光届かぬ悪魔の巣
連続更新3話目!
俺がなんとか最深部への階段を見つけた時にはすでに100階のボスどころか裏ボスであるツインヘッドホーリードラゴンが討伐されたとアナウンスが流れた後であった。
今回は相当時間が掛かった。不思議に思う人もいるかもしれない。いくら56階の隠し扉の向こうにいたエンジェルが強かったとはいえ所詮は1対1だ。そこまで時間が掛かるわけではない。
むしろ時間が掛かったのはその後だ。英霊達、最近知恵をつけてきたのか、色々と小細工をするようになってきた。今回俺が遅れたのもそれが理由で、俺の【魔力掌握】によるダンジョン構造の把握にジャミングする形で乱雑な魔力をそこかしこに撒きやがった。
そのせいで探知精度が極端に低下して階段を見つけるのに時間が掛かったんだ。
おそらくこの手の技能を持っているのはジャックだろう。うまくは言えないが妨害の悪辣さが絶妙だった。あれほど悪意に満ちた妨害をできるのはおそらく闇で生きてきたジャックだけだろう。
それはともかく、毎度恒例のダンジョン制覇記念大宴会を開催。知ってはいたがザルのアークとルシファーに対して四大聖闘士たちは酒に弱かった。しかし、酔ったそばから解毒魔法で酔いを覚ましてはまた飲むという量だけは異常に消費するなんとも厄介な奴らだった。
うん、食った分は最後のダンジョン、【光届かぬ悪魔の巣】でしっかりと働いて返してもらおう。
ツインヘッドホーリードラゴンの討伐完了と同時に凄まじい勢いでアナウンスとドロップが流れてきたが全て無視。いちいち確認していたら時間がどれだけあっても足りない。
さっさと移動して次のダンジョンへ挑もう。
次が最後ということで買い出しを終えた直後にダンジョンへと向かうことにした。なんとダンジョンの最寄りは辺境の町ウノだった。これは後々知ったことではあるが、その昔、まだ召喚院が創立されていなかった時代に【光届かぬ悪魔の巣】がスタンピードを起こし、周囲に甚大な被害を与えたそうだ。
その教訓から再びスタンピードが起きぬように定期的にダンジョンを攻略する最前線としてウノの街が建設されたそうだ。最も現在ではダンジョンの管理は召喚院が引継ぎ、ウノはダンジョンではなく辺境を守るという意味合いに変わっていったそうだ。
そんな前置きはさておき、ウノから空を飛ぶこと1時間ほど。大したトラブルが起きることなく入り口へとたどり着いた。
「さてさて、今回のダンジョンはっと。まぁ、巣っていうぐらいだから普通に洞窟型か。よし、ここは楽そうだしさっさと掌握しちまうか」
俺はいつものようにダンジョンを構成する魔力に介入する。洞窟型は特に魔力を掌握して仕舞えば攻略が簡単になる。
思えば最初にダンジョンの魔力に介入したときは気を失ったが、もうこれで6つ目。尋常じゃないほど荒れ狂うダンジョンの魔力を相手にしているからか【魔力掌握】のスキルレベルの上昇がかなり速い。
5分もすれば隅々まで俺の魔力が行き渡り、構造を把握できる。
<6属性全てのダンジョンへの介入を完了しました。条件を満たしためスキル【魔力掌握】がスキル【魔素支配】へ進化しました>
<条件を満たしました。スキル【ダンジョン適応】を取得しました>
<条件を満たしました。スキル【探索魔法】【気配察知】【危機察知】【魔力察知】【空間把握】がスキル【極界】へ統合進化しました>
<条件を満たしました。種族が【人間】から【魔人】へ進化します>
いつもなら聞き流すはずのアナウンスだったが今回ばかりは聞き流さなかった。いや、正確には聞き流せなかった。それもそのはず、アナウンスが流れると同時に俺の体は光に包まれたのだから。
反射的に目を閉じた後、光が治まったのを感じ恐る恐る目を開ける。なんとそこはダンジョンの前・・・ではなくキャラクターメイクをしたあの謎の空間だった。不思議に思っていると目の前に某小学生探偵アニメの犯人のような全身黒タイツのような簡素なアバターが出現した。
「平素よりIWOをご利用いただきありがとうございます。運営です。」
「あ、どうも。」
どうやら犯人は運営用の簡易アバターのようだ。いったいなんの用だろうか?1プレイヤーに接触してくるとは。まさかさっきの種族進化が仕様ではなくバグとか?
「今回このように接触させていただきましたのは種族変更の件でございます。IWOが始まって以来、初の種族進化ですのでシステムが正常の作動するかどうか念のためこちらに隔離させていただきました。種族進化はステータスが大幅に変更になるため少々時間がかかります。その間、プレイヤーの皆様には種族変更後の見た目に大きく変更を生じる方にはここでアバターの再設定をしていただくようになっております。」
「なるほど。このシステムを以てしても時間が掛かるならずっとログインしてるのは危険そうですね。」
「えぇ、なんども検証を繰り返しており安全性も確認してますが、万が一があっては怖いので。現状では種族進化に至りそうなプレイヤーはほんの一握りなのでこうして我々が対応できますので大きな問題には繋がることはなさそうです。これから先、種族進化に到るプレイヤーが多くなったときが問題ではありますが」
まぁ、人数が多くなればこうして1対1で対応するってわけにもいかないもんな。
「おっと、話が長くなってしまいました。この空間にきたのはバグではなく仕様であり、キャラのリメイクが可能ということを伝えに来たのでした。長々と申し訳ありませんでした。アバターの更新自体は5分ほどで完了します。その際はウィンドウが表示されるのでご安心ください。急ぎ足になってしまいましたがこれからもIWOをお楽しみくださいませ。それでは。」
早口で言いたいことだけ言い切ると犯人アバターは突如としてそこから消え失せた。どうやら無駄話をしすぎてしまったみたいだ。上から呼び出しでも食らったのか?
まぁ、いいや。運営との遭遇という思わぬハプニングもあったが危険だから仕方ないな。とにかく今はキャラのリメイクの方に力を入れることにしよう。
リメイクといってもできることはさほど多くはなかった。全種族共通っぽいのがが種族進化した証である紋章を入れる場所の設定ぐらいだった。これはなんとなく無難に左手の甲にした。オンオフも可能なようで特に格好いいとかもないのでオフにしておこう。
それ以外だと人間から魔人へ進化する際に設定できるのは魔力が昂った際に現れる独自の紋様があるようだ。これはカッコ良かったので左目から額にかけて発現するように設定した。後外見で変わるのは目の中に星が刻まれるとのことだった。
紋様の選択に悩んでいたので5分なんてあっという間に経過してしまった。いつの間にかウィンドウがポップしてたのでそれを読んで再びIWOの世界へと戻る。
<お知らせします。プレイヤー名「桃」が初めて種族進化を達成しました。これよりヘルプにて種族進化の項目が解放されます。>
<条件を満たしました。称号【到達者】を獲得しました。>
<条件を満たしました。称号【魔人原点】を獲得しました>
<条件を満たしました。スキル【範囲魔法】【行動詠唱】【無詠唱】【魔素支配】【並列起動】【多重起動】が統合進化します。スキル【魔の理】を取得しました>
<種族進化に伴いステータスが大幅に変化しています。注意してください>
IWOの世界に戻った途端にアナウンスが流れた。運営のアバターが言ってたように俺が種族進化を果たした最初のプレイヤーなので案の定ワールドアナウンスが流れた。それと同時にレイからメッセージを受信したような気がするが見なかったことにしよう。
レベル100・・・いや、この一連のダンジョン攻略が終わるまではステータスを見ないとなんとなく自己ルールを決めていたが流石に種族そのものが変化した上に運営からも散々ステータスが大幅に変化するとまで脅されてるんだ。流石に確認しないわけにもいくまい。
「仕方ない。中途半端ではあるがステータスオー・・・」
ステータスを開きかけた瞬間、ダンジョンからゾッとするような恐ろしい魔力を感じ取った。
「なん、だ。この尋常ならざる魔力は!?最低でもアーク級の魔力だぞ!?そんな化物がこのダンジョンにはいるのか!?」
ステータスを見ようとしていたことさえ忘れ、俺は慌てて英霊達の居場所を探る。そう、彼らは俺がダンジョンの魔力に介入する前からダンジョンの攻略を勝手に開始し、俺が進化している間にも凄まじい速度で攻略を続けていた。
メンツは【天空の城】を攻略した時と同じなので闇属性が相手でも早い早い。あっという間に攻略を進め、今慌てて居場所を探った限りではすでに90階近くを攻略しているようだ。
そして俺が感じた魔力は最深部から発生しているようである。流石に英霊達が気がついていないということはないはずだが・・・いや、確実に気がついているな。攻略速度が急激に跳ね上がった。
うーん、種族進化したおかげか一段と探知の精度が増してるな。ここからでも階層の構造どころか魔物まで手に取るようにわかるな。100階にはいつものようにドラゴンとその隠し部屋にツインヘッドのドラゴンがいるのは間違いない。
問題なのはそのボス部屋の中央に堂々と寝転んでいるような巨大な魔力の主だ。一応人型の存在のようだが一体何者だ?
そんなことを考えている間にアーク達が99階のボスを撃破した。流石に100階の謎の気配が相手でもあのメンツなら負けることはないとは思うが、このまま放置するのはまずいので俺はアークを目標に転移で飛んだ。
もはやナレベですら攻略してもらえないダンジョンさん




