イベント前日
前回のワールドイベントからゲーム内では1月以上が経過したある日、つい3回目となるワールドイベントを仕切っているアリーシャ召喚院筆頭召喚老であるレオンより全来訪者を対象に緊急クエストが発令された。
俺はレオンからワールドイベントのアナウンスが流れた時にその内容を聞いていたが、それ以外の来訪者に向けてワールドイベント【古代闘技場コロッセオ】の情報が正式に公表されたのはこれが初めてだ。
『初めまして来訪者諸君。アリーシャ召喚院筆頭召喚老のレオンだ。本来我々召喚院が直接動くことはないが今回発生した事態についてはこの大陸を揺るがす一大事だ。我々大陸の治安維持機構だけではどうしても手が足りないゆえに来訪者諸君の手を借りたい。
知っている者もいるかもしれないが1月ほど前アミレスト帝国が襲撃を受け音信不通となった。それと同時にアミレスト帝国の帝都を中心に謎の結界が出現。時空を歪めているようで一切の干渉ができなくなった。
召喚院が総力をあげ調査した結果、帝国の外れにある古代闘技場コロッセオがその結界の発生源となっていることが判明した。
アリーシャ召喚院の目的としては結界の破壊及びアミレスト帝国帝都の調査にある。2方面作戦となるため人手が必要だ。また、結界があるコロッセオの方は間違いなくこれを仕掛けた何者かが罠を用意して待ち構えているだろう。
帝都の調査もまた一切情報がないゆえにそれ相応の危険を伴うだろう。また帝都の方は我々と同等の武力を持つ大陸の治安維持機構であるアミレスト帝国軍を壊滅させた何かがいる可能性も十分に考えられる。双方とも激戦が予想される。参加してくれる来訪者諸君は心していただきたい。
参加条件だが帝都の調査は少数精鋭で行く。来訪者で参加できるのは100人までとする。最低条件はレベル100だ。100名を超える場合にはこちらで審査させてもらう。
コロッセオの方は参加条件は設けない。我こそはというものは参加してほしい。もちろん戦闘職以外の職業も大歓迎だ。未知が待ち構えている場所に行くゆえに物資はいくらあっても困ることはない。また攻略にあたり特殊な道具が必要とされる可能性も十分に考え召喚院から技術者を派遣するつもりだ。
公になっていない技術もこの緊急事態ゆえにある程度公表するつもりだ。技術を盗むなり親交を深めて聞き出すなり役立ててほしい。
それから今回の作戦で戦果を上げたものについては召喚院の方から褒賞を用意している。奮って参加してくれ。以上だ』
この動画が流れた後にワールドクエストが更新された。カインの動画の全文が記載されており、その下にクエストが2つ並んでいた。コロッセオ攻略と高難度クエストとして帝都の調査が表示されていた。
俺が参加するのはもちろん帝都の調査だ。元々こっちに参加するために金級召喚騎士へと昇格したんだ。
今回のイベントへの参加は自由。別マップを用意するのではなくそのままのマップを使用するようだ。一応参加する人は各地にある冒険者ギルドか神殿で参加受付をできる。しかしオープンなフィールドでやる以上は参加申請しなくても乱入できるというわけだ。
これが実に悩みどころで参加登録をすれば基本的には召喚院が組む部隊に組み込まれるため自由行動が効かない。その代わりに参加賞のようなものは必ずもらえる。首級は上げにくいが確実に報酬を得るならこちらだろう。
例外として円卓の騎士のように一定人数以上のクランなどはクランで登録できるようでそこはクランで行動する自由を与えられるようだ。
参加登録しないで参戦すれば縛られることなく自由に行動できるが確定報酬はなしで自身の実力で首級を上げなければ完全に赤字となることが予想される。自分の実力に自信があれば参加登録しないのも手かな?
そして帝都の調査だけは召喚院の本部で直接登録しなければならないようだ。めんどくさいが早速行くとしよう。
直接転移するなとレオンより釘を刺されているので召喚院から少し離れたところに転移することにする。俺のイメージでは本部の目の前ほどではないが少し離れたところに転移する予定だったが弾かれた。
俺が降り立ったのはブレイバー帝国の召喚院の区画の入り口だった。
「ふむ?以前はこんなことなかったが結界を強化したのか?それとも・・・」
召喚院への入り口は以前に見た時よりも厳重に規制されているようだ。とりあえず入らないことにはイベントは進まないので警備に当たっている人に声を掛ける。
「召喚院に用事があるんだけど通っていいか?」
「見かけない顔だな。来訪者か?」
「そうだけど?」
「帝都の調査依頼を受けに来たということで間違いないか?」
「そうだ。で?ここを通してくれんの?」
「もちろんだ。武運を祈る」
なかなか無愛想な人だったけど揉めることなく通れたな。一悶着あれば身包み剥ぎ取ってやろうと思ったのに残念だ。しかし武運を祈るとは一体?
その言葉の真意は一歩召喚院の敷地に足を踏み入れた瞬間に肌で理解した。まぁ、簡単に言えば俺が以前転移で直接召喚院に乗り込んだ時と同じようなことが起こってるというわけだ。
そこかしこから俺に刺さる羨望と殺意の視線。映えある帝都の調査を肉壁前提とはいえ低レベルな来訪者が参加するのが気に食わないのか?それとも調査隊に入りたければこれぐらいは突破しろという召喚老達からの選別の儀なのか?
「くはは、なんでもいいや。向かってくるのなら容赦はしない!」
最近は研究開発ばかりであまり魔物と戦っておらず、また激戦が予想されるために訓練相手は基本的に英霊達なので魔人化した今の俺でもあっさりとやられる。そりゃあ心地いい勝利なんてないですし?フラストレーションも溜まるってもんですわ。ここらで発散させてもらうとするか。悪く思うなよ?
「早速使ってみるか。|英雄が従えし十二の災厄壱ノ災厄、神も恐れし暴虐」
俺の中の何かがガクッと抜ける感覚がしてその身を漆黒に染めた獅子が現れた。
「蹴散らせ」
俺の命令を受けた獅子は近くに感じ取った気配に向けて駆け出していった。数秒後聞こえる悲鳴と戦闘音。しかしそれもほんの数秒で途切れ無傷の獅子が戻ってきた。そして俺の影に解けるように消え、力が戻る。
「やっぱり代償は必要か。強力なだけにリスクも大きいな」
俺が使ったのは【呪術】スキルを限界まであげ進化した新スキル【災厄】だ。代償を払うことで一時的に強力な使い魔を召喚できるスキルへと進化した。これまで呪術はいわゆるデバフ系の魔法スキルだったのが物理も得たわけだ。
今使った壱ノ災厄、神も恐れし暴虐はVITとMIDと引き換えにライオン型の使い魔を生み出す技だ。その2つを注ぎ込めば注ぎ込むほど獅子は硬くなり、神話の通り何も寄せ付けないほど強くなる。その代わり俺はステータスが減少し、死にやすくなるというわけだ。
そのほかにも技はあるけど今はそれだけで終わりかねないからな。もう少し遊んでいいだろう。ほかにも試したいスキルは山ほどあるからな。
「しかし結構派手に破壊したはずなのにお咎めなしか。これは確実に100人の選抜試験として組み込まれているな。」
神も恐れし暴虐が結構な勢いで街を破壊しているのに衛兵がくるどころか街が再生している。なんとなくだけど倒したはずの気配も復活している気がするな。
「無限に復活する敵と戦いながら本陣を目指せってことか?それなら想定はアンデッドか?でも建物まで修復されているのは謎だし・・・ま、細かいことは直接聞けばいいか。まずはここを突破するか」
少し立ち止まって考えていたら周囲にいた気配がじわりじわりと俺を包囲しているのがわかった。数はおよそ50。建物等に隠れているせいかはっきりとは感じ取れないがそんなもんだろう。
「スキル【天災】・竜巻」
【天災】スキルは【ドルイド魔法】が進化したスキルだ。今回のイベントに向けて【全耐性】スキルの強化のために異常状態系の技がある【呪術】と【ドルイド魔法】を自分に向けて連打していたら瞬く間にスキルレベルが上がってしまったんだ。
【呪術】の進化先はさっきも使った【災厄】で【ドルイド魔法】の進化先が【天災】だ。似ているようでかなり違う。【災厄】は純魔法系のスキルであるのに対して【天災】は純物理の魔法なのだ。
簡単にいうと【天災】で発動した現象は全て物理現象となるので魔法だと思って対処するととんでもなく悲惨な結果になる。
俺が巻き起こした竜巻を見て仮想敵たちは即座に反応。やっぱり見慣れない獅子よりも見慣れたはずの竜巻の方が判断しやすいか。
「スキル【天災】・地割れ」
竜巻を見て足が止まったところで本命の魔法を発動。俺を中心に広範囲に地面が割れ建物ごと襲撃者たちを飲み込んでいく。かろうじて飲み込まれるのから逃れたとしても体勢はかなり崩れており防御どころではない。先に発動していた竜巻に吹き飛ばされて彼方へと消えていった。
「さて、道も綺麗になったことだし本部に行くとするか」
綺麗さっぱり何も無くなった街の跡地を本部に向かって歩く。もう1回ぐらい襲撃があるかな?と思っていたが、結局最初に囲まれた以外の襲撃を受けることはなくそのまま本部へと辿り着いてしまった。
「よくここまで辿り着いた・・・と言いたいところだが桃の実力なら当たり前だな。むしろなんでお前が試験受けてんだ?再生機構に魔力供給している魔石が次々と壊れたぞ?一体何をしたんだ?」
何やら偉そうな態度で出迎えてくれたのはカインだった。
「さぁ?転移しようと思ったら弾かれて区画の外に飛ばされた上に門番?みたいな奴が人の話を聞く前に色々と聞かれて答えたら通ってよしとか言われたから普通に歩いてきただけだぞ?召喚院のプレートすら見せるタイミングがなかったぞ」
「まじかよ。何度か言い聞かせたのになぁ。来訪者で召喚院所属の奴がいるから必ず確認するようにって」
「教育不足だな。」
「なんも言えねぇ。それより今度は何をやらかしたんだよ。再生機構に使ってる魔石は最高級品じゃないにしろそれなりのものは使ってるんだぞ?」
あー、やっぱりあの街は何か仕掛けが施されてたのか。ちょっとやりすぎたかな?
「大したことはしてねぇよ。1区画丸ごと埋めただけだ。」
「はぁ!?何が大したことしてねぇだよ!」
「いや、そっちが先に襲ってきたんだし?特に説明がなかったから街ごと滅ぼしてやろうと思ったんだぞ?それを1区画だけで済ませてやったんだ。感謝しろ」
「テメェが言うと冗談に聞こえねぇからたちが悪りぃ。それも分かっててやってやがるのが尚更だな。しょうがねぇ、今回はこっちにも落ち度があったってことで見逃してやる。」
「なんか偉そうだな。」
「偉そうじゃなくて一応これでも隊長格なもんで偉いんだよ。」
「で?俺の結果は?」
「そもそも桃に試験なんていらねぇよ。文句なしの合格どころかこちららからの指名が元々入ってんだよ。」
「なんだ、完全に受け損か」
「なんならこっちは説明不足で余計な出費だな。あの受付の奴は減俸だな」
あれ受付だったのか。態度悪すぎだろ。ザマーミロ。まぁ、何はともあれ俺は無事に帝都の調査隊に組み込まれることになりそうだ。
カインの話ではもうそろそろ集まり始めると言うことでいよいよイベントの開始だな。




