第69話 第2回戦 VSスナイプ②
前回のあらすじ
・桃打たれるの巻
「アハハハ!どうやら魔球とかいっても大したことなかったみたいだね!あんなにいきがってたのに大したことなかったみたいだね!」
ゆっくりとセカンドベースを回りながらアカツキが俺を嘲笑する。
「ふぅ、やれやれだ。」
俺はゆっくりとマウンドを降りるふりをしてサードベースに近づき、踏んだ。
「アウト!スリーアウトチェンジ!」
俺がベースを踏んだ瞬間に3塁の審判がアウトを宣言した。
「はぁ!?なんでだよ!どう考えてもおかしいだろ!」
思わずアカツキが噛みつくが審判はAI味全開のロボット審判なのでうんともすんとも言わない。
「魔球・手品師の嘲り。この魔球は遅効性でね、アカツキの打球がバックスクリーンに当たる直前に発動させてもらったよ。効果はスイッチ。簡単にいうと手品師がよくやる入れ替えトリックってわけだ。その魔球でベンチに落ちてた石とボールを入れ替えさせてもらったよ。残念だったね、アカツキ。君の魔振もその程度だったようだ。」
俺の魔球でアカツキは記録上ピッチャーライナーになる。つまり俺が取るより前にベースを離れていたサードランナーはフォースプレーでアウトにできる。なのでフラフラっとボールをグローブに隠したままサードベースを踏んでアウトにした。
「ちっくしょうがああ!!!!」
おーおー、吠えてやがる。今にもこっちを射殺しそうな目で俺のことを睨んでやがる。でも、俺ばっかり見ていると足下掬われるぞ?
こっちの先頭は変わらずにレイ。アカツキは確かにトッププレイヤーだろうけど、レイだってトッププレイヤーの1人だ。しかも俺と一緒にダンジョンの深層に潜って、さらに鬼ヶ島での戦いも経ている。そう簡単にやられはしないぞ?
「あーもう怒ったよ!全力で叩き潰す!魔球・強弓ノ豪雨!」
マウンドに上がっているのは当然アカツキ。どうやらマウンドに上がっても俺にやられた怒りが治りきっていないようで、いきなり絶叫して魔球を放ってきた。
「おっと、危ないな」
アカツキの魔球は投げた瞬間にボールが分裂した上で矢のように変化。そしてそのままバッターに攻撃しながらストライクゾーンにもボールは届くというなんとも悪辣な魔球だった。
しかしレイはそれを冷静に見切るとその場で跳躍して自身に向かってきた矢は全て避け切った。
「ストライーク!」
けれどもストライクゾーンにきた矢には流石に手が出ずストライク。さて、レイがどうやって攻略するか見ものだな。
「なんだい!躱すだけかい!閃光の二つ名だから警戒していたけどあんたも大したことないじゃないか。あのイベントだって聞けば召喚騎士様におんぶに抱っこみたいだったそうじゃないか!」
あ、あいつレイの地雷踏み抜きおった。レイと俺は元々一緒にゲームをやることが多かった。レイはレイでやることがあるのか、比較的ゲームに費やす時間は俺の方が多かった。まぁ、そうなると自然に俺の方が強くなってしまう。そして2人でイベントの上位をひた走ると心ない連中がレイは俺に寄生してるだのなんだのと騒ぐ。
レイ自身も根っからのゲーマー。そんな誹謗中傷する奴らを黙らせるためにプレイヤースキルを磨き抜いた。そのおかげでPSのレイ、スキルの俺という風に役割分担ができ、次第にレイに対する誹謗中傷は消えていった。
だって、レイのやつ、騒いでた奴らに宣戦布告して完膚なきまでに木っ端微塵にPVPで打ち砕いて回ったんだもん。そりゃもう怖くて言えないわな。
つまり、レイは俺におんぶに抱っこって言われるのが一番嫌いなんだ。特にこのゲームではレイは俺よりも先に進んでた。その自負もある。うん、アカツキのやつ終わったな。
「桃に打ち取られたっていうのに、随分と回る口ですね?しかもこっちにはなんのダメージもないですし、余裕で躱されたの気がついてないんですか?あぁ、そんなことも気がつけない馬鹿でしたか。」
レイが敬語だ・・・あれは本気で切れた時のレイだ!
「・・・っ!?くそ!魔球・強弓ノ豪雨!」
レイが放つプレッシャーが物理的な圧力となってアカツキに襲いかかったのだろう。気圧されたアカツキは恐れをなした自分を戒めるように叫んで魔球を投げた。
「同じ技が僕に二度も通用すると思わないでくださいね?【見切り】そして、魔振・光輪秘剣月読命」
この試合、レイのユニフォームに刻印したスキルは【見切り】。レイはこのスキルで自分に襲いかかってくる矢を全て躱し、魔振を放った。
これは俺も見たことがないスキルのようで、バットを光が包むと同時に剣の形になり、さらにその周囲に光が渦を巻いた。その光に残ったボールの矢は吸い寄せられそして切り払われた。
バットからボールの矢を飲み込んだ光の斬撃が飛ぶ。サードが光に吸い込まれ、たった一撃でHPを全て散らした。そしてそのままの勢いで外野フェンスに直撃、破壊。かなりフェンスにめり込んだところで止まったかと思えば、光が爆発。レフトスタンドが崩壊した、ボールを追いかけていたレフトもついでに爆風に飲まれて消えた。
その間にレイは悠々とセカンドベースまで到達。
「な・・・嘘だろ・・・?」
マウンドの上でアカツキが膝から崩れ落ちた。まぁレイを怒らせたからだな。ざまぁみろ。けどな、レイを馬鹿にされてキレてるのは俺もなんだよ。
「ここで一気に畳み掛けろ。」
俺はバッターボックスに向かうフェルドに声をかける。あんまり強い口調で命令はしないがここは譲れない。
『任せとけ!』
実に頼もしい言葉と共にフェルドが打席に立った。前回は4番だったが出番がなかったからこの試合は2番に据えた。相当昂っているようだな。すでにフェルドの周囲の空間が熱で歪んでいる。
『さぁ、とっととかかってこいよ。俺たちの召喚主の盟友をコケにしたその罪、しっかりと味合わせてやる。』
「くそおおおおお!魔ky『遅えよ、魔振・神焦灼焔』」
アカツキがボールを投げ、魔球を発動しようとした頃には時すでに遅し。フェルドの魔振がアカツキの魔球よりも早く発動。一瞬にして内野が炎に埋め尽くされ、天井が低いことが災いして一気に燃え広がった。
その灼熱の炎はボールを飲み込むと一直線にセンターバックスクリーンに直撃し、外野の守備陣もろとも外野スタンドを溶かし尽くした。
またしてもツーベース。レイがホームに帰ってきて1点先制。ランダムで天井が動くが、今回は下がったようだ。だいたい50センチほど下がったようでこれで天井は2.5メートルだ。
ちなみに相手のHPは外野がとサードが全て0でゲームから除外。残った他のプレイヤーもアカツキ含めてフェルドの業火に焼かれたのでHPを結構多く減らしている。
続いて打席に入るのはヴォート。この試合のキーマンの1人だ。だって遠距離物理だろ?風を司る神であるヴォートに通用すると思ってるの?
「魔振・嵐斬龍」
ヴォートの魔振は本当にシンプル。バットに暴れ狂う竜巻を纏う。それだけでたかが投げただけの矢なんて通用するはずもない。いとも簡単に風によって方向を逸らされ、巻き上げられたボールが竜巻に乗って守備陣に襲いかかる。
「あー、ショートが竜巻に飲まれたなぁ。残念だけどあれはもう無理だなぁ。」
飛ばされたショートも現実世界では体験できない、竜巻に飛ばされるという貴重な体験ができてさぞ満足だろう。うん、顔面から真っ逆さまに落ちてようときっと満足だよ!
そんなヴォートもツーベース。2点目が入った。そしてさらに落ちる天井。高さはもう2メートルほどしかない。バットを一番長く持って打席に立つと天井に当たるな?
そして打席に入るのはアルバセロ。この試合のキーマンのもう1人。なんならヴォートよりもアルバセロの方が重要な役割を持っている。
『へぇ、バットが天井につくのか。これは都合がいいや。』
「くそ!くそ!くそおおお!魔球・全一の弓!!!分散する矢の威力を全て一点に集中させたあたいの最強の技だ!これで死ねぇぇぇ!」
おっと、ここにきてアカツキが新しい魔球を投げてきた?仲間が壊滅してようやく負けるかと思った?残念ながらそれじゃあ遅いんだ。レイに打たれた時点で魔球を変えていればまだチャンスはあった。けど天井にバットが当たる状態でアルバセロが打席に入った時点でお前らは完全に負けだよ。
『魔振・荒れ狂う大地の大激怒」
天井にバットを擦りながらもアカツキの魔球もろとも地面に向かってボールを叩きつけた。
「「「「がっ!?きゃああああああ!!!」」」」
直後、地面と天井がなんの前触れもなく突如として荒れ狂う。地面は裂け、天井からはメテオが降り注ぐ。【不壊】が付与されたはずの天井が次から次へと崩落しては【スナイプ】のメンバーに襲いかかる。地面の裂け目をかろうじて避けても落下地点には大地から隕石が跳ね上がり襲いかかる。
何をしても逃げ場のないこの世の地獄のような光景が広がっていた。
「ゲームセット!チーム【スナイプ】HP全損により勝者【高天原】!」
大地の怒りが静まったところで審判が俺たちに勝利宣言。これで2回戦突破だ。
アルバセロの魔振の効果については次回解説しまーす




