第8話 VSランザ
前回のあらすじ
街を散策します
衛兵長は最強でした
ジジイの先制攻撃!
「やっぱりかよ!」
文句の一つでも言おうとした瞬間にはその老人は剣を振り上げ目の前にいた。試すとか言ってた時点で【逆境】を発動させていたから辛うじて目で追うことが出来、その大剣が振り下ろされる瞬間に地面を転がって避けることができた。
「ふむ、今のを避けるか。少しは出来るようだ。」
「いきなり攻撃しやがって」
さすがに街中で問答無用で攻撃されるとは思ってもみなかった。さっきまで俺がいたところをちらりと見ると石畳で整備されていたはずの地面に亀裂が入っている。
いくら大剣型とはいえ木剣で石畳をカチ割るんじゃねぇよ。さすがにチートが過ぎないか?思わず鑑定を発動させる。
ランザ Lv.70
職業 魔剣鍛治師 元衛兵長
マジかよこの爺。レベルが現在のプレイヤーの上限を超えているのかよ!しかも元衛兵長ってことはエリックの元上司か?
いや、今そんなことはどうでもいい。重要なのはここをどう切り抜けるかってことだ。あのスピードと石畳を破壊した威力を考えると【限界突破】と【覚醒】を発動させても到底ステータスでは敵わない。ならば勝つ道筋はランザの想定を超えるしかない。
「悪りぃがなりふり構ってらんねぇぞ!」
「好きにするといい」
言質は取った。これで反則なんて言わせない。そもそも相手は大剣でこっちは片手剣。ただでさえステータスで負けてる上にリーチや武器そのものの威力だって負けてる。多少なりとも卑怯な手を使わなきゃ一撃も与えることができずに敗北するだろう。
「うおおおおおお!」
まずは剣を構えずに愚直に突撃する。相手の方がリーチは上。そして破壊力のある武器を持っているなら、その場からカウンターで振り下ろした方が明らかに効率的。
当然ランザもその選択をする。と言うより、結構狭めの路地なので大剣を振り回すスペースは地味にないので振り下ろしか振り上げの選択肢しかランザにはない。
「臆することなく向かってくるその心意気やよし!」
「これでも日本人の端くれ!過去の英雄の教えにはこんな言葉があるんだよ!新撰組隊規第一条「士道にあるまじきこと」敵前逃亡は士道不覚悟ってね!」
【逆境】を発動したまま走る。15メートルほどあった距離が5メートルほどまで縮まったその瞬間に持っていた木剣を顔面目掛けて投擲する。
「な!」
一瞬面食らったランザではあるが流石にそこはレベル70の猛者。ステータスがゴミカスな俺が放った木剣を素手ではじき飛ばしてしまった。まぁ、それも折り込み済み。だって剣で弾けば隙ができる。そんなヘマを歴戦の猛者感溢れるこの人がするわけがない。
重要なのは……
「ははは、命より日本人とやらの誇りを選ぶか。まぁ、それもいいだろう。お主ら来訪者は殺しても死なぬと聞いている。ここらでいっぺん死んでおけ」
俺がもう武器を持ってないと思わせること。
ランザが片手で持っている大剣を俺目掛けて振り下ろそうしたタイミングを見計らって【限界突破】を発動する。そしてインベントリにしまってあった初心者装備の剣を登録機能を使って一瞬で装備。跳ね上がったステータスの全てを以てランザの右手の親指を切りつける。
「ぐわぁ!」
いくらレベル70のステータスでも親指ピンポイントなら俺の攻撃が通用するはずだ。まぁ、これはある種の賭けだったんだがその賭けには勝ったらしい。親指にダメージを負っては剣は握れまい。
ダメージで怯んでる隙に【覚醒】と【瞬歩】を発動。【瞬歩】でランザの背後に回り込んで現状俺の最大のステータスを持ってランザに殴りかかる。
バシッ!
完全に一撃入れたと思ったのに、急に振り返ったランザが涼しげに右手で俺の拳を受け止めていた。しかも切りつけたはずの親指はそんなことなかったかのように完全に回復している。
「なかなかいい判断だった。俺にわずかでも傷を負わせる奴がエリックの他にいるとはな。けどよ、最後の攻撃、声を出さなかったのは立派だったが殺気がダダ漏れだったぜ。」
「ぐっ……」
これまでとは口調が少し違うランザ。どうやらダメージを負わせたことで意識が切り替わってしまったようだ。そして受け止めた右手は万力のように俺の拳を握りつぶしている。
「俺に傷をつけた数少ない相手だ。敬意を表して一撃で楽にしてやるよ。ふん!」
なんとランザは片手で俺のことをぶん投げた。しかも変に回転をかけて投げられたので受け身が取れない!そしてランザはというと落ちた大剣を拾ってなにやら構えを取っている。体が光ってるからなんかのスキルを発動するっぽいんだけど、上空にいて身動きの取れない俺はただただ眺めるだけだ。
「生き返ったらまたくるといい。その時は歓迎しよう。【龍閃】」
「させるか!【鉄鎖の防壁】!」
初の死に戻りをまさかの街中で迎える覚悟をしたが身構えていた衝撃は襲ってこない。ランザの武技が発動する前に何か聞こえたが…どうやら俺の間に誰かが入り込んで守ってくれたようだ。
「爺!てめぇ、街中でなんて物騒なことしてやがるんだ!」
ん?この声は?俺の前に立つ後ろ姿には見覚えがあった。
「邪魔をするなエリック。今いいところなんだ。」
現衛兵長であるエリックだった。どうやらエリックは持っていた盾の武技のようなものでランザの武技を相殺して俺を守ってくれたようである。
「いいところもクソもあるか!街中でいきなりドンパチ始めやがって!ここで止めねぇとしょっ引くぞ!」
「…むぅ、それは流石にごめん被りたいのう。仕方ないここは貴様に免じて矛を収めてやろう。小僧誇るがいい。この儂に一撃入れたのはここ10年でそこにいるエリックに続き2人目だ。」
「爺…テメェマジで豚箱にぶち込んでやろうか?あ?……ってお前マジで爺に一発入れやがったのか。」
相当頭に来てるのか口調がこの前あった時とは違ってかなり荒々しい。でも多分こちらの口調の方が素なのだろう。
「まぁ何とかな。それでもこのザマだ。与えたはずの傷もすでに見当たらないしそれに俺の中での最高火力もあっけなく防がれた。文字通り手も足も出なかったぞ。」
「いや、それでも爺相手に手傷を負わせるってだけでも相当だぞ?このジジイ、こんななりでもレベル70だ。お前さん来訪者だろ?それもこの前来たばっかりの。せいぜいレベル10がいいところだろ?」
「なに!?小僧レベル20にも満たないじゃと!?それで儂とやりあったと言うのか……」
なにやらランザが衝撃を受けている。そういやブラックウルフ倒してからステータス見てねぇや。称号の確認もしなきゃなんねぇし今日のうちに確認しておくか。
「話が進まねぇから爺は黙ってろ。この爺を相手にするなら最低でもレベル60は必要だ。もちろん技術も経験も。それなのにそのレベルで多少なりともまともにやりあったのなら大勲章だぜ。えーっと、そういえばあの時名前聞いてなかったな。
「あ、名乗ってなかった。俺は桃って言うんだ。改めてよろしく」
「おう、よろしくな。桃は見込みありそうだし、フレンドカード交換しないか?」
「勿論!」
<エリックとフレンドカードを交換しました。>
エリックから渡されたフレンドカードをインベントリに入れて登録完了。これで住人のフレンド3人目か。なんかプレイヤーのフレンドより余裕で住人との交流が多いな。まぁ、もともとボッチプレイする気満々だったし、職業も召喚師系の職だから別にいいけどね。
「おい小僧ども。中に入るぞ。ついて来い。」
エリックをフレンド登録しているといつの間にかショック状態から回復したランザがそう言ってスタスタと歩いて行ってしまう。いや、小僧どもってどうなのよ?俺はまだわかるがエリックは間違いなく30歳は超えているだろうに。
「まぁ、あの爺からしてみれば俺も桃も大して変わらんのだろうよ。気にするだけ無駄だ。さっさと行こうぜ。」
「あぁ、そうだな。」
エリックと共に扉を潜ってランザの家に足を踏みいれる。扉を潜るとまず目に入ってくるのが結構広めの庭と踏み固められた地面、それから試し切り用の藁や木材だ。あの剣捌きから見てもランザは衛兵をやめてからもずっとここで鍛錬を続けていたのだろう。
荒れた庭を横目に見ながら工房に入る。炉に火はついていないがそれでもむわっとした熱気を感じ顔をしかめる。
さらに工房を抜け、自宅部分へと先を歩くランザを追いかける。そして広いリビングに着きそこで俺とエリック、それからランザは向かい合って腰を落ち着けた。
「さて、改めて自己紹介しておくとしよう。儂は元衛兵長でそこの馬鹿弟子の元上司でもある。今は鍛治職の三次職の魔剣鍛治師についているランザだ。」
「俺は来訪者で桃だ。よろしく頼む。」
「ふむ、さっき馬鹿弟子も言ってたが来訪者はこの世界に来てからまだほんのわずかしか経過していない。それなのに儂に一撃を加えるとは、なかなか侮れん存在のようだな。その馬鹿弟子が儂とまともにやり得るようになるまで10年は掛かったからな。」
「これが来訪者が最初から持つスキルって奴の力か。くっ、俺の10年は一体……」
エリックが凹んでしまったのでここはフォローして話を先に進めよう。
「いや、はっきりとは言えないが俺は他の来訪者とは違って特別なスキルを持っている。ランザに一矢報いることができたのはそのおかげだ。」
「ほっ、そうか。ならよかったぜ。来訪者がみんな桃みたいな強さだったら正直俺たちじゃ抑えきれるか心配だからな。」
「ふん。それはお前の鍛え方が足りんからだろうが。馬鹿弟子が。この馬鹿弟子への制裁は後に回すとして、ここを訪ねた理由はなんだ?」
「俺はエリックに聞いてきた。西区の工房を回ったが納得いく武器が見つからなくて」
「俺は桃がここを見つけられているかってのを見回りついでに確認しにきた」
ふむ、要するにエリックはさぼりに近いのか?まぁ、その辺はどうでもいいや。俺の介入する余地はない。ほら言ったそばからランザにぶん殴られてら。
「儂は実力を認めたものにしか装備は作らん。と言いたいところだがあれだけの物を見せられれば文句なしの合格だ。どの装備が欲しいんだ?」
「そうだな、今のスキルから言って必要なのは剣、槍、杖、の3つ。それから軽めの鎧、これは革鎧でもいい。杖は魔術の補助と物理どちらでも使えるとなお良い。剣は別に初心者用装備があるから今のところは問題ないけど槍と杖は持ってないから練習用に欲しい。出来れば丈夫なもので頼む。」
「…器用貧乏になりはせんのか?さすがに多すぎると思うのだが。」
「別に問題ない。それに使える武器が増えるってことはそれだけ取れる手段が増えるってことだろ?たとえそれが茨の道でも突き進むだけだ。」
実は【武術の心得】スキルと称号【ノルンの期待】があるので複数の武器系スキル持ちで起きる弊害は緩和されていると考えている。だからこそ俺はこの段階で複数の武器を求めたんだ。
「そうか、その気があるなら構わん。しかしいかに儂が暇とは言っても一度に打てる数は多くはない。作るからには妥協はしたくないしな。」
「それもそうか…いや、でも一応一通りの装備品は欲しいな。慣れるためにもスキルのレベル上げにも必要だ。」
「それも道理か…よし、なら儂が昔使っていた装備をやろう。なんの能力もないただの装備だが丈夫さだけは保証しよう。ついて来い。」
よし、これで武器ゲットだぜ。
ランザの後について進みやってきたのは最初に通ってきたのとはまた別の屋敷の奥にあった工房の一角。そこには年季の入った数多の武器防具が所狭しと飾られていた。
「この中から好きなのを持っていけ。」
「いいのか?」
「…道具ってのは使われてなんぼだろ。こいつらもここで埃を被ってるよりお天道様の元で存分に振るってもらった方が武器達も喜ぶだろうよ」
「そうか。なら遠慮なく貰っていくぞ」
壁に掛かっていた装備の中から俺は剣と槍、それからバールのようなものを貰うことにした。残念ながらランザは現役時代は前衛だったために一通りに武器は揃っていたが、流石に魔法職向けの杖なんかは持っていなかったようだ。
まぁ、魔法に補助がなくてもバールのようなものは杖扱いだったので使っていればスキルレベルは上がるだろう。
「魔法向けの杖や弓なんかは儂より適任の奴がいる。そいつはドスの街にいるから向かうときに一声かけてくれれば一筆紹介状を書こう。」
「それは助かる。そういえば手入れはどうすればいい?俺にはその手の知識は全くないんだが…」
「なに、耐久度が減ってきたときに連絡してくれれば儂が手入れをしよう。桃の武器を作るまでの間に合わせだからな。どれフレンド登録とやらをすれば離れていても手紙のやり取りができるようになったと聞いた。これでフレンド登録できるんだろ?」
渡されたフレンドカードをインベントリにしまう。
<ランザとフレンドカードを交換しました>
よし、これで凄腕の鍛冶師ゲットだぜ!
それから俺は少しランザとエリックと手合わせをしつつ各種武器の取り回しを確認。そろそろ空腹度がやばいので少し早いが夕食のために暇乞いをする。2人はまだ残って訓練を続けるそうだ。エリックは仕事放ったらかしてして平気なのだろうか?
さて、「堀宮亭」に戻り亭主に夕食の希望を伝える。30分ほどでできるから待ってろと言われ、一旦部屋に戻ってステータスの確認をしよう。ここで夕食を食ったら現実世界に戻って夕食を食って、夜の冒険に出かけたい。
そんなわけでステータスを表示
桃 Lv,7
Fランク
職業 召喚騎士
HP 120
MP 240
STR 21
VIT 18
INT 21
MID 18
DEX 18
AGI 17
LUK 21
NPCF 【カイン】【サーシャ】【◎エリック】【◎ランザ】
称号
□一般
【来訪者の召喚騎士】【到達者】【最速の頂点】【EX職の解放者】【困難に立ち向かう者】【絆を紡ぐもの】【ウルフスレイヤー】
□祝福
【最強の召喚騎士の祝福】【ノルンの祝福】
□神々からの称号
【ノルンの期待】
スキル(15SP)
□武術系
【剣術Lv7】【スラッシュ】
【槍術Lv2】【杖術Lv2】【鎧Lv1】【武術の心得】
□魔術系
【火魔術Lv1】【水魔術Lv1】【風魔術Lv1】【土魔術Lv1】
【召喚術Lv5】【魔術の心得】
□その他
【鑑定Lv8】
【☆限界突破】【☆瞬歩】【☆逆境】【☆覚醒】
☆は初取得、イベント特典などで強化されているもの
レベルは2上がっただけか。結構な数のウルフとグレイウルフを倒したし、ブラックウルフまで倒したのにこれか。やっぱり適正レベル外だと効率悪すぎるな。
IWOはパワーレベリング防止のために適正レベルが設定されている。結構細かな計算式があることをβテスターが発見している。細かいことは抜きにしてソロである俺だと適正レベルは雑魚相手なら1対1でプラス2レベルまで。雑魚が複数で出てくる場合は敵のレベルの合計値マイナス2まで。
これがボスになるとまた少し変わってくるらしいが、ボスは基本的にソロならプラス5以上は確実に求められる。この辺からスキルレベルとか細かい変数があるからもう覚えてない。
正直このシステムには賛否あるが今の俺からしてみれば好都合だ。レベルが上がらないから当然ステータスも伸びない。ステータスが伸びないので無双ができない。その代わりに俺に不足するプレイヤースキルを鍛えることが出来るってわけだ。
カインからの連絡がまだない以上はウノの街を離れるわけにもいかないので別に今の所レベルをあげる必要性は感じない。ならばこの状況をしっかりと活かそうじゃないか。
ステータスの確認を終えるとちょうど夕飯の支度ができたと亭主が呼びに来た。スタミナのつきそうなステーキを頬張り、付け合わせのバゲットと一緒に飲み込む。スープは素材の味を生かした優しい味だった。
大満足の夕食を終えて部屋に戻ってログアウト。さて、夜に備えるとするか。
桃 Lv,7
Fランク
職業 召喚騎士
HP 120
MP 240
STR 21
VIT 18
INT 21
MID 18
DEX 18
AGI 17
LUK 21
NPCF 【カイン】【サーシャ】【◎エリック】【◎ランザ】
称号
□一般
【来訪者の召喚騎士】【到達者】【最速の頂点】【EX職の解放者】【困難に立ち向かう者】【絆を紡ぐもの】【ウルフスレイヤー】
□祝福
【最強の召喚騎士の祝福】【ノルンの祝福】
□神々からの称号
【ノルンの期待】
スキル(15SP)
□武術系
【剣術Lv7】【スラッシュ】
【槍術Lv2】【杖術Lv2】【鎧Lv1】【武術の心得】
□魔術系
【火魔術Lv1】【水魔術Lv1】【風魔術Lv1】【土魔術Lv1】
【召喚術Lv5】【魔術の心得】
□その他
【鑑定Lv8】
【☆限界突破】【☆瞬歩】【☆逆境】【☆覚醒】
◎は今話で追加されたもの
☆は初取得、イベント特典などで強化されているもの