第53話 トレスのダンジョンー2
前回のあらすじ
・トレスのダンジョンを攻略します
・桃とレイの無双開始
・ゴブリンキング!!!
あとがき少し書いてます。
俺とレイは現在17階を攻略していた。
「全く、僕にはスキルを使うなって言っておきながら君はスキルを使うなんてねぇ。」
「根に持ってるんじゃねぇよ。俺はもう【鬼】の称号持ってるからいいんだよ」
レイと言い合いながら飛び出してきたコボルトの首を切り飛ばし、【探索魔法】を発動しながら感知した罠を回避する。
16階から20階に出てくる魔物はレイの情報によれば集団で出てくる魔物とのことだった。17階に出てくるのは15階のボスフロアに出てきたゴブリンを全体的に1割ほど強くしてさらに脳味噌の出来を少しあげたコボルトだった。そいつらが5〜10体ぐらいの規模で出てきていた。
レイが俺をネチネチと責め立てる原因となったのが俺の15階のボス、ゴブリンキングの倒し方だった。
ゴブリンキングはあの時、俺たちより高いところから一気に飛び降りて攻撃してきたのでタイミングを合わせて【全反撃】を放った。物理攻撃の威力がスキルの効果で倍以上に跳ね返り、一撃でゴブリンキングの上半身を消しとばした。
それを見たレイは自分にだけスキルを縛っておきながら俺はスキルを使うとは何事だとさっきからずっと俺をネチネチと責め立てているのだ。
まぁ、お互いに半分は冗談だって知ってるから俺も軽口で返しているのだけどな。
「【鬼】の称号ねぇ。そろそろ教えてくれてもいいんじゃないか?」
「・・・そうだな。レイが取れるとしたら【剣鬼】と【魔鬼】の称号だ。けど【魔鬼】の称号は結構時間がかかって難しいから今は【剣鬼】の称号を狙おうと思う。さっきのボスフロアのことでも薄々気が付いていると武技の不使用がその条件の1つだ。そしてもう1つが自分より格上の敵を1000体連続で討伐すること。つまり、『武技を使わずに格上の敵を連続1000体討伐すること』これが【鬼】の称号を獲得するための条件だ」
「なっ!?そんなに鬼畜な条件なのかい!?」
「あぁ、俺も取った時正直この条件はどうかと思ったな。多分だけど俺がこの段階で獲得したことの方が運営の想定外なんだろう。この手の称号がこんな初期で獲得できるわけないしな。それに鬼ヶ島も挑戦した感じだとプレイヤースキルが必須だったし、明らかにエンドコンテンツっぽかったぞ。」
「やっぱりね。でも桃は取れたんだろう?」
「まぁな。」
「いくつ?」
「4つ」
「やっぱりね。条件さえ明らかになった以上、君が自重するわけないだろうしね。けど4つもその条件を満たしたのか。相変わらず君は廃人だねぇ」
「うるせいやい。とにかく条件は教えたんだ。なるべく武技と魔法は使うなよ」
「わかってるさ」
レイとの会話を切り上げて出てくる魔物に集中する。話している間にすでに18階に到達しており、出てくる魔物はコボルトからオークへと変化していた。強さ的には俺が【槍鬼】の称号を獲得するために攻略したオーク砦より若干弱いし、数も少ない。適正レベルだとだいたい25〜30ぐらいじゃないか?
俺1人でも余裕があるのにレイがいるんだ。負ける要素が何一つ見当たらない。たまに顔を出す罠も俺の【探索魔法】で発動前に発見できるので俺たちを傷つけることはなかった。
むしろそこに魔物を誘導したり、弾き飛ばしたりして強制解除をしていた。罠の威力自体は致命傷にはならないものの、こちらに害をなそうと結構な殺意と悪意が篭った罠に変化していた。
18階を駆け抜け、19階に到達する。19階は16階から18階までに出てきた魔物たちが10〜15ぐらいの混成部隊になって襲いかかってきた。これを瞬殺しつつ20階へと速攻で到達する。
「さて、20階に着いたね。ここから先はまた一段とレベルが上がるから要注意だよ。」
「まぁ、まだ余裕だろ。MPだってまだ全然使ってないし、それに俺はまだ英霊を召喚してないしな。」
「そういえばそうだったね。ならまだまだ大丈夫かな?」
「そんなに身構えることはねぇだろうな。それより20階のボスってレイたちが周回してるところだろ?どんなボスだ?有象無象?それとも強キャラ1体?」
「その中間だね。出てくるボスはレベル35のオーガが5体。魔法は使って来ないけどその分前衛能力に極振りした脳筋タイプ。それなりにレベルが高いし金棒も使ってくるから結構厄介な相手だよ。」
「オーガねぇ。それだけじゃちと周回する理由には弱くないか?」
「んー、それはまぁ戦ってみてのお楽しみかな?桃がなかなか【鬼】の称号の獲得条件を教えてくれなかったからね。その意趣返しかな」
ニヒっと笑うレイ。俺は肩をすくめて返事をしてそのままボスフロアの扉を開ける。扉の中を見るとなんとレイの事前情報とは違って全身真っ黒に染まり、血が滴る赤黒い脈動する斧を持った3メートルはあろうかという巨体のオーガがこちらを見据えていた。
「・・・レイ君?」
「僕だって知らないよあんなの!多分だけどレアボスとかユニークボスとか言う奴の類じゃないかな?浅い階層だとごく稀にいつものボスと違ってボスが確認されているらしいよ。」
「そのレアボスのとやらの情報は他にあるか?」
「うーん、少なくてもこの階で確認されたのは初だろうね。あ、ただレアボスの情報は1つだけ有効なのがあるよ。」
「どんな情報?」
「普通のボスより格段に強い」
「それは見ればわか・・・っ!?」
入り口でレイと掛け合いをしていたらなかなか入ってこない俺たちに黒オーガ(仮称)がブチギレて近くに落ちていた俺の頭ほどの大きさの岩を投擲してきた。
その速度、避けられる気がしなかったのでとっさに【獄炎】を身にまとい、レイを庇うようにして持っていた剣を振る。幸い、岩はただの岩だったようで【獄炎】が押し切って真っ二つにすることができた。
怒り心頭な黒オーガに対して【百科事典】を発動。すぐにレイと共にボスフロアに転がり込んだためにわずかな時間だったが、名前とレベルぐらいは確認することができた。
「レイ、そいつの名前がわかった。そいつの名前は獄卒の斧。レベルは60だ!」
「レベル60!?くっ!格上じゃないか!」
「なに言ってやがる!【鬼】の称号の前の力試しだ!武技と魔法なしで全力で行くぞ!」
「はぁ!?正気か!?」
俺がレイに宣言して飛び出した後にレイが何か叫んだが俺の耳には入ってこない。こうやって命がけの戦いは久々だ。血が滾る!
俺が獄卒の斧に向かって飛び出すと同時に相手も動き出した。俺はスキルを使わない縛りを入れているが相手はそんな縛りはない。斧を振り上げたまま、滑るようにこちらとの間合いを詰めてくる。この歩法はレイも使っていた【縮地】か。
さらに振り上げられた斧には光が集まってる。これは武技の兆候だ。まさか魔物が武技まで使ってくるとはな。
一瞬で間合いを詰めてから超絶威力の武技を叩き込むね。シンプルだけどなかなか強力じゃないか。さらにここの地面は岩。仮になんとか躱せたとしても斧が地面を砕きさらには武技の効果で振動もするんだろうなぁ。それで足場が悪くなって次の攻撃を避けられなくさようならってか?いやはや実に嫌な性格してるね。このボスは。
けどこんな見え透いた攻撃、散々鬼ヶ島で鬼たちと殺しあった俺に通用なんてするかよ!武技の特徴は決められた動きとチャージが必要なこと。それが大技であればあるほどチャージ時間は長くなる。
ゆえに俺が選択するべきは迎撃ではなく回避。右腕に持った巨大な斧が振り下ろされるのに合わせて右脇の方に向かって転がる。攻撃するときに一番の隙になるのは攻撃する部位。今でいうならば振り上げた右腕の下だな。
転がると同時に振り下ろされた斧が地面を揺らす。地面が揺れる?ならば飛べばいいじゃない。ひこうタイプにはじめんタイプの技当たらないしな。
脇の下を転がった俺はそのまま跳躍して空中に身を投げ出す。もしこれがソロならこんなことしないで間合いを稼ぐ。だって空中にいるやつなんて格好の餌食じゃん?
獄卒の斧は案の定俺の方を振り返り、空中に浮いた俺を見つけると喜悦に顔を歪ませ、俺のことを握りつぶさんと空いていた左手を差し出してきた。
「君の相手は桃だけじゃなんだよ?」
獄卒の斧が俺に気を取られている隙にレイがその辺にあった岩を踏み台にして獄卒の斧の顔面付近まで飛び上がり、無防備だった耳の穴へと剣を突き立てた。
ここまで獄卒の斧のヘイトがレイに向かなかったのには理由がある。もちろん俺が最初の投擲を迎撃したこともあるが俺は俺自身に【手品】スキルの視線誘導を発動していた。このスキルちょくちょく使っていたのだがかなり使い勝手がいい。効果に差はあれどどんな相手でも一瞬だけはこちらに注意を向けることができる。
ただしヘイト管理ができるわけではないでタンクには向いてないけどな。俺はこのスキルを駆使してレイのことを最初をのぞいて獄卒の斧の視界に入れないようにしていた。
さて、いくら強靭な魔物とはいえ、鼓膜まで鍛えられるだろうか?もちろん答えはNOだ。そして特殊な体の作りをしてない限りは脳は頭の部分に存在し、それを破壊されれば死ぬ。
つまり、何が言いたいのかというと、レイのレイピアによって脳を破壊された獄卒の斧はそのレベルと巨体から一切見合わないほど瞬殺されてこの世から姿を消したのだった。
<お知らせします。ダンジョン【獣魔混生】20階のユニークボス、獄卒の斧が初めて討伐されました>
<称号【獄卒スレイヤー】を獲得しました>
<初攻略報酬として【獄卒のピアス】を獲得しました>
<獄卒の斧×1を獲得しました>
ドロップは斧が1つだけ。強さに見合ってない気がするが・・・しかし初攻略報酬はよかった。
獄卒のピアス レア度5
効果:MP+50
スキル【MP吸収】【獄炎強化】
MP吸収はMPを使用した攻撃時、与ダメージの5%MPを回復するというスキル。MPをガンガン使って戦う俺からしてみれば回復量はわずかであってもありがたいことには変わりない。
そして【獄炎強化】。まさに俺のためにあるようなスキルであり、これの効果によって【獄炎】のスキルが1.1倍ぐらいになった。うん、これだけでも来た甲斐があったな。
「ふぅ、まさかここでこんなユニークボスと出会うとはね。しかも称号まで手に入るのか。本当に君といると退屈しないで済むね。」
「それは俺に言われてもな。まぁ、褒め言葉として受け取っておくよ。おっと、もうそろそろ時間がヤベェな。」
「ん?あぁ、君はバイトがあるんだったね。それなら確かにいい時間だね。キリもいい今日はこの辺にしておこう。この調子で行けば次のアタックでは格上がいるところまで辿りつけるはずだよ。次は明日の今日と同じ時間でいいよね?」
「あぁそれでいいぞ。」
「それじゃあ帰ろっか」
「そうだな」
俺はレイを連れて俺の拠点へと転移してレイと別れてその日はログアウト。それじゃおやすみ。
お久しぶりです。引越しの影響と新生活が始まる前にコロナでてんやわんやになったことで更新が遅れておりました。それと同時に作業環境が前とは違っていて、私は音が一切ない環境が好きなんですがそうも行かなくなってしまい、慣れるまで時間がかかるかと思います。
今回のお話も前半部分の集中力がいささか怪しいのでお見苦しくなっていなければと思います。
この作品は皆様からたくさんの応援をいただいているためにゆっくりではありますがなんとか更新は続けて行こうと思います。
これからもよろしくお願いします。作者




