第65話 予選(ダイジェスト)
前回のあらすじ
・確か転職の話だった気がする
イベントが始まった。今回は予選という名のレートバトルが開催されるので以前のような凝った演出の開会式は行われなかった。開始時刻と同時にメニューからレートバトルに参加できるようになり、イベントに参加登録した人は自由に参加できるようになった。
俺とレイはレートバトルが開始すると同時に参加して、一気にレートを稼いで逃げ切る作戦を選んだ。もちろんちゃんとレートバトルの間戦ってもいいけど、俺のレイの予想が正しければ最初の方ほど楽にレートが稼げる。
そして、レートバトルが始まって10戦が経過した頃には俺とレイの予想は正しいことが証明された。ちなみに結果はもちろん10戦10勝だぞ!
「はぁ〜、どうしてこうも運営の意図がわからないプレイヤーが多いのかねぇ。」
13戦目ぐらいのマッチングの待ち時間にレイにぼやく。だってここまでまともに戦ったのはわずか3試合ほど。それ以外は全部ほとんど何もしないで終わったんだ。
「ね、不思議だよね。わざわざ運営がフレンドリーファイヤーがあるよーって教えてくれたのにねー」
そう、俺とレイの予想と作戦はこのフレンドリーファイヤーを利用した戦い方だ。あの映像も多分だけどミスリード。あの映像の中では魔球も魔振もどっちもかっこよく技名を叫んでから発動していた。
でも、冷静に考えてその叫びは必要だろうか?いや、もちろんエンターテイメントとしてやるのであれば技名を叫んだ方が見栄えがいい。しかし試合でそれをやるとなれば相手に魔球や魔振を使いますよーっというアピールに他ならない。
そして魔球や魔振を発動できるのは、何もしなければボールとバットだけ。するとどうなるか。
「その結果がこれなわけだ」
記念すべき・・・第何戦目か忘れてしまったがとにかく試合相手としてマッチングした、おそらく戦闘職のみで構成されたチームの面々が倒れていた。
その原因はいたってシンプル。フレンドリーファイヤーによる自滅。だってさ!わざわざ味方も防げない魔球をバンバン叫びながら投げて来るんだよ!?キャッチャー何も対策してないじゃん!そりゃあ見逃せばじゃんじゃんダメージ入るって!
バカなチームは見逃せば勝手に死んで人数を減らしてくれる。そこを攻めれば楽に勝てる。ちょっと賢いチームはわざと空振りすれば勝手に死んでくれる。
賢いチームは駆け引きをしてくるけどそんなものは全て魔振で消し飛ばせば勝てる。そう、このイベントは攻撃する側が圧倒的に有利なイベントだ。先攻で魔振を連発して相手の人数を減らす。これがシンプルゆえに破れない戦術だ。
そして厄介だったのが生産職のいるチーム。冗談抜きで今回のイベント主力は生産職だ。むしろ戦闘職は駒にしか過ぎない。生産職の作る装備がえぐい。
鍛冶師がバットを強化すれば、料理人は料理でバフをかける。裁縫師がユニホームを装備化すれば革職人がグローブに耐性をつけてしまう。錬金術師はボールに細工する。などなど生産職の活躍の幅はかなり広い。
こうなってくるともう手に負えない。正真正銘の潰し合いにしかならず、魔球と魔振が入り乱れるまさに超次元野球が繰り広げられるわけだ。
30戦ほど戦って結果は26勝4敗。もちろんこの段階で俺たちは【魔法陣】なんて使わないし、手の内は隠している。むしろ全然使ってない。別にレートバトルなので負け続けなければ良いとして負けそうな時はそれなりに善戦したふりをして負けることにした。そっちの方が本戦に進んだ時に侮ってくるれるのでは?と心の奥底で期待したりもしていた。
レートバトルの期間は1週間。開始レートは1000だ。初日を終えた俺たちのレートは1782。多分このまま逃げ切れるな。
それから1週間、街を歩けばいきなり対戦を仕掛けられ、これを撃退し、レイと一緒の時はマッチングで相手をボコボコにする。
うん、街の中で挑まれると変則マッチで英霊たちが飛び入り参加するんだよ?なんで俺一人の時に挑んでくるかねぇ。ちなみに俺が度々襲撃される一方でレイは襲撃にあっていない。
それもそのはずで、レイは大体ログインするとトレスのダンジョンのゴーレム階層か鬼ヶ島、それかウノの衛兵たちと一緒に訓練してる。これは俺がエリックに頼んで参加させてもらっている。
頼んだ時エリックは俺とは違うタイプの戦士が相手でいい訓練になると喜んで引き受けてくれた。それと衛兵の中にいる数少ない女性衛兵さんたちも喜んでレイを迎え入れていた。
さて、そんなこんなで1週間はあっという間に経過して本戦のお時間となった。俺たちは最終レート1698で余裕の予選通過だ。まぁ、最後になってもバカはいたので実に楽勝な予選だったよ。
さてさて、予選も終了したことだし、本戦に進んだチームの中で有力候補を紹介していこう。本戦に進めたのは全部で256チーム。多いな!その中で俺たちは上から数えた方が早かったが下のチームにも侮れなさそうなチームはいる
まずは優勝候補筆頭にして予選1位通過、俺に宣戦布告してきたアーサー率いる【円卓の騎士】。最近では拠点を手に入れて【キャメロット】なるクランを立ち上げたらしい。生産職を豊富に受け入れており、戦闘職のレベルも高い。文字通り大本命のチームだ。
続いて予選通過2位。こいつらはまさかの2位だ。前回のイベントでも4位と大活躍したIWOきっての脳筋集団、筋肉塾♂!こいつらの戦いは見てないけど、絶対に理解できない筋肉パワーで並み居る強敵を粉砕してきたのだろう。
噂では同じ志を持つ生産職が入塾したとかでこのイベントで躍進している。もし戦うことになればかなり厄介だと思う。
続いて予選通過3位。NINJA’s。前回イベントでは10位だった彼らがここにきて大躍進。イベント報酬の【手品】と苦心の末取得したとされる【忍術】の相性が神がかり的によく、奇策やペテンやハッタリが活躍するこのイベントでは圧倒的な強さで予選を勝ち続けたらしい。
続いて予選通過4位。チーム万屋。このチームは純粋な生産職だけでできたチームでIWO内における生産職での最大規模のクランの最精鋭たちがチームを組んだ。戦闘職ではないゆえの火力の低さを装備で補い、並み居る強敵をなぎ倒して予選を突破。いまだに隠し球が多くあると噂されており、【円卓の騎士】の対抗馬となっている。
続いて予選通過第5位。ウノの守護者たち。まさかの住民枠が5位。名前からもわかるようにエリック、ランザ、カルディアスなどウノの街を守る強キャラたちが参戦を表明。住民だからなのか参加期限が過ぎても参加が可能で殴り込んだ。
ちなみにこいつらが参加した原因は俺とレイだ。俺たち来訪者でこんなイベントやるぞとお知らせしたところ、エリックが衛兵の訓練にはちょうど良いとして参加を表明したのだ。遅れてきたから勝ち数が伸びなかったが、全然手の内を見せずにここまで勝ち進んだ。はっきり言ってアーサーたちより強いかもしれない。
この辺が上位で警戒した方がいいチーム。次からは予選上位ではないけど警戒したいチームを紹介しよう。
チーム名、トリックスター。その名の通り、全員が【手品】のスキルを取得しており、かつ全員がピエロのお面を被っているというなんとも不気味な集団。【手品】スキルは使い方によっては厄介になること間違いなし。ダークホース筆頭だ。
チーム名、IWO魔術研究会。その名の通り、IWOにおける魔術系スキルの探求を目的として設立されたクランの最精鋭たち。【魔力操作】こそ無いものの、スキルの使い方の柔軟性は俺よりも上。全員が魔法職であり魔法に特化しているために他のプレイヤーに比べて魔球や魔振の威力が高い。ハマれば強いチーム。
チーム名、IWO探求部。こいつらも割と名前でわかりやすいチーム。さっきの魔術研究会とは違って、ありとあらゆることを研究している。その中で発見された数々のとんでもスキルを駆使して戦うチームだそうだ。正統派とは違った強さがあるから警戒した方が良さそうだ。
そして最後、チーム名、ケモミミ最高。こいつらは全員が獣人族で構成された筋肉塾♂とはまた別の脳筋集団。獣のような身体能力と直感を頼りに予選を勝ち抜いてきた。こいつらは危険と判断すればたとえ失点しようとも攻撃を避ける。そして類い稀な身体能力を生かしてリカバーするプレイスタイル。ゆえにゲームから離脱する選手が他のチームに比べて極端に少ないのが特徴。生産職がいないためにどこまで勝ち残れるかは不明だが、ハマれば強いタイプであることは間違いない。
「ざっとこんなところか?あの白は参戦していないようだしやばいのはアーサーのところだけか?」
「いや、予選ではパッとしてなくても有名どころのパーティーはきちんと決勝ステージに駒を進めている。油断は禁物だよ。」
「ふーん、でも予選でパッとしなかったのは俺たちも同じ、ここからはフルスロットルで行こうじゃないか!」
「そうだね!」
決勝に駒を進めた256チームが決勝の舞台となる甲子園球場を模した特別フィールドに集まりあの室長より開会が宣言された。
さぁ、いよいよ、イベントの開幕だ!!!




