初手
イベントスタートです。
少し3人称視点で桃は出てきません。
ついにイベント当日が訪れた。今回はEX職として一気に名前を売った俺が所属している超がつくほどの上位組織が音頭を取ることもあって覚えを良くしようとプレイヤーの参加率は非常に高い。
特に召喚士系、そして騎士系の職業についている者たちはここで首級をあげれば声がかかるかもしれないとその士気は極めて高くなっている。
また、それ以外の職業についている者たちも転移ができる者たちは当然ブレイバー帝国も訪れているが召喚院はこの大陸の上位統治機構なだけあってその設備や技術力を秘匿するために立ち入りは制限されている。
他のゲームで言えばゲーム終盤で手に入るような強力装備やアイテムを売っている場所が目と鼻の先にあるのに立ち入りが許されていないと言う状況はプレイヤーにとっても歯痒いものだった。
しかし、今回のイベントで結果を残せば立ち入りが許される可能性も十分にあり得るということで気合は十分だ。
戦力の面でもかなり充実している。今回のイベントはレイド形態を取っている。俺たちが参加する帝都の調査は100人の少数精鋭なためクランを組んでいる連中は参加していない。
そのためコロッセオ攻略組にはアーサー率いる円卓の騎士や青龍寺率いる筋肉塾♂といった超有名なクランが参加している。
召喚院に興味はなくともこれらを筆頭とした有名クランに名前を売る気な奴らも一定以上いるだろう。さらにレベル100に到達していても試験に合格できなかった奴らもその失態を取り戻そうと気合十分だ。
そんな感じでスタン率いる帝都調査隊はもちろんのこと、レオンとミーナ率いるコロッセオ攻略隊も戦力は十分だ。
そして10時
<ワールドイベント【古代闘技場コロッセオ】を開始します>
ワールドアナウンスが流れるのと同時に召喚院の持つ集団転移装置を用いて参加登録した全てのプレイヤーがそれぞれの開始位置に飛ばされた。
俺たち帝都調査組は結界を刺激しないように少し離れた場所に転移することになっていた。
「向こうが結界を破壊するまでこっちは手を出せねぇ。余計なことして敵に気付かれるようなことしてみろ。俺様が叩っ斬ってやる。せいぜいその辺で身を潜めてるんだな」
レオンは吐き捨てるように言うとユライを伴ってどこかへ行ってしまった。大方結界の様子を見に行ったのだろうがあの言い方はないよなぁ。
「さて、向こうは向こうでレイドだろうし時間がかかるよね。何して時間を潰す?」
俺の隣にいたレイが早速暇そうな表情をして聞いてきた。
「もちろん、向こうのレイドに参加するのさ」
俺がそう答えるとレイは珍しくぽかんとした顔をしたのだった。
今回のイベントの順番はコロッセオ→帝都の調査なので最初は暇になる。その時間を有効的に使おうと考えてあらかじめ仕込んでおいた。ちなみに今回のイベントでコロッセオ組が帝都の調査に参加するのは条件的に無理だが、その逆は不可能ではない。
俺はアバドンとエルドラに配下を1体ずつ召喚させコロッセオ攻略組へと紛れ込ませてある。そして召喚術のスキルである視界共有を発動して戦況を伺っているのだ。これで何かあれば彼らをマーカーに転移することも可能だ。
「ま、参加すると言ってもまだ先のことだけどな。とりあえずレイにも共有しておくぞ」
俺はレイをパーティーに招待し、付与魔法の1つ、全体化を発動してレイにも視界共有の効果を及ぼす。
「これは・・・そうか、君の配下の1体を紛れ込ませてあるんだね。向こうが終わるまで退屈だし、高みの見物と洒落込もうか」
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古代闘技場コロッセオ。
アミレスト帝国の旧帝都に存在する帝国内でも屈指の大きさを誇る建造物。歴史は古く、第3代皇帝の時代にメインの公共事業として建設が開始。当時の最先端技術を用いて約3年をかけて建設された。完成後は闘技場として公営の賭博も開催され莫大な富を帝国に齎した他、帝国民に向けた軍事演習の場としても利用され、皇帝及び帝国の富と軍事力を象徴する建物へと急成長を遂げた。しかし時代の移り変わりの中で次第に衰退。第12代皇帝の際に遷都と同時に新しい闘技場も建設され、その役目に幕をおろした。今となっては当時の建築や文化を示す貴重な歴史的重要文化財としての役割を担い、広く帝国民に公開されている。
〜アリーシャ召喚院著、大陸全史より引用〜
アミレスト帝国にとっても由緒ある建造物である闘技場が何者かの手に落ち、帝都への道を閉ざす結界の要となっている。帝都を何者かに襲撃されたことに加えコロッセオすら敵の手に落ちている。この事実に武を重んじてきた帝国の貴族たちは腸が煮え繰り返りそうなほど怒りを覚えていた。
本来であるならば自分たちの手でコロッセオを攻略し皇帝を救い出すことが最善。しかし彼らは怒り狂ってはいても冷静だった。帝都には帝国最強を誇る軍がいる。奇襲とはいえ帝国軍が敗北をしている相手だ。流石に分が悪いと思っていた。
そこに差し出された帝国軍と同程度の戦力を誇るとされている召喚院からの参戦表明。帝国貴族からはまさに渡りに船だった。本来なら許すことはないが今回だけは特例として外部から戦力を招き入れることを決定した。そのような背景があったため転移を使用しての大量の戦力投入が実現できた。
コロッセオを見下ろせる丘の上にレオン率いる集団が現れた。今回の作戦は2正面からの侵攻だ。レオンが率いる部隊とミーナが率いる部隊、それぞれ戦力をほぼ均等に分けることでメライス六魔将とやらが出てきてもどちらかの部隊が結界維持装置を破壊できるだろう。レオンたちとしてはメライス六魔将を討てるものならここで討伐しておきたいが結界維持装置の破壊が第一目標だ。
「来訪者諸君、よく集まってくれた。今回の作戦は君たち来訪者の力が何よりの鍵となるはずだ。ぜひその力を奮ってくれたまえ」
レオンが浮かび上がり来訪者たちに発破をかける。元来ゲーム好き、イベント好きの彼らだ。煽られるまでもなく開戦を今か今かと待ち侘びていた。
一方その頃レオン率いる部隊と闘技場を挟んで反対側にはミーナ率いる部隊が展開していた。どちらかと言うとミーナの部隊はクランが多くレオンの部隊より統率された雰囲気を醸し出してた。
「みんなよく集まってくれたわね!アリーシャ召喚院、召喚老のミーナよ!今回は大掛かりな作戦、鍵を握るのはあなた達来訪者。さぁ、私に来訪者の力を見せてちょうだい!」
桃の戦力を測る試験でルシファー・アーク・レオーネを一瞬で屠りさるほどの一撃を初手で繰り出し、何かとスタンと衝突するほど麗しい見た目とは異なり手が早いミーナ。そのミーナが今は凛とした表情を浮かべ、集った来訪者たちを鼓舞する演説を行っている。
そして10:30。いよいよ作戦開始の時刻となった。
「「総員、放て!」」
カインとミーナ。両部隊を率いる2人から同時に合図が出され攻略が始まった。
コロッセオにも当然侵入者を拒む結界は展開されている。それは帝都に展開された結界と同質の物。召喚院の調査で物理攻撃よりは魔法攻撃の方が有効であることが判明したため、初手は来訪者による魔法攻撃の一斉掃射だ。
ここで威力を発揮したのがアーサーを中心に高い統率力をもつ【円卓の騎士】それから過去に数度だけ登場しとっくに忘れ去られたプレイヤー名、教授率いる魔法系クラン【ホグワーツ】。規制に引っかかるかと思いきやスルーされてしまって今に至るそうだ。
円卓の騎士はクランの長であるアーサーが持つスキル【同調】により対象の魔力に質と量を調整。単発の魔法効果を何倍にも増幅させ強力な魔法へと昇華させた。ホグワーツは前線での攻略よりはスキルの深堀が好きなプレイヤーが集まってできたクランだけに1つのスキルの深度が桁違いだ。桃以外ではあまり見ることのない【魔導】に至ったものがちらほらいるため、他のクランとは比較にならないほど強力な魔法を次から次へと放っている。
「・・・一筋縄では行かないか」
「やっぱり、そう簡単にはいかないわよねぇ」
来訪者達の魔法攻撃は1人1人は取るに足らないものではあったが、数だけはあった。その無論召喚老からしてみれば躱す必要すらないものも大量にあったがそれでも結界に与えた総ダメージ量は召喚老の1撃にも匹敵するだろう。
しかし爆炎が晴れ、視界が復活するとそこには無傷で佇んでいるコロッセオの姿があった。




