第55話 トレスのダンジョンー4
前回のあらすじ
・桃無双
・英霊無双
・必殺技だよ!!!
「な、なんだよ、これ」
レイが俺とアークの必殺技をみて呆然としている。そうだろう、そうだろう。レイを驚かすためだけに開発したようなロマン砲だもん。
「この前の獄卒の斧からドロップした特典アイテムで俺の持つ【獄炎】のスキルが強化されたから作ってみたロマン砲だ。初めて使ってみたけど結構うまくいったな。」
「いや、結構うまくどころのレベルじゃないよ!格上のダンジョンのボスを一撃だよ!?なんでそんなに平然としてるのさ!全くもう、ちょっと目を離すとすぐにこれなんだから!」
平然も何もこの程度一撃で殺せなければ召喚院ではお話にもならない。あの人の弟子となった以上は目指す場所は遥か高み。こんなところで躓くわけにはいかない。
<ミノタウロスの斧を獲得しました>
<ミノタウロスの霜降り肉を獲得しました>
<獣魔混生20階のボス「ミノタウロス」を初討伐しました。報酬として「ミノミルク」
を獲得しました>
ミノタウロスを倒したドロップ品が手に入った。全体では初めてではなかったが、俺自身が初めて討伐したので特別報酬が手に入ったようだ。名前からしてミノタウロスの牛乳だろうか?マーチンにでもくれてやろうか?いや、自分で使うかな。
「さて、ドロップ品も確認終わったし、先に進むか。ここから先の情報はあるか?」
「21階以降はあんまり情報がないね。今の所進めるのがプレイヤーでは本当に上層部しかいない。一応トップ攻略組の僕のパーティーでも25階には到達してない。可能性としては「白」が僕たちより進んでいる可能性もあるけどあの人は掲示板に書き込んだり、誰かに話したりはしないだろうからね。」
「そっか、ならより一層注意して進むしかないな。そろそろソロなら適正レベル超えるか?」
「えーっと、僕のレベル51だからもうすぐだね。」
「よし、なら目標は25階に転移可能にするぐらいが妥当だな。」
「そうだね。」
「レイ、そろそろ戦ってみるか?武技と魔法を使わないで格上の敵と戦うのは慣れていないと難しいだろ?危なくなったらフォロー入るからやってみるか?」
「・・・そうだね。そろそろやっておかないといざって時に体が動かなさそうだからね。悪いけど頼むよ」
「お前の背中は任せておけ。」
「っ!?あぁ、任せたよ」
階段を降りて21階に進む。階段を降り切った時にダンジョンの雰囲気がガラリと変わったのを肌で感じた。これまではごく普通の洞窟の雰囲気だったが今は違う。肌を刺すようなひりつく空気が漂っている。
明らかにダンジョンのレベルが1段階上がった。これは油断してないで俺もソロソロ気を引き締めなくてないけないな。
ペースを落として進むこと5分。21階での最初の魔物とエンカウントした。全身に炎を纏った狼が3体、こちらに向かって襲いかかってきた。大きさは1体1体がブラックウルフほどの大きさがある。つまり170センチ以上ある俺と同じかそれぐらいの大きさだ。
「まさかいきなりこいつらがいきなり出てくるとはね!桃、こいつらは僕たちが進むのを断念した原因の魔物だ!かなり強いぞ!」
レイたちが断念?それは流石にやばいな。俺は【百科事典】を発動して件の狼を調べる。
なるほど。件の狼の名前はフレイウルフ。狼系の上位魔物でその身は火魔法より強力な火を纏い、水魔法では防げない火系のブレスを放ち、ウルフ系の魔物にあるように連携して攻撃してくるか。厄介だな。
「どうする?」
「フォローしてくれるんだろ?最初は一人でやってみるさ」
さすがはレイ。パーティーで苦戦させられた相手にソロで挑むか。それでこそ俺と一緒に肩を並べて遊んできた廃人だけある。
剣を抜いたレイがフレイウルフと対峙し【縮地】を発動。凄まじい速度でレイが間合いを詰める。だがこのままいけばレイはフレイウルフの纏っている炎でダメージを受ける。さて、どうするかな。
「空歩」
レイはフレイウルフとぶつかる瞬間に飛び上がり、さらにその場でも一歩、空中を蹴って舞い上がった。その動きは一切のよどみがなく、流れるようであり全くその予兆を感じさせなかった。
そのおかげでフレイウルフはレイに噛み付こうとするも空振りに終わり無防備な後頭部をレイに晒す羽目になった。
「ハァ!」
そのまま天井近くまで飛び上がったレイは無防備なフレイウルフの後頭部めがけて剣を持って飛び降りた。そしてそのままレイの剣が先頭にいたフレイウルフの脳天を貫きその姿をドロップへと変えた。
上手いな。フレイウルフの体を覆っている炎はその性質上、体の後ろの方に流れている。特に今みたいに走っているときは風に煽られて直され後ろに流れる。そうなると一番炎が薄いのは自然と前の方。そして頭頂部は一番薄くなっている。
レイはそこをピンポイントで突くことで炎に触れる危険性を最小限に抑えたのだ。そして地面に落ちる時にはきちんと受け身をとっており、結構な高さから結構な勢いで飛び降りたにも関わらずダメージはごくわずかだな。
仲間がやられたことで怒った残った2体のフレイウルフ。結構高度なAIが積まれているのかレイの行動を学習したようで足を動かすことはなくその場に止まって口を大きく広げた。ブレスの兆候だな。
「前はこれにやられたけど、今の僕はもう前の僕じゃない!」
レイは再び【縮地】を発動してフレイウルフに突撃していった。しかし間合いが結構開いておりブレスが放たれるまでにレイがフレイウルフに辿り突くことはないだろう。
フレイウルフとレイの距離が半分ぐらいになったところでブレスが放たれた。
「縮地派生・空蝉」
レイが何か呟くと同時に2体のフレイウルフから放たれた灼熱のブレスが一切の容赦なくレイを飲み込んだ。
「レイ!」
レイに焦った様子がなかったためにそのまま見に徹していたが流石にこれはまずい。あんなことを言ったにも関わらずみすみすレイをやられてしまった。俺は思わずレイの名前を叫ぶ。
「問題ないよ」
「は?」
レイの声がどこからか聞こえてきた。
「なん・・・だと?」
レイが分裂している?【幻炎】みたいなスキルか?いや、そんな簡素なもんじゃないな。なんて言ったってそれぞれが独立して行動してやがる。俺の【幻炎】は一つのスキルを放つだけ。複雑な動きはできずにただスキルの動作をするだけだ。
俺は確かにレイがブレスに飲まれるのをこの目でしっかりと確認した。それなのになぜかレイはブレスの攻撃範囲から逃れて再びフレイウルフに向かって疾走している。
フレイウルフはそのまま分裂したレイが多い方に向かって首を降ってなぎ払った。レイの分身のうち数体がブレスに飲まれて消えたがまた増えた。一体これはなんだ?しかも俺の察知系のスキルにはちゃんとそこにいる分身の数だけ反応があるし。
「「「「これで終わりだよ!」」」」
ブレスが途絶えた隙に分身したレイが一斉にフレイウルフに襲いかかる。1人1人は一撃だけ入れて次のフレイウルフへと攻撃対象を変えているが数が多い。それに全員が全員目や喉などの急所を狙っているからどんどんダメージが蓄積していく。
さらにレイの分身はフレイウルフの纏っている炎で焼かれて消えてゆくも消えたそばから生み出され、やがてブレスの反動で満足に動くことのできなかったフレイウルフのHPを削りきった。
「ふぅ。あー、疲れた」
戦闘が終わると同時に1人のレイに分身が集中。そしてそのまま消えてゆき、1人のレイとなった。どうやら何かのスキルを使ったようで相当消耗している。
「大丈夫か?」
「あー、うん。大丈夫。ちょっとスキルの反動が来ただけだよ。やっぱり格上は辛いね。制限時間ギリギリだったよ。」
レイの戦闘時間は1分ほど。それが今見せたレイのスキルの制限時間らしい。
「どうだい桃。僕だって少しはやるだろう?」
「あぁ。あの倒しても消えない分身はかなり厄介そうだな。強くなったよ」
「えへへ、やっぱり相棒に認めてもらえると嬉しいもんだね。おっと、こんなところで休んでる場合じゃないね。先に進もうか」
「もういいのか?」
「うん、大丈夫。さっきのスキルはもう今日は使えないけど十分通用することがわかったし、フレイウルフさえでなければ大丈夫だから。さっきのスキルはMPをガンガン消費するだけだし、僕は【MP回復速度上昇】を高レベルで持ってるから。MP切れなら少し休めばすぐに動けるようになるんだよ。」
じっとレイの顔色を見つめるもだんだんと回復しているようではある。それに無茶してるようには感じられない。レイはダンジョンとかでは無茶しないタイプだし本人も大丈夫って言ってるわけだし本当に大丈夫なんだろうな。
「な、なにさ。人の顔じっと見つめちゃって」
「いいや、別に。レイが無茶してねぇか見ただけだよ。本当に大丈夫そうだし先に進むか」
「う、うん。そうしようか」
俺たちはダンジョンの中をさらに進む。
大事なことなので繰り返して申し上げます、レイの性別は不明です。不明です。




