第18話 憤怒の酒場
前回のあらすじ
ドスの街を歩きます
ダンジョンに行きます
聖女様を召喚します
憤怒の酒場に扉を開けて中に入る。外からみればそれはいたって普通の酒場であるはずなのに、入ってみると中はとてつもなく広かった。
その様子を端的に表そう。ゾンビのゾンビによるゾンビのための酒場と言った様子であった。テーブルカウンターを問わずゾンビが大量に座っており、ゾンビのバーテンダーがシェイカーを振っている。
「さて、出会ってすぐのことではありますが、それではみなさんさようなら。」
扉を開けたことで一気に俺に視線が集中する中、ちょっと気障ったらしく挨拶をして【魔力操作】で範囲と威力をマシマシにしたライトニングピラーを発動。あっという間に広がった光の柱は次から次へとゾンビたちを飲み込み、魔法が消えた時にはフロアにうんざりするほどいたゾンビの姿は全て消え去っていた。
『な!?』
「あぁ、驚いたか?これが俺の戦い方なんだ。通用するかどうかちょっと不安だったけど万が一の時はこれで十分対処できそうだ。レオーネは多分いるであろうそのあの人とやらのために力を温存しておいて欲しい。道中は俺がなんとかする。」
『……わかりました。』
どこか遠い目をしたレオーネと共に敵を全て倒したことで現れた階段を降って2階に降りる。そういえば【魔力操作】と【光魔法】のレベルが上がった。使った回数じゃなくて総ダメージ量か討伐数で成長するのか?まぁ、わからんし検証する気もない。成長するならばそれでよしとしようじゃないか。
2階はどうやらスケルトンのクラブのようだった。何が悲しくて踊り狂う骸骨を見なければならないのだろうかと悲しくなりながら、骨には物理的な方がいいだろうと思い、土魔術のボール、ランス、それから水魔術のボールとランスをそれぞれクールタイムを調整しながら2〜3体ずつまとめてぶちかまして消滅させる。
無双のガンゲーしてるみたいで久々に胸が踊ったね。調子に乗って壁走りとかやってしまったよ。ちょうど無属性魔術にマジックシールドなる魔術があって、それが足場にできたから遊び過ぎてしまった。
「うーん、鈍ったな。オールヘッショ狙いだったのにいくつか逃したか。鍛え直さないとな。」
『ソウデスネ』
なぜか片言のレオーネと一緒に3階に降りる。酒場、クラブときたら次はなんだ?
「……これはないな。」
なんとその次の階はレイスとかゴーストとか呼ばれるファンタジーアンデッドのキャバクラでした。なぜキャバクラってわかったかって?生きてる人が着たら色気ムンムンの露出の激しいえちいドレスが、ドレスだけでそこかしこに浮いてるんだもん!
それを見るなり全MPを注ぎ込んだ火属性と風属性のボールを同時に叩き込んだ俺は悪くないと思う。マジで誰得なんでしょうか?
こんな気色の悪い階をさっさと終わらせて次の階に向かう。今度こそ多少まともであって欲しい。
階段を降りると……
「「「「「「いらっしゃいませ」」」」」」
紳士服に身を包んだ顔色の青白いいかにも不健康そうな奴らが俺たちを出迎えた。
「当店、吸血鬼の夜をご利用いただきありがとうございます。お代はあなた方の命で頂戴いたします」
その中の1人の他のモブっぽい紳士とは別の一番豪華な執事服を着た吸血鬼がそういうと周りにいたモブ吸血鬼たちが一斉に襲いかかってきた。
それをダークピラーを変形させて縦じゃなくて横に展開することでダメージは薄いが大きく弾き飛ばすことに成功。ここの吸血鬼は中々強くて、近接格闘に魔術と結構オーソドックスな強さを持っているのに加えて集団で挑んでくるので魔術以外のスキルのいい練習となった。
無数のモブ吸血鬼が一斉に四方八方から襲いかかってくるので【見切り】と【体術】それから各種察知系をフルに使って躱す、避ける、躱す、避ける。纏まってきたところにダークピラーを叩き込んで全てを弾き飛ばす。
しかしさすがは吸血鬼。自分の属性である闇属性の魔法など大したダメージにならないのだろう。すぐに傷を癒して再び攻撃を仕掛けてくる。闇縛りなんだけどどうしようかな。今までは魔術や魔法をぶっぱなしてればどうにでもなったけどこうなると少し厳しいな。
「もう少し戦い方を変える必要があるか。おっと」
考え事をしていたら危うく攻撃が擦りそうになったのでマジックシールドを使って上空に逃げる。
「そういえば横に打てるなら下にも打てるよな?」
ここダンジョンの壁は俺のマシマシ魔術でも傷一つ付かない超頑丈素材。それすなわち、地面こそ最強の武器なり。
間抜けなツラして俺を下から見上げてる吸血鬼どもに下向きにダークピラーを食らわせる。吸血鬼たちはお前のその魔法は通用しないとばかりに嘲笑して避けようとしない。残念ながらそれがアホな吸血鬼たちの命を刈り取る要因となった。
ピラー系の魔法の特徴は普通に放てば下から上へ弾き飛ばすように多段階にダメージを与える。それを下向きに放てば、当然地面に向かって弾き飛ばすような連続ダメージが発生する。硬い地面に連続で頭部を打ち付けられればいくら吸血鬼といえども生き残ることは不可能。
勘のいい若干数体の吸血鬼を残して全てポリゴンへと変わっていった。
「ここはこう言うべきだろうよ!君のように勘のいいガキは嫌いだよ(イケボ)」
まぁ相手はガキどころか俺より年上であろうモブ吸血鬼だけどな!
さて、残った吸血鬼をどうするか。それとさっきから唖然とした表情で俺を見ているここの店主(仮)も。あ、いいこと思いついた。
俺は土魔術でボールを作成。魔力を硬さに特化してつぎ込む。そして何事かと身構えひとかたまりになっているモブ吸血鬼目掛けて発射する。その動力はダークピラー。名付けてピラー砲だ。
普通の土魔術よりもはるかに勢いのある巨岩の弾丸が吸血鬼たちをまとめてなぎ倒す。抵抗なんて一切無用の魔法で物理だ。ひとかたまりになっていたのが災いし、残る吸血鬼は店主(仮)だけになった。
「おのれ、おのれ、おのれ!!!もう貴様ら許さんぞ!この私自ら貴様らをこの世から消してやる!」
『桃様、ここはよろしければ私に』
これまでずっと見るだけだったレオーネが珍しく戦うと宣言してきた。別に止める必要もないか。
「あぁ、いいぜ。俺は魔力回復に努めるからあとよろしくな」
『かしこまりました。あなたに恨みはないけれど、安らかに眠って頂戴。聖櫃』
レオーネが魔術を使う。店主(仮)はその鋭い爪でレオーネを切り裂かんとするがレオーネの魔術が店主(仮)を閉じ込めた。
「ぐわああああああ!!!な、なんなんだこの魔術は!」
『これはあなたたち魔に属する者がもつ闇の魔力を分解する光の棺。安らかに眠ってください』
レオーネの魔術に囚われた店主(仮)は身体中をそのまま分解されているようだ。結構えぐい魔術だな。最後にレオーネがぎゅっと手を握ると魔術が収縮し弾けて消えた。そしてそこに店主(仮)の姿はなかった。
「圧勝だな。」
『えぇ、これくらいは。大したことではありません。先を急ぎましょう。彼の魔力を近くに感じます。』
「わかった。俺の魔力も全快した。先を急ごう」
5階への階段を降りる。階段を降り切った瞬間に猛烈に【危機察知】が反応し始める。そんなのなくてもすぐにわかった。これはやばい。フロア全体に怒りと殺気が満ちてドス黒い瘴気となって渦巻いている。
そのフロアの中心に瘴気が集まっていき、徐々に人型を形成する。人型が出来上がっていくと同時にこの身を押しつぶさんばかりのプレッシャーも強くなっている。
『やっぱり……アークなのね』
瘴気が形成した人型がようやく見れる形になった。背は俺より低く目立つのは色鮮やかな金髪。額には瘴気でできた文様が色濃く浮かんでいる。その瞳は黒く染まっており、怒りと憎悪に燃えている。引き締まった肉体を瘴気の衣で覆い、その手には片刃の剣が握られている。
はっきりいってこれまで戦ってきたどの相手よりも怖い。とんでもない威圧感だ。どうにかなるレベルではない気がする。
「レオーネ、これ勝てるのか?」
『下賎な人間が俺に勝つなどとおこがましい。俺はアーク<七つの大罪>の統率者だ』
『やめてアーク!私よ!レオーネよ!』
『……レオーネ?知らんな』
『くっ!やっぱり記憶を失ってしまってるのね。桃様!今から私の全ての力でアークを浄化します!時間を稼いていただけますか?』
「このバケモン相手にどこまでやれるかわかんねぇけど。まぁ、任せろ」
『ふん、その程度の力でこの俺の前に立つと言うのか人間よ。その不遜、その身で償わせてやる。せいぜいこの俺を楽しませてみろ』
こうして俺とレオーネVSアークの死闘が幕を開けた。
裏設定
レオーネ:亡国の姫、アークの恋人、天使の力をもつ人間
アーク:レオーネの国の騎士団長、レオーネの恋人、魔神族
約束:人よりはるかに長い寿命をもつアークに私が死んでも思い出の場所を守ってほしい、国を守って欲しいと言われる。