第四十二話『3人の異世界人』
「いや、何で俺達、飯を食ってんの?」
冒険者のような格好をした異世界人の、そんな言葉が食堂に響く。
「何でってそりゃ、新しい奴が来たら歓迎会だろ。時間的にもう昼だし」
新入りが来たらとりあえず飯だ。桃太郎の時もそうだったしな。
「いやそうではなくて!俺達はあんた達を殺しに来たんだぞ!?何で普通に傷を治して一緒飯を食ってんだ!!」
この異世界人の言う通り、ピエロのショー後、俺はこいつらの傷を治し、戻ってきたナビィと合流してすぐに、そのままこの食堂まで案内した。
「それもそうだな、自己紹介がまだだった。俺は四季、訳あって家名しか憶えてない。しっかり魔王だが、気軽に四季ってよんで良いぞ!」
確かにそうだ。名前も知らない奴らに囲まれてる状況じゃ美味しい食事なんて出来ないもんだ。
「だからそうじゃなくて………」
「無駄だ、栄紅。こういう手合いには話が通じると思わない方が良い。言葉が通じていても根本的に私達とは基準がずれている」
続けて言い返そうとする冒険者風の異世界人をそう言って止めたのは、隣に座っていた赤いスーパーヒーローのような格好をしていた異世界人だ。
素顔は黒髪に青い瞳の青年で、俺が魔王になる前の世界にいる幼稚園の先生のようなエプロンをつけた格好をしている…。
「はぁ、そうかよ……、もういいや。俺の名は栄紅、本来の名教えられない。アルカ王国のA級魔法士No.6、付与魔法が得意な魔法士だ」
ガックシと一度首を落とすと、冒険者風の異世界人改め、栄紅は自己紹介をした。
「同じくアルカ王国の元A級魔法士No.0、英 雄鬼だ。今は国立幼稚園はと組の担任をしている。得意な魔法はない、一応全て魔法が使える。以上だ」
それに続けて、赤いスーパーヒーローの格好をしていた異世界人、雄鬼が自己紹介をした。
「うんうん。栄紅と雄鬼ね………」
ちっ……、やっぱり魔王眼弾かれた。
まぁ本来の名前が違うのは間違いないのは分かったから、これ以上警戒されるのも困るし今はこのくらいにするか……。本来名前が教えられないのは魔法使いだからか?いや、もしかしたら特殊能力関係か?
というか全ての魔法が使える!?
でも確かに……、魔法の適性に穴が無かった………どうりで全属性攻撃とか出来た訳だ………。
「それで?あんたの名前は何て言うんだ?」
そして俺はナビィさんの連れてきた3人目の異世界人に声を掛ける。
英紅の左隣に座る男。
格好は、3人の中で一番魔法使いっぽい白いスーツみたいなローブに丸い片眼鏡。瞳は赤と青のオッドアイ、髪は灰色。
他の2人と念話はしているようだし、仲間なんだろうが……合流してから今まで一度も声を発していない。
魔王眼ではよく視れないし、とりあえず名前だけでも教えて欲しいんだが………。
「……………はぁ……残念ながら、まだその時ではありません。申し訳ありませんが、私について教えられるのは、アルカ王国のA級魔法士である事、そしてそのNo.10である事のみです。呼ぶための名前が必要でしたら、No.10とお呼びください」
「そうか、よろしくなNo.10……」
はい、3人揃ってしっかり名前教えてくれないというわけね………。おじさん泣いて良い?
なんなの?ブームなの?ピエロからずっと魔王眼がちゃんと機能する異世界人に会えて無いんだけど……………。
敵意が一切無いから見逃してるけど、No.10なんて、今もずっと何かの魔法を展開してるし………。
全員クセが強すぎる………。
「まぁとにかく、みんなで飯を食おう!美味しいもん食べて仲良くやってこう!」
もうやけ食いだ。
美味しい飯を食べて忘れよう!
などと思っていると、
「御主人様、もう残り少ないです。はやく料理を作りに厨房へ行ってください」
俺に向かってそう言うと、ナビィさんは満面の笑みで微笑む。
「え、いや、まだ俺は食って………………はい、分かりましたよ…………………」
一瞬、俺は言い返そうとナビィさんを見て、すぐに止める。
これは駄目だ。大人しく従わないと1秒後にひき肉にされるパターンだ…。
仕方なく俺は席を立ち、厨房に向かう。
〈やっぱり………、マスターってださい〉
そうして歩く俺に、居眠りしていたマオの、そんな念話が聞こえる。
うるせぇ…、今さら起きやがって………、いつも遅いんだよ………。
ここまで読んでくれた方、ありがとうございます。
あと4~5話くらいは、毎週投稿出来ると思います。
ようやく異世界人の正体が分かりました。
次回もお話回です。魔王、がんばれ~!