暴風領域
前回のあらすじ
・ラージャにコテンパンにやられたよ!
俺のHPが砕け散り、決闘が終了する。ラージャの魔法と攻撃で散々に荒らした大地も何事もなかったかのように元通りに戻っている。
『あはは〜、久々だからちょっと本気でやっちゃたけど大丈夫?』
「あ、あぁ。決闘システムはそれが終わればダメージは全て回復するからな。問題ない。」
『うちの団員は強いだろ?なぁ、桃。この俺が信頼する団員たちだぜ?一筋縄で行くわけねーだろ。』
「そうだなアーク。七つの大罪の恐ろしさ、思い知ったぜ」
『だろ?確かにラージャはそのままじゃ魔力はそれなりかもしれねぇが、この大地にいる限り最強だ。』
『そんな〜団長ほどじゃないよ?本気のフィニクスの方が強いし』
『当然です。ラージャが私に勝とうなど天地が逆さまになっても不可能です』
マジかぁ、フィニクスとは戦ったことないけどラージャよりも強いか。俺が勝てる英霊いないなぁ。まぁ、高々レベル100にも満たないで勝てるとは微塵も思ってないけど。
七つの大罪の戦闘力序列は今のところアーク≧フィニクス>ラージャか。レオーネも七つの大罪の仲間っていうか関係者だけど団員ではないみたいだしここは保留と。っているかレオーネは基本ヒーラーだしね。
「さて、休憩も十分にしたし【暴風領域】の攻略を始めるか。召喚、アルバセロ、ミリム!」
今回は風属性のダンジョンということでヴォートとユグドラはそのまま。有利属性を司どる英霊であるアルバセロとミリム。それから召喚しっぱなしになっていた七つの大罪のメンバー+レオーネという超豪華な布陣。もはや負ける要素が見当たらないね!
「それじゃあ、いつものように攻略開始ね。今回は階層型じゃなくてエリア型ダンジョンだからまとまって攻略するってよりはより中心に、より強い魔物がいる方に向かって攻略するから。それじゃあよろしく。」
いつものように先に行ってしまう英霊たちの背中を見ながら俺も一歩【暴風領域】へと足を踏み入れる。途端に全身に吹き付ける強い風。うーん、最初の最初で我が家の扇風機の最強並の風か。しかも一定じゃなくて狂ったように前後左右、四方八方から吹き付けてくる。
「うーん、【暴風領域】に恥じない風の狂いよう。これは遠距離攻撃は無理だね。」
そんなことを考えていたが、ちらりと奥の方を眺めてみると風なんてお構いなしにみんなバンバン遠距離攻撃で空飛ぶ敵を攻撃している。他にもヴォート、アルバセロ、アークは強風を物ともせず空を飛んで攻撃してるし、フィニクスらしい偉丈夫は斧剣の一撃でゴーレムを溶断している。
相変わらず俺の役目はマラソンと素材集め。今回は階層型じゃないのでみんな散らばるので【錬金術】と【魔法陣】【空間魔法】の3つで作れるようになったアイテムボックスを渡しておいた。これで多少は俺にも敵が回ってくるだろう。
そう思ったが、如何せん英霊たちの数が今回は多い。さらに攻撃範囲もかなり広い技を多く持っているので全然こっちまで敵が回ってこない。ちょっと遠目から見た感じでは1時間もしないで周囲の魔物のレベルは50を超えていた。
単純な道ではなく崖も多いのに凄まじい速度で進んで行きやがる・・・出番はどこだ。
出番がないので英霊たちの活躍を見てみよう。まずは我らが頼れる男ヴォート君と無口幼女ユグドラさんペア。ユグドラさんは世界樹の精霊なので直接は戦わないけどヴォートの持つ槍に宿る。
そうするとヴォートの全ステータスが格段に跳ね上がる。槍の一突きで100の魔物を穿ち、さらに魔法で1000の魔物を切り刻む。自身の周囲には常時風の結界を纏っており遠距離攻撃はもちろんのこと、近距離攻撃ですら軌道を変えられる。
さらにダンジョンの風は全て支配下と言わんばかりに吹き狂う暴風に乗って飛翔。空飛ぶ魔物すら狩っている。まさに一騎当千。六英雄としての力を見事に発揮している。
続いてアルバセロとミリム。こっちはもっとやばい。アルバセロは【飛翔魔法】を使いながら、ミリムはよくあるバトル漫画みたいにオーラみたいなのを身に纏って空中を飛んでいる。そしてそのまま2人で激突しては剣と魔法を交えている。
仲違いしているように見えるがそれとなく相手の死角にいる魔物に当たるように攻撃をしているので喧嘩するほどなんとやらという仲なのだろう。
2人の夫婦喧嘩に巻き込まれた魔物は数知れず。攻撃する間も無くその命を散らしている。
アークとレオーネ?飛んでよし!地上戦よし!魔法よし!の2人だぜ?無双以外の言葉があると思うか?アークは【獄炎】で辺りを殲滅するしレオーネはレオーネで魔物を分子レベルまで分解する聖なる光とかでボシュっと殲滅してた。怖い。
ここからが肝心のフィニクスとラージャだ。
ラージャは基本的な戦い方は俺と模擬戦をした時と変わらないみたいで弱い敵はそのまま高いステータスを武器に物理で殴って倒したし、土属性の魔法を使って倒していた。ラージャは俺と戦った時のような巨大な剣などではなく、人の頭大の岩を無数の散弾として放っていた。土魔法は質量があるので他の遠距離攻撃よりは風の影響を受けない。命中率はえぐい。
そして英霊の中でも異彩を放っていたのがフィニクスだ。太陽の騎士と呼ばれた伝説の騎士。その魔力がダンジョンを形成するほど生前の魔力は高い。
『この程度の実力で私の前に立つとは・・・自らの無力を悔いながら死になさい。』
フィニクスに攻撃を仕掛けた魔物は一切合切がなんの抵抗もできず灰となって燃え尽きる。フィニクスは太陽の騎士と呼ばれた英霊。火属性への親和性が異常なまでに高く、戦闘状態になると常にその身が燃えるような熱を帯びる。
その熱気は【暴風領域】の暴風すら揺るがすことは不可能。むしろフィニクスが放つ熱によって生じた上昇気流が暴風を侵食しているぐらいだ。
しかしフィニクスの真骨頂はそこではない。この男、死なないのだ。フィニクスが身に纏っている火属性の魔力は異常だ。その内包する力は俺の【魔纏】すら凌駕する。当然人の身がその熱量に耐えられるわけがない。戦闘状態に於いてフィニクスは常にHPが削れてゆく。
当然そんなことをしていればHPは0になる。しかしフィニクスはそこから復活するのだ。HPがゼロになった瞬間、その身が全て燃え尽きその灰の中より再びフィニクスは蘇るのだ。それも死ぬ前より強く、より強力な熱を帯びて。
『雑魚には少々もったいないですが、これ以上私の手を煩わせないで欲しいですね。神羅万象全てを消し去る鳳凰の羽ばたきを冥土の土産に見せて差し上げましょう。鳳凰天舞!』
フィニクスの持つ太陽の斧剣から大地・・・いや、時空すらも燃やし尽くすほどの凄まじい熱量を帯びた魔力の塊が魔物に向かって放たれた。
魔力の塊はフィニクスの意思の下で天を舞う鳳凰へと姿を変え、何者にも囚われることなく優雅に天空を羽ばたいた。後に残るのはその身を焦され、苦しむ間も無く死んでいった魔物たちの亡骸。
数瞬置いてドロップ品へと姿を変えてゆく、哀れな魔物の姿だけだった。
流石の俺もこれだけ圧倒的な力を見せつけられたら出番がどうとか言えなかった。そのまま英霊たちの後についてひたすらダンジョンを進む。
入り口からでは分からなかったが、どうやら【暴風領域】は標高の高い方へと進むと魔物と風が強くなるっぽい。幾度か崖を超えたところで現在の俺のレベルは66。周囲に出てくる魔物のレベルは70を超えた。
「そろそろこの辺で戦っておきたいな・・・」
そんな独り言を呟きながら英霊たちの後を追う。また崖に差し掛かったところで俺の【気配察知】が崖の下の方に強力な魔物が犇いているのを捉えた。
上空より飛来してきたワイバーンとミスリルゴーレム、それとリザードマンの大群に英霊たちが夢中になっている隙に、俺は崖から身を投げた。




