第25話 再会
前回のあらすじ
玲と話します
ログの確認をします
本読みます
ウノの街の神殿からドスの街の神殿へ転移する。そのままの足でギルドに向かい、ドス付近でレベル30ぐらいで大量に魔物が湧いている場所がないか、そしてトレスへ向かう時のエリアボスについて聞く。
残念ながらドス付近では俺の要望にあう魔物はいないそうだ。むしろ辺境であるウノの方が強い魔物は多くいるとのことだった。確かに王都に近づくにつれて魔物が強くなるとかゲーム的には当たり前かもしれないけど、実際に生活するのには最悪だしな。
そう考えるとCランクという比較的低いランクで転移門が解禁されるのも納得できる。きっとレベリングをしたければ辺境に戻れっていうか先に先に進もうとするんじゃなくてもっとこの世界を楽しめっていう運営からのメッセージなんだろうな。
ならばトレスの街に進もうというわけでドスの街のエリアボスに挑む。エリアボスはトレスの街に続く森の中にいるらしく受付のお姉さんに教えてもらった場所へ向かって歩くこと30分。少しひらけた森の中にプレイヤーの姿があった。どうやらボスの攻略の順番待ちをしているようだ。
俺が並んでいる間に森といえばのヴォードに採取を頼み、今回のボスの相性を考えてアルバセロを召喚して待つこと数分。俺の前のパーティーとおもわしき集団が光の中から現れた。この前のアップデートでボスとの戦闘を公開非公開を選択できるようになったせいだろう。何もないところから現れたように見えたのは。
さらに待ってようやく俺の番になる。ボスエリアに入ると公開非公開を聞かれ非公開を選択。先を急ぐので本気で相手をしよう。
ドスのエリアボスはキングカブトという巨大なカブトムシ。レベルは15とウノのエリアボスと比べると結構跳ね上がっているが今の俺からしてみれば格下になってしまう哀れな魔物である。
すぐにキングカブトが現れその巨体に見合った羽を大きく広げ威嚇してくるが痛痒にも感じない。女性なら嫌悪感を抱く人もいるかもしれないがね。
俺からしてみれば威嚇=隙である。ヴォートとアルバセロに自由に戦うように指示して俺も戦い始める。
幻創霊器ヴェルガンドで剣を二本実体化させて【獄炎】を纏わせる。身体強化を発動し、【瞬歩】で間合いを一気につめてマジックシールドを蹴ってキングカブトの上を取る。突然目の前から消えた俺を探して顔を振っているがそこに俺はいない。
【立体起動】と【曲芸】のサポートを受け上空で体を反転させてキングカブトの頭部と胸部の境目を目掛けて落下。そして境目に剣を突き立てて内部から燃やして腐食させる。
声にならない悲鳴をあげて無茶苦茶に首を振るキングカブトから飛びのいて態勢を立て直そうと思った時にはヴォートとアルバセロがそれぞれ左右の足をぶった切りバランスを崩したキングカブトが地に伏した。
「……完全にオーバーキルなんだよなぁ。」
格下相手とはいえ流石にボス相手にここまで一方的な展開になるとはな。倒れ伏したキングカブトの残った足を追撃ついでに捥いでいる2人の英霊を遠目で見ながらキングカブトの脳天を掴み【獄炎】を発動。完全に頭部を燃やし尽くしたところでアナウンスが流れた。
<ドスの街のエリアボス、キングカブトを討伐しました>
<トレスの街への移動が可能になりました>
<キングカブトの羽×2を獲得しました>
<キングカブトの角×1を獲得しました>
<キングカブトの外殻×1を獲得しました>
<職業アイテム:召喚結晶×5を獲得しました>
うーん、戦闘時間わずかに5分。あっという間にボス戦が終わってしまった。いつまでもここに残っていても仕方ないのでボスエリアを出てトレスに向かう。採取をしながら適当に魔物を倒して進むこと3時間。ようやく分厚い城壁に囲まれた街が姿を表した。
「ようこそ迷宮都市トレスへ。ギルドカードの提示をお願いします」
街に入る門のところにいた衛兵が言ったようにここは迷宮都市という大きな特徴を持っている。街の中心に未だ踏破されていない巨大な迷宮が存在しており、それを中心として街が出来たそうだ。
ここの攻略を専門にしているプレイヤーや住人もいるそうだが、未だに攻略されていないということは結構難しい迷宮なのかもしれないな。
迷宮に興味はあるがそれは後回し。とりあえず神殿の方にご挨拶してトレスへの転移を可能にする。そしてついでに英霊の調査だ。ここの神殿もやはりウノやドスと同じように6英雄を祀ってはいたが、それとは別にこの街の英雄たちも祀られていた。
よくあるように迷宮といえばスタンピードである。当然過去、このトレスでもスタンピードが発生した。その際に街をその身を賭して守った英雄たちをトレスの住民は今でも感謝して祀っているのである。
しかし、6英雄に加えてアークやレオーネ、さらにはルシファーがいる状態で英霊を召喚しても持て余すので今の所はパスだ。それにアークは七つの大罪の統率者と言っていた。おそらくあと6人は七つの大罪と関係した英霊がいるのだろう。そっちを先にコンプリートしたいのでここは我慢だな。
その日はそこで探索は終わりにしてウノに転移して適当に何か食べて屋敷でログアウト。
翌日、ログインしてすぐにトレスの街に飛ぶ。できれば現在のレベルのままで【槍鬼】の称号が取りたいのだが、何かいい獲物はいないだろうか?
冒険者ギルドでの聞き込みは芳しくなかった。やはり王都に近づくにつれて魔物の脅威は減ってゆき、さらにここは迷宮都市。実力者が流れてくるので周囲にさほど強力な魔物はいないそうだ。
ここにきて珍しく詰まった。いや、ここまでがうまく行き過ぎなのか。今日はログイン時間がそんなに取れないのでウノの屋敷に戻って久々に鍛錬でもするかな。
ガンガンガンガン!
キンキンキンキンキン!
ドゴーン!バン!
俺が手に入れた北区の屋敷ではとても貴族みたいな上流階級が住む平和な区画とは思えないほどの爆音と轟音、それから金属のぶつかる音が響いていた。
もちろん原因は俺にある。ログアウトするには時間を持て余しすぎたのでウノの屋敷に戻って庭でルシファーを除いた英霊全てを召喚して大乱闘を繰り広げているからだ。もちろん決闘機能を使っているので周囲に被害を及ぼすことはないし、死んでもすぐに蘇る残機無限モードで戦っているので実践さながらの殺し合いができる。
ゲーム内で約2時間、敵味方関係なく殺しあった結果、一番死んだのは俺だ。開始直後にクリスタと切り結んだところをヴォートにクリスタごと貫かれた。容赦ねぇな。
その後、俺の持ちうるスキルを完全にフル稼働させて戦ったにも関わらず、この2時間で18回は殺された。やはり召喚主は弱いのが定番なのか?
それにしても6英雄のお互いに対する殺意が高いこと高いこと。相手が誰であろうと容赦無く殺しに行ってるし、たとえ腕が捥げようがどんな状態になろうが死んでなければ戦うのである。
もちろんアークもレオーネも強いがそれでも6英雄同士の殺し合いには若干引いてたようだ。これがかつてこの世界を守るために戦った英雄達の戦争の仕方なのかと思うとその戦争の過酷さがいささか怖くなった。
それでもやはり彼らの主としてやられっぱなしではいけないと思い俺も奮闘した。それからさらに1時間経過し、ようやく全員を1回は殺すことができた。一番厄介だったのは意外にも自己回復をしてくるレオーネだったよ。
ちなみに全員を殺すまでにさらに12回殺された。みんな容赦なさすぎ。
そしてこの大乱闘を通じて初めて6英霊にあった時の言葉の意味を理解した。英霊は彼らの分霊と言っていた。今俺の目の前で戦っているのは6英霊本人であり本人ではない。
きっとここまで殺意溢れる戦い方をするのは彼らが生きた時代、戦い抜いた過去がそれほど凄惨だったからだ。その彼らの犠牲の上に今の新しい時代が営まれている。
6人の英雄達は俺に「どう導くか」と言った。きっと6英雄達だって平和な時代を生きたかったはずだ。争いなんて考えず友人とバカやって生きたかったはずだ。それを戦いで奪われたんだ。
だからなのだろう。こうして分霊を与えられるほどの力を得て望んだことは新しいこの時代を俺と共に生きることだった。だからこそ「守れ」とか「強くなれ」じゃなくてどう導くかって言ったんだ。
「ならば俺は声を大にして言おう。この世界には争いだけじゃなくてもっと楽しいことがたくさんあると。ならば俺はもっと世界を観に行こう。6英雄がその命を賭けて守った世界はこんなにも美しいものだと見せてあげよう。そして俺は誓おう。この世界を一緒に生きていくと。」
『はは、よく言ったぜ。期待してるぜ、桃』(フェルド)
『私は美味しいものが食べたいわ。そこのところよろしくね』(クリスタ)
『僕は故郷の森がどうなっているのか気になるかな。大変だと思うけど頑張ってね』(ヴォート)
『俺は今の生活も気に入ってるけどな!強いて言うならもっと世界を見てぇな。何も知らないで戦い三昧の日々だったからな』(アルバセロ)
『ふふ、やっぱり君を選んで正解だったよ。来訪者の中でただ一人ノルンが認めたんだから。僕はそうだな……生前は中途半端に終わった子供達の未来を今度はきちんと守りたい。』(ルーセント)
『私は掛け替えのない仲間を失い、その復讐のために戦った。私は友人の墓前に報告がしたい』(ヴィクティム)
はっきりと耳元で声が聞こえ慌てて振り返る。そこにはやはりと言うべきか、神殿で会った時のように6人の英雄神がそこにいた。思った通り、6英雄神は俺に与えた分霊を通じて俺のことを見ていたようだ。
「ヴィクティム様は以前アークの居たダンジョンでお会いしましたが、それ以外の皆様はお久しぶりです。」
『おう、久しぶりだな。ってかもうあのダンジョンに行ったのか?いや、そういや俺たちの分霊がアークと戦ってたな。』(フェルド)
『桃はレオーネと引き合わせ、アークの魂を救済した。』(ヴィクティム)
『へぇ、やるじゃない。アークもヴィクティムと同じような過去を持ってるけどいい方向に導いてちょうだいね』(クリスタ)
『けどよ、あの戦いもレオーネ頼み。今だって流石にやられすぎじゃねぇか?確認したけど30回は死んでるじゃねぇか。この先、桃が自分の道を進むのならもっと力をつけねぇと』(アルバセロ)
『それもそうですね。もうそろそろ次の段階に進んでもいいかもしれませんね』(ルーセント)
『登場した時は君の言葉が嬉しくて思わずみんな好きなこと言ってたけど、流石に僕たち神が一方的に要求を突きつけるわけにも行かないから、桃君に指標を授けよう。レベル40だ。ひとまずそこを目指すといいよ。』(ヴォート)
『さて、そろそろ時間か。桃、さっきの言葉、本当に嬉しかったぜ。俺たちは戦いの中で生きて戦いの中で死んだ。あの当時は力がないものは死ぬしかなかったんだ。俺たちには立ち向かう力があった。だから戦ったことに後悔はねぇ。けどよ、やっぱり今の平和な時代を観てるとよ、どうしても羨ましくなっちまうんだ。神とは言え俺たちも元は人間だからな。初めてだぜ、神になった俺たちに一緒に生きていこうって言った人間は。さっき言ったのは俺たちが果たせなかった願いだ。無理にとは言えねぇが覚えておいてくれ。おっと、もう本当に時間がねぇな。よし、いいかみんな』(フェルド)
『『『『『もちろん』』』』』
『『『『『『桃、汝の言葉は我らの心を惹きつけた。長きに渡り、孤独だった我らの心に光を当てた。我らが親愛なる来訪者桃。汝の道に光多からんこと。願わくば共に笑える未来を』』』』』』
目を覆うほどの眩しい閃光と共に6英雄の気配が消えた。動き出した時の中ではなぜか英霊の召喚が全て解除されており、決闘システムが終了していた。
そして堰を切ったよう流れ出すアナウンス。
「……確認は明日にしよ」
一向に鳴り止まないアナウンスをBGMに俺はベットに横たわってログアウトした。明日の俺、任せた。それじゃおやすみ。
アナウンスの内容がですね、途方もないことになりそうなので明日にしますね。
なのであとがきでは6英雄に関する裏設定をば
6英雄ってそれぞれに出自の違いはあれど実はみんな最初は戦いの中にいなかったんです。けど、彼らが生まれる前から外界から敵さんが人間を滅ぼさんとやってきて、人間はたちまち窮地に追い込まれ照るんです
その現状を知り、そして幸か不幸かある程度成長した6英雄はそれぞれに天賦の才があったんです。そのせいで次第に戦いに巻き込まれ、いつしかその外敵との戦いの中心になって、最後はその外敵の親玉を封印して死ぬんです。
その戦いの中で彼らはいろんな物を切り捨てて戦ってたんです。時には仲間を、家族を、友人を、恋人を。戦いの功績が認められ、死してのち神になっても元は人間。どうしてもやりきれない思いがあったんです。
そしてそれから何百年とすぎて、ようやく桃という神の分霊を召喚しても平気でかつ争いの真っ只中にいない人間に出会うのです。
それでようやく彼らの止まっていた時が動き始めるのです。桃との旅は彼らが切り捨ててきた物を取り戻す旅であり、歩めなかった人生を歩む物語でもあるのです




