第52話 トレスのダンジョンー1
お久しぶりです。引越しのためにネットが繋がらなかったので更新が滞ってました。
これからは毎日投稿は難しいかなぁと。気長にお待ちください。
前回のあらすじ
・玲との日常回
・トレスのダンジョンへ!
・ジジイ襲来
ここ、トレスのダンジョンは公表されているダンジョンの中では世界最大級の大きさを誇る。とあるファンタジー的手法を用いてこのダンジョンの深度を計測したところ少なくとも100階まではあることが確認されている。
そして発見から現在に到るまでの公式の最高到達深度は57階だそうだ。当時のSランク冒険者だけで構成されたパーティーが3ヶ月かけて到達したそうである。
ちなみに、ここだけの話だが、召喚院の記録ではこの世界におけるもっとも広大な迷宮は300階層にも及ぶ超巨大迷宮で、最強の召喚騎士、カイン、ミーナ、スタンの超豪華パーティーが本気で挑んで1月で攻略したそうだ。チートすぎるな。あの人たち。
俺たち来訪者や住民の多くはここの迷宮をトレスの迷宮と呼んでいるが実は正式名称がちゃんとある。その名も「獣魔混生」。この名前からもわかるように獣や魔物、種類に関係なく出現する種族のごった煮のようなダンジョンである。
だからこそメタることができないために攻略が進んでいないのだが。ダンジョンの中は確認された57階まで全て洞窟型のダンジョンで階層によっては水だとか多少の変化はあれどよくある洞窟を抜けるとそこは平原だったみたいな感じではないそうだ。
洞窟の広さは長柄の槍を十分に振り回せるだけの広さがあるので攻略はしやすいだろう。まさに公表されているダンジョンって感じだな。難易度のバランスがいい感じに保たれている。
ボスは5の倍数の階層に出現するそうだ。そして下の階に行けば行くほど罠が出現したり、さらには光源も薄くなることが情報として残っている。最後に現在の最高到達点は51階。SランクとAランクの混合パーティーが叩き出した記録だそうだ。
と、ここまでがレイから教えてもらった情報。レイたちはレベリングだけじゃなく、ギルドランクの向上も目標に据えて探索や依頼、さらには装備作成のためにボスの周回をしているために20階ぐらいまでしか攻略が進んでないそうだ。
まずは1階〜5階。ここは正真正銘の超が4つ付くぐらいの初心者向けのゾーン。出てくる生物は野ウサギやコウモリ、スライムなどの戦闘職じゃなくても大人ならよほどのことがないかぎり怪我をする心配すらない階層。主に孤児や冒険者として活動できない小さな子供が迷宮の歩き方を学ぶ場所でもある。
ここの迷宮が一番のレベリングポイントとはいえ、流石にこんな浅い階層に冒険者の姿はない。時折7歳〜10歳ぐらいの子供たちが2,3人のグループで行動しているのを見かける。その度にルーセントを召喚して彼らに余った食料などを分け与える。こんなのただの偽善だし、焼け石に水だとは思うが、やらぬ善よりやる偽善ということで積極的に子供たちと交流していった。
5階のボス。これだけは避けては通れない道。出てきた魔物、ゴブリン(レベル5)×3体。これはいわば冒険者への登竜門。これが倒せないようでは冒険者に向いていないために断念しろってことだ。
投石3回であっけなく終了。さ、次だ次。
続く6階〜10階、ここからが本当の迷宮といっても過言ではない。この階層からは野ウサギのような可愛らしい生き物は全く出てこず、ウルフやゴブリン、さらには大型のクマ(魔物ではない)など遭遇すれば命の危険が少なからずある生き物たちが出てくるからだ。
まぁ、それでもここの適正レベルは5〜10程度。俺たちの敵ではない。レイが覚えているという最短ルートを爆走して10階に到達。ボスは懐かしのビッグベアさんだ。これを倒して冒険者としての初心者を抜け出せるのだろう。
「ここは僕が行くよ」
その前は俺がボスを討伐したということで今度はレイが相手をするといって俺の前に出た。
「僕だって強くなってるんだよ!ライトフォース!エンチャントライト!【縮地】からの武技【致命の一撃】」
レイはフォースで自身の光属性を強化した上で武器に光属性を付与。そして【縮地】という滑るように間合いを詰める独特の歩法を用いて細剣の武技でトドメを刺した。【致命の一撃】は俺の【弱点特攻】と似たような効果ではあるが、急所にあった時に低確率で即死させるという追加効果をもつ結構えげつない技だ。
「どうだい?僕だって強くなってるだろう?」
「そうだな。」
「むぅ、なんかちょっとそっけないなー!」
むくれるレイをなだめつつさらにダンジョンを下ってゆく。続く11階〜15階からはいよいよ本格的にダンジョンといった趣になっている。
「ここから先は罠が登場するけど、僕はその手のスキルは取ってないけど桃はどうなんだい?」
「俺はスキルは持ってないけど【探索魔法】っていう便利な魔法スキルを持ってる。」
「また新しい魔法かい?本当に君はチートだねぇ」
「うるせいやい。俺だって狙ってやってるわけじゃねぇよ」
そう、俺たちの会話からもわかるように11階からはダンジョンのダンジョンたる所以である罠と宝箱が登場するのである。もっとも罠も宝箱もここらの階層ではお試し的なノリであるためにどちらもしょぼいものではあった。
それでも滅多に使わない【探索魔法】のスキル上げをかねてガンガン発動していく。片足がハマる程度の可愛い落とし穴を飛び越え、飛び出してくる穂先が丸まった槍を切り落とし、時には出てきた魔物を切り刻みながら進む。魔物自体は少しレベルが上がった程度ではあるが罠が出てきたために適正レベルは15と少し高めではある。
15階のボスエリアにたどり着いた。時間的にここのボスを倒したところで今日のところは時間切れだ。
「ここのボスはゴブリンキング率いるゴブリン部隊だよ。ゴブリンキングを筆頭にゴブリンジェネラルが3体であとは武器持ちゴブリンやマジシャンで構成されている。ゴブリンキングそのもののレベルは25であんまり大したことないけど、【鼓舞】【統率】【眷属強化】っていう厄介なスキルを持っているからパーティーでも苦戦するね。おそらくだけどこの下の階層に進む最低限の力があるかどうかを見極める試金石なんじゃないかな?」
「レイの話を聞く限り、これより下はもっと強力な魔物に罠が出てくるんだし、こんなところで躓いているようじゃこの先は諦めろってところかね。まぁ、強いといっても所詮はゴブリンだしまだ格下かぁ。」
一気に殲滅するか・・・いや、せっかく大量の敵がいるんだ、ここはレイの強化に一役買ってもらおうかな。
「レイ、せっかくだからここのボスは武技と魔法を使わずに倒そう。」
「そういうってことは【鬼】の称号に関わるんだね?」
「そう考えてもらって構わない。【鬼】の称号にはプレイヤースキルが重要なんだ」
「わかった。やってみるよ」
レイも納得したところで早速ボス部屋に突入開始。扉を開くと一番高いところにいた体格のいいゴブリンが俺たちを見つけ咆哮をあげた。そのゴブリンを崇めるように拝んでいたゴブリン達がその咆哮に反応して素早く立ち上がり武器を構えた。
「一つアドバイスをするとしたら容赦無く急所を狙って一撃で殺せ」
「言われなくてもわかってるよ!」
そのレイの言葉と同時に遠距離攻撃持ちゴブリンが一斉に矢と魔術を発動し、少し遅れて前衛ゴブリンが飛び出してきた。
俺とレイはその場から一気に加速して前衛ゴブリンとの距離を詰める。こうすることで前衛との距離がなくなり遠距離攻撃は味方諸共攻撃以外は封じることができる。
「雑魚は僕が引き受ける!桃はキングを」
「りょーかい!」
遠距離攻撃が封じられるや否や前衛が俺たちを囲むように展開した。知能指数が低いとされるゴブリンではありえない行動。これがゴブリンキングのスキルの効果か。
「行きがけの駄賃だ。これでも喰らっとけ。」
俺は持っていた剣を消して刀に変更する。幻創霊器ヴェルガンドは俺の想像通りの武器を手にできる。もちろん持っているスキルに依存するが。俺は刀の中でも大太刀と呼ばれる大きな刀を作り出して、渾身の力でなぎ払った。
前衛ゴブリン達はスキル【鼓舞】や【眷属強化】によっていくらか強くなっているとはいえ、所詮は雑魚ゴブリン。俺が放った一撃で、周囲にいたゴブリンのほとんどが上半身と下半身がおさらばし、ドロップとなって消えていった。
それを確認するまでもなく、大太刀を消して取り回しのしやすい小太刀の二刀流に変更。一瞬で仲間を殺されたことでひるむゴブリン達の間をすれ違いざまに一太刀浴びせながらすり抜けるように駆ける。
前衛の囲みを突破した俺に降り注ぐのは先制攻撃以来出番のなかった遠距離攻撃部隊。今回は放物線を描いておらず直線で俺に迫っているので前のように突っ込んで躱すことはできない。
「俺に遠距離攻撃を当てたきゃ、せめてトリミテウスぐらいの弾幕は張ってくれないと!」
しかし、そんなものは魔鬼のダンジョンで鍛えた俺の敵ではない。ただまっすぐ飛んでくる矢や魔術なんて【見切り】を使わなくても躱せる!
俺は次から次へと飛来する遠距離攻撃に対して踊るように躱す。時にマジックシールドを使って地上だけでなく空間すべてを利用して舞う。そして上がってゆくステータス。これぞ【戦場に立つ獣王の舞】の本領発揮だ。
「フゥ、こんなもんでいいかな」
別にゴブリン程度MAXまでステータスをあげなくても倒せるが久々に踊って躱す余裕があったために少し夢中になってしまった。
ちらりと後ろを振り返るとレイが敵のど真ん中で必死に剣を振っているのが見えた。レイは俺と違って武技とかスキルをうまく組み合わせて戦うタイプだからな。武技・魔術縛りは結構厳しいだろう。
あんまり遊んでいると怒られそうなのでさっさとけりをつけることにする。矢を番えるタイミングや詠唱の隙に【瞬歩】で一気に間合いを詰めて首を刎ねる。上がりきったステータスに【弱点特攻】があるために楽勝以外の言葉が出ない。
遠距離攻撃ゴブリンをすべてドロップアイテムに変えたところでそれまで身動きせずに戦況を眺めているだけだったジェネラル3体が動き出した。
「お生憎様。お前達は散々イベントで戦ったから飽きてるんだよ。」
特に語ることはない。1体は【瞬歩】からの首スパ。1体は突き出された槍を半身で避けてカウンターで心臓を一突き。そして最後の1体は【手品】の視線誘導で俺へと注意を向けさせつつ周囲に魔力糸を張り巡らし捕獲。身動きが一切できなくなったところを首スパで終わらせた。
「さて残るはお前だけだぜ?王様よぉ」
取り巻きのジェネラル達が倒されたというのにいまだに余裕の笑みを浮かべたまま高みから俺を見下ろすゴブリンキング。レイはいまだに囲まれているが動きがよくなってきたのか既に残りは10体ほどになっている。
ゴブリンキングはレイの方をちらりと見ると一つ大きなため息をつくと近くに立てかけてあった巨大な戦斧を持って立ち上がった。
そしてぎょろりと俺を睨むと一気に跳躍し、落下する勢いそのままに俺に戦斧を叩きつけんと戦斧を振りかぶった。




