初戦闘!
前回のあらすじ
・ダンジョン攻略
・タイトルは正直すまんかったと思ってる
「はぁ、また置いていかれたか。」
フェルドたち5人が消え去った通路をぼんやりと眺める。流石にレベルがここまでくると俺のステータスでは急所への攻撃じゃない限り1撃で敵を屠ることなんて大魔法を使う以外出来ない。
それに対してフェルドたちはまだまだ余裕たっぷりだ。全く、今のあいつらの本当の実力はどれだけ高みにいるんだか。
はっきり言ってあいつら英霊の武技や魔法は完成されている。その完成された技を持って偉業を成し遂げ英霊となったのだから当たり前っちゃ当たり前だ。
英霊として召喚されると階級、すなわちステータス面では全盛期と比べれば大きく下がるがそれでも体や魂はその動きを覚えている。だからこそあれだけの力を発揮できるのだろう。
さらにそれに加えてうちの英霊たちは歴史を辿っていない。記憶はそのままに新しい可能性を模索している。そのせいで歴史上の活躍と比べれば弱くなることもあるかもしれないが、今のところ確実に強くなってそうだ。
ここまで俺がこのダンジョンでしたことと言えば入り口で力尽きたのと54階で【獄炎】を放っただけ。あとはひたすらダンジョンの中を地下へ地下へと歩いてきただけだ。なんて健康的で安全なエクササイズなんでしょうね!
街中で広告したら儲かるかな?『英霊が完全露払い!灼熱のダンジョンマラソン!健康で安全に脂肪を燃やしましょう』みたいな?
現実逃避はこれぐらいにして先に進むとしようか。魔物が消えたダンジョンをドロップアイテムを拾いながらダンジョンを歩く降る、歩く、降る。
「一体どこまで先に行ってるんだよ!」
流石に60階は超えてないだろうと思ったが俺が60階のボスと対面した時にはすでにドロップだった。悲しい。
ダンジョンなら隠し部屋で激レアアイテム無双だぜ!と思ってもダンジョンの地形を完璧に把握するチート斥候のアルバセロがいる時点でその夢は消える。だって60階のボス部屋に有った隠し部屋すら攻略されてるんだよ?
いつの間にか俺のレベリング予定階数を超えても魔物といまだに出会わない。もしかしたらバグかもしれないなーと心にもないことを思い精神を保つ。
そしてさらに嫌なことに気がついた。ただ歩いているだけなのに経験値がじわじわと上昇している。自分で倒した時よりは遅いが、それでも適正レベル外の魔物を倒した時よりもはるかに上昇効率がいい。
「これは、つまり、英霊が倒した分の経験値が俺に逆流してるってことだよなぁ」
英霊にレベルが存在するのかどうか不明だが少なくてもシステム上魔物を倒せば経験値が発生する。それが逆流するようになったってことは英霊にも経験値蓄積の概念はあり、それが満タンになったから俺に返ってくるようになったのか。
これでますます俺が戦う必要がなくなってしまった・・・もとい、英霊たちの単独先行に正当な理由がついてしまった事になる。これは危険だ・・・
流石にここらへんで追いつかねばまずいと思い【魔纏】を発動する。
「・・・っ!?」
これまでの感覚で魔纏ったが感覚が桁違いだ。まるで全てがスローモーションのように動きが遅い。まるで水の中にいるかのよう。
即座に思考が高速で回転する。原因はおそらく【魔力掌握】。このスキルを得たことで魔力操作以上に魔力に干渉しやすくなり、その結果として纏える魔力がより一層重厚に、そして緻密になったのだろう。
上昇率がこれまでの比じゃない。一歩、たった一歩踏み出しただけで転移のように景色が飛び、HPが削れる。過負荷に体が耐えられなくなったことによる自壊現象だ。
「やっぱり体が耐えられないか・・・。それなら負荷を減らすか?いや、この威力と速度を殺すのはもったいなさ過ぎる。ならどうするべきか、答えは1つ。常時回復しながら纏うか」
早速【聖炎】を自らに纏い、さらにその上から【魔纏】を発動させる。
「うん、これで少しは楽になったかな」
少し体を動かす。その度にHPは削れるがすぐに回復してゆく。これなら耐えられそうだ。
【魔纏】状態のままダンジョンを走る。飛躍的に上昇したステータスのおかげで一瞬にして階層を走破する。魔力を纏っているからか魔法の発動速度と効果範囲が桁違いに早く広い。そのおかげで広大なダンジョンでも迷わず走破することが出来ている。(なおここまでマラソンは継続中)
フェルドたちに追いついたのは70階のボスの直前。こいつらはここまで各階層の全ての魔物を殲滅してここにいるんだから恐ろしい。ちなみに追いつくまでにレベルが1つ上がった。
英霊たちは俺の【魔纏】を見て一瞬だけ目を細めた。やっぱりというべきかこのスキルは知っているようだ。まぁ、神となるほどの実力者たちだ。魔力を纏うなんて単純なことを思いつかないはずがない。むしろ呼吸をするように無意識で行っていてもおかしくないな。ということは当然リスクも知っているか。一瞬流れた剣呑な空気はそれが原因か?
「ようやく追いついた。俺のレベリングなんだからここのボスは俺がもらうぞ」
英霊たちは目を細めて何か言いたげだったが誰も言葉を発しない。渋々ではあるがボスは譲ってもらえそうだ。
「さてさてボスとご対面っと。」
扉の先には全身が炎に包まれた狼がいた。【百科事典】様に問い合わせたところ【炎狼】であると見たまんまの回答が返ってきた。
「この熱量だとすぐ蒸発するんだろうなぁ。ってことはアイテムばらまき戦法は使用不可。そんで水属性耐性に高速再生、さらには眷属生成とか厄介なスキルのオンパレードじゃねぇか」
マグマゴーレムみたいに薄鈍ではないからアイテムボックス戦法も無理。となると真正面から戦闘するしかないか。
英霊たちと話すためにいったん解除していた【魔纏】を再び発動。魔力を纏う。爆発的に跳ね上がったステータスそのままの勢いで炎狼に攻撃を仕掛ける。やるなら先手必勝。眷属とか再生とか関係なしに一瞬で終わらせてやる。
跳ね上がったステータスは一瞬にして俺と炎狼の距離をゼロにした。その速度を殺さずに攻撃へと転換するには突きの攻撃が一番だ。刀を水平に構えてそのまま突き刺しにかかる。ついでに【重力魔法】を自分に発動して重さを増加させる。速度と重さがエネルギーに変換されるのはこの世界も同じだ。
炎狼は俺の速度に全く反応出来ていなかった。普通の魔物は咆哮をあげるものだろうが一切その様子はなかった。それゆえに反応できてないと踏んだ。
刺さった。そのはずのに衝撃が一切なく俺の体はそのまま炎狼を突き抜けた。壁に激突する直前で【空間魔法】のレビテーションを発動しなければ確実に自傷ダメージで死んでいた。
驚いて一瞬思考が止まるが背筋が凍りつくような感覚がしてとっさにその場から離脱する。直後、俺の止まっていた場所に衝撃が走り地面に深い爪痕を残した。直撃はなんとか避けたものの追撃として熱波が襲いかかり少なくないダメージを負う。
さらにその場から離脱して俺を襲ってきたやつから距離をとる。そこには無傷の炎狼の姿があった。
「まさか見えていたのは幻で本体へ気配を殺して不意打ちとは随分汚い真似してくれるじゃん?」
おそらく見えていたのは眷属だと思う。しかも蜃気楼か炎で作った幻影に近い存在だ。それでいて熱によるダメージがあるのだから厄介な代物だ。
そして炎狼が何よりボスが部屋の中央にいるという俺たちの固定概念を逆手にとって囮を作成するという知能を持つボスだいうことが厄介だ。
「ま、そうこなくっちゃな」
しかし今の一撃で俺を仕留められなかった時点で炎狼に勝ち目はない。もう油断なんてしない。圧倒的な力でねじ伏せる。
【魔力掌握】で格段に魔法に関する能力が跳ね上がった。それは通常のスキルに置いても同じことが言える。これまであまり戦闘で直接使ってこなかった大規模魔法も簡単に使える。
炎狼は不意打ちが失敗に終わるや否や即座に体を反転させて短く吠えた。その瞬間、やつの足元からさっきの炎狼もどきが大量に湧いて出てきた。
「いくら強かろうが、いくら数が居ようが空間を切り裂く刃の前には無意味。立ちはだかるもの全てを切り裂け、亜空切断」
俺から放たれた不可視の魔力の刃が空間もろとも炎狼とその眷属たちを横一線に切り裂く。この魔法は空間魔法の1つで対象が存在している空間ごと切り裂くので防御不可能な必殺技だ。最もMP消費が激しすぎて連発できるものじゃなかった。
それに発動までにかなり長い時間を要していたためにこれまで使う機会がなかった。【魔力掌握】とそれによって強化された【魔纏】の2つが揃ってようやく戦闘で使えるレベルにまで引き上げることができた。
しかし、どんなに効率よく運用してもMP消費は尋常じゃない。現時点でMPはゼロに近い。
さて、炎狼だが上半身と下半身が真っ二つになってしまえば高速再生も無意味。一応残心はしていたが蘇ることなくドロップ品へと姿を変えた。
よし、勝利だ。流れるアナウンスを聞き流しながら俺は英霊たちの方へと歩いて行った。




