第三十一話『新昔話・桃太郎 6』
どうも!!
ギリギリ、3日連続投稿です。
今回で、桃太郎の過去話はラストです!
どうやって桃太郎は世界を棄てたのか?
是非最後まで読んでいってください!!
「ここが………月か…………」
俺は力なく呟く。
親を殺され、友を殺され、村人を殺し、俺はようやく辿り着いた。
これで俺は……、誓いを果たせる。
「これはこれは…、地球の民が一体何の用かな…?」
「!?」
突如後ろからの声を聞き、俺は慌てて柄に手を置く。
誰だこの男……?
「待て待て、戦う気はない。脅かせてすまなかったね、地球の人間よ。いや、地球の人、だったかな?」
「………、地球とは何処の事だ?」
口ぶりからして、俺が住んでいる星の事か…?
それに、何故俺が人へ至っている事が分かったんだ……?
俺がそう聞くと、白髪の男は驚いた様な顔をし、笑いながら答えた。
「そうか、そうか、地球の民の文明はまだそこまで至っていないか…。
ふふふ、地球というのは君達の住む星の名だ。
そして最初の問いだ。君は何をしに来たのかな、少年?」
「……お爺様の代わりに、かぐや姉さんに刀を届けに来た。知っているなら案内してほしい」
白髪の男は、俺が地球について聞いた時以上に目を見開いて、驚いている。
「!!少年、名はなんという」
「…………、太郎だ」
白髪の男が俺の名を聞くと、大きな声で笑い始めた。
「そうか君が、君なのか!!
太郎、君を案内しよう。かぐやの居る所にね」
「姉さんを知っているのか!」
「あぁ知っている、君を待っていたんだ。
まったく、来るなら船で来てほしかった。単身で乗り込んでくるなんて、敵だとおもうじゃないか。
さぁこっちだ。付いてきたまえ」
そう言って、男は歩いて行ってしまった。
「ちょっと待て!おい!」
勝手に行くな!
………仕方ない、この男についてくか。
・・
・
月って、何も無いんだな……。
体も軽くて上手く動けないし、不思議な所だ。
白髪の男の後ろを歩きながら、俺はそんな事を考えていた。
「何も無い、か……確かに、今はそうだね」
「え……、そうなのか?」
というか、何で俺の考えている事が分かったんだ?
さっきから、俺が言ってないことまで何でわかるんだ?
「あぁ、以前は緑豊かな星だった。
君が育った地球と同じぐらいにはね………」
「何でそうなったか、聞いても……良いか?」
「勿論。でもその前に、君の誓いを果たすべきだ」
男はそう言って立ち止まり、俺に正面を見せた。
「………………え」
着いた場所を見て、その意味をすぐに理解出来なかった。
「何を呆けた顔をしている。君が刀を届ける相手は、ここに居る」
「いや、だって………墓じゃないか………これ」
かぐや姉さんは死んだって事か……?
「そうだよ、月の民は滅びた。
この世界で現在も生きている月の民は1人として居ない。皆、死んでしまったよ」
「死んだ……ならお前は何なんだよ。月の民でないなら………」
「私は月そのもの、月の概念だ」
「は………?」
概念……?
「そうだ。君が思った事を口にする者で良かった。お陰で、心の声だけでも十分に会話が出来た」
「嘘………だろ……」
でも、そう考えれば説明がつく。
姉さんも、死んでいた…………。
「遥か昔、月の民は世界の怒りを買い、星を半分焼かれた。
それが、今君達が見ている月の表面だ」
俺の横に立っていた男は、急に語りだした。
「何の話だ……?」
「君が聞いたんだろう?この星がこうなった訳だ。
そんな中、私は月の民を助けたくてね。なんとか助けた1人の赤ん坊を地球へ送った。それが"かぐや"だ」
「!!」
お爺様が竹を斬った時に現れたのは、それが理由だったのか!!
「でも月の民は、また世界の怒りを買った。
私が助け、地球で育った"かぐや"を、月へ連れ戻してしまった。
それが今の月の現状だ。二度も世界の怒りを買い、民は滅びた」
「それで、かぐや姉さんも焼かれたのか……」
「いや、順序が違う。かぐやが自殺し、世界が怒ったのさ」
「自殺…?何で、いつだ!」
それって、もしかして…………。
「月へ来てすぐ、かぐやは天の羽衣の呪いを打ち破った。
そして感情に押し潰され、自ら死を選んだ」
「そんな………」
なら、お爺様とお婆様は何の為に…………。
俺は何の為に、ここに来たんだ…………。
「問題無い。君が誓いを受け取った様に、私もかぐやから、誓いを受け取った。
かぐやの代わりに、私がここで、その刀を受け取ろう」
月の概念であるという男は、手をこちらに開き、地面に崩れた俺にそう言った。
その顔は俺と同じ様な、いや、それ以上に悲しそうな、でもどこか嬉しそうな、そんな顔をしていた。
「………………分かった」
俺は腰に差していた刀を手に取り、その手に届けた。
これで……、俺のやるべき事は終わった………。
「確かに、刀は受け取った。
ではこの刀を、私から君に授けよう」
男がそう言うと、刀が俺のもとに戻された。
え、何で……?
「何故…?これは姉さんの物じゃ……」
「違うんだ。だからこれで良い。
君がこの刀を貰いなさい」
「違う……」
「この刀は、かぐやが地球で愛した男に贈りたかった刀なんだよ。
君のお爺さんは、どうすればいいか分からず、かぐやに届けようとしていたけどね」
「そんな……、良いのか……?」
この刀は今まで腰に差していたが、使った事はない。
手入れもしっかりしていたから、まったく錆びていないぞ………?
俺の問いに、答えは返ってこない。
男はただ頷き、笑顔のままだ。
「…………ありがとう、大事にする」
「うん、そうすると良い。
さてさて、君の誓いも終わったところで、私からの本題だ」
男がそう言うと、纏う雰囲気ががらりと変わった。
本題?俺に何かしてほしい事があるのか…?
「んー、当たらずとも遠からずと言ったところかな。
正確には、君に選んでほしい事があるんだ」
「さっきから何を言ってるんだ?
俺に何を選べって………」
「世界を棄てるか棄てないか、という事をだよ。
世界は再び怒って、また、星が焼かれる。そして標的になった星は………」
まさか……!!
男の言い回しに、俺の中で悪い予感が浮かんだ。
「まさか地球が…!!!」
「ご明察。地球にドラゴンが現れた。すぐに対処しなければ、第2の月が誕生する」
男が、俺の悪い予感を肯定する。
「すぐに助けに行かなきゃ!!!」
「待て」
急いで帰ろうとする俺の肩を男が掴み、俺を静止させる。
「待てるか!今俺が行かなきゃ、地球が今の月みたいになるんだろ!!そんなの見逃す訳」
「分かっている、だからこそだ。
落ち着いて私の話を聞け」
「………分かったよ。だが手短にな」
「それでいい。
良いか太郎、かぐやと同様に、君は世界に好かれている。
それ故に、世界が怒った理由は、君の周りにあった筈だ」
「……!!」
「心当たりがあるんだな……。
なら尚更、改めて問うぞ!君は、それを救いたいか?」
「…………」
答えが…、出なかった………。
お爺様とお婆様を殺した人間達を………。
俺の仲間であり友である、犬・猿・キジを殺した人間を………。
「答えが出ないなら、君は私の出す選択肢を選ぶべきだ」
「お前の選択肢……」
「そう、世界を棄てるか、棄てないか。そんな二択だ」
「世界を棄てられるのか?」
そんな事、どうやってやるんだ……?
「少し伝があってね、君を女神の所へ送る。そうすれば、後は女神がやってくれる」
「なるほど……、でも良いのか?そんな事して」
「良いわけ無いだろ。星は世界に従うもの、私が言っている事は、世界への反逆だ。
英雄は辛いものだ。せめて助け舟の一つや二つ、あっても良いと私は思うんだ。
ま、そんな私が治める星だから、月は滅びたんだけどね」
そう言って、男が大笑いする。
「いや…、その冗談笑えないから……」
でも、選択肢が二つあるのは始めてかもしれない。
英雄として生き続けるか、英雄である事を捨てて世界を棄てるか。
「ははは、でもどうする?
考えが変わったんじゃないかい?」
「……あぁ、俺は……、助けたいと思えない………」
どんなに考え直しても、助けたいと思えない。
だって、今現れたドラゴンを退治したとしても、鬼を退治した時と同じ様になるに決まってる。
そんな奴らを、俺は助けたいと思えない。
「……そうかい、分かったよ。
それじゃあ最後の問いだ。一度世界を棄てれば、もう二度と同じ世界には干渉できない。それでも棄てたいかい?」
「……お前、どっちの味方なんだよ………」
棄ててほしいのか、そんじゃないのか、はっきりしろよ……。
「君の味方さ。君に後悔してほしくないんだよ。桃太郎」
「!?……なら、かぐや姉さんをお爺様とお婆様に会わせたい」
俺の教えていない呼び名で呼ばれ、少し驚いたが、世界を棄てる前に3人を会わせたい。
「そこは言われなくてもそうするつもりさ。
私はいずれ、地球へ落ちる。その時かぐやの魂を、地球にいるお爺さんとお婆さんに届ける。
これは、私に課せられた最後の役目だ」
男の言葉は、決してふざけて言っているものではないと、見ただけで分かる程の決意が、その瞳には宿っていた。
「分かった。お願いするよ、ありがとう」
「あぁ……。こちらこそ、月まで来てくれてありがとう、お陰で世界を欺ける」
男はそう言って、パチンッ!と指を鳴らした。
その音が辺りに響いたと思ったら、すぐ側に、白い光を放つ穴が表れた。
「これは……?」
「説明は出来ない。だが、この先に居る女神に頼めば、君は世界棄てられる」
「この先………」
ここからは何も見えない。
本当に中に入れば、女神という存在は居るのだろうか…?
でも、もう迷わない。
俺はこの世界を棄てる。
「あぁ、頑張るんだぞ。
世界は私が説得する、安心して行くと良い」
「うん、じゃあ、さよなら」
そう言って俺は白い穴に入っていった。
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やっぱり何も居ない……。
本当に、この先に居るのだろうか……。
そう思いながら、俺はよく分からない空間を歩き続ける。
「気に入ったよ君、ボクと約束しないかい?」
歩いている最中、突然聞こえたその声は、世界の声に似ていて、でもそれにしては不気味で、何故か温かい声だった。
ここまで読んでくれた方、ありがとうございます。
ようやく桃太郎の過去話が終わりました。
第二章も残り1~2話です。
次回は皆でワイワイ楽しくしましょう。
水曜日の19時に投稿します。
お楽しみに!!