第47話 レベル50の鬼
前回のあらすじ
・進化した英霊の実力
・ミーナさん脳筋すぎでは?
・レッツゴー鬼ヶ島!
レベル50の鬼と対峙する。もはや相手に鬼としての野性のようなものは感じられず、理性のある人間を相手にしているかのように感じる。
看破でステータスは分析出来なかったがさっきのレベル41の鬼ですら俺よりも力が強かった。それがレベルアップしたんだ。確実に俺よりも力強く、そしてタフそうだ。
剣鬼のダンジョンなので魔術関連のステータスは無視すると俺が上回っているのはDEXとAGIぐらいだろう。なら俺はこの差を十分に活かすべきだ。
相手はなんの変哲もないただの直剣を一振り持っているだけ。変なギミックがない限りは剛の剣を使うのだろうなと予想。それに対して俺は短めの直剣を二振り出現させて構えた。イメージは某人斬りの隠密御庭番衆のボスが使う剣術。
防御を基礎としてカウンターで仕留める。力で劣る俺にはぴったりの戦い方だ。
両手に持った剣を構えて相手の出方を伺う。鬼は俺が自ら攻めてこないと判断したのか剣を上段に構えて一気に間合いを詰めてきた。鬼が繰り出すは自身の膂力を存分に活かした渾身の振り下ろし。
これまでの鬼とは違ってただ力任せに振り下ろすのではなく踏み込みから腰、背中、腕へと力を伝播させた確かな技術のある振り下ろしだ。
俺はそれを半身になって躱す。もしこれでこの振り下ろしと同じ速度で剣が振り上げられるのであればそれはかの佐々木小次郎の得意技である燕返しになる。しかし、あれは一種の境地に至った剣。鬼が簡単に真似できる技ではない。
振り下ろしが躱された鬼は剣が地面を叩く前にきちんと止め、片手で俺の躱した方へ横薙ぎの攻撃を放ってきた。
その攻撃は流石に躱すことが出来ない。しかしいくら鬼の膂力と言えども万全の体勢ではない上に片手で振った剣。弾くことは出来なくても受け止めることぐらいは出来る。
ガキッと鈍い音がしてお互いの剣と剣がぶつかり合う。一瞬の硬直を見逃さず、俺は右に持った剣を滑らせて鬼の親指を切り落としにかかる。しかしそれは流石に読まれていたのか鬼は力ずくで俺を弾き飛ばして距離を取った。
弾かれるのがわかった瞬間にわざと力を抜いて自分から飛ぶことで鬼との距離を稼ぎ、追撃を牽制。地面に足がついたと同時に強く地面を蹴って今度は俺から鬼に仕掛ける。
剣をクロスさせたまま間合いを一気に詰める。鬼は迎撃のために剣を横薙ぎに振るうがそれをしゃがんで躱す。そして起き上がる勢いを利用してさらに加速し、クロスした剣を振り抜いた。
鬼は剣をとっさに戻すことでガードしたが若干間に合わず、俺は鬼の皮膚を切り裂くことに成功した。しかし鬼からして見ればただのかすり傷程度だろう。それに間に合わなかったとはいえガードはされたためにダメージが軽減されている。
わずかとはいえダメージを受けた鬼は腹立たしげに剣を大きく振り回した。大振りとはいえ当たれば大ダメージを負いかねない威力がありそうだ。仕方なく俺は距離を取った。
「さて、相手はかなり丈夫で体力も十分そうだ。それでいて俺より確実に強いか。これはいい練習相手になりそうだな。」
俺はここで意識を勝つことから学ぶことへと切り替える。昔流行った某狩りゲーで俺がよく使っていた手段だ。ゲーマーはとにかく死ぬことを恐れる。なぜって?報酬が減るからとかアイテムをロストするからとか色々あるが何よりかっこ悪いからだ。
そして一度でも死ねば自ら進んでクエストをリタイアする。こっちの方が死んでクエスト失敗になるより潔いと考えられていた。
俺はそれが気に食わず、何度死のうが繰り返し挑戦して相手の動きを夢にまで見るほど頭と指先に叩き込んだ。そのおかげで追加コンテンツが出始める頃には何回か戦えばその相手の動きの特徴を捉えられるようになっていた。
まずは目標を設定。目標はあの力のある鬼の攻撃を一歩も動かずに捌ききるようになること。いわば柔の剣を取得することだな。
大きく息を吐いて鬼を見据える。鬼は出血の怒りがまだ抜けきってないのかこちらを射殺さんばかりに睨みつけてくるがミーナの威圧を知っている俺からしてみればなんら痛痒を感じない。
目標への第一歩。まずは攻撃をひたすら躱す!鬼の怒涛の連続攻撃。怒り心頭でもそこは剣術を修めた武人。その攻撃は刺突を入れて9つに分類される。俺はその斬撃の軌道をこの目に焼き付けながら躱す。
幸い鬼の使っている剣はその体格に見合ったもの。居合の達人みたいに見切れないほど早いというものではないために【見切り】が使えなくても初動、視線、腕の筋肉の動き方、踏み出す足の位置、そして剣術が剣術であるがゆえの道筋を全て覚えてしまえば躱せる。
幸いこのゲームではステータスの恩恵で動体視力も上がっているようである。それに格上とはいえ相手とのステータスにそこまで差があるわけじゃない。突然画面から消えたかと思えば画面外の高高度から突撃を仕掛けてくるクソモンスターよりはるかにマシだ。目に見えるし。
最初は大きく、それこそ転がるように避ける場面もあったが1時間も本気で集中していれば理不尽なことのない鬼が相手ならほぼ全ての動きをスキルのサポートなしでも見切ることができた。
流石の鬼も1時間もひたすらに攻撃していれば息が上がってくる。反撃を一切しなかったことも相俟って腑抜けた一撃を放ってきたのを見逃さず、剣で弾いて腹部に蹴りを叩き込んで強制的に距離を取った。
気を抜いていたところに不意打ちがみぞおちに入った鬼は反吐を吐きながら吹っ飛んだ。しかしなんのスキルも使っていないただの蹴り。派手に吹っ飛んだこともあって見た目よりはダメージが入っていないはずだ。
思わぬ反撃を受けたためか、はたまた油断していた自分への怒りか、とにかく怒りの咆哮をあげた鬼は剣を強く握りしめると以前より勢いを増してこちらに斬りかかってきた。攻撃はすでに躱せる。なら次は受け流せる攻撃を増やすことだ。幸い斬撃は大元をたどれば9種類。その全てへの対応が可能になれば応用も効くはずだ。
もちろん最初からうまく行くわけではない。躱すのと受け流すのでは必要とされる技量が段違いだった。初めは何度も剣を砕かれ、受け流しに失敗して地面に叩きつけられ、そしてフェイントでダメージを受けたりもした。
しかし粘り強く戦うことさらに3時間。ようやく全ての斬撃を納得できるレベルで受け流すことができた。
「流石に疲れた。今日はここまでにしよう。」
右から左への横薙ぎの攻撃を受け流し、鬼の体勢を大きく崩す。これまではそこまで大きく受け流して体勢を崩すことはしなかった。余裕が無いように見せかけて警戒されるのが嫌だったからね。
体勢が崩された鬼はなんとか立て直そうとするもさらに俺が追い打ちで足払いを仕掛けて転倒させる。そしてその隙だらけの背中から心臓に向かって剣を突き入れた。
「グオオオオ!!!」
最後の断末魔だろうか?鬼がひときわ大きく吠えた。その瞬間、【危機察知】が激しく警鐘を鳴らしたためにその場を飛びのく。一瞬遅れて俺の立っていたところを凄まじい剣戟が通過した。
「マジかよ」
その剣戟を放った正体は俺が心臓を確かに貫いたはずの鬼。これが普通の魔物なら死んでいるはずだが・・・。何事もなかったかのように立ち上がった鬼の心臓には確かに剣が突き刺さっていた。そしてその傷口から流れた赤黒い血がなぜかそのまま滴り落ちずに鬼にまとわりついている。
「くそ!どうなってやがる!」
考えられるのは根性系のスキル、あるいは死んだ時にMP分だけ命を生き長らえるとかのスキルだろう。内容はともかくとして大事なのはあの鬼がいまだに動いているということなのだから。
鬼が動いた。俺はその見慣れた動きに合わせて受け流そうと剣を動かす・・・っ!?
「なん・・・だと」
生き返った鬼の剣は俺の想像よりもはるかに早く、そして重かった。中途半端で受け流すこともできなかった俺は深々と胴を切られてしまう。なんとか致命傷は避けたがそれでもだいぶ深手だ。
「くそが!」
俺が重傷を負ったからといって鬼が止まってくれるはずもなくさっきまでとは段違いの速度、威力、殺気を込めて猛攻を仕掛けてくる。その剣戟は防御なんて一切考えてない何があっても俺を殺そうとする剣だ。
「うおおおおお!」
俺は最後の力を振り絞って必死に剣で攻撃を弾く。もはや受け流しとか言ってる場合じゃ無い。躱して防いで受け流して、とにかく俺は全身全霊を込めて鬼の剣戟を耐え忍ぶ。
しかし戦いの運命は残酷だ。いくら無限に実像を生み出せる武器とはいえ、その実像の耐久値はそれなりである俺の武器。受け流しの訓練と蘇った鬼の猛攻を受け続け、ついに俺の剣が砕けてしまった。
「しまった!」
慌てて新しい剣を生み出したが防御が間に合わず、生み出した剣ごと貫かれてしまう。
「がっ!・・・くそ・・・」
右肩を貫かれた俺のHPはなんとか残ったものの、出血が激しすぎてすぐには立ち上がれない。その様子を見た鬼はゆっくりと俺へ近づいて剣を振り上げた。
「ここまでか・・・」
そう呟いた俺はその時に備えて目をつぶる。しかし一向にその衝撃はやってこない。目を開けて様子を伺えば鬼の目にはすでに生気はなかった。鬼は剣を振り上げた状態で絶命していたのだ。
一陣の風が吹き立ったまま絶命していた鬼の死体がチリとなって消える。なんともいえない勝利だがきっとスキルの時間制限がここで来たのだろう。やっぱり心臓を突いた時にあの鬼は死んでいたんだ。それをスキルで無理やり消えるのを先延ばしにしていたみたいだな。その様子はまさに最後の灯火だった。
「今度会うときは完膚なきまでに叩きのめす!覚悟しておくんだな!」
虚空へと消えた鬼に敬意と敵意を込めて宣言したとき、魔法陣でポップしていたレベル51の鬼に俺は呆気なく殺され初めての鬼ヶ島挑戦は終わりを迎えた。
戦闘シーン描いてたら全然進まなかった!
この話で桃の少し異常なところが出てくるかなって感じです。
鬼ヶ島のダンジョンの説明
・1対1の戦闘を10回繰り返す
・次の対戦相手の強さは前の相手の倒し方で決まる
・上昇値は最大で20、最低でも1は上がる
・戦闘が終わるごとに全回復(桃はマミられてさよならした:油断)
・勝ち抜いた回数とレベルによって報酬が変わる
・隠し要素あり
って感じなってます!
いくつかご指摘あったスキルの相違ですが、完全にミスなので時間を見つけて直します。




