ダンジョンボスー2
2人の魔法によって巻き起こった土煙が晴れる。同時にかなり無茶して発動した魔法の反動で行動不能になっていたがそれも解除された。所々に深刻なダメージがあるので俺は【聖炎】を使って回復。レイはレイでポーションを飲んでほぼ空になったMPを回復していた。
ちなみにレイが飲んでいるMPポーションは俺が【錬金術】の練習がてら作り出した大量生産品。時間さえあればほぼ無限にMPを回復する俺にとっては不要だが、他のプレイヤーからすれば必需品。高品質なものはそれなりの値段がするようだが、俺が片手間に作った方が回復量が多いとレイが言っていた。
閑話休題
予想通りと言うべきかゲフリーレンは溶岩地獄に叩き落とした時よりもさらにダメージを負っていた。敵を寄せ付けない吹雪の暴風壁はリザードマン召喚との同時発動は出来ないのか直接その身に俺とレイの攻撃を受けたようだ。その身を守る鉄壁の竜鱗はダメージを受けていないところを探す方が難しいほどである。
予想通りではあるが想定以上のダメージを与えられたようだ。このまま押し切れるか?これまで俺たちは吹雪による暴風壁があったから直接攻撃を避け魔法で攻撃していた。その壁が無くなったのなら近接物理の方がDPSを稼げる。
ゲフリーレンはいまだにダメージの影響で壁は展開されていない。さらに軽くふらついていて高度も維持できていないし、焦点もあっていない。畳みかけるならここしかない!
俺とレイはほぼ同時に駆け出した。2人とも素のステータスは十分に高いし、それに加えて身体強化もそれぞれの方法で発動しているので距離なんてあっという間に縮まる。
「光剣流奥義・千本桜」
「付与・獄炎、抜刀一の太刀」
レイは以前憤怒の酒場で憤怒の影に対して使った一振りで千の斬撃が飛ぶスキルを、俺は【千桜華】に獄炎を付与。そして最も速さと威力のある抜刀術に【暴風領域】で足を踏み入れてから研鑽を積んだ一の太刀を掛け合わせた俺だけの最小最速の技で攻撃を仕掛ける。
どちらの攻撃も並の相手なら余裕でオーバーキルできるだけの威力はある。俺たちに油断はなかった。攻撃しようとした瞬間に致死性の攻撃が飛んでくるなんて他のゲームで嫌になる程体験している。
人間は攻撃する時が一番無防備になると言われているが断言しよう。この時は確実に決まると思った。
しかし防がれた。ここまで来るときに何体かフロストドラゴンを狩っている。そいつらとゲフリーレンの強さを比較すると約10倍ほどだろう。単純に竜鱗の強度が10倍になったと仮定しても十分に切り裂けるはず、そう思っていたのに防がれた。
硬い感触とキンと甲高い音、そして弾かれたことで少し体勢が崩れたのでこれ以上は危険と判断して弾かれた勢いそのままに離脱する。レイも即座に距離を取ったようだ。
何が起こったのかとゲフリーレンを見てみるとライトブルーだった竜鱗が変化していた。今ゲフリーレンの体躯の色は雪のように真っ白だ。いや、ようにではなく本当に雪の鎧をその身に纏ったようだ。
普通の雪の鎧程度なら俺とレイの攻撃を防げるはずもない。おそらくあの吹雪の暴風壁と同じ性質を帯びた雪だ。それがさらにゲフリーレン自身の魔力で強化されているのだろう。どうりで俺たちの攻撃が弾かれるわけだ。
「うーん、どうしようか?空中戦じゃ無くなったのはいいけどあの防御力だと通常攻撃はまるで通用しないんじゃないかな?ボクの奥義も弾かれたし、割と打つ手なし?」
「そうだな、このままじゃちとキツイな。さっきみたいに大技を撃たしてもらえるような隙も今回はなさそうだしな。」
そう、このゲフリーレン第3形態が厄介なのは高度は落ちたものの機動性能は落ちていないことだ。しかもこれまでの第1第2と比べると攻撃性が増している。今の会話もゲフリーレンの突進を躱しながらだ。
さらにタチが悪いのが突然上空まで飛び上がったかと思うとブレスを放ってくる。しかも広範囲ブレスでではなく、威力と速度を重視した圧縮された線のブレス。これが厄介。俺のマジックシールドですら紙だ。少しかすっただけで身体強化した俺ですら5割持っていかれた。
このままじゃジリ貧だな。仕方ない。使いたくはなかったけど温存しすぎてここで死んでは意味がない。本当はPvPまで取っておきたかったけど少し早めのお披露目といこうか。
「フェルド、頼んだ」
『おうよ!いいかげん待ちくたびれたぜ!』
全身から闘気を迸らせ飛び出してきたのはフェルドだ。しかし、以前よりもその存在感が増している。
そう、フェルドだけでなく六英雄神たちはあの師匠との激闘【神への挑戦】を経て第五階級へと進化を果たした。この進化が【神への挑戦】の1つ目の報酬だ。
そしてフェルドたちの第五階級への進化と共に召喚騎士としての職業スキルが1つ開放された。それが【英霊魔纏】だ。おそらく条件は召喚騎士であること、【魔纏】スキルを持っていることだと思う。他にも条件はあると思うが最低でもこの2つは確定だろう。
「フェルド、呼び出したばかりで悪いが纏うぞ」
『お!ついに実践デビューだな!任せろ!』
「行くぞ!覇聖炎神の魔纏・壱ノ型・輝焔紅剣!」
直後フェルドの姿が光の粒子へと変化する。光は次第に姿を変え、やがて剣の型となって俺の手に収まった。剣からはフェルドの力をひしひしと感じることができる。
これが新しい俺の力。英霊の力をそのまま武器にして戦うことができる。英霊のHP=武器の耐久度ということでそう簡単には壊れないし、その属性の魔法系スキルの発動媒体としても世界最高峰。そして英霊のスキルや技をそのまま受け継ぐこともできる非常に強力なスキルだ。
ゲフリーレンも俺の剣の異常さに気がついたのだろう。それまで俺が何かしていると気がついて囮をしてくれいてたレイから一瞬でターゲットが俺に移った。レイは致命傷こそ避けているが回復する余裕がなかったのかHPがレッドゾーンだ。あれだけの猛攻を避け続けていたんだ、精神的にも疲労しているだろう。少し休んでて欲しい。
「さて、この剣を使い始めてから初めての大物だ。試し切りもしたいからそう簡単に死ぬんじゃねぇぞ?」
剣を掲げてゲフリーレンを挑発する。こちらの言葉を理解しているか微妙だが挑発されていることだけはわかったのか完全にレイに見切りを付けてこちらへ突撃してきた。
今までは大きく躱すだけしか出来なかったが今は違う。最小のステップで横に回避するとそのまま雪と化したその体へと剣を振るう。
ザシュという鱗どころか肉を断つ感触。同時に肉の焦げる匂いがする。これは輝焔紅剣の追加効果だな。剣自体が非常に高い熱を帯びているため斬ったところが燃える。なので出血しないという仕組みだ。まぁ、炎系の剣ならよくある設定だな。
それはともかく、この剣ならゲフリーレンを斬れることがわかった。ならば今度はこっちが攻める番だな。
この剣には使用者の身体能力を底上げする効果もある。今まで以上に引き上げられた速度でゲフリーレンに迫る。レイもさっきのダメージから回復して俺の後に続いている。ここが勝負どころとわかっているのか俺の後ろにピッタリとついてきている。高速移動系のスキルでも使ったのか?
これまで剣で攻撃できなかったフラストレーションをぶつけるように斬りまくる。これまでは吹雪の暴風壁とリザードマン、さらには斬れない鱗があったから近寄れなかった分ダメージを受けていた。
しかし近づいて仕舞えばこっちのもの。東洋龍は言ってしまえば蛇の進化系。顔が届かないところに来さえすれば気をつけなければならないのは巻き付きと尻尾ぐらい。そこさえ気をつけていればあとはただのデカイ的だ。
何度か攻撃していてわかったことだが、俺の斬った傷口ならレイの攻撃が通るようだ。
「なら話は簡単だ。こいつを切り刻んでしまえばいい。【幻炎】からの一斉に【斬牢】名付けて【無限斬牢】」
【幻炎】は1つだけスキルを使える分身を作り出すスキル。その効果の通り、1つスキルを使ってしまうと消滅するが裏を返せばスキルを使わない限り消滅しない。ただし時間制限やダメージを受けたら消滅する。
多少攻撃力は落ちても俺のコピーはコピー。本体の俺がマジックシールドを展開してしまえばあとはそこを足場に飛び回るだけだ。
「桃ばっかりにいい格好させないよ!ボクだってあれだけじゃないんだから!光闇流剣術奥義・黒白ノ斬線!」
レイはレイで今まで見せたことのない技を使ってゲフリーレンにダメージを与えている。パッと見たところ光属性と闇属性の2つの相反する属性を剣に纏わせてその反発力で威力を強化しているようだ。光属性単体の時よりもダメージを与えられている。
しばしの間ほぼ一方的に攻撃を仕掛ける。時折ブレスによる反撃があるが、顔を向けてくるので避けるのは簡単だ。このまま押し切れればとそんなことを思ったのがいけないのだろう。
突如として膨れ上がった魔力で俺とレイは強制的に弾き飛ばされた。一度距離が開いてしまうと再び接近するのは時間がかかる。向こうも馬鹿じゃないので接近されるとまずいことぐらいはわかっているだろう。
なので俺たちは無理には近づかず弾き飛ばされたところで様子見に徹する。間違いない、これから起きることが最後の攻防になる。
ゲフリーレンは雪へと変化させていた鱗を全て元に戻した。元に戻ったゲフリーレンだが、最初の美しさはどこにもない。全身切り刻まれてボロボロだ。しかしその目にはいまだ闘志が宿っている。甘く見てはいけない相手だ。
不意にそれまで止んでいた風が俺の頬を撫でた。その風は最初の頃のようにゲフリーレンに向かって収束していくが、その規模が最初とは比べ物にならないほど巨大化していく。
やがてその風はゲフリーレンを中心とした巨大な吹雪の竜巻となった。その吸引力は少しでも油断すると持っていかれるレベル。かなりの強度を持つはずのダンジョンの床と壁が削れていることからも竜巻の威力がわかる。
あれに巻き込まれたら間違いなく即死だ。しかしその吸引力は時間を追うごとに強くなっている。幸いゲフリーレンはその竜巻の中央にいるので竜巻さえどうにかなれば倒せるはずだ。
「仕方ない。この一撃に全てを賭けるか。フェルド!」
『あいよ!』
俺はここでフェルドの魔纏を解除する。レイはレイで大技を繰り出すために集中力を高めている。
「覇聖炎神の魔纏・弍ノ型・覇聖炎神式合技・【我が力の根源たる炎剣は万象一切を灰燼に帰す】」
俺とフェルドの魔力が融合し、上空でとんでもない大きさの炎の剣を作り出す。その大きさはゲフリーレンの生み出した竜巻を優に上回る大きさだ。
「光闇流剣術秘奥義・聖魔ノ剣・コールオールレギオン」
俺の準備が整うと同時にレイの準備も整ったようだ。レイの技は完全に見たことがない技。今の俺でもその本質は理解できない。わかるのは少なくとも俺に匹敵するぐらいの威力はあるってことだ。
「「行くぜ(よ)!」」
2人の声が重なる。タイミングはばっちり。お互いにニヤッと笑って剣を振り下ろした。
俺たちの魔法が竜巻ごとゲフリーレンを切り裂かんと迫る。ゲフリーレンも黙ってやられるわけもなく竜巻の密度と速度をあげて対抗する。
「「うおおおおおおおおお!!!」」
負けじと俺たちもありったけの魔力を注ぎ込んで魔法を維持する。わかっているここで開けたら確実に死ぬと。
ここまでダメージこそ負ったものの、ちゃんと回復していた俺たちに対してゲフリーレンは回復できていない。その差が命運を分けたのだろう。
俺たちの魔法がゲフリーレンの竜巻を上回った。俺とレイの剣は巨大な竜巻を真っ二つに切り裂き、そのままの勢いでゲフリーレンに直撃。切り裂くことこそできなかったものの、ゲフリーレンは深い傷を受けさらに壁に激突。
一回ふらふらと浮かび上がったものの、どしゃっと地面に落下してからそのまま起き上がることはなかった。
それで勝負あり。この戦い、俺たちの勝ちだ。




