表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
召喚騎士様は我が道を行く  作者: ガーネット
110/143

一の太刀

前回のあらすじ

 ・【暴風領域】攻略スタート

 ・桃落下

 『桃!』


 なんの前触れもなくフラッと崖から身を投げた俺の気配を察知したのだろう。一番近くにいたアークが叫ぶ声が聞こえる。


 「先に行ってていいぞー。」


 なおも落下しながらアークたちに声をかける。あいつらがきたら俺の獲物がなくなる。だいたい落ちると言っても俺だって【飛翔魔法】は持ってる。落ちて死ぬなんてことは俺にはありえない。


 アークの諦めたような顔が遠くなって見えなくなったので【空間魔法】のレビテーションでその場に留まる。


 「お、来た来た。」


 崖の上で察知した大きな気配は2つ。1つは崖の底に蠢く複数の大きな気配。そして2つ目が崖の上と崖の底の中間ぐらいで飛び回っている小型だが強い気配。


 小さい飛び回っている気配を魚群探知機みたいに捉えたのがちょうど俺が留まっているぐらいの高さの場所。ここで殺気をバラまけばそれに感化された魔物がやってくるってわけだ。


 日の光が届きにくいので見づらいが俺には【暗視】があるから大丈夫。魔物は飛んでいるっぽいが見えるのだろうか?


 見えたのは鷲のような魔物の群れ。風属性のダンジョンらしく翼には風が纏われている。魔物の詳細を【百科事典】で確認する。


 名前はカミカゼイーグル。風を利用した超高速飛行を得意とし、その翼に纏った風で敵を切り裂くのが基本攻撃。集団での狩りを得意とする。さらに直接攻撃が厳しいと判断すると集団で対象を囲い、風魔法を打ち込むそうだ。


 そしてその名前の最大の由来。それはカミカゼイーグルのスキル【特攻】にある。群れの1体でもやられると死なば諸共と言わんばかりに全魔力を攻撃力に振って捨身の攻撃を仕掛けてくるのだ。


 その威力は絶大でこちらのVITとMIDを半減した上でカミカゼイーグルの最大HPのレベル倍のダメージを与えるそうだ。


 カミカゼイーグルを狩るには一撃で群れの大半を殲滅するか特攻をうまく躱す必要がある。幸い特攻中は魔力を攻撃に全振りしているために耐久は紙。さらに風を利用できないので速度自体は凄まじく速いが攻撃は一直線のようだ。動体視力さえあればなんとかなるレベルらしい。


 さて、目の前にいる群れは50前後。風属性なので土属性の魔法が有効だが相手は飛んでいる。比較的弾速の遅い土属性の魔法は簡単に避けられてしまうだろう。


 「まずは手始めにこれでどうだ!獄炎!」


 一塊になっているのでそこ目掛けて獄炎を飛ばす。雑魚ならこれで殲滅も可能だ。しっかりとこの目で着弾を確認。しかし煙がすぐに吹き飛ばされ、中から出てきたのは無傷のカミカゼイーグル達。目を見る限り攻撃を受けて怒り狂っているようだ。


 「獄炎が届いてない?」


 思わぬ事態に目を細める。


 同時に風切り音がしたのでとっさに首を傾ける。わずかだが頬が切れて出血した。


 「なるほど。思っていたよりも風が鋭いな。俺の獄炎が届かなかったのも風が盾となって獄炎を吹き散らしたか」


 その1体の攻撃を皮切りに50はいる群れが一斉に攻撃を仕掛けてきた。


 俺は【見切り】【未来視】を同時発動する。これで1秒先の未来が見える。それに一定範囲内なら彼らの攻撃は俺には届かない。さらに背後からの攻撃も【空間把握】で確認できている。よほどのことがない限り今の俺に攻撃を当てることは不可能だ。


 そして武器は枇杷の木刀に変更する。


 俺がここで鍛えたいのは技術。空中という360°から攻撃が可能な状況で相手を殺さず往なし続ける。俺は攻撃を跳ね返すことはできても受け流す技術が不足している。今のところは英霊たちによるゴリ押しと多彩な魔法スキル、強力な武器によるアドバンテージがあるが所詮はゲーム。このまま俺だけが一人勝ちなんて状況が続くわけがない。


 それにレイや青龍寺、それに白といった強力なプレイヤーに召喚老の奴らと上には上がいる。向上心を捨てた瞬間にこのゲームで俺は死ぬ。俺はあの人の弟子としてこんなところで止まってられない。もっと強くならなければならない。


 風を纏ったカミカゼイーグルたちの無数の突撃をまずは武器を使わずに躱す。天と地を幾度となく入れ替え、空中で舞う。脳裏に浮かぶのは俺の舞なんかよりも遥かに洗練された英霊の舞。俺がこっぴどくやられたラージャの舞だ。


 おそらく【戦場に立つ獣王の舞】の本当の姿があのラージャの舞なのだろう。見るもの全てを魅了し、大地の魔力を我がものとして支配する力。同じことはできなくてもその美しさだけは少しでも近づけたい。


 さりとてここは空中。【重力魔法】の軽気功や【飛翔魔法】はカミカゼイーグルとは相性が悪い。なので自然と取れる手段はマジックシールドによる足場がメインだ。さらにそこに【空間魔法】のレビテーションや【無属性魔法】の魔力糸を臨機応変に使い分けて敵を翻弄する。


 思いの外レビテーションの使い勝手が良くない。完全に空中に静止することが可能だが全ての運動エネルギーがそこで0になってしまう。急激な反転などではそれはプラスに働くが、急降下からの反撃などでは1アクション多くなってしまう。今はいいがこれが殺し合いになると致命的な隙となる。今気づけてよかった。


 それにここまでくると魔物も賢くなってくる。転移は魔力を見切られているのか即座に潰されるか出現する瞬間を攻撃される。【瞬歩】はその効果範囲を見切られているのか背後に回っても躱されることも多々あった。


 やはり求められているのはスキルじゃない強さ。それこそ一歩単位の【瞬歩】や動きの緩急、キレ、勝負勘といったものが必要になってくるはずだ。


 躱すのはもうどうにもできる。これ以上ただ躱すだけなら時間の無駄だ。そう思った俺は木刀を抜く。


 【魔纏】をうっすらと発動して木刀の耐久性をあげる。そのまま突っ込んできたカミカゼイーグルを木刀に乗せるように滑らせて軌道を変えてやる。ちょうど前から4体が攻撃を仕掛けてきていたので木刀の回転を利用して2体ずつぶつけてやる。


 さらに上空と足元からそれぞれ風刃の魔法が放たれる。真正面からの攻撃は囮で本命はこっちか。上下から襲ってくる合計8本の風の刃を【空間把握】で捉える。流石に同時に放ってきたとはいえ、俺に着弾するまでに僅かだが差が生じる。


 それをギリギリまで引き寄せ、一歩の【瞬歩】で踏み込んでは戻るを繰り返して切り落とす。やはり【瞬歩】を使った踏み込みの方が攻撃力が上がるな。速度は力か。


 さてさて、同士討ちをさせたことで運悪く1体のカミカゼイーグルが死んだ。その瞬間、群れの雰囲気がガラリと変化した。【特攻】の開始だ。


 これまで以上の速度でカミカゼイーグルが【特攻】を仕掛けてくる。その速度はもはや【見切り】を以てしても対応が遅れるぐらいには速い。このまま受け身になったら確実に後手に回る。そう確信した俺は群れのど真ん中という死地に飛び込んだ。


 転移で移動したので周囲にいるカミカゼイーグル達の反応がほんの僅か遅れる。その隙を逃さず手の届く範囲にいる個体は先制攻撃で撃ち落とす。そのおかげで多少の余裕ができた。


 その間に木刀をもう一本作り出して二刀流にする。この乱戦で必要なのは威力ではなく手数。仮に一撃で仕留めることができなくても翼が傷めば鳥は飛べなくなる。これなら自爆も怖くない。


 さらにここまで戦ってきた中で気がついたことが1つ。こいつらは速さのある攻撃をするときに、一瞬だが胸を逸らす。まるで人間が水に入るときに大きく息を吸い込むように。


 360°カミカゼイーグルしかいなくても俺には【空間把握】で1体1体の区別ができる。流石に事細かな動きまでは判断できないが特攻を仕掛ける個体はその胸を逸らす動作と一緒に魔力も高まる。それぐらいは集中していれば判断可能だ。


 俺はその胸を逸らした瞬間の個体目掛けて【瞬歩】で接近し切り捨てる。さらにそのおまけとして攻撃していない方の刀で周囲をなぎ払う。仮に攻撃が当たらなかったとしても躱すためには空間が必要となるので集団が散る。


 魔法で一網打尽にするわけではなく刀で各個撃破するのだ。散らばっていようがまとまっていようがあまり関係ない。そこに行って切り刻むだけだ。


 しかし、一度散ったカミカゼイーグル達は俺の周囲を取り囲むのではなく、俺の目の前に集結した。そして一斉に魔力を高めて群れ全体で俺に特攻を仕掛けてきた。まるでこれが最後の攻撃と言わんばかりに。


 「へぇ、いいじゃない。受けて立とうか!」


 俺はニヤリと口元を歪ませ二刀を一刀にして構える。これが最終試験だ。今から凄まじい速度で俺に襲いかかるであろう一撃必殺の弾丸を一刀で全て斬り伏せることができれば俺の勝ち。負ければ死ぬ。


 求められるのはこれまで以上の正確さ、それに最小の動きの一撃で敵を仕留めること。まさに戦国最強の剣士の一人、塚原ト伝の単純にして究極の奥義とされた一ノ太刀の思想を体現することが求められるだろう。


 一意専心。ただ切ること以外の一切の思考をなくす。生きるとか死ぬとか関係ない。ただ俺は俺の目の前の存在を両断する。ただそれだけだ。


 半目になって全体を茫洋と見て見ない。ただ察知系のスキルは機能してるのでわかる。向かってくる風にそっと刃を降ろす。それだけで風は霧散して消えてゆく。


 俺はひたすらにその身に感じる風に持っている刀を振り下ろしていった。手には斬ったという感覚さえない。スルッと文字通り風でも斬っているかのように抵抗を感じない。


 どれぐらいたっただろうか。おそらく凄まじい速度で飛来してくる敵だったのでそれほど時間は経過してないとは思うが、極限状態、いわゆるゾーンに入っていたので何倍にも時間が長く感じた。


 察知系のスキルに反応がなくなりホッと一息をつく。その瞬間、色あせていた周囲の景色が色彩を取り戻し、世界が加速する。そしてどっと疲れが押し寄せてきた。


 「あー、疲れた。この下にまだ魔物がいるけどもう無理だな。俺が行くのはまたの機会にして・・・ルシファー、あとは頼んだ」


 あまりに疲れ果てた俺はルシファーを召喚して地底にいる魔物の掃討を頼む。俺の様子をちらりと見たルシファーは何か思わせぶりに口角をわずかに上げるとそのまま何も言わずに地底へと飛んで行った。


 ルシファーが消えてから10秒ほどで何かの断末魔のような恐ろしい叫び声があたりに響き渡り、1分後にはルシファーが戻ってきた。その手に無数の精霊結晶と素材をたんまり持って。


 お疲れ様と言って送還する。ちなみに地底にいた魔物はストームドラゴンという飛べないが風属性の魔力を纏う竜種の群れだったそうだ。100体以上いたらしいが数は数えてないとのこと。レベルは90だって。


 うん、やっぱりルシファーはチートだな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ