96話 意外と乗り気でした
翌日の放課後。
俺、エリゼ、アリーシャ、フィア、シャルロッテ、メルが寮の部屋に集まっていた。
色々と考えたのだけど、協力を求めるのならこのメンバー以外にいないと思う。
エリゼは昔は体が弱かったけれど、エリクサーを飲んだおかげか、今はやたらと頑丈になってしまった。
あと、強靭になってしまった。
鍛えればとんでもなく化けるかもしれない。
あと……万が一の事態に備えて、強くなっていてほしい。
アリーシャは優れた剣技と、魔法剣という隠し玉がある。
それらを突きつめて鍛えれば、国でもトップクラスの剣士になれるかもしれない。
フィアは、今は飛び抜けたものは感じられないが……
努力の才能は人一倍あると思う。
やや気弱なところはあるものの、でも、物事を投げ出すことは一度もなくて……
もしかしたら、みんなの中で一番強くなれるかもしれない。
それだけの可能性を秘めていると思う。
シャルロッテは、いわずもがな。
魔法が衰退しているこの時代、かなりの実力を持っている。
母親譲りの遅延魔法はかなりのものだ。
一緒に訓練をすれば、いずれ、クラリッサさんのように……
いや。
クラリッサさんを超えてしまうかもしれない。
メルは……
そういえば、メルの実力はよくわからないな?
俺と同じく、第2位の魔法は使えるみたいだが……
それ以外に光るものがあるかというと、首を傾げてしまう。
弱くないし、むしろ強いのだけど……
実力を完全に測ることができないんだよな。
不思議なヤツだ。
それはともかく。
「お兄ちゃん、どうしたんですか? みんなで集まって、何か楽しいゲームでもするんですか?」
「ゲームってわけじゃないな。みんなになにかする、っていうのは間違いないんだけど」
「わくわく♪」
「ふふんっ、あたしを楽しませてみせなさい!」
エリゼは瞳をキラキラと輝かせて……
シャルロッテは、いつものようにやたらと上から目線だった。
なんか、妙な方向に期待されているような気がした。
まあ、この面子で真面目な話をすることなんて、フィアの時、一度だけだからなあ……
今回はフィアの時のさらに上をいく真面目な話だ。
果たして、どうなるか?
「これからちょっと突拍子のない話をするけど、最後までちゃんと聞いて欲しい。その上で、各々、判断してほしい」
やや不安になりながらも、俺は口を開いた。
――――――――――
「魔神……ですか」
「とんでもない力を持つ存在か……」
「そ、そんなものがいるなんて……」
「そして、ソイツを倒すための仲間になってほしい……か」
魔神のことを説明すると、さすがにみんな、神妙な顔になる。
俺の言葉をしっかりと受け止めているものの、やや混乱が見えていた。
魔神は最終目標なので説明したけれど……
一度、世界が滅びている可能性や、俺やメルが転生している身ということは伏せておいた。
今はまだ、余計に混乱させてしまうだけだ。
それに表にしなくても、それほど問題のない情報ではある。
後々、タイミングを見て話すことにした。
なので……
説明したのは三点。
魔神という恐ろしく強力な力を持つ存在がいる。
その魔神がどこにいるかわからないが、人の姿を借りていると思われる。
最後に、魔神と一人で戦うことは難しく、力を貸してほしい。
……そんな説明をした。
「はい、お兄ちゃん」
エリゼが手をあげる。
「一応、話は理解しましたけど……私、弱いですよ? そりゃあ、お兄ちゃんの力になれるのならなにをしてでも力になりたいと思いますけど、でもでも、現状、逆にお兄ちゃんの足を引っ張ってしまうような気がするんですが……」
「わ、私も……! その、あの……魔神なんかと戦う、という自信がありません」
意外というか、魔神の存在については信じてくれたみたいだ。
ただ、話はその先へ移り……
自分が力になることができるのか?
そういう心配をする方向になっていた。
「力については心配ないよ」
俺の代わりにメルが口を開いた。
「ここにいる賢者……じゃなくて、レンくんがきっちりんと訓練をしてくれるからね。なにも今のボクらに期待しているわけじゃない。未来のボクたちに期待しているのさ」
「未来の私たち……」
メルの言葉を受けて、エリゼがなにかを考えるような顔になる。
他のみんなも似たような顔をしていた。
ダメ押しというわけではないが……
もう一つ、言葉を追加する。
「俺、前に色々とあって……一人でこの問題を解決しようとしていたんだ。ただ、それは特に強い目的があるわけじゃなくて、ただのプライドだった。一人で解決してドヤ顔してやるぞ、っていうつまらないプライドだ」
「お兄ちゃん……」
「でも、今はそんなものはどうでもいいんだ。魔神をこのまま放置したら、世界がとんでもないことになってしまう。いや……世界とか、正直、そこまでのことは考えない。ただ……みんなのことは考えてる」
「レン……」
「今の生活がめちゃくちゃになる。みんなが笑えなくなる。それだけはダメだ。絶対に避けなければならないことだ」
「レンくん……」
「ずっと、自分のことばかり考えてきた俺だけど……でも、今は周りのことが大事だ。みんなのことが大事だ。守りたい、って思う」
「あんた……」
「だから……お願いだ。力を貸してくれないか?」
最後に頭を下げた。
そのまま時間が流れて……
「ふふんっ、仕方ないわね!」
得意そうなシャルロッテの声が降ってきた。
顔を上げると、予想通りというか……シャルロッテのドヤ顔が見えた。
「レンには助けてもらったことがあるし……なら、今度はあたしが助けてあげないといけないわね! それに、レンに頼りにされるっていうの、なんか悪くない気分だし……あたしは構わないわよっ」
「わ、私もがんばります! えと、どれだけ力になれるのかわかりませんけど、でもでも、やれる限りのことはやりたいと思います! だって、レンくんと同じ気持ちですから」
「あたしはレンに恩があるから、きちんとそれに応えたいと思うわ。あと、強くなれるっていうのも魅力的。力になるわ」
「私は言ったはずです。お兄ちゃんの力になれるのなら、どんなことをしても力になりますよ。なので、答えは一択です。がんばりますっ!」
そんな簡単に決めていいのだろうか?
けっこう……いや、かなり危険だと思うのだけど……
もっとよく考えた方が……
「って、それはみんなに失礼か」
みんな、バカじゃない。
きちんと考えた上での答えなのだろう。
「……ありがとう。色々とあるかもしれないが、力になってほしい」
……こうして、俺に仲間ができた。




