第4話 遭遇と合流
前回のあらすじ
ギルドに登録します
称号とスキルの確認をします
驚きます
「あーちょっといいか?」
「ひゃい!?」
ぼんやりと考え事をしていたところに突然声を掛けられ思いがけず間抜けな声が出てしまった。びっくりして振り向けば先ほど俺の隣の窓口にいた男女2人組のうちオレンジ色の髪色をした男が後ろに立っていた。
「おお!?すまない、驚かせるつもりはなかったんだが…。」
「い、いや。こちらも考え事をしていたからな。それで用件は何だ?」
「俺たちはアリーシャ召喚院という機関に所属していてな。そこの上層部から人探しの任務を受けてウノの街に来てるんだ。」
「人探し?」
「あぁ。本来ならあんまりそんな任務は回されないんだけど今話題の来訪者の中で俺たちと同じ召喚騎士になったっていう人が居るらしいんだ。」
おや、その探し人とやらはどうも俺のことみたいだな。
「でも、来訪者の世界とこの世界のゲートが繋がったのが今日の正午だろ?当然、来訪者に知り合いなんているはずがない。どうしたもんかと思ってたところ、盗み聞きをするつもりはなかったんだがお前さんが来訪者と聞こえたもんで声を掛けさせてもらったんだ。」
さて、事情はわかった。ここはどう答えるのが正解かな?一番高いのはノルンやあの最強さんの所属している機関がオレンジ男のいうアリーシャ召喚院なる組織で召喚騎士という職業について全然知らない俺のサポートで派遣した可能性。
次点でなんらかの形で来訪者の中に召喚騎士が誕生したのを知って接触してきたノルンや最強さんとは別の対立する、あるいは悪意を持った連中である可能性。
そうやって少し考え込んでいた様子が不審がっていると間違われたのか少し慌てた様子で目の前の男が言葉を続けた。
「おっと、そう警戒しないでくれよ。ってそういえばまだ名前も名乗っていなかったな。アリーシャ召喚院所属第二十七討伐隊クラージュの隊長をしているカインだ。一緒にいた少女は俺の部下で同じくクラージュ所属のサーシャだ。お、噂をすればなんとやらだな。」
振り返るとそこにはサーシャと呼ばれた翠の髪の女の子とさっき俺の冒険者登録をした冒険者ギルドの受付のお姉さんが一緒にやって来ていた。
「カインさん、ちょっといいですか?」
サーシャがカインのことを呼んだ。
「なんか呼ばれているみたいだな。申し訳ないがちょっと行ってくる。」
カインは俺に一度断ってから席を立った。なんだか内密な話のようではあるがサーシャと呼ばれた女の子が何度かこちらに視線を飛ばしてきていた。まぁ、十中八九俺についてだろうな。
1,2分で話し合いは終わったようだ。カインは受付のお姉さんとサーシャを連れだってこちらに戻ってきた。
「何度もすまんな。それでさっきの話の続きなんだが探し人はもう見つかった。」
「それは良かったな。」
「何を他人事みたいに言ってるんだ?俺が最初に目的を言った時にはわかっていただろうに」
「もしかして探し人って俺のことだったのか?」
「そうみたいだな」
ちらりとカインの後ろにいる受付のお姉さんに視線を向ける。俺が自分で正体を明かさなかったのは冒険者ギルドを利用してアリーシャ召喚院を見極めさせてもらうためだ。
冒険者ギルドは当然冒険者を守る義務があるので余程のことがない限り冒険者の情報を渡したりはしないだろう。
もしアリーシャ召喚院があの最強さんの所属する組織ならば冒険者ギルドよりも立場が上であることは簡単に予想がつく。その組織が正当なものであるならば冒険者ギルドはカイン達に情報を渡すはずだと踏んだんだ。
「冒険者ギルドを利用して俺たちを試したのか?だとすれば相当疑われてたんだな俺たち」
そういってカインはニヤリと笑った。
「だからいきなり声をかけるのには反対したんですよ。カインさん」
笑みを浮かべるカインとは対照的にサーシャと呼ばれた少女は少し表情を歪めてカインに苦言を呈している。どうやら上下関係はさほど厳しくはないようだ。
「その評価はいささか心外だな、慎重と言ってくれ。まぁ、ギルドが俺のことをそっちに話したということは信用のおける組織なんだろう。俺は来訪者で召喚騎士の桃だ。気軽に桃って呼んでくれ。よろしく、カイン」
「おう!こちらこそよろしくな。ほらサーシャ。お前も挨拶しないか」
「サーシャよ。」
「桃だ。よろしく。」
お互いに挨拶と握手を交わしまず手始めに召喚騎士とはどんな職業かをカインが話し始めようとした時、ピピピとこの世界観にそぐわない電子音が響いた。
「すまん、召喚院からの通信だ。」
カインが俺に断ってから通信をオンにする。するとメニューのようなものが空中に出現した。
『やあ、カイン。そっちの様子はどうだい?異世界からの召喚騎士見つかったかい?』
「はい、タイミングよく始まりの街ウノの街の冒険者ギルドで合流することが出来ました。」
おお!テレビ電話みたいに相手の顔がモニターに映ってるぞ。これが一般的な技術かどうかは知らないが1部隊の隊長が持てるとは、アリーシャ召喚院の力は結構すごいな。
モニターに映ってる青年はカインより若く見えるがどうやら地位はその青年の方が上のようだ。
『この短時間で見つかったのなら幸いだ。まぁ、それはいったん置いておくとしよう。カイン、本来ならその新人召喚騎士を連れてきてほしいところだけど時空の歪みを探知した。規模からいって結構な数の魔物の出現が予想される。間違いなく召喚院案件だ。別任務中だけど現場から一番近いのが君とサーシャなんだ。マルテがすぐに地図を送るから今すぐ急行してくれ。場所は通信を切ったらすぐに送る。』
「了解です」
カインの返事後、すぐに通信は切れた。
「桃。聞こえていたと思うがこういう事情になってしまった。先達としてサポートするべきなんだがそうもいかなくなってしまった。任務自体は続いているからどこかで埋め合わせできればいいが……桃はもう冒険者登録が済んでいるんだよな?」
「ああ、さっき完了したところだ。」
「なら大丈夫だ。これを受け取ってほしい」
「これは?」
カインから手渡されたのはギルドカードのようなものだった。”ようなもの”とつくのは冒険者ギルドのカードではなくアリーシャ召喚院のカードだし、どこかカードの材質そのものが違う気がするからだ。
「それは俺のフレンドカードだ。こうしてフレンドカードを交換しておけばいつでも連絡が取れるようになるんだ。さっきの緊急任務が片付き次第ウノの街に戻ってくるからその時に今回の埋め合わせをさせてくれ」
お、このゲームはNPCとフレンド登録できるのか。このシステム自体は知ってたけどプレイヤー専用だと思ってたぜ。
「そういうことならありがたく交換させてもらうよ。いきなり召喚騎士になったから細かいことはよく知らないんだ。恩に着る」
「未来ある若者を導くのも俺たちアリーシャ召喚院に課せられた使命の一つだからな。気にすんな。それからサーシャ、お前も交換しておいてくれ。そんなに長引くことはないと思うけど時間がかかりそうならサーシャに桃のことを頼むかもしれないからな。」
「わかりましたカインさん。はい、桃。これが私のフレンドカードよ」
カインとサーシャからフレンドカードを受け取った俺はフレンドカードをインベントリにしまう。
<カインとフレンドカードを交換しました>
<サーシャとフレンドカードを交換しました>
突然のアナウンスにビクッとする俺。そんな俺に構わずフレンドカードを渡したカインは先に行って準備してると言い残しギルドを出て行ってしまった。
「慌ただしくなっちゃったけど、新しい召喚騎士の誕生を私たちは歓迎するわ。じゃあ急ぐから。待ってください!カインさん!」
カインの後を追うようにサーシャもギルドを出て行った。嵐のような出来事だったな。
<称号【絆を紡ぐもの】を獲得しました>
<プレイヤーの皆様にお知らせです。初めて『来訪者』と『住人』の間にフレンド関係が結ばれました。様々な条件を達成しますと『住人』をフレンドとして登録することができます。>
<フレンドとなった『住人』とはプレイヤー同士と同様に離れていてもメッセージのやり取りが可能になるほか一緒に依頼を受けたり生産活動を共に行うことができます。>
<半年間ログインが無い場合は『住人』とのフレンド関係は破棄されます。その際に再度同じ『住人』とフレンドになることは出来ませんのでご注意ください。>
<中には特殊な能力を持った『住人』もいますのでたくさん交流してみてください。>
あ、これも俺だ。俺が原因で開始から数時間で2回もワールドアナウンスが流れるか。ますます身バレが怖くなっちまった。
新しい称号が手に入ったが検証は後にしよう。間違いなくレイを待たせている。明確な時間は決めてないとはいえこっちに合わせてくれるって言ってる人を待たせるのは申し訳ない。
ギルドを出ると一気に喧騒が俺を包み込んだ。どうやらオープンエリアに戻ってきたみたいだな。
なんでこいつらこんなにギルドの前に集まってるんだろう?チュートリアルならプライベートエリアに飛ばされるはずなのに。ま、いいか。もしかしたら俺が悠長にチュートリアルやってる間に依頼を消化した人の集まりかもしれないしな。
玲とはギルド前で待ち合わせにしたはずだけど……あ、いた。
ギルド前に集まった人込みから少し外れたベンチの一番端の方に玲はいた。
「遅れてすまんレイ。思いのほかチュートリアルが長引いてな」
ちなみに玲はどのゲームでもレイと名前をつける。自身の名前と全く一緒だが、ありふれた名前だからって昔からレイを使っている。
「本当にチュートリアルだけだったのかい?あんなのどんなにゆっくりやっても30分もすれば終わるじゃないか。」
口調からしてさすがに怒っているようだ。時刻を見るとすでに21時に近くなっている。さすがに連絡もなしに待たせすぎたようだ。
「…訳はきちんと説明するから少しこの場所を離れよう。さすがにこれだけの人目があるところでは話せない。」
「ん」
レイからフレンドカードを手渡された。どうやらフレンド登録をしろということらしい。
<レイからパーティー申請がありました>
これ以上機嫌を損ねるとかなり面倒なので手渡されるままフレンドカードをインベントリにしまう。これでフレンド登録完了。直後レイからパーティー申請があった。
そうかパーティーを組むと使えるチャット機能を使えば外部に漏らすことなく会話が出来る。チャットは打ち込むだけじゃなくて思考でも入力できるからほぼ話しているのと変わらない速度で会話ができる。
レイ:これなら話せるんじゃないか?
桃:問題ないね。
レイ:じゃあ早速何があったかキリキリ吐きたまえ。もしくだらない理由だとしたら 一ヶ月は君にランチをごちそうしてもらうから覚悟しておきな
桃:その心配は無用だな。間違いなく驚くぞ。後、その件は俺も持て余してるから
相談に乗って欲しい
レイ:ほうほう、随分とハードルをあげるじゃないか
桃:いいか、端的に言うぞ?さっきワールドアナウンスが2つ流れただろ?。
レイ:ああ、どっちもβじゃ聞かなかった内容だ。特にEX職に関しては早速掲示板で
盛り上がってるよ。もちろんボクも大いに気になってるけどね。
桃:それ、どっちも俺が原因だ。
「はぁああ!?」
チャットでは耐えられなかったのかレイが思わず叫んで立ち上がった。
「おい、落ち着け」
「これが落ち着いていられるか!」
「いいから!周り見ろって」
少々強引だがレイの肩を掴んで無理やり座らせる。
「おい、あれってβテスターでもトップクラスの実力者って言われた閃光じゃねぇか?」
「馬鹿言え、閃光がこんなところにいるはずないだろ?」
「いや、でも見てみろよ。腰に差してるのってレイピアだろ?俺の知り合いにβテスターがいるんだが、βテスターの特典ってその時に使ってたキャラの中から好きなスキルを3つそのままのレベルで引き継げるらしい。レイピアは【剣術】じゃ装備不可だから間違いなく閃光だろう。」
「あの人が有名な閃光だとしたら一緒にいるのは誰だ?βテスト時のフレンドか?」
「いや、知り合いの話だと閃光はソロプレイヤーだったらしい。」
「じゃあ、正規版からのフレンドかリアルでの知り合いか?なんにせよトッププレイヤーの閃光と知り合いとか羨ましいな。」
「違いねぇな」
レイが大きな音を立てたので注目を集めてしまったようだ。こいつ閃光なんて二つ名で呼ばれた上にソロのトッププレイヤーかよ。さすがだな。けどそのせいで俺まで注目を集めだしたか…
「っ!すまない。少々興奮したようだ。ここじゃあれだ。君のいう通り場所を移そう」
「そうだな」
俺たちは逃げるように広場を後にした。
桃 Lv.1
Fランク
職業 召喚騎士
HP 80
MP 160
STR 15
VIT 12
INT 15
MID 12
DEX 12
AGI 11
LUK 15
NPCF【◎カイン】【◎サーシャ】
称号
□一般
【来訪者の召喚騎士】【到達者】【最速の頂点】【EX職の解放者】【困難に立ち向かう者】【◎絆を紡ぐもの】
□祝福
【最強の召喚騎士の祝福】【ノルンの祝福】
□神々からの称号
【ノルンの期待】
スキル(0SP)
□武術系
【剣術Lv1】【槍術Lv1】【杖術Lv1】【鎧Lv1】【武術の心得】
□魔術系
【火魔術Lv1】【水魔術Lv1】【風魔術Lv1】【土魔術Lv1】【召喚術Lv5】
【魔術の心得】
□その他
【鑑定Lv1】【☆限界突破】【☆瞬歩】【☆逆境】【☆覚醒】
◎は今話で追加されたもの
☆は初取得、イベント特典などで強化されているもの