エターナル・サン
連続更新4話目!
「止まれアーク!」
俺が99階に転移した時には英霊達ご一行は100階への階段を降る目前だった。英霊達は基本戦闘狂だからダンジョン攻略は魔物の争奪戦になる。争奪戦に参加しないのはレオーネぐらいである。あ、あとはその取り巻きである四大聖闘士たちだ。彼女達は基本的にレオーネを守るという意識があるのか争奪戦には参加せず、レオーネの周囲で戦っている。
そんな英霊達なので1つの階層に止まるなんてことはない。殲滅&GOが基本だ。それなのに今回はちょうどタイミングよくギリギリ99階に止まっているところだった。
『ほう?進化したのか我が召喚主よ。数分前とは比べ物にならぬほどの力を身につけたようだな』
なんとか先頭にいたアークが止まってくれたおかげで全員が立ち止まってくれた。そして俺の変化に最初に気づいたのはやはりルシファーだった。
「俺自身ステータスを確認してねぇからなんとも言えないけど俺たちの世界の神からもステータスが大幅に変化してるって言われたからな。それなりに変化してるとは思う。話が逸れた。俺の話はひとまずどうでもいい。お前達気がついてるんだろう?この下にはこれまでのドラゴンとは違うナニカがいるってことぐらいは。」
『それならもちろん気付いてるぜ。けどこれは大丈夫なやつだ。なぁ!レオーネ』
俺の問いかけに答えるのはアーク。
『えぇ。この魔力は私たちにとても馴染みのある魔力です。おそらくアークの言うように問題はありません。桃様』
ふむ、普段は思慮深く戦闘狂ではないレオーネもアークに同意するか。それに馴染みのある魔力だと?
「もしかしてこの魔力の正体は!?」
『さてさてさーて?それを確かめに行くんだろ?こんなところで時間食ってねぇでさっさと行こうぜ。向こうも待ちわびてるだろうしな。』
アークとレオーネが言うなら仕方ない。行くとするか。アークを先頭にゆっくりと階段を降る。100階にたどり着くと目の前にそびえ立つ重厚な扉をアークが蹴破った。
非常に重量のある金属でできていたであろう扉は弾丸のような速度で中へと飛び込んだ。
『GYAAAAAAA』
中からドラゴンのものであろう叫び声が聞こえた。
<お知らせします。プレイヤー名「桃」によって【光届かぬ悪魔の巣】のボス『ダークドラゴン』が初めてソロ討伐されました>
あ、アナウンスが流れた。ってことはあの扉が直撃でもしたのだろうか?あたりどころが悪かったか・・・
しかし、肝心の気配は依然として健在のようだ。
『おいおい誰だ〜?せっかく俺様が気持ちよく寝てるってのによ〜。ズカズカと土足で人の家上がり込んで随分と荒らしてくれたみてぇじゃねぇか〜』
アークに続いて部屋に入ることでようやくその気配の主を拝むことができた。身長は180センチを超えたぐらいだ。髪は青に近い銀髪の短髪で眼光は鋭い。不満そうに文句を垂れる口元には人間のそれと比べて長い犬歯。なぜか上裸だがその肉体は一切の無駄なく鍛え上げられている。そして最大の特徴と言えそうなのが左胸から右脇腹にかけて走る一筋の太刀傷。それ以外は体に傷はないようだ。
【百科事典】を発動してその男の鑑定を試みる。
エターナル・サン 種族:吸血鬼(真祖)※豊穣の呪い
なんとあの【百科事典】先生を以てしても見ることが出来たのは名前、種族、そして謎の呪いだけだった。しかしこいつ吸血鬼の真祖かよ。体から迸る魔力と佇まいはアークのそれとほぼ互角。正直言ってかなりやばい相手だ。
『おやおや、サン君。もしかして見ない間にボケちゃったのかな?この俺が誰かわからないなんて』
『おいおい、冗談はその間抜け面だけにしてくれよ。俺にはてめぇみてぇな知り合いなんざいねぇよ』
『そっか、ほんとに忘れちまってんだな。なら、すぐに思い出させてやるよ!』
アークが一瞬だけ遠い目をした直後、アークの体がブレた。そう思った直後にはサンと呼ばれた吸血鬼の顔面にアークの拳がめり込み、サンの体を吹き飛ばした。
冗談ではなく顔の形が歪むんじゃないかというほどの打撃音が響き、きりもみ回転しながら吹き飛ぶサン。その体はちょうどこのフロアの隠し扉を打ち抜いた。
『『GYAAAAAAAAAAAAAAAAAA』』
扉の向こうからツインヘッドダークドラゴンであろう魔物の咆哮が聞こえてくる。さすがに面倒な事態になったな。このメンツなら負けることはないとは思うがサンだけでなくツインヘッドも交えた三つ巴は厄介だな。
と、そんな可愛いことを思っていた時期もありました。
『痛ってぇな〜。って言うかダメージを受けたのなんて何年ぶりだ〜?こいつはちょっと本気ださねぇとやばいかもな〜』
アークの一撃を顔面に受けたにもかかわらず扉の向こうからは元気なサンの声が聞こえてくる。耐久力の化物か?俺なら一撃で死を覚悟するレベルの攻撃だったぞ!?
『『GYAAAAAAAAAAAAAA』』
扉の中に入ったのはサン1人。ツインヘッドが目覚めるきっかけになったのもサンであることは間違いない。意気揚々と獲物に向かって咆哮をあげたにもかかわらず完璧に無視されたツインヘッドが怒りの咆哮を上げた。
『なんだよさっきからうるせぇな。ぶっ殺されてぇのか?あぁ?・・・いや、ちょうどいいわ。龍種なら多少は頑丈だろうしな』
サンの声が聞こえたかと思えばズシンと内臓に響くような低い打撃音が聞こえてきた。そしてサンが飛び込んでいった隠し扉の向こうからズルズルと何か重いものを引きずる音を響かせながらサンが出てきた。
『待たせたな〜。ちょうどいいモンが手に入ったんだ。第2ラウンドと行こうじゃねぇか』
そう言って全容が見えたサンの手には意識を失っているであろうツインヘッドの姿があった。
「いいモンってツインヘッドのことか!?」
恐ろしいことに凄まじい重量があるはずのツインヘッドをサンは片手で引きずっている。しかも表情一つ変えずにだ。思った以上にやばい相手だぞ!?
アークはそれを見て再び攻撃を仕掛けた。
『シッ!』
短く息を吐く音が聞こえ、ツインヘッドがその巨躯に似合わない速度で振り回され、アークを迎撃せんと迫る。
そしてぶつかるアークとツインヘッド。遠心力で加速度のついたツインヘッドだったが、元々の格が違う。わずかな均衡も許さずアークがツインヘッドを打ち抜いた。
『ヒュ〜。やるねぇ〜、ま、あんな脆いのじゃ当然か。だが、勢いは削いだぜ!』
手に入れた武器が破壊されたのも想定済みなのかサンはツインヘッドを打ち抜いたことで勢いがなくなり空中で浮いたままになっているアークに向かって飛び上がり、凄まじいラッシュを叩き込んだ。
『なんのこれしき!』
アークはアークで飛び上がってくるサンを見るなりその場でガードを固めた。アークとサンの実力はおそらく互角。ならばガードを固めたアークが反撃するのも難しくはない。致命的となりそうな打撃だけを避けながらアークがサンを強かに叩きつけた。
『ガッ!?』
ダンジョン産の硬い地面が陥没するほどの威力で叩きつけられたサン。もしこれが通常の魔物ならばこの時点で死亡は免れないだろう。
しかし、今回の相手はそう簡単にはやられてくれないようだ。
ふらふらになりながら立ち上がったサン。両腕は完全にへし折れている。いかに吸血鬼が再生能力に優れているとは言えこれは勝負あっただろう。
『おいおい、どうしてくれんだよ〜。腕が折れちまったじゃねぇか〜。』
俺から見れば千載一遇のチャンス。なのになぜかアークは動かない。
『下手な芝居はやめろ、サン。どうせもう治ってんだろ?』
『ちっ、なんだ、バレてんのかよ。』
なん・・・だと!?た、確かにさっきまでは確実に腕はひしゃげていたはずだ。なのにほんの数秒の間に回復しただと!?
『それがサン様の呪い・・・いえ、力である【豊穣の呪い】の効果なのです』
不思議に思っているとアークとサンの戦いを俺の横で見ていたレオーネが教えてくれた。そう言えばサンのステータスには【豊穣の呪い】ってあった。詳しくはわからないが超速再生なんて比じゃないぐらいの速度で回復するのか。なぜ呪いなのかは不明だが強力な能力であることには間違いない。
『それにしてもお前は一体何もんだ?俺の体のことも知ってるみてぇだしよ〜』
『本気で忘れちまったのか?七つの大罪、強欲の罪、エターナル・サン。それともこっちの方が体が覚えてるか?』
アークの全身から禍々しい魔力が噴出し、その身を覆う。これはアークが本気になったときに身に纏う獄炎!。俺の使う獄炎とは比較にならないほどの威力がある。いくら吸血鬼の真祖と言えど一撃で灰になるぞ。
『ま、まさか!?そのちんちくりんにとぼけた面、馬鹿みてぇな力にその魔力。もしかして団長なのか!?』
『やーっと思い出したか。サン。』
『いや、覚えてろって方が無理があんだろ。あれから何千年たったと思ってるんだよ。それにしてもよく生きてたな。』
『いいや、一回死んでるんだわこれが。そこにいる桃って言う来訪者の力で英霊って形で蘇ったんだ。』
『そっか、やっぱりそうだよな・・・。ま、なんでもいっか。こうしてまた団長と会えたんだ。細けぇことはどうでもいいや。』
『だな。』
『それじゃあ、早速、決着を付けようぜ。団長』
『おう、望むところだ!』
「・・・え?」
先ほどと同じように、いや、先ほどよりも激しく戦闘を繰り広げ始めたアークとサンを眺める俺の口から実に間抜けな声がこぼれ落ちた。
更新再会します。
また、よろしくお願いします




