第67話 第1回戦 VS世紀末ー②
前回のあらすじ
・水が満ちてきます
・世紀末ヒャッハー!
打席に入るのはモヒカンC。髪色は緑だな。なんとなくだけどこのモヒカンは前のAとBとは違う気がする。多分ガチ勢とか廃人とか言われる強いタイプのプレイヤーかな?まぁ相手にとって不足はない。全力で叩き潰してやるよ!
振りかぶって投げる。ここまで魔球は全て火属性を使っていたけど変更しよう。嫌な予感がする。ここは力押しというより躱してみるか。
俺はボールにわずかだけ土属性の魔法を発動して隠すように投げる。
「ふはははは!この俺に普通のボールなど無意味だ!魔振・フルインパクト!!!」
やはり勘が当たったようだ。前の2人より筋肉質にアバターが作り上げられていたからその可能性を考慮していた。うん、脳筋だな。それでフルインパクトは確か槌とかハンマー系の重打撃武器の武技だったはず。
流石にそれを放たれてしまったら魔法の魔球では太刀打ちできずに発動した魔法ごと吹き飛ばされるだろうな。まぁ、当たればの話だけど。
「魔球・無限にぶれて眩惑する魔球〜土魔法を重りに添えて〜」
それまでまっすぐストレートに進んでいたボールが突如不規則な軌道を描いてぶれた。まるでサッカーの無回転ボールのような揺れ方だが、それよりもブレが大きく、左右に揺れている。
「な!なんだこれは!」
ぼこっと変なところに当たった音がしてせっかくの魔振の力が一切乗らないままどぽんと水の中に沈んだ。慌てて走り出すもそこはヴィクティムの守備範囲内。すぐに立ち上がったヴィクティムがボールを拾って1塁に送球してアウト。
「フゥ、これでなんとかスリーアウトチェンジだな」
マウンドから降りてベンチまで泳ぐ。うん、思ったよりも水の増加量が多い。このままだと3回ぐらいには水没するんじゃないか?
「お疲れ、というほど投げてないだろうけどとにかくお疲れだ」
「おう、レイ。まぁ流石にこんなところで躓くわけにはいかねぇよ」
「それは心強いね。ところで最後のあれはなんだい?なんかボールが気持ち悪い軌道で動いてた気がするんだけど」
「あー、あれな。あれはそんなたいそうな魔球じゃないんだよ。ただちょっと土魔法を見えない角度で見えない程度に発動して投げただけだ。でも錘となった土の塊のせいであんな狂ったような軌道になるんだ。だからうまく捉えられずに打ち取れたんだよ。」
「ふーん、色々考えるんだね。」
「手数の多さが特化してない俺の取り柄だからな。それよりレイが先頭だろ?一発かまして来いよ」
「そうだね、僕に任せてよ」
レイが打席に向かう。レイのスキル構成は俺みたいにド派手な大技はない。その代わりに王道で堅実。魔法剣士の名に恥じないように魔法を囮に使いながら剣で攻撃し、剣で誘惑して魔法で殲滅する。そしてそれを支えるのはレイのプレイヤースキル。とてもじゃないけどレイの正確無比で緻密な攻撃は真似できない。そんなことするなら大技で沈めた方が楽だ。
打席に入ったレイがバットを構える。すでに腰付近まで水かさが増している。普通に投げるとしたらそろそろ限界になるだろうな。
「ヒャッハー!」
モヒカンが鳴き声をあげながらボールを投げる。出方を伺っているのか魔球ではなさそうだ。そんな舐めたことをレイにすればどうなるか。、答えは火を見るよりも明らかだ。
「ハッ!」
短い気合の声と共にレイがバットでボールを突いた。これはレイピアの動きだな。なんのスキルも纏っていないただのボール。万が一の可能性を考慮して身につけたあの打法が早速活きるな
「打法・水切りショット!」
レイの打った打球は凄まじいスピンがかかり、水面に触れたものの水切りのように沈まずに、むしろ加速して内野に転がってゆく。なぜ縦回転のボールを突くと猛烈な横回転がかかるかは知らない。レイいわく練習してたらできたらしい。うーん、レイのがチートなのか運営の悪ふざけか悩みどころだな。
「ヒャッハー!所詮はなんの変哲もないボールだろ!」
モヒカンどもは定位置が理解できていなかったのか適当に散っていたためにセカンドベース付近を転がるボールを1人のモヒカンが取った。そしてそのまま1塁に送球。
「誰がなんの変哲のないボールだって?魔振発動・閃光爆弾!」
モヒカンが投げたボールが突如として煌めいた。それはレイが仕込んでいた光属性の魔振。遅効性の魔振で解放は自由自在。攻撃力こそないがそれを補って有り余るほどの光量が送球を受けようとしていたファーストの目を焼く。
「目が〜目が〜」
天空にあるお城を求めるジブリの大佐みたいなことをほざきながらのたうち回るファーストのモヒカン。その間にレイは悠々とセカンドベースまで達した。
『次は私ね〜』
意気揚々とクリスタがバットを持ってベンチからでる。そして意思を持ったように突如としてグラウンドにあふれていた水が割れて地面が露わになる。これが水と氷を司る英霊の真骨頂。
付与してあるの水魔法と氷魔法だけ。多分だけどそれしか使っていないのにこれほどまでの大質量の水を操作するとは・・・まさにこれぞ神!まさしく神!もはやこのフィールドにある水の全てがクリスタの支配下だ。
「水には電気ってポケ◯ン大先生が言ってたぜー!魔球・雷乃弾丸!感電しちまえ!ヒャッハー!」
ここでモヒカンは雷系の魔球を使ってきた。もちろん俺も使うことは考えたが流石に周りへの被害が大きすぎると思ったが、モヒカン達はそんなことは関係ないようだ。水を操るクリスタをここで何としても仕留めたいんだろうな。
『知ってるかしら?本当に純粋な水は雷を散らすのよ。アクアウォール・ピュア。そして〜魔振・狼狼遊戯』
バッターボックスの前に水の壁が出現して雷を散らして威力を減衰させる。そしてこっちがクリスタの魔振、狼狼遊戯。グラウンドに溢れている水を素材にして氷に群狼が生み出され、威力が弱まったボールに噛み付いた。
そのまま水上を滑るように群れでまとめて駆け出した。
「あ!おい!待て!!!」
氷でできた狼の群れは水などなんのその。自由自在に駆け回るがモヒカンどもはそうは行かない。なんとか泳いでボールを咥えた氷狼を追いかけようとするも元々のスピードが違う上に少しでも触れようものなら周りの他の狼に噛み付かれてHPを減らす。うん、このグラウンドでは最悪な魔振だな。
『はい、ホームイン。』
モヒカンどもが右往左往しているあいだに悠々とレイとクリスタがホームに帰ってきた。これで2点先制だ。
「それじゃあここで一気に畳み掛けますか!」
クリスタのあとは俺だ。ここで一気に大ダメージを与えて試合を決定づけたい。それができるのはこの中で俺とルシファーだけだ。
水はすでに肩のところぐらいまできている。これ以上になると少し苦しいな。潜って投げなきゃいけなくなる。まぁそれはそれで面白そうだし、いくらでも策はあるけどでもここで決めたい。だって相棒のレイがかっこよく塁に出て、俺の英霊であるクリスタがかっこよく決めたんだ。使役者である俺がここで決めなきゃかっこよくないね!
「さぁこいよモヒカン!今度はきちんとお前らを消毒してやるよ!」
「ふっ、ここでリーダーの召喚騎士様の御登場ってわけか。ボールをよこせ!俺様が投げる」
俺が打席に入ったところでピッチャーが交代した。なにやら強そうなモヒカンが出てきたぞ。なんで強いかって?肩のトゲがチームで一番でかいんだよ!
「あれ?お前モヒカンなのにヒャッハー!って言わなくていいの?モヒカンの誇りを捨てたら負けるよ?」
「ウルセェ!俺は好きでモヒカンやってるわけじゃねぇ!」
「へぇ、そうなんだ。だったら怖くないね〜。モヒカンのボスじゃないんだもん。ほら、さっさと終わらせてあげるから掛かっておいでよ。」
「テメェ、ちょっとばかし強いからって調子に乗ってんじゃねぇ!くらえ!魔球・グランドクラッシュー!」
「色々考えたけど、やっぱり俺の原点はこのスキルなんだよね。ありがと、物理攻撃で来てくれて。俺の全力をつぎ込める。ありったけの魔力を持っていけ!魔振・全反撃!」
グランドクラッシュは現在確認されているハンマーの中で一番強力な武技だ。その名前の通り、この一撃は地面を破壊するほどの威力を持っている。しかし、それはあくまで物理攻撃の世界。いかに強力な物理攻撃であろうと俺の【全反撃】の前には無力だ。
リーダーモヒカンはおそらく俺たちと同じカンスト者でしかもSTRに振っているタイプだったのだろう。魔球は水を吹き飛ばし、地面を抉りながら凄まじい威力で俺に向かってくる。もし、俺がこのスキルを持っていなければバットごと粉砕されていただろう威力。
だけどそれでは俺には通じない。むしろ全MPをつぎ込んで倍以上に返してやる。
バットとボールが触れた瞬間にMPがごっそりと抜ける感覚がする。そのお陰でバットは見事にボールをはじき返した。
「な、なんだとー!?」
渾身の力を込めた絶対の自信があった魔球なのだろう。それを返されて為す術もない。グラウンドの一切合切を全て破壊し尽くす暴力の権化となった俺の魔振は一切の抵抗を許さず、モヒカンどものHPを一瞬で削りきった。
「ゲームセット!チーム【世紀末】HP全損のため、勝者【高天原】!」
審判がゲームセットを告げる。無事、1回戦突破だ。




