第51話 エンカウント
前回のあらすじ
・覇剣鬼
・覇杖鬼
・覇槍鬼
トレスの街に行こうと思ったけど時間が来てしまったのでその日はそれでログアウトすることに。その翌日、俺は大学でばったりと玲と出くわしてそのまま一緒に昼食を取ることになった。場所は以前にも行った大学近くの隠れ家的喫茶店だ。
玲とはちょくちょくメッセージのやり取りはしているがIWOへの先行投資のせいで我が渋沢栄一が消え去ってしまったための補填としてバイトの量を増やしていたためにあって話をする機会がなかったのだ。
俺と玲のメッセージの内容は課題に関することが2割で残りが全てIWOについてのことだった。最近の話題は効率の良いレベリングについて。俺と玲が顔を合わせても話す内容に変化などなかった。
「玲は今どこを周回してるんだ?」
「僕たちはやっぱりトレスのダンジョンだよ。出てくる魔物の種類もレベルも一定だし、ドロップも美味しい。それでいて宝箱やボスドロップでもいい装備が出てくるから今前線にいるプレイヤーのほとんどはトレスのダンジョンにいるんじゃないかな?」
「やっぱりレベリングはダンジョンが一番か。」
「そんなことを聞くってレベリングしていないのかい?君らしくもない。」
「まぁ、ちょっと別でやりたいことがあってな。」
さて、玲に鬼ヶ島のことをいうか迷うな。一応今回のゲームでは完全に別行動してるけど大体のゲームはこいつとしていたから隣にこいつがいないと少し右隣が寒いんだよな。
「やりたいこと?レベリングより優先で?」
「あぁ。」
「ふーん、何をしてるのか気になるな〜」
いつものにやけた顔でこちらをからかうように見つめてくる玲。はぁ、幼馴染だしまぁいいか教えてやろう。
「特別ダンジョン鬼ヶ島だよ。俺はここ最近ずっと鬼ヶ島に篭ってるんだよ。」
「・・・はぁ、また君がやらかしたのか。あのアナウンスを聞いた時からまさかとは思ってたけど・・・」
なんか玲がため息ついてる。俺、そんなにやらかしているか?別にあれぐらいイベントのソロ部門の上位にくるプレイヤーならクリアしてると思ったけどな。玲は別だけど。
「それでだ、玲。お前、俺と一緒に鬼ヶ島へ行かないか?」
「僕が、君と一緒に?」
「あぁ、そうだ。正確には鬼ヶ島への行き方、すなわち【鬼】の称号の獲得方法を教える。そして獲得の手伝いもするぞ」
「一体どういう風の吹き回しだい?IWOはPvPがあるからって別行動にするって言ったじゃないか」
「そうなんだけどよ、あー、なんていうかだな、その、まぁ、お前が横にいないとどうもしっくり来ないんだよ。だからさ、また一緒にゲームしようぜ」
「・・・全く、君って奴は。僕の気持ちも知らないでよく言うよ。」
「ん?なんか言ったか?」
「いや、なんでもないよ」
最後の方はうまく聞き取れなかったがなんでもないと玲が言うのだからなんでもないんだろうな。
それから大学を終えてIWOにログインして待ち合わせをする。場所は俺の拠点だ。ここなら他の人に見られることなくトレスまで行くことができる。レイはもとより俺もイベントで名前を売ったからな。面倒ごとはなるべく避けたいんだ。
トレスのダンジョンはこのゲームが始まって以来一番の賑わいを見せているようだ。なんでも来訪者たちがレベリングのためにここに集ったそうである。中にはマナーのなっていない来訪者もいるとかで住民との関係がギスギスし始めているとかなんとか。
「それで?【鬼】の称号を獲得する方法ってなんなんだい?もったいぶらずに教えてくれたまえよ」
ログインして俺の拠点に集合して開口一番のセリフがこれである。よっぽど気になっているようである。
「それは現地に行ってからのお楽しみだ。時間がないからさっさと行くぞ」
不満そうなレイを掴んで転移を発動。目を開けるとそこはトレスのダンジョンの目の前だった。
「うお!?いきなり閃光と召喚騎士様が現れた!?」
「なんだって!?」
「どこだどこだ!?」
噂通りトレスのダンジョンは大盛況のようである。そのど真ん中に転移してしまったために注目を集めてしまった。
「つくづく思うけど、やっぱり君ってバカだよね」
「返す言葉もございません」
周囲の冒険者のざわめきをBGMにレイと漫才を繰り広げていると俺たちを遠巻きに囲っていた野次馬来訪者たちの群れがすっと割れた。そして割れてできた空間からこちらに向かって歩いてくる13人の来訪者たち。統一感のある装備に身を包んだ男たちだ。
「桃、彼らがイベントで総合パーティー討伐部門2位だった円卓の騎士だよ」
否が応でも目につくので彼らを見たレイがこっそりと耳打ちして教えてくれた。やはり彼らが円卓の騎士か。なんの用だろうか?
「初めまして。私は円卓の騎士のリーダーをしていますアーサーと申します。閃光殿は以前にもお会いしましたね」
「その節はどうも」
「初めまして、桃だ」
アーサーと名乗った男のアバターは少女漫画の主人公になりそうなぐらいの正統派のイケメン。ムカつくな。爆ぜればいいのに。レイは特段興味がないのか、それとも【鬼】の称号を目の前にこんなところで足止めを食らうのがうっとしいのか結構こいつにしてはそっけない態度を取っている。
「さて、そのアーサー殿が一体なんのようかな?」
「ふふ、簡単な宣戦布告ですよ。」
「なに?」
「第1回イベントではあなた1人にパーティー部門の1位を掻っ攫われてしまいましたからね。次のイベントでは私たち円卓の騎士が1位を奪取するという宣戦布告ですよ」
アーサーという男、表面はクールでにこやかに会話をしているがそれとは裏腹に結構なプライドと激情の持ち主のようだ。俺は戦闘狂ではないがアーサーの静かな熱意に当てられたのか自然と笑みが浮かび上がってくる。
「そうか、ならばその挑戦受けて立とう。そして次も必ず俺が取る」
俺はアーサーの目を見据えてはっきりと宣言する。仮にもこの世界の上位機関の一員となった身だ。たとえイベントだろうとなんだろうと負けるわけにはいかない。俺の背にはアリーシャ召喚院が乗っているのだから。
「フォフォフォ、若造どもがなにやら面白い話をしておるの」
俺とアーサーが静かに火花を散らすこの異質な空間。パーティー戦における名実ともに1位と2位が直接闘志をぶつけ合うこの空間はある種の結界となって他の来訪者たちは近寄ることさえ出来ていなかった。
それなのに突如として俺たちの横から響いた年寄りの声。しかもかなり近い。俺は街の中でも【空間把握】や【気配察知】などのスキルで周囲を確認しているが反応が一切なかっただと?
俺とアーサーがバッと声の方向を振り向く。そこには全身真っ白い装備に身を包み、たった一本の無骨な槍を背負った老人の姿があった。
「まさか、貴方までここにいらっしゃるとは、白殿」
「フォフォフォ、れべりんぐとかいう奴はここが最適らしくてな、ステータスとやらの差は技術ではどうにもならんから仕方なくの。まぁ、こうして活きのいい若者たちが火花を散らすところが見れただけでも来た価値はあったかのう」
やはり見た目通りこの人が最強のソロプレイヤー「白」。なるほど、リアルチートの武人ということだけはある。何気ない普段の歩き方でもどう仕掛ければいいかわからないほど隙がない。威圧感はあの覇槍鬼ゲオルギウスと同等かそれ以上のものがある。最強の名は伊達じゃないか。
「お主が桃殿か。なるほど、武術の経験はないが実戦の中で腕を磨いたか。いい目をしておる」
「そりゃどうも。」
「フォフォ、じゃがまだまだ未熟、励むが良い。アーサー殿は相変わらずのようじゃな」
「えぇ、まぁ。」
「フォフォ、この力に頼らず力を束ねる。これもまた力よの。励むが良いぞ。邪魔したな若者たちよ。お節介なじじいはこの辺で去るとしよう。」
本当に言いたいことだけ言って嵐のように去って行ったなあの爺さん。強いのは確かだろうけど結構な変人だなありゃ。
「私たちもこれにて失礼させてもらうよ。」
白の乱入で気を削がれてしまったアーサーが少し不服そうにしながら俺たちに別れを告げ、他の団員を伴ってダンジョンへと入っていった。
「全く、円卓の騎士に白の乱入か。全くもって君はトラブルに愛されてるねぇ」
俺とアーサーと白が会話している間、銅像のように一切動きを見せなかったレイ。彼らが去ると雄弁に語り出した。
「うるせいやい。」
「ま、君のトラブル体質(男限定)は今に始まったことじゃないし、気にしても仕方無から先に進もうか。」
「・・・そうだな」
若干、いやかなり不満はあるが昔からゲームをすると男ばかりに因縁をつけられ女の子は寄ってこなかった。認めるのは非常に癪だが間違ってないのでなんとも言えない。
時間もないので気持ちを切り替えていざ出発。俺たちはトレスのダンジョンへと足を踏み入れたのであった。
玲の性別は不明です。不明です。大事なことなので2回言いました。




