青龍寺時貞から発せられる。空間をビリビリ震わせるほどの怒声に気圧されつつも塾生が声を揃えて答える。
「たった今次の対戦相手が決まった。あの【召喚騎士】なる職業に就いている桃と【閃光】のレイのチームである!」
「「「おぉ」」」
青龍寺時貞の発表に塾生たちの間に動揺が走る。
「うろたえるな!お前らの筋肉はなんのためにある!その鍛えられた肉体と敢闘精神さえあれば敵が如何に強大であろうとも必ず討ち取れる!」
「「「「押忍!!!」」」
「そして次の試合はワシも出る。そして筋肉塾の総力を持って高天原に挑む!」
「「「「おぉ〜」」」」
今度は塾生の間から歓喜のどよめきがあがる。
「それゆえにこれより、筋肉塾のスタメンを決めるべくトーナメントを行う!各自時間は短いが自らの筋肉に磨きをかけるが良い。以上」
「「「「押忍!!!ゴッつあんです!!!」」」」
男たちは自らの筋肉を信じ、わずかでも鍛え上げるべく、筋トレに勤しむのであった。こうして男達の男達による男達のための祭典が暑苦しく始まり、人知れずに終わりを迎えた。
全筋肉塾塾生の中から選ばれた選りすぐりの筋肉たちが桃達に襲いかかるまであと数時間。
最後の時間は適当です。受け流してください〜




