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召喚騎士様は我が道を行く  作者: ガーネット
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VS サーシャ 後編

 放たれた七色の魔力の奔流がサーシャを飲み込んだ。並の魔物ならカケラすら残さない俺の新しい必殺技。この技が完全に決まればあのアークの獄炎にすらも呑み込み消滅させられる大技だ。召喚騎士とはいえ人の子である以上は耐えられまい。


 「・・・神器解放!遍く風よ我が足となれ、轟く雷よ我が矛となれ!紫電ノ太刀」


 しかし相手はあのアリーシャ召喚院の召喚騎士。そう簡単にやられてはくれないようだ。


 サーシャの叫び声が聞こえたかと思うと暴風と雷鳴がドームのようにサーシャを包み込み、全てを消滅させるはずの俺の魔力が弾かれた。


 サーシャの魔力がこれまで以上に膨れ上がってやがる。確か神器解放って言ってたよな?ってことは間違いなく強くなってるな。詠唱からするとこれまでの風属性の魔法に加えて雷属性を使うのか。そして紫電だの風が足だのってことはさらに速度特化になるのか?


 暴風と雷鳴の障壁が消え去るとそこには無傷のサーシャの姿が。全身から放電しており髪の毛が今まで以上に逆立ってる。まるで某戦闘民族みたいだ。そして何より俺を見つめる双眸の色が違う。1つは深緑、1つは黄金だ。まるでその目に風と雷を宿しているかのようである。


 「この姿になると髪が痛むのよね。さっきはよくもやってくれたわね!私に神器解放させるなんてやるじゃない!」


 「そりゃどうも。でも髪が痛むのが嫌なら大人しくやられておけば良かったのでは?」


 「そうはいかないわね。これでも召喚院の金級召喚騎士なのよ?全力で戦わずに負けるわけにはいかないわ!つまりこれからが本番よ!覚悟しなさいよ!」


 「へぇ、本番か。なら本気のサーシャに敬意を評して俺も少しばかり本気を出すとしよう。【魔纏】」


 これまでただ垂れ流すばかりだった膨大な魔力を完全に支配する。そして細胞単位で体の隅々にまで魔力を行き渡らせる。


 「魔人化したことで効率が大幅に上昇してな。今の俺のステータスは従来の10倍以上だ。」


 いい終わるや否や同時に地面を蹴る。サーシャの速度も今まで以上。ステータスを底上げした俺の目でも見切れないほどに速い。もはや目を捨てて【極界】が教えてくれる気配だけを頼りに戦う。


 キン!キンキンキンキンキン!


 ほんの瞬きほどの間隙に差し込まれる無数の剣閃の音。ゆうに数百は打ち合っているだろう。そしてわずかに覚える違和感。魔人としての高い異常状態耐性と【全耐性】のスキル、それからその異常状態の原因が魔法的な要素を含んでいるがゆえに聞いていないが、サーシャの刀には特殊効果があるようだ。


 「雷による麻痺付与と風による刀身以上の範囲攻撃。さらに魔法攻撃もありとか神器の名前は伊達じゃねぇな!!」


 「伊達じゃないっていうのなら麻痺りなさいよ!なんでこれだけ私と打ち合ってて無事なわけ!?」


 「さてな!」


 「くっ!このままじゃ埒が明かないわ!喰らいなさい!雷竜一閃!」


 技も使わずただ刀と刀で打ち合っていても速度がほぼ互角な以上は勝負がつかない。思ったより消費が激しいのかサーシャが先に技を使ってきた。


 「鳳翼乱舞!」


 この隙を待っていた。流れるような連撃の応酬ではいくら魔人となった俺でも強力な魔法は放ちにくい。しかし少しでも技を発動しようとすればわずかでも溜めが必要だ。その溜めを俺はずっと待ち構えていた。


 鳳翼乱舞は相手の魔法効果を打ち消す魔法だ。神器なので効果は一瞬だとは思うがそれでも全ての魔法効果を解かれたサーシャの身体能力は極端に低下するはずだ。


 「【全集中】」


 ここが勝負時だ。【全集中】のスキルで知覚時間を延長する。そして纏っている魔力の量をさらに増やす。全身から軋む音がするが今は無視。このようやく掴んだ時間を最大限に生かすべきだ。


 色と音を失い全てが止まった時間の中で俺だけがゆっくりと動き出す。これでも少しは速くなったが、英霊達のそれと比べるとかなり遅い。かなり遅いがそれでもバフを強制解除されたサーシャよりは速い。


 体感では10秒ほどの長い長い時間の中で刀を振る。伝統に則ってロードローラーを用意してみたかったが生憎ロードローラーはないので出来る限り攻撃を仕掛けるとする。


 【全集中】の効果が切れるまでに斬れた回数はわずか3回。それでもサーシャの命である脚にダメージを与えることはできた。


 「ぐっ!?急に力が!?」


 【全集中】が途切れ世界が速度を取り戻す。その瞬間、サーシャがダメージを受けその場から飛びずさる。足にダメージを与えたはずなのにまだそんな動きが出来るのか。


 「風刃乱舞!嵐塵防壁!」


 自分の状態を把握したのか遠距離攻撃に切り替えたようだ。この辺の切り替えの速さも超一流だな。サーシャが放った魔法は無数の風の刃を放つ魔法と触れると刻まれる風の防壁だ。積極的に攻めてこない?何か企んでいるのか?


 【極界】でサーシャの様子を探りながら冷静に風刃乱舞を躱して切り落とす。


 「この程度の傷じゃ召喚騎士は負けないわ!」


 防壁の向こうでサーシャが立ち上がった。そして俺の魔纏のように全身に魔力を巡らせている。その手には納刀された刀が。大技が来るな。


 「奥義!疾風紫電閃!」


 全身に雷と風の魔力を纏い、爆発的な推進力に変えて放つ最速最強の抜刀術。それがサーシャの奥義のようだ。


 「残念だったな。【魔素支配】【全反撃】!」


 惜しい、非常に惜しい。もし俺が相手じゃなければ確実にサーシャの勝ちだろう。しかし相手は俺だ。ここまで温存していた【魔素支配】を発動する。英霊に比べると魔力操作のレベルが低いサーシャの魔力は俺の支配領域に入った瞬間に消え失せてしまった。


 魔法が消えたとは言っても抜刀術は止められない。魔力によるバフと追加効果を失ったサーシャはもう怖くない。そして純粋な物理攻撃ならスキルが使える。


 キィィィンと甲高い音が響きスキルが発動する。


 自身が放った最速最強の抜刀術、その威力を倍以上に跳ね返されてしまっては流石のサーシャといえどひとたまりもなかったようだ。


 最初の時とは比べ物にならないほどのダメージをその身に受けて壁にめり込むほどの勢いで叩きつけられた。元々サーシャは神器を解放出来るようになってから日が浅く、まだ完全に制御できているわけではないためその負担は非常に大きいものだった。その疲労が桃との戦闘で蓄積してたのだろう。自身の必殺技を完全に無効化された上で跳ね返されて動揺したことで極度の集中状態が解けてしまった。ダメージも相まって完全に意識を失ってしまったのだった。


 「勝負有りだな。勝者、桃」


 気を失ったサーシャをみてレオンが勝敗を告げた。それを合図に決闘システムが解除されサーシャの傷もリセットされる。決闘システムが完全に解除されるとサーシャが飛び起きた。


 「負けた〜。まさか魔法スキルを完全に封じられるとはね。完敗よ。」


 「正直あれは俺の奥の手だ。まさか引きずり出されるとは思わなかったな。」


 【魔素支配】は一定以下が相手の時は絶大な切り札になり得るスキルだ。出来ることなら召喚院相手でも隠しておきたかったがサーシャの最後の一撃は確実に俺の耐性と俺の防御を抜いてきただろう。あそこでやられるわけにはいかなかった。だからこそ俺はカードを切った。後悔はしてない。


 「見事だったぞ桃。よくこの短期間でサーシャを倒すほどの実力を手に入れた。これで晴れて金級召喚騎士だ。」


 観客席から降りてきたレオンから称賛の言葉と共に金級召喚騎士の証を受け取る。長かった金級への昇格試験もこれで無事完了だ。


 「証は確かに受け取った。」


 「さて、これでひとまず大きな用事は終わりだ。試験を始める前に話したアミレスト帝国奪還に向けた古代闘技場コロッセオの攻略だが準備は順調に進んでいる。近いうちに来訪者に向けてこちらから再度アナウンスがあるだろう。それまでは更なる力を蓄えていて欲しい。」


 「了解」


 「レオンの話は終わったみたいだから僕からね。金級へと昇格したご褒美だ。」


 続けてエルモさんから不可思議な魔力を感じる水晶を手渡された。


 「これは僕たち技術開発局の最高傑作、その名も「絆晶」だ。これは一定以上の強さを持つ存在を擬似的に英霊化出来る優れものだ。もちろん英霊化される人の同意は必要だけどね。」


 「へぇ、そんな希少そうなアイテムなのにこんなところでポンと渡していいのか?」


 「もちろん。確かに貴重だけど作れないわけじゃないし道具は使ってこそ道具だからね。遠慮なく使ってくれたまえ。」


 「そういうことならありがたく。」


 「あ、ただ来訪者には使えないと思うからそこだけは注意して。使い方は鑑定すればわかるよ。それじゃ僕はこれで。今の戦いのデータも取らないといけないしね。何か不具合があったら言ってくれ。」


 言いたことだけ言い終わるとエルモさんは足早に去っていった。レオンも先に話したワールドイベントの準備があるとかで去っていってしまった。


 「ねぇ、桃。その「絆晶」、よければ私に使ってくれない?」


 エルモさんからもらった「絆晶」をどうするか悩んでいたがサーシャに思わぬことを言われてしまった。それっていいのか?召喚院。


 「それは願ってもない話だがサーシャはいいのか?」


 「もちろん構わないわ。あなたに完敗したんだもん。それに桃といたらさらに強くなれるって確信した。私には目標があるの。今のままじゃそれには到底届かない。だから、桃私に力を貸して!」


 <金級召喚騎士「サーシャ」が英霊になりたそうにこちらをみている。「絆晶」を使いますか?YES/NO>


 ・・・なんか変なウィンドウが出たんだが?いいのか運営よ。


 「俺の答えはもちろん「はい」だ。むしろ俺の方こそよろしく頼むな。【英霊化】」


 ウィンドウの選択肢で「YES」を選びサーシャに「絆晶」から【英霊化】を発動する。これは俺のスキルとは違ってもう少し拘束力が低いようである。なので魔道具化に成功したってところだろう。


 <NPC【サーシャ】が契約英霊となりました。絆晶を使うことでサーシャが同意した場合に限り戦闘中にサーシャを召喚できます>


 <【サーシャ】のステータスが上昇しました>


 「これからもよろしくね、桃!」


 上機嫌なサーシャ。JKっぽい子を英霊化するのはいささかレイにばれたらやばそうではあるが弾けるような笑顔なので良いことだとしておこう。


 こうして俺は金級召喚騎士の称号と心強い英霊【サーシャ】を仲間にしたのであった。

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