サブタイトルでネタバレになりそうなので今回は無しで
前回のあらすじ
・太陽の墓場攻略スタート!
50階のフロアボスを攻略して51階からはいよいよ戦闘開始だ!と考えていた過去の俺に一言。「馬鹿じゃねぇの?」
そう、高々レベル50を超えた程度で英霊たちが止まるわけがなかった。むしろ体が温まったとばかりにより一層動きの速度を上げ始めた。
これぐらいの階層になってくる頃には普通の冒険者はあまり見かけず精霊結晶の集まりの悪くなり始めるので「最短距離ではなく魔物を殲滅するぐらいのペースでいくよ」と宣言したのが悪かった。
50階の階段を降り51階にたどり着いた瞬間、英霊5人の姿が風と共に俺の横から消え去った。そして【魔力掌握】のおかげでかなり広くなった俺の探知範囲内にいる魔物が片っ端から瞬く間に反応を消してゆく。
「あ、そういえば英霊たちにレベルの表記はなかった。けど軽く手合わせしたり、戦闘の様子を見る限り俺よりも強いことは確かだ。現在の俺のレベルは前回確認したところだとその時の上限の60だった。そこから多少の経験値の蓄積はあったにせよレベルはまだ上がっていない。そのレベル60の俺のなんでもありの模擬戦でも英霊たちには届かない。・・・はぁ、つまり英霊たちはレベル60以上の強さがあるのか」
それならこの程度のレベル帯で躓くはずもない。俺でも相性を考えれば魔法1つで無双できるんだ。俺よりも幾度となく修羅場を潜り抜けて俺よりも遥かに優れた技量と俺よりも豊富な戦闘経験を持つ英霊たちだ。この程度庭を散歩するぐらい楽だろうなぁ。
「って!そんな悠長に考えている場合じゃなかった!いいかげん待ちやがれ!俺にも経験値寄越せー!」
51〜53階、生存する全ての魔物が消滅。かつ宝箱も回収済。
流石に階層全ての魔物を殲滅していたので時間がかかったのか54階ではたどり着くことが出来た。
『おう桃、ようやく追いついたか。』
54階への階段を降りるところでなぜか止まっていたフェルドたち。ようやく追いついた俺にフェルドが声をかけてきた。
「追いついたかじゃねぇよ。全く、全員して俺を置いてきやがって。」
『いや、道中の魔物は全て倒してきたぞ?わざわざ護衛する意味ないだろ?』
フェルドの言葉にうんうんと全員が頷いている。こいつら・・・目的忘れてやがるな?
「・・・はぁ、まぁいいや。で?なんでここに止まってるんだ?」
『ちょっと厄介な魔物がいるんだよ。別に敵自体はそんなに強くねぇんだけどな』
「ん?どういうことだ?」
『なんかのスキルの効果なのか直接は殺せない。そして自分が死ぬのと引き換えに強力な毒ガスを吐き散らす魔物だ。しかもその爆発は周囲の魔物に伝播するんだよ。』
『要するに1体でも倒すとこの階層全ての魔物が誘爆する可能性があるわけなのよ。かなり強力な毒ガス付きでね』
フェルドの説明をルキナが補足してくれる。それにしても踏ん張り自爆に毒ガス付きとな?なかなか最悪な組み合わせじゃない?
「毒ガスだろ?俺には【全耐性】があるから平気じゃないか?万が一耐性を貫通してきてもスキルを鍛えられるし、回復手段は無数にあるだろ?」
『それがね、この魔物の放つ毒ガスは耐性スキルが通用しないのよ。私の部下にも毒耐性を持っていた部下が居てね、その部下が勢いよく攻撃したけど急に倒れてそのまま死んだのよ。』
「ふーん、そんな強力な毒なのか。」
どんな魔物かだけ見てみるか。英霊たちの制止を振り切って階段を降りる。魔物を視界に入れて【百科事典】さんに聞いてみる。
ソーフルロック
【根性】【誘爆】【ガス生成】
【百科事典】さんの情報はこれだけだった。見た目はドラ◯エのばくだんい◯みたいなやつだ。ソーフルねぇ。
いったん英霊たちのところに戻る。
「ルキナ、その部下って苦しむ様子もなくそのまま息絶えたんじゃないか?」
『あら?よく知ってるわね。』
「なるほど・・・それともう1つ、この魔物って本来は火山とかの近くに生息してるんじゃないか?」
『えぇ、その通りよ」
これでほぼ確定かな?ソーフルってカタカナで書かれているからすぐにはわからなかったが英語にするとsulfur。すなわち硫黄だ。で、火山とガスといえば火山ガスは簡単に想像できる。その中で硫黄といえば二酸化硫黄だろうなぁ。肺の機能を止めるからなぁ毒ガス問えば毒ガスだけど【毒耐性】のスキルじゃ防げないかぁ。
さてさてどうしましょうかね。一番手取り早いのはヴォートを呼んで一緒に常に風の幕を張っておけばガス自体は完全に防げる。でも爆発が怖いなぁ。
次点ではクリスタとレインによる津波と氷。でも範囲が広大でどうしても時間差ができる。うーん、どうしよう?
何かいい案はないものかとステータス欄をみるも現時点では二酸化硫黄をどうこうする手段はなし。強いてあげるなら【錬金術】だがガス状の二酸化硫黄に触れることは出来ないしそもそも危険だ。
「あ、いや待てよ?これなら攻略できるか?」
打つ手なしで回復を中心にゴリ押しで行こうと思ったがステータス欄を見て思い出した。あるスキルの本質を。
「召喚、アーク、アバドン」
俺は追加で2人の英霊を召喚する。この2人の共通点は【獄炎】のスキルを使えることだ。
「アーク、アバドン。お前らが使う【獄炎】で敵もろとも毒ガスを一切合切を燃やし尽くすことは可能か?」
『獄炎でか?当たり前だろ。獄炎はありとあらゆるものを燃やし尽くす煉獄の炎だ。そう簡単に防げるものじゃない。ましてやこの階層程度の魔物が発する毒ガスなんてなんの障壁にもなんねぇぜ』
「アークはこう言ってるが、アバドンお前はどう思う?」
『アーク様のおっしゃる通りかと。ですが俺・・・いえ、私程度の獄炎ですといささか不安が』
「・・・ほぅ、出来ないと言うのか?ならお前を推薦したルシファーが間違いだったと言うわけか。」
『ヒィ!?い、いえ!滅相もございません!出来ます!』
「初めからそう言いやがれ。まぁいい、出来ると言うのならやるぞ。アーク、アバドン」
『『おう(はい)!』』
2人を引き連れて階段を降りる。そしてそれぞれが思いも思いの形で魔力を高める。それを横目で見ながらさっきのアバドンの言葉を思い出す。
確かにアバドンはアークのことをアーク様と言っていた。それにアークの【獄炎】とアバドンの【獄炎】では威力に差がある?
アークは確か魔神という種族だったはずだ。そしてアバドンは悪魔の1柱の名前だったはず。ってことは魔神であるアークの方が格上なのか?英霊としての階級はアバドンの方が上なはずなんだが・・・
もしかしたら種族値みたいな隠しステータスがあるのかもしれないな。そのせいで階級が1つ違うぐらいなら強さが逆転するのかもしれない。まぁ、これは後々検討すればいいか。
『桃、俺はいつでもいいぜ』
『召喚主様、準備が整いました』
「よし、なら一気にいくぜ!」
「『『合技!獄炎ノ三重奏』』」
3人から放たれた【獄炎】は一瞬にして階層全てを埋め尽くした。その熱量はダンジョンそのものの熱気をはるかに上回り、ダンジョンの内壁すら溶かしている。
それだけの熱量に高々54階レベルの魔物が耐えられるはずもない。一瞬にしてHPが消し飛ばされる。本来ならばここでスキルが発動してHPが1残るはず。そしてその残ったHPを犠牲に自爆して周囲に毒ガスを撒き散らす。それが本来の役割だったはず。
しかし【獄炎】には腐食の追加効果が存在していた。スキルでわずかに残ったHPを無情に腐食の追加効果が消し去ってゆく。これが通常の毒などであれば耐えるのだが、今回は煉獄の炎による腐食。ソーフルロックにしてみれば相手が悪すぎた。
俺としては毒ガスを燃やし尽くすつもりだった攻撃が思わぬ副産物を得た。
こうしてたった1撃で54階の魔物は全て消え去ったのであった。
ちなみに、その後アークとアバドンを送還している間にフェルドたち見学組がソーフルロックが消えたのを感知したのか凄まじい速度で俺の横を駆け抜け、またしても出遅れたとだけ記しておこう。




