夢幻の森にて
前回のあらすじ
・夢幻の森に突入ー!
【夢幻の森】は冒険者のランクでAランク以上かつギルドからの信用がないと立ち入りができない場所だ。その理由は王都の財政を支えるレア素材の宝庫であるが故に素材の管理が非常に重要なためだ。
しかし、それと同時にこの森に生息する魔物がそれなりに強力であること、そしてその名前の理由にもなっているように非常に迷いやすいので生半可な腕ではこの森に入ると命を落とす。また、強力な魔法はこの森の生態系を破壊しかねないため主に近接格闘ができる冒険者しかこの森に入ることは許されていないのだ。
つまり獣系や虫系の魔物に有効な火属性の魔法が使えないためにAランク以上と言ってもそれなりに上位者しか立ち入ることのできないわりかし難易度の高いエリアである【夢幻の森】をヴォートはまるで整備された街道でも走るかのように駆けてゆく。
対する俺はいろいろスキルによる補正があるとは言っても森の民でかつ英霊であるヴォートには及ばない。ヴォートから遅れないようにするだけで精一杯だ。
それに対してヴォートは魔法を操り出てきた熊の魔物を粉砕し、蜘蛛の魔物を蹴散らす。そして挙げ句の果て、一瞬目の前から消えたかと思えば次の瞬間にはどこからか採取してきた希少価値の高い薬草や木の実などを手に持っていた。
俺はこのゲームで英霊と行動するとマラソンする運命にあるようだ。トレントが出てくるという中層を走り抜け、古代龍の魔力のせいで霧が常に立ち込める深層を駆け抜ける。
2時間ほどで霧が急に晴れた。どうやら深層を抜け最深部にたどり着いたようだ。これまでのように深い森というわけではない。むしろ適度に人の手が入って間引きとかされている、管理されているような森に雰囲気が似ている。
そして最深部に入った時から感じている視線。そしてヴォートが言ってた最深部に潜むナニカ。まぁ、感じる視線は確実にそのナニカだろうな。その視線を無視してさらに進む。するとどこから共なく視線の数が増加し、ヴォートを顔を見合わせて少し休憩を取るそぶりをしたところで大きく動いてきた。
「ヴォート、囲まれてるな?」
『そうみたいだね。でも最深部に潜む魔物にしては弱すぎるね』
確かにヴォートのいう通りこの森の最深部にいる魔物としては気配が弱すぎる。ゴブリン以上オーク未満ぐらいだろうか?
「「「「「タチサレ」」」」」
気配が弱いとは最深部に潜む魔物。なんか特別なスキルでもあるのではないかと警戒していたところに響いた声。
『だってよ?どうする?桃』
「いや、はいそうですかと言うわけねーだろ。だいたいこの先にある【暴風領域】が目的地なんだから」
『だよね〜。で、どうする?』
「もちろん、邪魔するならぶっ潰す。」
ヴォートに聞かれたので俺の意思表示も兼ねて全範囲に魔力を込めて言い放つ。魔力を込めた俺の言葉は威圧となってこちらを見ているモノたちに襲いかかるだろう。相手は人間の言葉を片言ながら話すナニカ。実力差がわかれば引いてくれるか?
「「「「「「ナラバ、ハイジョスル」」」」」」
『逆効果だったみたいだね。』
「そうだな。まぁ、いい。来るぞ!」
俺とヴォートはそれぞれ武器を手に取って襲来してくるであろうナニカに備える。近くの茂みがガサガサと大きく揺れ、飛び出してきたのは数多の獣人だった。
「『獣人?』」
俺とヴォートの声が重なる。この世界では獣人は珍しくない。俺たち来訪者も初期設定で選ぶことができるし、街の中でもちらほらと見かけることが出来る。もちろん奴隷や根無草の冒険者などではなく、きちんと働いておりそこに差別は全くない。
そもそも獣人にも英霊はいる。英霊と共に戦う召喚騎士が上位統治機構として存在しているこの国や周辺諸国では獣人どころか人種差別すらない。
当然獣人は見た目が少し人族と違うだけで知能に差はない。あっても個人差程度。さっきみたいにカタコトで喋る、しかもそれが複数人なんてことはありえない。
「見た目は獣人だけど中身は魔物かね?」
『多分ねー。そう考えないとこのチグハグさは説明できないよ。この森の最深部にいるような獣人がオークより弱いなんてありえないからね』
「だよなー。ま、襲いかかってくるなら容赦はいらないな」
変身能力だけでこの森で生きていられるとは思わない。他にも何か不利を覆す強力なスキルを持っているかもしれないので気を引き締める。ただ目的地はこの先なので短期決戦のために【魔纏】を発動する。
ヴォートもこれまでの清らかな魔力から一変して激烈な魔力へと変化し、臨戦態勢を整えた。
臨戦態勢となり魔力が撒き散らされる。ただでさえ弱い魔物だ。俺たちのような格上の存在が撒き散らす殺気と魔力は尋常ではない。
それこそゴブリンのような弱い魔物はそれだけで殺すことが可能なぐらいだ。今俺たちに向かってきている魔物はゴブリンよりは強いとはいえオークよりも弱い格下の魔物。
俺たちの威圧をモロに受け、それまでその身に纏っていた姿を変える魔法が解除されてしまった。その下から出てきたのはのっぺらぼうに全身黒タイツのような姿をした不思議な魔物だった
「「「「「「グ・・・ニゲロニゲロ!」」」」」
声帯がどこにあるかは不明だが、その魔物は自分たちの不利を悟ると悲鳴を上げて一瞬で逃げ出した。
「逃げるなら無理に殺そうとはしないが・・・いささか興醒めだな。」
『ま、そうだけど森が荒れるより良いんじゃないかな。』
一応【百科事典】先生に聞いてみたところミラージュドッペルと言う魔物だそうだ。極めて珍しい魔物らしくここ以外では生息地は確認されていないそうである。ちなみにここにミラージュドッペルがいると判明したのも俺たちが今回遭遇したからと書いてあった。
また、ミラージュドッペルが変身する相手についても記述があった。どうやらかの魔物たちは一番近くにある強者の遺物から感じ取れるわずかな魔力を感じ取り、その遺物の持ち主に近い姿に変身するそうだ。
「と言うことらしいんだけど、この森に一番近いのは王都でそこに獣人の英雄とか英霊の話は聞かなかった。幸か不幸か人族の逸話しか伝わってなかった。なのにあいつらは獣人に化けていた」
『つまり獣人の遺物がこの先にあるってことだね?行ってみる?』
「もちろん」
そんなわけでミラージュドッペルが逃げた方向に向けて駆け出す。多少時間が空いているとはいえ、気配察知の範囲にはまだ引っかかっている。そのままつかず離れずでついていくことにする。
しばらく森の中を進んでいるとやがてミラージュドッペルたちの動きが止まった。どうやら彼らの拠点についたようだな。
気配を消してゆっくりと近づく。彼らの拠点は想像するような貧相な村とかの規模ではなくただただ少し開けた場所になっているだけ。ただ変わっているのはその中央に巨大なハンマーが鎮座していることだけだ。
『桃、あのハンマーから強い魔力を感じる。僕たちの神器とまではいかないけどそこらの聖剣なんかよりもずっと強力だね。神器の中でもかなり上位に来るような代物だよ、あれ。』
「そんな強力な武器なのか。ってことは英霊が使っていたとしてもおかしくないな」
『あんな武器を使いこなせるなら確実に英霊だね。』
ヴォートのお墨付きももらったことだし、何かの縁だ。獣人の仲間はいなかったし召喚してみようかね。
「まずは邪魔なミラージュドッペルを無力化しますかね。ドルイド魔法:スリープクラウド」
一応レベル上げだけはしていた特殊系の魔法が多い【ドルイド魔法】を初実戦投入。魔法陣を遠隔起動してミラージュドッペルを一網打尽にする。逃げるような魔物だし、格下だし無理に殺す必要はないと思う。
さてさて、1時間ぐらいは目覚めないだろうし獣人の英霊様とご対面と行きましょうかね。
少し内容を書き直してたら更新が遅くなりましたー!




