エルドラとアバドン
前回のあらすじ
・桃VSリザードマン!
「まぁ、わかってたよ?でもこの階で先行されちゃったらもう追いつかないよね?」
英霊たちが消えた通路にポツンと佇む俺。ぼ、ぼ、ぼっちちゃうわ!ただ英霊たちに置いて行かれただけだい!
物悲しい一人芝居を早々に辞めて先に進むことにする。この階のみならずリザードマン系の魔物は通常のドロップに装備品が混じる。特に76階なんていう下層のリザードマンが身につけていた装備はそんじょそこらの冒険者の装備よりも質がいい。金になるので放置するわけにも行かず、集めるのにも一苦労だ。
もっと効率化できないものだろうか?このままじゃ他のダンジョンでも取り残される!
少し考える。インベントリへの収納は近づけば自動で行われる。具体的には半径1メートル以内にドロップアイテムがあれば自動回収されるシステムだ。このシステム自体を例えば半径3メートルとかに変えるのは不可能。
出来ることは俺の移動速度をあげるか引き寄せるかぐらいかな?移動速度を変更するのは【魔纏】を使えばいいだけなので後回し。引き寄せる系で実験開始だな。
まず初めに試すのはリザードマンたちを屠った水流操作。今回は引き寄せることが重要なので氷は無しだ。下層リザードマンの硬い鱗すら一切の抵抗なく切り裂いたあの水流だとドロップ品も木っ端微塵になる未来しか見えないからな。
結果としてはまぁまぁ。広さの問題もあるけどだいたい半径20メートルぐらいにあるドロップ品は引き寄せることができた。
「出来たけどなぁ。これ魔力消費が激しいんだよな」
おまけに既存の魔法にはないオリジナル魔法。制御の負担が他の魔法に比じゃない。【魔力掌握】があるから発動出来るが結構きつい。
「この方法はありっちゃありだけど別の方法も考えるか・・・」
【太陽の墓場】で素材を集めるのがめんどくさくなって【幻炎】のスキルを使って集められないかと試したがこれは不発に終わっていた。
「俺本体じゃないとダメってことか?ならこれはどうだ?」
手で拾い集めるわけじゃないけど、手が足りないなら手を増やせばいいじゃないと某マリーアントワネットもびっくりな発想が天から降ってきた。昨日読んだラノベの影響かな?
まぁ、流石に手を増やすスキルは持っていないがこれでどうだろうか?【無属性魔法】の魔力糸!【魔力掌握】でこれまで以上に緻密な操作が出来るようになっていた。もはや糸使いとして名を挙げられるんじゃね?ってぐらいにはうまく使える。
そんなわけで実験開始。5メートル先に落ちているドロップ品目掛けて魔力糸を伸ばしていく。半径1メートルで回収可能なら4メートル伸ばせばいいはずだが・・・
結論からいうと4メートルでは回収できなかった。その代わり魔力糸がドロップ品に触れた瞬間にインベントリへと収納が可能になった。
「なるほど、魔力糸なら触れるだけで回収が可能なのか。なら!」
俺を中心に無数の魔力糸を張り巡らせる。魔力糸そのものは魔力を対して消費しない。多少必要な距離が伸びても水流の魔法より全然MPの費用対効果が高い。
「あ!そうだ!」
そしてここでも閃き!決して昨日もらったコメントを使ったわけではない。断じて違う!
まず【魔力掌握】をフルに活用して水の支配を階層全てに広げる。支配完了。続いて【魔法陣】スキルの遠隔起動を行う。支配下においた場所ならどこでも発動が可能。この場合だと階層の水があるところならどこでも可能だ。そしてその魔法陣を経由して魔力糸を発動!
回収できたことを確認するためにログを表示していたが、魔法陣を経由して魔力糸を発動した瞬間に一気にログが更新された。
「よし!成功だ!」
最近は刻印ばっかりであんまり戦闘で使ってなかったけど【魔法陣】の可能性も広がるな。やっぱりどこかでスキルの検証は必要だな。次のワールドクエストが始まるまでにもう一回徹底的に見直すか
そんなことを考えていたらレベル上がった。
「やばい!悠長にしている時間はないぞ!」
77階から先はさっき確立したドロップアイテム回収方法でこれまでの5分の1にまで回収時間を短縮することができた。このままの勢いで駆け抜けよう!
そう思い頑張って駆け抜けてきたが俺が英霊たちの元にたどり着いたのは100階のボス、すなわちダンジョンマスターである海王龍リヴァイアサンがドロップ品へと姿を変え、例のアナウンスが流れた時だった。
あまりにも早すぎるダンジョン攻略にガックリと膝を落としている間に英霊たちはさも当たり前かのように隠し部屋へと突入した。
隠し部屋のボスは大海龍王ツインヘッドリヴァイアサン。・・・うん、使い回しかな?この程度なら英霊たちの敵ではないのでゆっくりと見学させてもらうとしよう。
そう思ってくつろいでいたのだが、なにやら英霊たちの間で会議が行われエルドラとアバドンの2人だけが隠しボスと対峙していた。
エルドラ『せっかくの機会ですので私たちの実力をお見せしておきたいと思いまして、先輩方に譲っていただきました』
アバドン『この程度の蜥蜴相手じゃちと物足りないけど、まぁ、御覧じろってことで』
エルドラ『私は右の首を頂くので邪魔しないでくださいね?』
アバドン『へっ、それはこっちのセリフだっつーの。貴様こそ俺の邪魔をするんじゃねぇぞ』
『『軍団召喚!!』』
エルドラとアバドンが同時に眷属を召喚する。彼らが召喚した眷属は全て同じ姿をしており、違うのは色だけ。どの個体も顔の部分にはヴェールがかかっているために見ることはできない。
エルドラの眷属は全身真っ白な純白の装備を身に纏っている。アバドンの眷属は全身真っ黒な漆黒の装備を纏っている。
『さぁ、我が眷属よ!誇り高き天使としての勇姿を桃様にお見せするのです!』
エルドラの勇ましい掛け声と共に天使軍団から一斉に魔法が放たれた。パッと見た感じではホーリーランスのようだが俺たちプレイヤーが使うそれとは威力に天と地ほどの差があるな。
龍系の魔物って魔法とか効きづらいイメージがあったけどその鱗をバリバリ砕きながら右の首にダメージを与えている。
『おいてめぇら!エルドラのやつに負けるんじゃねぇぞ!行け!突撃だ!』
一方でアバドンの眷属は魔法を放つことなく一斉に龍に向かって突撃して行った。流石に魔法のように一撃で鱗を砕くということは出来ていないが、数の暴力に任せた波状攻撃で確実にダメージを与えている。
『相変わらず野蛮な戦い方を』
『へっ、そっちは相変わらず腰の抜けた戦い方してやがるなぁ』
『『・・・』』
『いいでしょう。畜生程度の脳味噌しか持たない貴方でもわかるように優美華麗な戦い方というのを見せてあげましょう』
エルドラはアバドンにそれだけいうと自分はふわりと浮かび上がった。そして持っている剣を高々と掲げた。
その鋒に展開される巨大な魔法陣。これまでの天使たちより遥かに強い魔力が集まっている。
『千剣ノ終末』
魔法陣から無数の光の剣が降り注ぐ。その一撃一撃の秘める破壊の力はおぞましいほどのもので、もしこれがダンジョンではなく地上で放たれていれば文字通り人々は神の裁きによる終末と捉えるだろう。その死を振りまくエルドラの姿は恐ろしくも冷たい美しさがあった。
『なーにが優美華麗だよ。そんな狂った威力の魔法を放ちやがって。まぁいい、今度は俺の番だな。悪魔としての破壊衝動を全て攻撃に転嫁した質実剛健と謳われた俺たちの攻撃、その目に焼き付けやがれ!』
派手なエルドラの攻撃に目を奪われていたが改めて見るとアバドンの眷属たちの攻撃によってすでに鱗を粗方削がれ、しかもアバドンが攻撃しやすいように首筋をこちらに向けた状態で完璧に固定されている。
『ご苦労だったな。あとは俺に任せろ。秘剣・天断』
アバドンが持っていた剣を上段に構えたかと思えば俺の目ですら捉えられないほどの速度で振り下ろした。その剣の軌道上にはもちろん龍の首があったが一切の抵抗なく剣は振り下ろされた。
数瞬の沈黙の後、音もなく首が胴体から離れた。
左右の首を失っては流石の隠しボスと言えども生きていることは不可能。その巨体は次第にドロップへと姿を変えた。そして流れるアナウンス。
よし、これで【海底神殿】もクリアーだ!




