強欲の不死者
『桃様、アークとサン様の戦いに決着がつきそうですよ。』
レオーネに声をかけられて時計を見る。さほど時間をかけたつもりはないがそれでも2時間はゆうに経過しているがそれでもなお戦い続けていたのか。
途中で何かが飛んでくる気配がしたが、レオーネが守ってくれたのか結界のようなものに弾かれたような気がする。
改めてアークとサンの様子を見る。おっと、予想以上にボロボロだな。確かアークは自身の持つ【獄炎】の根源である闇の魔力で傷を回復できるし、サンも言わずれと知れた吸血鬼の真祖。アンデッドなんだから再生能力は高いはずだ。
確かチラッと見たときにサンの腕をアークが捥いでそれで攻撃してたのに腕に意志があるかのようにひとりでに飛んで戻り傷跡を残すことなくくっつくとか人外ムーブをかましてたはずだ。
それなのに今は両者ボロボロで所々に出血もある。そしてダークドラゴンに攻撃にも耐えうるはずの強度を誇るダンジョン最深部の壁や床には無数のクレーターが。そしてダンジョン最深部とその隠し部屋を隔てるはずの壁は綺麗さっぱりなくなっており、瓦礫と化している。
『なぁ、レオーネ。この勝負どっちが勝つと思う?』
『どうでしょうか?確かアークの生前はアークによれば1785戦893勝892敗だったらしいのでその時の運でしょうか?』
なるほど、アークとサンは完全に互角ってわけか。
『ちっげえよ!聖女様よ〜。俺の893勝だっつーの。団長といいボケちまったのか?』
俺とレオーネの会話が聞こえたのか離れたところでアークと戦っていたはずのサンが目の前に現れて文句を言いにきた。俺もそれなりにレベルが上がってきたはずなのに目で追うことすらできなかったぞ?かろうじて魔素の動きを感じ取れたから転移系のスキルじゃないことがわかった程度だ。
『どこ見てんだよサン!』
音もなくアークがサンの後ろに現れ回し蹴りを放つ。それをサンは視線をくれることなく上体を逸らして躱す。そのまま地面に手をつき、バク転をする勢いでカウンターを狙うと見せかけて足を開いて拘束しようと試みる。
アークはアークでその場からすぐに離脱するとすぐさま地面を蹴ってサンへと殴りかかる。流石に体勢が整っていなかったサンの顔面に拳が突き刺さりその鋭い犬歯を飛ばす。
アークよりかなり身長が高いサンの顔面を殴るためにジャンプしていたアーク。殴った勢いを完全に殺すことは出来ずにわずか宙に浮いてしまう。一方顔面を殴られたものの【豊穣の呪い】で即座に回復したサンは体勢の崩れたアークの胴体を掴んで頭から地面に叩き付けようとする。
もちろんそのままやられるようなアークではなく逆に地面に手をついて足でサンの首をホールドすると叩きつけられる勢いに体を捻る力も加えて首からサンを地面に叩きつけた。
『あ〜〜、やっぱ団長との喧嘩は最高だぜ』
『にしし、俺もだ、サン』
『『けど、そろそろ決着をつけようか(ぜ)』』
これまでは和気藹々と殴り合っていたが突然雰囲気が変わった。いうならばここまで木刀で殴り合っていたようなもの。ここで2人共初めて真剣を抜いた。
空気が一瞬にして張り詰める。アークが徐にこれまで背中に背負っていた「魔神の魂」を抜き、魔力を込め始めた。対するサンも虚空に向かって手を伸ばすとその手にはいつの間にか俺の持つ神器に勝とも劣らぬ圧のある三節棍を掴んでいた。
『はああああああああ!!!』
アークの魔力が高まるたびに空間が軋み、地面が割れる。
『ホゥオオオオオオ!』
どこか中国拳法みたいな雄叫びをあげ三節棍を振り回すサン。その三節棍にはアークに匹敵するほどの魔力が込められておりその魔力の篭もった軌跡がはっきりと見える形で空中に留まっている。
『いくぜサン!』
『死ぬなよ、団長』
『神堕し』
『無限斬牢』
神すらも一撃で切り伏せんとするアークの斬撃と数えるのも億劫になるほどの無数の斬撃の軌跡がぶつかり合う。技と技がぶつかった衝撃は凄まじく、一瞬にしてボス部屋が崩壊してゆく。
俺もとっさにルシファーを召喚して障壁を展開してもらうことでなんとか持ち堪えている。そして剥き出しのはずなのに一切傷のつかないダンジョンのコア。召喚院の奴らどんなプロテクトを施してんだよ・・・
長い長い一瞬が過ぎ去り、崩壊しつつあったダンジョンがダンジョンコアの不思議な力で時間を巻き戻すかのように修復され視界を塞いでいた土煙が晴れる。
まず目に飛び込んできたのは全身を刻まれ血を流し倒れ伏しているアーク。胸がわずかに上下しているからなんとか生きてはいるようだ。
続いてサンがいたところに目を向けるとそこには見事に真っ二つに切り裂かれ開きになって転がっているサンの骸が転がっていた。
『決着ですね。今回は引き分けでしょう。』
明らかにサンが死んでいるのにレオーネがさらっと恐ろしいことをのたまう。おいおい嘘だろ?アークはともかくサンは真っ二つになって死んでるんだぜ?
そう思って再びサンの方へ目を向けるとそこにはすでに真っ二つに別れていた体がくっつき傷跡1つ残さず修復されている。対するアークもいつの間にか出血どころか傷もなくなっている。ただ疲れた表情はしているのでダメージは残っているようだ。
『くっそ、やっぱ団長はハンパねぇな〜俺がここまでダメージ受けるなんて何百年ぶりだ〜?』
『サンこそ腕は落ちてねぇみてぇだな。』
今さっきまでお互いに文字通り必殺技を放ってたのにもう和やかに話してる。うーん、俺には理解出来ないがこれがアークとサンのコミュニケーションなのかもな。
「アーク、もうそろそろいいか?」
『ん?あぁ、待たせたな。久々にサンと喧嘩も出来たし満足だ。』
『おいおい団長。そういえば気になってたんだがこいつは一体誰なんだよ〜?』
『あぁ、桃は・・・』
そう言ってアークは俺の職業の話、レオーネと俺との出会い、アークが囚われていた【憤怒の酒場】の話、フィニクス、ラージャとの再会、そしてここに来るまでに踏破してきたダンジョンのことをサンに話した。
『へぇ?おもしろそうなことしてんじゃん。それにあいつらが集まってるなら俺も行くぜ。』
『お前が居てくれると心強いぜサン』
なんか知らないうちにサンがついてくることになっているようだ。確かにアークと全くの互角の力を持つサンが仲間になるのは実に頼もしい。今後のイベントを生き残るための鍵になることは間違いないだろう。
「そうか、俺もアークと対等に戦えるぐらい強い奴が来てくれるのは非常に心強いな。ただそのままでは連れていけないから・・・召喚術奥義・英霊化」
一瞬でサンを白色の発光する魔法陣が包み込む。その魔法陣に飲まれるかのようにサンの姿消え、再び魔法陣が光を発すると姿を表した。
これは召喚術をカンストまで持って行った時に初めて発現した召喚術の奥義。文字通り対象を英霊化する術式だ。もちろん一定以上の強さと功績があることが条件ではあるがサンはそれを優に満たしているだろう。
英霊化するほどの相手だ。本人が嫌なら拒否することも可能。サンが拒否しなかったということは俺を受け入れてくれたということだろう。
「これからよろしくな。サン」
『よろしく頼むぜ〜』
<【強欲の不死者エターナル・サン】を特殊な条件を満たして攻略しました>
<『強欲の宝玉』を獲得しました>
<称号【強欲の仲間】を獲得しました>
<スキル【盗神の絶技】を獲得しました>
こうして6つの属性ダンジョンを全て攻略した俺は新しい仲間と出会い召喚院へと戻るのであった。




