98話 いつでもどこでも特訓!
「つまり、ここの式を組み込むことによって、魔力の伝達効率が2倍となります。これが身体能力強化魔法の基礎構造なので……」
壇上でローラ先生が魔法についての解説をしている。
そんな講義を聞きながら、生徒のみんなは真剣な顔で黒板を見たり、ノートに式を書き写したりしている。
俺はというと……
「うーん」
先生の授業を受けて、難しい顔をしていた。
こんなことを言うのはなんだけど……
魔法が衰退しているせいで、授業のレベルが低く感じた。
今、ローラ先生が魔法の式を書いているが……
あれは色々と間違っている。
ところどころ、歪なところがあり、本来の魔法の効果を妨げてしまっている。
正しい式ならば、魔力の伝達効率は5倍になるはずだ。
ただ、ローラ先生の授業が悪いということはない。
やや足りないところはあるものの……
基礎はしっかりとしている。
真面目に授業を受けて、日々の研鑽を忘れなければ一人前の魔法使いになれるだろう。
でも、俺達が目指すところはもっと上だ。
魔神と戦えるだけの力を得るところだ。
「……なにか方法を考えないといけないな」
みんなのことはきちんと面倒をみるものの……
俺自身の面倒もみないといけない。
さらに強くなるためにはどうすればいいか?
俺は授業中、あれこれと考えて……
その後、ローラ先生に授業に集中しなさいと怒られてしまうのだった。
――――――――――
俺自身はどうやって強くなるか?
その答えはまだ見つかっていないものの……
それはそれ。
これはこれ。
とりあえず、今はみんなに特訓をつけないといけない。
「というわけで、今日から本格的に特訓をしていこうと思う」
一日の授業が始まる前にみんなを集めた。
ただ、みんな不思議そうな顔をしていた。
「あのー……お兄ちゃん? もしかして、これから特訓を?」
「ああ、そうなるかな」
「でも、この後はすぐに授業ですよ? もしかして、授業をサボっちゃうんですか?」
「そんなことはしないさ。そういうのは不良生徒のすることだ。それに、授業は授業で得られるものがあるからな」
今のみんなにとって、言い方は悪いかもしれないが、学院の授業はちょうどいいレベルの内容だ。
全科目をマスターすることで、基礎をしっかりと学ぶことができるだろう。
まずは授業をきちんと受けてもらうことで基礎を学んで……
その後、今の時代にはない授業……つまり、俺のオリジナルの講義を受けてもらい、一段階、上に進んでもらう。
それが今の計画だ。
まずはそのために、基礎魔力の向上を図らなければいけない。
そのための訓練をこれからする……というわけだ。
……そんな説明をみんなにした。
「基礎魔力の向上……なるほど、話は理解できたわ。でも、軽く言うけど、簡単にできるものなのかしら?」
「アリーシャの疑問はもっともだな。簡単にできないけど、簡単にできる」
「えっと……禅問答?」
「まあ、こればかりは実際に体験してもらうしかないか。じゃあ……シャルロッテ。ちょっとこっちに来てくれないか?」
「ええ、いいわよ」
シャルロッテが俺の前に立つ。
これからなにが始まるのかと、ちょっとわくわくした様子だった。
「これからシャルロッテにとある魔法……というか、呪いをかけるから」
「呪い!?」
突然飛び出した不吉な言葉に、シャルロッテが驚いた。
他のみんなも驚いていた。
「ちょっと、レン! あんた、あたしに恨みでもあるわけ?」
「うーん、それなりに」
「あるの!?」
「冗談だ。特にそんなものはないよ」
「なら、なんで呪いをかけられなくちゃいけないのよ」
「それこそが特訓になるんだよ」
これからシャルロッテにかける呪いは、『魔力減衰』という、常に魔力を消費し続けるというものだ。
この呪い、その効力だけを聞くと厄介なものとしか思えないのだけど……
実は、意外な副次効果がある。
魔力を消費し続けるということは、常に魔法を使い続けているのと同じようなもの。
筋力トレーニングでいうと、体を動かしっぱなしにしているのと同じだ。
最初は魔力が枯渇してしまい、辛い思いをすることになるだろうけど……
それでも何日も続けていると、体が呪いに対抗しようと膨大な魔力を生成しはじめる。
「なるほど……そうやって基礎魔力の向上を試みる、っていうわけね」
俺の説明を聞いたシャルロッテは納得してくれたらしく、落ち着いてくれた。
「この呪いに特に名前はないんだけど……まあ、名付けるとしたら、魔力養成ギプスってところかな」
「名前がダサいわ」
「センスないわね」
「お兄ちゃん、それはどうかと思います……」
シャルロッテだけではなくて、アリーシャとエリゼからも口撃されてしまう。
ショックだった。
「あ、あのあの……私はその、とてもいい名前だと……思いますよ?」
「フィア……口ごもりながらフォローされても効果ないよ……」
「ぷくくくっ……あの賢者が……くくくっ」
メルは一人、楽しそうに笑っていた。
覚えていろよ、こんちくしょう。
「それじゃあ、順番に魔法をかけていくからな」
ちなみに、この呪いは闇属性に属している。
エル師匠のおかげで使えるようになった魔法だ。
エル師匠……どうしてるかなあ?
元気でやっているかなあ?
ふとエル師匠のことを考えて懐かしくなり、会いたいという思いが増した。
「お兄ちゃん? どうしたんですか?」
「……いや、なんでもない。それじゃあ、魔法をかけるぞ」
俺は郷愁にも似た思いを振り払い、みんなに魔法をかけた。




