召喚老の実力
かなり長くなりましたけどキリがいいところまで!
レオン視点
レオンとバルザード、両者の戦いはレオンが少し力を解放したことで一方的に推移していた。
「くそがああああ!」
「いくら吠えようが構わないが結果は同じだ」
最初は自信たっぷりだったバルザードだったが、その技のことごとくを躱され受け流されていた。さらに次第にレオンが攻撃に慣れその起点をことごとく潰されて満足に攻撃すらさせてもらえなかった。
それならばとコロッセオ内に侵入した来訪者の相手をさせていた眷属たちを集め、さらにスキルでバフをかけた上で数の暴力で潰そうとしても涼しい顔をしたレオンの魔法で一掃されてしまう。
「なんで俺の炎で溶けねぇんだよ!」
レオンの魔法は氷属性。通常、氷は熱に弱いため氷属性には火属性をぶつけるのがセオリーだ。実際、バルザードとレグルスも魔法の相性を考えてバルザードがレオンと戦うことを選んだ。
しかしバルザードの炎はレオンの氷を溶かすどころか逆に凍らされてしまう始末。物理攻撃は通用せず魔法でも圧倒的に敗北している。六魔将としての誇りやプライドはすでに粉々だ。
「・・・もうダメだ。使うなって言われてたがもう我慢ならねぇ!」
「・・・っ!!」
いきなりバルザードの雰囲気がガラリと変わった。追い込んだ上での変化なので危険なものを感じたレオンが身構える。阻止しようと魔法を放つも何か障壁なようなものに弾かれた。
「【原初回帰】燃やし尽くせ、炎帝獅子王!」
その解号と共にバルザードの魔力が跳ね上がる。そしてバルザードの持っていた剣が炎をまとった獅子を形作り、空に舞い上がったかと思うと大口を開け落下。そのままバルザードを飲み込んだ。
レオンは一眼でそれが危険な代物だと判断。咄嗟に氷の防壁を幾重にも展開。
氷の防壁が展開されるのと同時にバルザードを飲み込んだ炎の獅子が弾け飛んだ。その熱量は凄まじく、先程まではまるで通用しなかったレオンの氷をいとも簡単に溶かし尽くした。
想像以上の変化にわずかに目を細めるレオン。これまでの甘い相手ではなさそだともう一段階警戒レベルを引き上げる。
地面を溶かすほどの熱量を放ち、その場に現れたのは全身を炎の鎧で包み、その牙と爪にも炎を宿したバルザードだった。
「ふぅ、この姿になるのは久しぶりだなぁ。ってなわけで手加減できねぇからとっととくたばるんじゃねぇぞ!」
ふっとバルザードの姿が消える。レオンは即座にその場を飛びのいた。次の瞬間、それまでレオンが立っていた場所に太陽を彷彿とさせる熱量をもった拳が叩き込まれ地面を溶かす。そしてその余波がさらに大地を焦がしてゆく。
その様子を見たレオンはさらに警戒レベル引き上げる。そして全身に氷の魔力をうっすらと纏った。
そこからの戦いは初めの時の様子をひっくり返したかのようにバルザードの一方的な展開となった。バルザードが纏っている火はレオンの放つ氷を寄せ付けない。そのため生身では接近することすら難しく、レオンからは仕掛けにくい。
それに対してバルザードは大幅に引き上げられた身体能力を活かした接近戦がメイン。この状態となってはすでにレオンの魔法など意に介することもなく、またレオンはその身に纏う熱で受け流すことすら出来ず躱すしか出来ていない。
打って変わってあの最強の召喚老を相手に完全に優位に戦いを進め、ボロボロになっていたプライドが回復する。自信と誇りを取り戻したバルザードは再び余裕を見せ始める。
それが命取りだった。バルザードは互角に戦えていたがゆえに忘れてしまっていたのだ。相手は人の身でありながら神となった過去の英霊たちと共に戦えるほどの人の範疇を逸脱した召喚騎士の中でもトップオブトップの召喚老であることを。
その戦闘力の深さをバルザードは身をもって知ることになる。
『手負いの獣は厄介だというがこれはなかなか。だが予想の範疇からは大きく逸脱しているわけではない。追い詰めれば何か手札を切ってくると思っていたが、この程度か。データは十分に取れたしこれ以上戦闘を長引かせる必要もないだろう』
レオンはこれ以上周囲に被害を出さないようにバルザードを討つことを決めた。レオンはこれまで以上に魔力を込め、水と氷が一体となった大氷壁を展開。流石のバルザードの炎もこれまでとはレベルの違うレオンの魔法を簡単に溶かすことは出来なかった。そしてその時間がバルザードの敗北を決定づけた。
「神器解放。蒼天を凍て、氷蒼槍グラキエース」
レオンが神器を開放する。神器はただでさえ他の武器を寄せ付けないほど強力ではあるが、開放することでその真価を発揮する。それは単純に身体能力や魔力が跳ね上がるだけではない。他の武器とは比較にならないほど強力な特性を発揮するのだ。
レオンが神器を開放した瞬間、周囲の空気が凍りついた。その凍結範囲は凄まじく、一瞬で原初回帰したバルザードが身に纏っている炎すら凍らせた。
「舐めてんじゃねぇええええ!」
急激に跳ね上がったレオンの魔力と垂れ流された魔力だけで自身の炎が凍りついたことに恐れ慄き、必死に叫んで心身を震い立たせようとするバルザード。しかしバルザードが燃え上がれば燃え上がるほどレオンの魔力と凍結範囲は拡大してゆく。
氷蒼槍グラキエースの特性は「奪熱」その名前の通り、周囲の熱を奪い自身の魔力へと変換する恐ろしい技だ。熱を奪うことで凍結範囲は拡大し、さらに奪った熱を魔力へと変換することでさらに範囲と効果は広がるというまさにチートだ。
バルザードのように火属性の魔法を使うやつは格好のエネルギーとなる。まさに火属性を封殺するために存在するような神器だ。
「俺に神器を使わせたことだけは褒めてやろう。だが、これで終わりだ。」
レオンは凍結範囲を意図的に絞りバルザードに集中させていた。そのせいで何度溶かしても一瞬で炎は凍りつき、溶けた水が凍ることでより一層温度を下げる。すでに凍る速度に解凍が追いついておらず、バルザードは全身凍りついたまま動けなくなっていた。
「技を使うまでもなかったか。持って帰ればノエルが喜ぶだろうから手足だけは落としておくか」
小さく呟いたレオンはレオンの四肢を落とすべく槍を振るうのだった。こうしてレオン率いる部隊はレオンの圧勝という形で幕を降ろしたのであった。
ミーナ視点
一方こちらはミーナ率いる部隊。こちらはレオン部隊とは少し違った様子を見せていた。レグルスの配下は全てアンデッド。火力こそバルザード配下のワーウルフに劣るが連携と数はアンデッドの方が上。
また、知能は低いが命令には忠実なためレグルスがミーナにかかりきりであっても粛々と来訪者を迎え撃っていたため、いまだに来訪者たちはコロッセオ内に侵入できないでいた。
しかし、その均衡はミーナとレグルスが一騎打ちを始めたことで簡単に崩れることとなった。
ここまで来訪者たちが苦戦していたのはレグルスの使うカオスブレイカーというスキルのクールタイムを伸ばす極めて厄介な魔法だ。一見強力な魔法ではあるが弱点もある。それは効果が割と短いこと。なのでレグルスは定期的にカオスブレイカーを使っていた。
ところがミーナがその魔力ごと燃やし尽くしているので来訪者までカオスブレイカーが及ばなくなった。その結果、次第に異常状態が解け始め徐々に来訪者が押し込み始めた。
スキルが使えるようになればミーナの部隊は強い。これまでは散発でしか放てなかった魔法が怒涛の勢いで放たれ、あちらこちらで武技が飛び交う。スキルには範囲攻撃も多く、さらにアーサーなど光属性を得意とする来訪者も多くいる。多少、数の多いアンデッドなどスキルが開放されればもはや敵ではなかった。
「こいつは私が抑えているから先に行きなさい!」
ミーナが来訪者たちに向かって叫ぶ。レグルスは非常に強い。さらに体にカオスブレイカーと同じ魔力を纏っているためスキル頼りな来訪者は正直邪魔だ。そもそも目的はここの結界装置を破壊することでレグルスの相手ではない。目的を達成するにはそれがベストだと考えた。
そもそもミーナは周囲に味方がいない方が本領を発揮できるタイプ。今でこそこうして部隊を率いているが、孤高の存在だったのだ。
「さぁ、これからが本番よ!」
枷がなくなり、全力で戦えるようになったミーナは一層戦意を昂らせる。ミーナの感情に呼応して纏う炎も一層燃え盛っている。
「時間稼ぎはここまでか。ならば貴様の命、貰い受けよう。」
「できるもんならなやってみなさい!」
「・・・【原初回帰】恐れよ、絶禍嘆剣」
レグルスの持っていた剣から禍々しい魔力が迸る。嫌な予感がしたミーナは魔法で燃やそうとするも次から次へと魔力は溢れ、一向に燃やし尽くすことが出来なかった。このままでは魔力の無駄と切り替えて何が来てもいいように距離をとって意識を集中する。
レグルスは魔力の溢れ出ている剣を掲げ、そのまま自身の心臓付近に突き刺した。次の瞬間、爆発的に魔力が高まり、闇がレグルスを包み込んだ。
一応ミーナはその闇の球体に魔法を放つも効果なし。そのまま何も出来ないのは歯痒いが今のミーナの魔法ではどうすることも出来ないのでさらに集中力を高めて待つ。
そして闇が弾けた。中から出てきたのは全身から闇の魔力を溢れさせ、数倍禍々しい様相へと変化を遂げたレグルスだった。
「へえ、ただのアンデッドかと思えば貴方、”魔に連なるもの”が混じってるのね」
『ほぅ、見抜くか』
「当然でしょ?」
そう言いつつミーナは地面を蹴ってレグルスへと肉薄、そのまま剣を振るおうとしたことろでキャンセル。そのまま地面を転がってレグルスの背後へと抜けて距離を取った。
『命拾いしたな』
そういうレグルスはすでに剣を振り切った姿で停止している。そしてその剣の軌跡を辿るように禍々しい魔力が後を引き、その場に止まっていた。
ミーナはその魔力がカオスブレイカーとは比べ物にならないほど禍々しいものであることを即座に見抜いた。さらに今のミーナの魔力では燃やし尽くせないことも。
「その魔力、今までのとは違うわね?」
少し離れたところでダメもとでミーナが聞いてみる。
『ふはは、そこまで見抜くとはさすがは召喚老といったところか。その通りだ。我が魔力は魂を犯す。この魔力に触れたものは我が死ぬまで一切のスキルが使えなくなる』
思っていたよりも簡単に自身の力をバラしたレグルス。しかし、こうしてバラすことでそれが嘘か本当かはミーナには判断出来ず、もし仮に本当だとした場合のリスクを考えると迂闊に攻撃も防御も出来ない。出来ることはただただ逃げの一手を打つだけだ。
現に今の状況はレグルスの猛攻をミーナが躱しているだけになっている。しかも剣の軌跡に沿って魔力が留まるので逃げる場所も次第に少なくなってきている。
『先ほどまでの威勢はどこへいったのだ?ただ逃げるだけか?』
もしこれが戦いを始めた頃のミーナであれば有効だっただろう。しかし今のミーナには届いてすらいなかった。ミーナの思考は全てこの状況をどのように攻略するかに当てられていた。いわゆるゾーンだ。この状態に入ったミーナは召喚老の中でも手を付けられないほどに強い。
だが、それでもこの状況を覆すには至らなかった。それほどまでにレグルスの魔力とその力は強大だった。
「・・・仕方ないわね。こんなところで使わされるなんて思ってもみなかったけど、ま、私を本気させたことだけは褒めてあげるわ」
『これまで逃げることしか出来なかった小娘が何を粋がる』
突然躱すのをやめ、大きく距離を取ったミーナの言葉に反応したレグルス。しかしここでレグルスは致命的なミスを犯す。それはこの時に、何がなんでもミーナを仕留めようとしなかったことだ。もし、ここで手足がもげようとミーナを攻撃していれば未来は少しは変わったかもしれない。
「神器解放、我が統べるは原初の炎、顕現せよ!炎剣レーヴァテイン」
ミーナが解号を唱え終わると同時にその体と剣が炎に包まれた。ミーナはその炎を一瞬で支配下に置くと翼の生えた鎧のようにその身に纏わせた。そしてふわりと宙に浮く。その姿はまるで神話に出てくる戦乙女のようであった。
『小癪な!』
自分の比ではないほどに膨れ上がった魔力を持ったミーナに内心恐れ慄きながらも必死に振り払い、魔力を斬撃に乗せて飛ばした。
「無駄よ」
しかしミーナには通用しない。先ほどまでは燃やすことすら出来なかったレグルスの魔力をいとも簡単に消滅させたのだった。
『おのれ!』
「もう終わりにするわ。咲き誇る紅蓮花」
レグルスの周囲に一瞬で炎の華が出現する。その華はレグルスの魔力など全く意に介さず、周囲の一切合切を燃やし尽くす。レグルスも必死に魔力を高めて抵抗しようとするが無駄。その魔力を燃料に紅蓮の華はさらに咲狂う。
「じゃ、これで」
レグルスの身を覆っている魔力が全て紅蓮の華に燃やし尽くされたのを見てミーナが動いた。一瞬で間合いを詰めると剣を一閃。音もなくレグルスの体を切り裂き、レグルスは真っ二つとなってその場に崩れ落ちた。
「ふぅ、久しぶりに使ったけどこんなものね。さ、ノエルから死体でもいいから持って帰ってこいって言われているし回収しちゃいましょう。」
奇しくもレオンとミーナがそれぞれバルザード、レグルスを倒したのはほぼ同時刻だった。そして同時にそれは起こった。
『それは困りますねぇ〜。これでも大事な仲間なんですよ〜』
どこからともなく声が聞こえたかと思うと、ポンと音がしてバルザード、レグルス、それぞれの肉体は一枚のトランプへ姿を変えた。
『そういうわけですので回収させていただきました』
レオンもミーナもその声にはなんの反応も示さない。すでにそれぞれが倒した敵の魔力は感じられない。この時点で手の届く範囲に敵はおらず声の主の魔力も感じない。つまりこれはあらかじめ仕込まれていたこと。おそらく相手の目的は召喚老の実力を測ることだろう。
召喚老側も六魔将の実力の一端は知れたが向こうにも手の内を見せてしまった。別に知られてもいいこととはいえ次は対策を立てられるだろう。向こうは六魔将を捨て駒としてきたことを考えれば若干こちらの方が出費が多いといったところだろう。
レオンとミーナはそれぞれの方法でトランプを破壊すると踵を返し、それぞれの本部へと戻っていった。
一方、コロッセオ内に侵入した来訪者達は中で合流し、結界発生装置を守っていたいかにもレイドボスっぽい巨大なドラゴンを協力して倒した。このことによって結界発生装置が壊されいよいよ帝都への侵入が可能になった。
イベントは新たな局面へと突入する。




