第7話 街の散策
前回のあらすじ
一人で戦います
やらかします
ログアウトします
ログインしました。
時刻は現実時間で午前9時。こっちの時間だと……午前7時か。今日は全休なので一日中IWOをやり込める。
「いつつ…さすがは最先端技術の結晶。硬い床で寝た次の日の体の怠さと痛みまで完璧に再現してくるとは。」
昨日は冒険者ギルドのある広場に面した宿がどこも満員だったのと極度の精神的疲労から他の宿を探す気にはなれず、街中の邪魔にならないところにテントを張って寝たのだ。ぼんやりとしか覚えてないが他にも街中でテントを見かけたので俺と同じような境遇の人もいたのだろう。
流石にこの生活がそう何日も社会的に許されるとは思ってないし、続けたいとは思わない。今日の最終目標は宿を探すことにしよう。
「さて、今日は何をしますかね。」
今日の予定を考えていたところでレイとカインからメッセージが入っていることに気が付いた。どうやらレイはβテストのときに誘われていたメンバーでパーティーを組み、最前線で攻略を目指すとのことでしばらくは一緒に行動できないかもしれないと書いてあった。
カインの方はもう少し魔物の討伐に時間が掛かるのでもう少し待っていてほしい事と暇ならスキルを鍛えておくと今後の役に立つと書いてあった。
それぞれに了解の旨を返信し予定を決めた。
「よし、今日のところはこの街の散策だな。カインがスキルを鍛えろって言ってたし持っていない武器の調達も兼ねて今日はゆっくり過ごそう。そして最後は宿を見つけよう。」
方針を決めたら早速行動だ。と思ったのだが空腹度がレッドゾーンに差し掛かっている。まずは腹ごしらえからだな。
噴水の広場の人口は流石に開始すぐよりは減っていたがまだまだ人が多い。その辺の屋台で売っていた串焼きを頬張りつつ広場をぐるりと一周。金策もしなきゃ懐具合がそろそろやばい。これじゃ宿にも泊まれないかもしれない。
IWOでの通貨単位はGでプレイヤーが最初から持っている金額は10000G。テントが5000Gと保存食が500Gだったので残りは4500G。今、50Gで串焼きを買ったので残るは4450Gだ。
屋台のおっちゃんの話で分かったことだがここの広場には冒険に必要な武器や防具から生産に必要な諸道具や材料まで一通り揃えることが出来るようになっている。これは冒険者と来訪者に向けた街の方針で身も蓋もない言い方をしてしまえば得体の知れない人々が大量にやってくるこの場所である程度封じ込めてしまおうということらしい。
まぁ、あくまで方針って言うだけで普通にこの広場以外の場所での買い物が禁止されているわけではないので大きな影響はなかったりする。
この始まりの街ウノの街は大きく分けて4つの区域に分かれている。まず俺たち来訪者が最初に訪れる南区、その正反対に位置しこの街の統治機構や高級住宅街となっている北区、数多くの職人が工房や個人店を設けている西区、それから庶民の住む東区だ。ちなみにこの街にも貧困層が住むスラム街のような場所もあり南区の東寄りにそれらしき場所があるそうだ。まぁ、見事に南区に押し込めているなというのが俺の感想だった。
とりあえず目下のところは最初に選択したスキルに対応した装備が欲しい。とりあえずまずは資金調達だな。
開始から24時間経ってないのに広場にはすでにちらほらと生産職らしきプレイヤー達が露店を広げている。
露店では素材募集も出ていたが、どうせ大した金額も持ってないだろうし、それに相場が分からないのでスルー。冒険者ギルドに行って買取を頼むことにしよう。
一応、何か依頼で達成できるものがあればと思い掲示板を確認するもウルフ関連の依頼については常設も期間のある依頼もなかった。
残念だが仕方がない。持っていてもしょうがない素材の買取だけの対応になってしまったがそれでもウルフの素材に加えてグレイウルフの素材も買い取りに出したのでそこそこの金額になった。しめて3万5000G。
買取窓口にいたおっちゃんの話によれば南区の宿はそこそこお高めの設定になっているが他の区の宿はそうでもないということで、一泊あたりだいたい2000〜4000Gだと教えてくれた。ちなみに南区の宿は3500G〜5000Gが相場らしい。
親切に教えてくれたおっちゃんに礼を言ってギルドを出た俺はひとまず広場にある武器屋を見て回った。どれも初期装備に毛が生えた程度の性能しかなく、壊す前提で使おうと思うと少々物足りなかった。一応値段と性能をチェックして西区に移動。こっちは職人の工房が多くあるので広場よりはいい装備が見つかればと思っている。
今の俺のスキル構成で欲しい装備は槍と魔術と物理両方使える杖、それから革製の鎧でもあればスキル上げに装備しておきたい。まぁ、せっかくノーダメでここまで来ているのでこれがどこまで続くのかやってみたい気持ちは無くはない。
1時間ほどかけていろんな工房をちょくちょく覗いてみたがいまいちピンと来るものがない。俺はこういう装備に拘り始めるとキリがないことは自身で良く分かっているので諦めて広場に戻ろうと立ち止まってふと気が付いた。
「ここは…どこだ?」
辺りを見回してみると工房のある西区とはちょっと雰囲気が違った場所に出てしまった。メニューからマップを表示して確認してみるとどうやらいつの間にか西区を抜けて北区に差し掛かっていたようだ。
「うーん、別に戻ろうと思えばいつでも戻れるしせっかく来た北区だ。もう少し散策してみよう。もしかしたら隠れ家的名店があるかもしれないしな。」
道に迷ったことを棚に上げて気持ちを切り替えて散策を再開。南区や西区では見ることの出来なかった比較的大きな屋敷や高級そうな店が立ち並ぶ通りをゆっくりと歩く。
目的地は特に決めてなかったがひときわ大きい建物が見えたのでそれを目指してみることにする。きっとこの街を治める領主の館か衛兵の詰所でもあるのだろう。
辿り着いてみると想像以上に建物は大きかった。
「おお~中々壮大でカッコイイな。うちの大学と同じぐらいはあるか?」
高い壁に囲まれたその建物の周囲を大通りに向かってゆっくり歩いていると反対側から見回りと思わしき衛兵さんたち3人組がやってきた。
「おや?こんなところに冒険者がくるって珍しいな。どうした?道にでも迷ったのか?」
3人組の中で一番装飾の多い鎧を着て俺が持つ初心者用の剣よりも遥かに質の良さそうな剣を持っている人が俺を目ざとく見つけ話しかけてきた。口調はフレンドリーだが目が笑っていないので警戒されているみたいだ。
後ろに残った2人もどこと無く警戒しているように見える。
「こんにちは衛兵さん。お恥ずかしながらその通りなんですよ。でも予定もありませんしせっかくなのでのんびりと散策ついでに一番大きな建物を目指してきたんです。」
「ほー、そうかそうか。こっちから来たってことは西区を散策してたらそのまま北区に迷い込んだってところだろ?南区に戻るならこの壁沿いに行くとこの建物の正門に出る。正門を背にしてまっすぐ進めば南区につくぞ。」
「ありがとうございます。あ、そうだいくつか聞きたいことがあるんですがいいですか?」
警戒されているわりには結構親切に教えてくれる衛兵さんだった。せっかくだからこの街のことを聞いてみるかね。そういえばワールドアナウンスでも積極的に住民と交流しろって言ってたし。
「おう、いいぜ!俺に答えられる範囲なら何でも答えるぜ!あー、お前ら、ここは俺に任せて先に巡回に戻っていいぞ」
「「はっ!」」
お、どうやらこの人上の立場の人っぽいぞ。ま、関係ないか。パッと見た感じ貴族とかのコネで偉くなったんじゃ無くて叩き上げっぽい雰囲気あるし。
「えーっと、実は俺、来訪者なんですよ。それで昨日?こっちだと一昨日になるのか?とにかく、この街に来たばっかりなんですよ。」
「やっぱりお前さん来訪者だったか。だと思ったんだよな〜普通の冒険者はこんな辺鄙な場所なんて来ないもん。それで、何が知りたいんだ?」
「大したことではないんですが、衛兵さん達御用達、安くてうまくて多い飯屋とか衛兵さんおすすめ、装備はここで買え!みたいなところがあれば教えてほしいんですけど。あとは南区の宿がいっぱいだったのでどこか安全な宿を知っていれば教えて欲しいです。」
「なんだそんなことか。それは俺に聞いて正解だぜ!まず飯屋だな。ここ北区には上品で質のいい飯屋がそろってる。主に富裕層が相手だな。で、北区で特におすすめが『うたたねの宿』っていう宿屋が昼間限定で開いているレストランだ。それなりの値段はするが味とサービスについては保証するぜ。そんで量が食いてぇなら東区にある『狐の座布団亭』って店がいいぞ。そこも宿屋の食堂を昼間に解放してるんだが、なんていってもあそこは旨い、安い、多いが売りの食堂だからな。若い衛兵もちょくちょく通ってるぜ。俺も昔はよく通ってた。特にそこの看板娘のエリーちゃんがこれまたかわいいんだぜ!」
「ほうほう、それは良い事を聞きましたな。さっそく今度行ってみますね!」
「言っておくがエリーちゃんに手出したら衛兵が総力上げてお前のことを追うからな?覚悟しておけよ。ってまぁ、冗談だがな」
「いや、目が笑ってないですって。」
「ははは。それで、装備なら正式に衛兵の装備を納品してるところと俺の装備を頼んでいる工房を紹介してやるよ。衛兵の装備を納品しているのは西区にある「土竜」って工房だ。あそこの工房は一定以上の質かつ均一な質のものを大量に作ることに長けてる工房だ。
俺の装備は特注で、それを頼んでるのが西区の端の行き止まりにある「夕弦」って工房だ。そこなら剣でも杖でもなんでも一通りそろう。ただ、そこの爺は偏屈でさらに人づきあいが嫌いでな普通に行けば間違いなく追い返されるだろうが俺の名前を出せば話ぐらいは聞いてもらえるはずだ。そしたらあとはお前さんが爺に気に入られるかどうかだ。」
「えーっと、後は宿屋か。さっき言った「うたたねの宿」と「狐の座布団亭」も悪くねぇが、昔衛兵だった奴が立ってる宿屋がこの北区にある。「堀宮亭」って変わった名前なんだが質は保証するぞ。」
思いの外かなりの情報を仕入れられた。もしかしなくてもこの人との出会いはかなりの良縁だったようだ。【ノルンの祝福】が効いてるのかな?
「ありがとうございます。おとといは街の中で野営というなかなか稀有な体験をしたので。早速ですが紹介された宿に行ってみようと思います」
「ははは、あのテントはそういうことだったのか。来訪者は街中で野営するのが趣味かと思って内心驚いてたんだ。」
「はは、私以外にも結構いましたからね。では名残惜しいですがこれにて失礼させていただきます。お仕事中にありがとうございました。」
「おう、気にすんな。そうだ、落ち着いたら今度は正門からここに来てくれよ。1000Gで衛兵達の訓練を体験できる制度があるんだ。きっちり教えるから損はさせねぇぜ」
まさかの情報をゲット。対人戦の訓練にもってこいだろうし、参加しないなんてありえるだろうか。いやありえない(反語)せっかくの好意だ。ありがたく受けるとしよう。
「わかりました。後日伺わせてもらいますね」
「おう、待ってるぜ。……ってそういや爺に俺の名前だせとか言っておきながら名乗ってなかったな。俺は衛兵のまとめ役みたいなもんをしてるエリックって言うもんだ。じゃあ、俺も仕事があるから行かせてもらうわ。訓練に参加してくれんの楽しみに待ってるぜ。」
俺はエリックの背中を見送りながらなんとなく彼を鑑定してみた。
エリック Lv.60☆
職業 衛兵長
現在のプレイヤーのレベル上限は40。うーん、これじゃPKなんてできるわけないね。あっという間にNPCに倒されて終わりだわ。
閑話休題
エリックと別れた俺はそのまま東区に進んだ。東区は北区とは違って高級感はないがその代わりの近所のおばちゃんたちが井戸端会議をしていたり子供が走りまわっていたりと南区とは別の生活空間が広がっていた。
時間も昼を過ぎ、空腹度もそろそろ減ってきたのでエリックに聞いた狐の座布団亭で食事を済ませた。入った感じだとチェーンのファミレスのような感じでエリックの言った通りうまくて安くて量が多かった。
鶏肉のソテーにバケットとサラダ、日替わりスープが付いて700G。バゲットとスープがおかわり自由と言うことを考えるとコストパフォーマンスは非常に良かった。ちなみに南区の平均的な食事は600G~700Gで内容はほとんど同じではあるがおかわりは追加料金が掛かるなど所謂観光地価格になっていたようだ。
狐の座布団亭を出て公園のような場所まで行き一旦ログアウト。現実世界で昼食やらトイレやらを済ませて再びログインした。
こっちの時間だと14時を回ったところだ。ホテルのチェックインがだいたいこれくらいの時間からなので先にエリックに聞いた「堀宮亭」に行き宿をとる。堀宮亭の亭主は身長2メートルはあるんじゃないかと思えるほどの巨体と一眼見ただけでわかる鍛え上げられた鋼の肉体を持っていた。
「衛兵長のエリックの紹介で来たんだが、泊まれるか?」
「エリックさんの紹介か。なら素泊まりで1泊2500G。朝夕の食事付きなら3000Gだ。その日ごとに食事の有無を決めてもいい。その場合は1食250Gになる。」
亭主はぶっきらぼうにそれだけ言うと俺に背を向けて調理に戻っていった。
「とりあえず素泊まりで1週間頼む。で、今日の夜は食事をつけてほしい。それから俺は来訪者だからたまに数日間寝たきりになることがあるけど大丈夫か?」
「来訪者のことは聞いている。問題ない。料金は前払いで17,750Gだ。」
俺はインベントリから小銭を出して亭主に渡す。
「部屋は201、階段を登って右に曲がった一番奥の部屋だ。」
鍵を受け取って部屋に行く。部屋は6畳ほどの結構広めな部屋で柔らかそうなベッドと洋服を入れるようなタンス。それからソファーと足の低いテーブルが置かれていた。ちょっとしたマンションより全然快適な部屋に驚く。さすがは衛兵長オススメの宿だ。
部屋に置く荷物は何もないが少しばかりゴロゴロとベッドの感触を楽しんだのでそろそろ武器を探しに行こうと思う。
西区をフラフラと歩きながらエリックから教えてもらった「夕弦」という工房がある付近に辿り着いたのは15時を少し回ったところだった。ちなみに土竜は西区の大きな通りにあったのですぐに発見できたが、そこに売ってるもののほとんどが初心者装備よりわずかに上で耐久度付きだったので店を出ることにした。いいなと思ったものは今の俺じゃ手が出ない値段だったのもある。
「場所はこの辺で合ってるはずなんだが…工房なんてどこにもなくないか?」
エリックから教えてもらったのは西区の中でも端の方にある古びた家々が立ち並び喧騒とは程遠い古びた一角にある行き止まりの路地。一番奥に長年使われていなさそうな古びた扉が見えるだけだ。まさか衛兵長が俺に嘘の情報を流すとは思わないがここに工房があるとは到底思えない。
道を間違えたか?と思い引き返そうとしたとき行き止まりにあった扉が開き中から一人の老人が出てきた。全然使われてないとか思ったけど普通に使われていた。
ちょうどいい。あの扉が使われているとは思わなかったがこの辺に住んでいる人なら夕弦の場所を知ってるかも知れない。
「すみません。ご老人。俺、この辺で夕弦っていう工房を探しているんですが、どこかご存知ないですか?」
「…小僧。誰からその名を聞いた?」
こちらに向かって歩いてきたその老人は声を掛けても無視しかねない勢いだった。寧ろ全力で無視して俺の横を通り過ぎようとさえしていた。
しかし「夕弦」という言葉を聞いた途端足を止め、俺を睨みつけながら言う。その視線と声からはビリビリと老人とは思えないほどの威圧感が出ている。それは今なお現役最前線で戦っていてもおかしくないほどの迫力があった。
「衛兵長のエリックに聞いてきた。」
この爺さんがエリックの言ってた偏屈爺にして「夕弦」の工房主であると直感した俺は一歩下がりそうになるのをグッと堪えて、震えそうになる声を抑えながらもしっかりと目を見て答える。
「ほう貧弱そうな見た目に反して儂の威圧に一歩も引かんか。胆力だけはあるようだな。で、お主にここを勧めたのがエリックの坊主か。ならば試して見てもいいやもしれん。小僧、しばしそこで待っておれ」
エリックの名前を出すとスッと目が細められ威圧感が若干だが和らいだ。それでもなお肌にひりつくような感覚がするのはあの老人が自然と醸し出している威圧感のせいなのか。
試す、そう言った老人が俺に待つように言い、先ほど出てきた扉の向こうに消えていった。待つこと大体5分ぐらいであっただろうか。扉が音を立てて開き中から老人が出てきた。二振りの木剣を持って。
老人はそのうち持っていた片手剣サイズ―今俺が持っている初心者装備と同程度のサイズ―のを俺に向かって投げてきた。うーん、試すって言われた時から嫌な予感はしていたけどこれはそれが当たったかな?
俺が木剣を受け取ったのを見ると自分用であろうかもう一つ持ってきていた大剣サイズの木剣を片手で持ち上げて俺を見据えて言い放つ。
「いくぞ」
老人はそれだけ言うと凄まじい速さで斬りかかってきた。
ステータス更新をするって言ったな?あれは嘘だ!(思ったより文章が多くなってしまいました申し訳ありません)
桃 Lv,5
Fランク
職業 召喚騎士
HP 100
MP 200
STR 19
VIT 16
INT 19
MID 16
DEX 16
AGI 15
LUK 19
NPCF【カイン】【サーシャ】
称号
□一般
【来訪者の召喚騎士】【到達者】【最速の頂点】【EX職の解放者】【困難に立ち向かう者】【絆を紡ぐもの】
□祝福
【最強の召喚騎士の祝福】【ノルンの祝福】
□神々からの称号
【ノルンの期待】
スキル(11SP)
□武術系
【剣術Lv2】【スラッシュ】
【槍術Lv1】【杖術Lv1】【鎧Lv1】【武術の心得】
□魔術系
【火魔術Lv1】【水魔術Lv1】【風魔術Lv1】【土魔術Lv1】
【召喚術Lv5】【魔術の心得】
□その他
【鑑定Lv3】
【☆限界突破】【☆瞬歩】【☆逆境】【☆覚醒】
☆は初取得、イベント特典などで強化されているもの
※ブラックウルフ討伐前