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召喚騎士様は我が道を行く  作者: ガーネット
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最強の召喚騎士とは


 レオンとミーナがそれぞれ六魔将と戦い始めた頃、アリーシャ召喚院があるブレイバー帝国にも動きがあった。


 彼は幼馴染であり、共に幾多の戦場を駆け抜けた盟友であるレオンから今回の作戦のことを聞いていた。通常だとこの世界での作戦で彼に声がかかることはもはや無かった。それなのに今回は声が掛かったということはそれだけ事態が逼迫しているということだ。それを彼も十分に理解していた。


 彼は先に落とされたとされるアミレスト帝国へと思いを馳せる。過去、何度か彼ら帝国軍と戦線を共にした。時には敵対したこともあったが共に戦えば心強く、敵にすれば厄介だった。特に帝国で今は軍師兼宰相を務める男は剣の腕も軍略も政治手腕もどれをとっても超一流で、作戦の裏をかかれ苦渋を舐めさせられた記憶もある。


 そんな男が率いる帝国軍が奇襲とはいえそう簡単に負けるだろうか。答えは否と言いたいところだが現実は帝都への道は何者かによって閉ざされている。まぁ、負けたのだろう。


 しかしあの男のことだ。ここで負けてもどうせ生き延びて復讐の機会を虎視眈々と狙っていることだろう。心配はいらないな。


 帝国へ思いを巡らせるのをそこで中断する。帝都の奪還作戦に参加しない以上はこれ以上考えても無駄なのだ。


 少し体でも動かそうと思った彼は席を立つ。その瞬間、彼のアンテナにナニモノかが引っかかった。素振りのために手に持っていた鉄剣を席に戻し、彼は自身の装備を手に取り転移で召喚院の外に出る。


 すでに召喚院には戦時体制に移行しており、街の見てくれはそのままだがそこに人はいない。全てエルモが開発した特殊技術により別の場所へと移し替えられている。今この場にいるのは彼ただ1人だ。


 彼が装備を整え召喚院の敷地の前に移動してから数分後、空間の揺らぎを察知した。それは彼がいつも使うノルン由来の転移術と僅かに似ている。その事実に少しだけ目を細めた。


 そして六魔将が使うとされていた扉が現れ黒いローブに身を包んだ奴が出てきた。


 『我はメライス六魔将ジャビール。あの方の目障りとなる召喚院、消させてもらう』


 「・・・」


 レオンの予想通りメライス六魔将を名乗る敵が戦力のいなくなった召喚院を狙ってやってきた。意外にも敵は一人のようだが彼に油断や慢心はない。


 『・・・人の気配がせん。紛い物と入れ替えたか』


 「・・・」


 『答えぬか、ならば貴様を殺してからゆるりと探すとしよう』


 ジャビールと名乗った六魔将は何も答えず立っている彼に向かって一瞬で数百にも及ぶ魔法を放った。


 『ここに1人でいるから何者かと思ったがたわいない』


 己の魔法で彼を葬り去ったと思い込んだジャビールはそのまま召喚院のある敷地へと歩き出した。その瞬間、ジャビールの全身に気を抜いていれば一瞬で潰れてしまいそうになるほどの圧力がのし掛かった。


 そして魔法によって舞っていた土煙が中から吹き飛ばされ無傷の彼が現れた。彼は元々は心優しい青年だ。仮に自分に敵意を向けられても害がない限り排除には乗り出さない。しかし、守るためならば彼はその力を存分に振るう。召喚院の最高戦力たる力を。


 『ほう、無傷で防いだか。大方魔道具か何かで防いだのだろうがそう何度も使える手ではあるまい。もう一度喰らうがいい』


 彼が放つプレッシャーを跳ね除け魔法を放つジャビール。再び、今度は数千もの魔法が殺到する。しかし、今度は魔法が彼に到達する前に全ての魔法が弾けて消えた。


 『何?』


 ジャビールの声から余裕が消えた。


 『ならばこれでどうだ』


 今度はジャビールの頭上に巨大な魔法陣が展開。これまでとは比べ物にならないほどの魔力が込められている。その魔力は魔法の域を超え魔導の域にまで到達していると言える。


 しかし彼はそれを見ても一切焦ることはなかった。別にその程度の魔導、彼にとってはなんの脅威でもないが周囲に被害が出るだろう。万が一、転移装置に当たりでもしたら街が元に戻ってしまう。それだけは避けなくてはならない。


 ここで初めて彼が動いた。なんてことはない。ごく普通に魔力の塊を魔法陣に向けて飛ばしただけだ。しかしそれだけで魔法陣は破壊され、ジャビールの魔力は霧散した。


 これまでのジャビールの魔法は全て彼が無意識で垂れ流してる余剰魔力にかき消されていた。それは決してジャビールの魔法が弱いわけではない。むしろジャビールの魔法はその一発一発が数十人は優に殺せるだけの威力はあった。その魔法を余剰魔力だけで防げる彼の方が規格外なだけだ。


 そもそも彼は普段はこの世界ではない別の世界でただ一人、その世界の人々を守るべく常に戦っている。神をも打倒した最強の召喚騎士は常に最前線でその牙を研ぎ続けているのだ。たかが魔導程度では彼を倒すどころか傷1つ付けることすら出来ない。それほどまでに彼の実力は隔絶している。


 『魔法系の無効化か?ならば物理で攻めるまで』

 ジャビールは魔法だけでなく剣も扱えるようだ。亜空間収納から魔剣のようなものを取り出すと魔法職とは思えないほどの速度で攻撃を仕掛けた。


 ここで初めて彼が剣を手に取った。その瞬間、彼から発せられるプレッシャーが数十倍にも跳ね上がり、物理的な圧力となってジャビールの足を強制的に止めた。


 『ぐっ、なんだこのプレッシャーは。』


 このままでは消耗させられるだけ。そう悟ったジャビールは無理矢理体を動かして距離を取った。そして高速で詠唱を行いあるスキルを発動させた。


 突如として現れた目の前を埋め尽くすほどの魔物の大群。以前隣の国で起きた人工的なスタンピードの数倍の規模だろう。さらに中にはSランク以上とされる龍種なども多数見受けられる。質の面でもはるかに上のようだ。


 『はぁ・・・はぁ・・・流石のお前もこの数の魔物の前にはなすすべもないだろう』


 離れたところで肩で息をしながらジャビールが得意げに言う。彼のプレッシャーを間近で受けたのもあるが、これほどの魔物を召喚したのも結構な負荷がかかっているようだ。


 『こいつらには狂化薬を打ってある。いくら命の危機に晒されようと決して逃げることはない。たった1人で出てきた己を恨むんだな。やれお前たち、全てを蹂躙しろ』


 ジャビールが高みから号令をかける。この時ジャビールは彼のことを尋常ではない存在と理解していながらも召喚老ではないのを知っていたためどこか甘く見ていた部分があった。彼は基本は異界にいて肩書きも召喚老ではなく表舞台に出てくることは全くと言っていいほどなかったため無理もないと言えるかもしれない。


 もしこの時ジャビールが彼の正体をこの世界の英雄で最強の召喚騎士であると気がついていればこんな愚かな選択はせず、一目散に撤退していただろう。彼の目の前に現れた時点で撤退が可能かどうかは微妙なところではあるが。


 彼は向かってくる魔物を眺めながら軽く剣を振るった。別に力など一切込めていない。駆け出しの少年冒険者がゴブリン相手の全力で振るう剣の方がまだ鋭いであろう。それほどまでに力を抜いていた。


 しかし、その一振りで向かってきた魔物の三分の一が跡形もなく消滅した。もちろんスキルも技も使っていない。ただの剣圧だけで普通の冒険者ら来訪者が命をかけて対峙するほどの高ランクも魔物が消え去ったのだ。


 彼はその作業を後2回ほど繰り返した。たったそれだけで未曾有の大災害となりうる可能性を秘めた魔物たちの大行進は一切合切の消滅という形で幕をおろしたのだった。


 残るはジャビールだけ。ここで殺してしまうのは彼にとって造作もないことだがレオンから敵の目的を知るためにできる限り生かして捕らえたいと言われている。彼としてもその意見には賛成だ。特に負ける要素が見当たらないとはいえ敵の目的が不明だとこの大陸の治安を乱す可能性が大いにある。不穏分子は出来るだけ根元から排除しておきたい。


 一瞬で用意した魔物を消滅させられ呆けていたジャビールを見逃すほどお人好しではない彼は文字通り目にも止まらぬ速さで背後を取る。そして抵抗を許すことなく幾重にも及ぶ魔法の拘束を施した。


 念のために痛みを与えないように回復系の魔力で四肢を潰して完了。彼の拘束を解くのは下手な神では不可能。そして彼の魔力によって悪しきものは浄化され、スキルも封じられている。もはやジャビールに逃げる余地はない。


 『・・・なるほど。この程度では太刀打ち出来ぬか。この体も悪くはなかったがこうなってしまってはもう不要だ。』


 突然口調と雰囲気がガラリと変わったジャビール。この状況で何か出来るわけでもないだろうが自然と彼の表情が険しくなる。経験上、こういったことを言う輩は面倒だとわかっているからだ。


 『あわよくば召喚院を落とせればと思ったがそう簡単でもなかったか。まぁいい、召喚院が秘匿していた戦力も把握できた。それだけで良しとしよう。だがこのままむざむざヤられるのは面白くない。ここは一つ・・・』


 そこまで言いかけた時に彼は剣を振るった。死体を残したかったがあの口ぶりだと自爆でもするのだろう。この時彼が振るった剣には魂を切り裂く特別な魔力が込められていた。おそらくあの肉体は別人のものでジャビールと名乗った奴は魂のカケラでも埋め込んで外部端末の1つとして操っていたのだろう。そんな末端を捕らえるだけ無駄だ。


 「・・・」


 斬ったはいいが手応えは肉体を斬った感覚のみで魂を斬った感覚がなかった。どうやら一足先に逃げられたようだ。みすみす取り逃がしてしまったことをどう他の召喚老に言い訳しようかと考える。間違いなくミーナとスタンは馬鹿にしてくるだろう。レオンは驚くか呆れるかのどっちかだ。


 この歳になって同僚から怒られるというのもいささか厳しいものがあるがこうなってしまっては仕方ない。苦笑いを1つこぼして彼は召喚院へと戻っていった。


 召喚院の前には戦いなどなかったかのように平和な景色が広がっていた。


注釈:今回彼が葬った魔物の最低レベルが桃がこれまで戦っていたダンジョンのボスであるドラゴン級です。

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