95話 一人ではなくて……
「協力者を……? えっ、国に魔神のことを報告するの?」
「それもアリだけど……たぶん、信じてもらえないだろうな」
なにしろ証拠がない。
文献に記録はあるみたいだけど……
そのようなものはたくさんある。
おとぎ話の怪物が実在していて、しかも、今すぐに活動を開始するかもしれない。
そんなことを言われても、信じる人なんていないだろう。
「ただ、根回ししておくことは可能だと思う」
「どういうことだい?」
「クラリッサさんなら、俺達の味方になってくれるような気がする」
あの人は、きちんと話をすれば理解してくれる人だ。
もちろん、簡単に納得はしてくれないと思うが……
根気よく話をして、丁寧に説明を重ねていけば、たぶん、理解を示してくれる。
クラリッサさんを味方につけることができれば、ある程度、国に備えをさせることは可能だと思う。
軍備の増強に、防備施設の構築。
いざという時の国民の避難経路の確認などなど。
やるとやらないでは雲泥の差だ。
そういう風に、国に対して、いざという時のための準備をしてもらうことは可能かもしれない。
「ふむふむ、なるほどねー。確かに、それは重要だね。450年前は、突発的に魔神が現れたものだから、なにもできず、大混乱に陥ったからね。初動が悪いせいで滅びた国がほとんどだ。まあ、例え万全の準備をしていても、魔神に対抗できたかわからないけど……うん。なにもしないよりはぜんぜんマシだね」
「それと、国が味方になってくれれば調査が捗る。魔神について、より詳しく知ることができるかもしれないし……ひょっとしたら、封印の方法も見つかるかもしれない。そういう部分も期待したいな」
「うんうん、それもアリだね! なるほど、見落としていたなあ」
感心したようにメルが顔を明るくした。
失礼かもしれないが、本能で生きてるっぽいし……
メルは考えることが苦手なのかもしれないな。
これくらいは、俺じゃなくても思いつくと思う。
「今すぐに話をしたいところだけど……ただ、ちょっと難しいだろうな。クラリッサさんは大人であり、国に深く関わる人だ。魔神の存在を示す証拠がなければ動いてくれないだろうな」
「なるほど……なら、ボクの方で証拠を探しておくよ。文献とかじゃなくて、確実に現代に存在するよ、っていう証拠がいいんだよね?」
「だな。そうでないと動いてくれないと思う。確実なものがほしい」
「りょーかい」
「一応、俺の方でも調べておくよ」
そこで一区切りついて……
もう少し考えて、さらに言葉を続ける。
「で……もう一つ」
「おや? まだやれることがあるのかい?」
「あまりやりたくはないんだけどな……」
「うん? 乗り気じゃなさそうだね」
「関係ない方法を巻き込む案だからな」
「巻き込む……? って、まさか……」
メルは俺の考えていることを想像できたらしく、驚いた顔を作る。
「魔神と戦う仲間を増やそうっていうのかい……?」
「正解」
できれば、この選択肢は選びたくない。
想像を超える力を持つ魔神と一緒に戦ってほしい、なんて……
自殺しませんか?
と誘うようなものだ。
でも……
俺とメル。
二人だけでは限界がある。
魔神に配下がいないとも限らないし……
二人だけで挑んだりしても、玉砕するのがオチだろう。
あと……
どの道、魔神を倒さなければ世界は終わりだ。
450年前のように滅びてしまう。
あるいは……最悪、人類という種がこの星から完全に消えてしまう。
どうせ死ぬのならば、一緒に戦って……
という暴論も展開できる。
もちろん、強制するつもりもないし、脅すようなことを言うつもりもない。
仲間になって戦ってくれるのならば、全ての事情を知り、それでいて覚悟を決めて一緒に立ち向かってくれる人に限る。
「そんな人、いるのかなあ……?」
「探せばいると思うぞ」
「そうかな? 死ににいくようなものじゃないか。そんな酔狂な人、いる?」
「いるぞ。少なくとも、俺の前に一人」
メルが左右をキョロキョロと見回した。
それから自分を指差す。
「ボク?」
「付き合ってくれるんだろ?」
「ははっ、そうだね。ボクも酔狂な人の一人だったね」
メルが楽しそうに笑った。
一本とられた、というような感じだ。
「でも、誰彼構わず誘う、っていうわけにはいかないよね? 信じてもらえない可能性が高いとはいえ、魔神のことをむやみに広げるわけにはいかないし……」
「一応……人選については心当たりがある」
「ホントかい!? って、まさか……」
再び、俺が考えていることを察したらしい。
ただ、今度はメルは微妙な顔をした。
それでいいのかい?
と問いかけているみたいだ。
でも……他に選択肢がないんだよなあ。
魔神の話を信じてくれそうな人。
その上で、俺達と一緒に戦ってくれる人。
さらに、ある程度の力を持つ人。
それらの条件で絞り込んでいくと……
「アリーシャ、フィア、シャルロッテ……それとエリゼ。ひとまず、この四人が候補だ」
「やっぱり、そういう人選できたかあ……レンハーレムのメンバーだね」
「なんだよ、それ?」
「シャルロッテさんを除いて、みんなキミと同じ部屋じゃないか。これをハーレムとしてなんと言う?」
「普通にルームメイトでいいだろ」
「ただのルームメイトなら、彼女たちはキミのことを……おっと、これは勝手に口にするわけにはいかないか」
「うん?」
「それはともかく。確かに、彼女たちなら力になってくれそうだね。魔神のことを信じてくれそうだし、他に漏らすこともない。でも……力が足りないんじゃないかな? 魔神と戦うとなると、今の時代に慣れきった人じゃあ……いや? まてよ? そうでもないのか……キミがフィアさんにしたように、足りないのなら鍛えればいいのか」
「それも正解」
この時代の魔法技術は衰退しているが……
でも、個人が強くなれないということはない。
ただ単に、最先端の魔法技術を知らないだけなので、それを知ることができれば大きく伸びるだろう。
事実、フィアは短期間の訓練でかなり強くなった。
本格的な訓練を重ねれば、かなりの成長が見込めると思う。
「うん。理にかなっているのは理解したよ。でも、いいのかい? 友だちを……妹を巻き込むことになるよ?」
「それは……」
正直、巻き込みたくないと思う。
安全なところにいてほしいと思う。
でも……
「魔神が動き始めたら、安全なところなんてなくなる。なら、少しでも生存確率を上げるために強くなってほしい」
「それもそうだね。安全なところなんて、確かにないか。450年前は、世界まるごと焼き尽くされたからね。あはははっ」
笑えないからな、それ。
「まあ、キミがいいのなら、問題のないメンバーだと思うよ」
「メルは他に心当たりはないか?」
「うーん、ボク、人見知りだからなあ。気軽に声をかけられる人が少ないんだよね」
どの口で人見知りなんてことを言うのか。
「一応、探して見るけどあまり期待はしないでほしいかな」
「了解」
なら、ひとまずはこのメンバーで決定か。
明日、話をしてみよう。
果たしてどうなるか……?




