第3回イベント結末
ちょっと長めですがキリのいいところまで
後書きにお知らせがあります。
『私たちを本気にさせたこと、後悔しながら死になさい。』
『抵抗しなければ一瞬で殺して差し上げましょう。抵抗すれば死が救済となるほどまで嬲って差し上げます。』
原始回帰が完了し、本来の姿を取り戻したルイーダとルザミーネ。その圧はこれまで出会ったどの敵よりも凶大だ。もし、俺が【神への挑戦】で師匠と戦っていなかれば怖気付いたかもしれない。
「ようやく原始回帰とかいうのを使ったか。多少はマシになったか?まぁ、1が2になった程度じゃ誤差だけどな。最近はろくな奴がいなかったんだ。ちょっとは楽しませてくれよ!」
スタンは原始回帰した2人を見ても一切動じることはない。むしろ口角を邪悪に歪ませ相手が強くなったことを心のそこから喜んでいる。
「おい、雑魚ども。こいつらは俺の獲物だ。邪魔すんじゃねぇぞ!」
『あら、そうやって味方を遠ざけて守ろうとする。いわゆるツンデレって奴ですか?』
ルザミーネがそんなことはわかっているぞと得意げなしたり顔でなんか言っている。
「はぁ?」
『でも無駄ですよ?この城前広場には強力な結界が貼られていますし、第一・・・』
キレ気味に聞き返したスタンを無視して話を続けるルザミーネ。その頭上に先ほどとは比較にならないほど増量された氷の槍が出現した。
『原始回帰した私の魔法は最下級のスキルでも超広範囲殲滅魔法になるのですから。あなた1人では守り切れるものではありませんよ。掃射。』
ルザミーネが手を振り下ろすと同時に城前広場に氷の槍が降り注いだ。超広範囲殲滅と自分で言うだけあって確かにこの広場に逃げ場なんてないほど氷の槍で埋め尽くされている。
「なんか勘違いしてねぇか?ここにいる雑魚どもは所詮死んでも生き返る肉壁にすぎねぇんだよ。誰が蘇るやつを好き好んで守るって言うんだよ。」
残念ながらルザミーネの言葉は大外れだ。この男は徹底した合理主義。レオンからも聞いていたが俺たち来訪者はつゆ払いと同時に肉壁の役割も担っている。壁になることが仕事の俺たちをスタンが庇うはずもない。
スタンは自分に当たりそうな奴だけを対処している。こちらをチラリと見ることすらしない。そこかしこで圧に屈して身動きが出来ていなかった来訪者の断末魔が聞こえるが無視だ無視。むしろここまでほとんど苦労してないんだからそれぐらいは対処しろ。
「あいにくだが、俺たちもスタンに守られなきゃいけないほど弱くはない。ルザミーネのおかげで周囲の目も減ったことだし、俺も少しばかり本気を出そう。」
俺は改めてフェルド、ルキナ、フィニクス、リシュリーを召喚。俺が誇る火属性の英霊達だ。一瞬にして俺の周囲の温度は急上昇。氷の槍は俺に届く前に蒸発して消えた。
『くっ!まさかあの召喚老もあろう男か作戦に同行した仲間を見捨てるなんて。』
「仲間?寝言は寝てから言え。こいつらはレオンに押し付けられただけだ。仲間でもなんでもねぇ。桃、動くのは勝手だが俺の邪魔したら貴様から叩っ斬る。」
「そっちこそ俺の・・・俺たちの邪魔するんじゃねぇぞ。」
「誰に向かって言ってやがる。テメェにはもう一度上下関係ってのを叩き込まねぇとだめみたいだな。こいつらさっさと片付けたら次はお前の番だ。」
『私たちを無視してんじゃないよ!』
音を置き去りにしたルイーダがスタンの首を切り裂かんと迫る。
『付与・物理攻撃極大強化・範囲極大効果・防御貫通』
まさに阿吽の呼吸でルザミーネがルイーダにバフをかける。このバフの速度と効果は俺を上回っているな。支援職が本職ではないとはいえ負けるのは癪だ。練習するか。
「無視されるほど弱いのが悪いんだろ?不意を突くなら声を出すのは論外。ましてや正面から向かってくるとか舐めてんのか?龍風暴風壁。」
スタンは冷静に暴風の壁を発動。この防壁、ゲフリーレンが展開していた攻撃を弾くようなタイプではなく速度を落とすことに重点が置かれているようだ。さらに触れたものを片っ端から切り刻む風の刃付き。
『こんな風の壁なんかで私が止められるわけないだろ!』
知らずに防壁に突っ込むルイーダ。うわぁ、風が血で赤く染まっているよ。しかも原始回帰してるからなまじ丈夫だからそれで死ぬこともなく、再生が間に合わずボロボロで自慢の速度が落とされた状態でスタンの目の前に放り出された。体勢が崩れているとのおまけ付きで。
「雑魚が」
スタンはそんなまな板の上の鯉状態のルイーダに躊躇なく剣を振り下ろした。ルイーダは咄嗟に体をひねり致命傷こそ免れたものの、右の翼を失った。
『お姉ちゃん!』
それを見たルザミーネが叫んだ。
「よそ見する余裕があるのか?」
ルイーダに意識を奪われたルザミーネ。その隙を見逃すほど俺たちは甘くない。俺だけじゃなくレイや白、勇者君もこれ幸いとばかりにルザミーネに攻撃を仕掛けた。
『邪魔しないで!』
しかし俺たちの攻撃は天使を模した翼で全て防がれた。やはり一筋縄では行かないか。
『ちょろちょろと目障りね!消えなさい!氷極光大爆発』
攻撃を防がれた俺たちに超至近距離から極大魔法が放たれる。火属性の英霊を召喚しているとはいえ流石にこれはきついかもしれない。
「召喚・覇氷操神クリスタ!」
咄嗟に俺はクリスタを召喚する。
『やっと私の出番ね?いきなりピンチかしら?仕方ないわねえぇ【テイム】』
第五階級へと進化を果たしたクリスタは純粋な強化に加え、テイムが強化された。これまでは普通に魔物が対象だったが、ご覧の通り、相性のいい魔法が相手ならテイムして自分の支配下に置くことができる。本人(本英霊)の話によれば最盛期の力でも相殺は容易でも乗っ取るのはそれなりに難しいとのこと。テイムの方が遥かに簡単に魔法を乗っ取れるので今の方が好みだそうだ。
そんなクリスタがルザミーネの魔法をあっさりと支配下においた。
『うーん、なんか無駄に派手なだけで結局は絶対零度の凍気をぶつけるだけの魔法ねぇ。魔力の割に威力はしょぼいしコスパ低いわね。絶対零度を扱うのならせめてこれぐらいはしてくださいな?無限氷獄』
クリスタはルザミーネの魔法を即座に解析、そして一瞬で改良してお返しとばかりにルザミーネに放った。
『一体なんなのよ!』
ルザミーネは反応は出来たものの本来は後衛で支援職。身のこなしは割と常識の範囲内なのでクリスタの魔法展開速度からは逃れることができなかった。一瞬で構築された絶対零度を保ち続ける氷で出来た監獄。その中にルザミーネは捉えられ凍りついた。
『ルザミーネ!』
妹がやられたのを気配でわかったのだろう。スタンを相手にしていたはずのルイーダがこちらを振り向いた。スタンと戦っているのにそんなことをしたら結果は明白。もの見事に切り刻まれた。魔力というか装甲を急所に集めたからかそこだけは辛うじて無事。しかし翼は両方とも断ち切られ、両足と右腕はすでに無い。満身創痍だ。
「お前ら本当に六魔将か?あまりにもお粗末すぎる。これと同格相手にアイツらが神器解放まで使うはずがねぇ。なんか隠してんのなら早く出しやがれ。」
『もはや・・・これまで、ね。仕方ないわ。ルドモ・ガタス・リデフタ・ツヒト』
息も絶え絶えなルイーダが呪文を唱えるとルイーダの姿が光の粒子へと変わった。そして同じような光の粒子がルザミーネを閉じ込めたはずの氷獄からも飛び出してきて混ざり合った。
その光は次第に人の形となって弾けた。
『『私の名は天魔サーガ。我が前にひれ伏すがいい。』』
現れたそいつは尋常ではない威圧感を放っていた。その動作、言葉の1つ1つに強力な魔力が込められているため、ひれ伏せと言われただけで思わず膝を屈してしまいそうになる。造形はまさにあの2人を足して2で割ったような整った、しかし不気味さを感じさせる風貌。最大の特徴は天使とも悪魔とも似ていない灰色になった翼だ。
この敵はかなりやばい。五感がそう訴えている。スタンも表情から笑みが消え下がって剣を構えている。
「なるほど、2人で1つか。通りで雑魚だったはずだ。これならアイツらが神器を使わされるのもわかる。神器解放。暴風の意思は我が手にあり、解き放て!暴風剣ウラカーン!動けるものだけ聞け。こいつとの戦いで長期戦は無理だ。一撃に全てを賭けろ。」
『『私からの慈悲だ。一瞬で終わらせてやろう。【虚砲驟雨】』』
サーガと名乗った集合体の頭上に無数の魔法が展開される。込めらた魔力は1つ1つが広範囲殲滅魔法級。かすってもHP全損は免れないだろう。
「これは!消滅の力を帯びているのか!」
「あぁ、だからこそ1撃だ。それ以上は神器でも保たない。」
スタンはこれを俺より早く見抜いていたのか。さすがは召喚老、経験が違う。
「俺様の神器で道を切り開く。この俺様がお膳立てしてやるんだ。しくじるんじゃねぇぞ。」
スタンの一言で来訪者達の顔が引き締まった。思えばこのイベントでは俺たち以外の来訪者は一ミリもいいところがなかった。ダンジョンの攻略には出遅れ、ボスは俺たちが独占。その後、ルイーダとルザミーネの登場シーンで吹き飛ばされ、原始回帰されて戦意喪失。さらにサーガとなった2人を前にただただ跪くのみ。あの苦しい予選を勝ち抜いてようやく掴んだ上位イベントなのに蓋を開けてみれば極悪難易度で自分の無力さを痛感したことだろう。
それがここに来て、最後の最後でイベントのラスボスっぽいやつに攻撃できるとあっては奮い立つだろう。ちなみになんだかんだやられ役っぽくなってはいるものの、ほとんど死に戻りしていないあたり流石の実力と言ってもいいかもしれない。
『『ふふ、相談は終わりですか?それでは、さようなら』』
虚砲驟雨が放たれた。
「覇龍風剣流奥義・断空叢雲彗星刃」
それを迎え撃つようにスタンが奥義を放つ。一振りで100を超える斬撃が飛び出し、空間そのものを切り裂いてサーガの放つ魔法を相殺してゆく。
サーガにこそ届かないがそれでもサーガへの攻撃を邪魔する消滅の力を帯びた魔法は全て消え去った。
「今!覇聖炎神の魔纏・弍ノ型・覇聖炎神式合技・【我が力の根源たる炎剣は万象一切を灰燼に帰す】」(桃)
「光闇流剣術秘奥義・聖魔ノ剣・コールオールレギオン」(レイ)
「七星武流奥義・天墜地断」(白)
「輝け勇者の証!スターライトエクスティンクション!」(勇者君)
以下略
来訪者の一斉攻撃がサーガの突き刺さる。1人1人の攻撃力は小さくても束ねれば強力なものになる。サーガは1人で圧倒的な攻撃力を持つスタンの相手で精一杯でこちらまで手が回らずダメージをもろに受けている。
『『くっ!』』
ついにサーガの許容できるダメージ量を超えたのだろう。スタンの攻撃の迎撃に当てていた分の魔力を回復に回した。そんなことをすればスタンが勢いづくだけだがどうしようも無いだろう。
俺たちの攻撃にスタンの攻撃まで加わりサーガの回復速度を攻撃速度が優に上回った。HPを削りに削られ、魔力も消耗しきったサーガが地面に落ちる。
「これで終わりだ。」
スタンが止めとばかりに首を落とそうとした瞬間だった。サーガの体が突然トランプへと変化した。
『やれやれ、結局ここもこうなりましたか。念の為来といて正解でしたね。』
「この声はレジナルド!」
『おや?あなたこっちに居たんですね。向こうに居なかったから不参加かと思いました。本来なら即座に殺して差し上げたいですが今日は忙しいのでこれにて』
それはこちらのセリフだと言いたいところだが、【極界】にレジナルドらしき気配はない。声だけ魔法かスキルで飛ばしてるようだ。
「・・・」
スタンはただトランプを凝視するだけで何も言わなかった。
<お知らせします。イベントダンジョン【凍てつく帝都】が完全攻略されました>
<イベントダンジョンの攻略に伴い、第3回ワールドイベントが全て終了となります>
アナウンスが流れた。どうやらこれでイベントは終了のようだ。
それから数日が経過した。今回のイベントは召喚老の依頼という形でスタートしたのでその事後処理があり褒賞授受という名前の結果発表が遅れていた。
あのあと、ダンジョンは消滅し帝都は元の形を取り戻した。帝国の重要人物も隠し通路で逃げ延びて山に隠れていたところを召喚院が発見。無事保護された。ダンジョン化していた帝都だが、ダンジョン化が解除されると元通りに戻った。住民もそこに復活しておりダンジョン化されていた時の記憶がないぐらいですでに日常を取り戻している。
六魔将を全て取り逃した以外は全て解決した。ここから先は召喚院の仕事ということで俺たち来訪者組の表彰となった。
レオンが中心となっている式典ということでまぁまぁ退屈だった。ちなみに俺とレイはもちろん廃人イベントMVPだ。これで3回連続MVP獲得だ。レイは正式に召喚院のメンバーに。俺は英霊を進化させられる特殊な素材等々召喚騎士としてさらにパワーアップできる賞品を貰った。
これにてイベントは終了。さて次はどんな冒険が待っているかな。
お知らせ
・ここまで駆け抜けて来ましたが、見直しや訂正等大幅工事を実施予定
・更新の一時停止
・代わりではありませんが新作に着手予定
しばらくこれでお別れです。応援ありがとうございました。