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91話 なんでも賢者

「魔法って……うん? キミは何を言っているんだい? 特定の書物を探す魔法なんてないだろう?」


 メルが不思議そうな顔をした。


 確かに、メルの言う通り特定の書物を探す魔法なんてものはない。

 今の時代だけではなくて、転生前の時代でもそんな魔法はなかった。

 でも……


「ちょっと工夫すれば似たようなことができる」


 集中。


 観察系の魔法に手を加えることにした。

 観察系の魔法というのは、文字通り場を観察するためのものだ。

 主に防犯などに使われていて、一定時間、その場の映像を記録として残すことができる。


 通常は魔法を起動した後の映像を記録するだけなのだけど……

 魔法の構造式に、時間軸を移動する術式を追加してやる。

 これにより、過去の記録を映像として映し出すことができる。


「……というわけだ」

「えぇ……」


 本を探すための魔法を作りながら、その説明をしてやると、メルが顔をひきつらせた。


「どうした?」

「魔法の構造式に手を加えるなんて、ありえないんだけど……どうしてそんなことができるわけ?」

「訓練の成果?」


 これくらいは転生前からしていることなので、俺にとっては当たり前のことだ。

 まあ、他の連中も同じようなことができていたかというと、怪しいところではあるが。


「うーん、さすが賢者。ついつい忘れがちだけど、そのとんでもない力、改めて思い知ったよ。よっ、なんでも賢者」

「そこはかとなくバカにされている気がするな……」


 ジト目を向けると、メルはごまかすように口笛を吹いた。


「とにかく……この魔法を使い、450年前の書物を探そう。まあ、それが当たりとは限らないが……闇雲に探すよりはずっとマシだろう」

「うん、了解だよ」


 俺が魔法を使い、メルが目的の本を持ってくる。

 その繰り返しで、1時間ほどで三冊の本を集めることができた。


「これが450年前の書物か」

「本なんて失われたと思ってたんだけど、意外と残っているものなんだね」

「たぶん、その時に起きたことを未来に伝えようとしたんだろうな」


 本の外装はかなり適当で、一見すると、子供の落書き帳に見える。

 ただ、パラパラとめくると文字でびっしりと埋め尽くされていた。


 外装などにこだわる余裕はなくて……

 ただただ情報を詰め込もうとした結果、こうなったのだろう。


「三冊とはいえ、ものすごく濃い内容だな……残り時間でどれだけ読むことができるか」


 みんなで手分けすれば、ある程度は進められるだろうけど……

 魔神のことは秘密にしておきたい。

 というか、あんなものに関わってほしくない。


 伏せたまま協力してもらうことは難しい。

 俺とメルでなんとか読破するしかないか。


「あ、時間のことは心配しないでいいよ」


 メルがあっさりと言う。


「なにか考えが?」

「まあね♪」


 得意そうに笑い、メルはパラパラと本をめくる。

 1ページ1秒ほど。

 まともに読んでいるとは思えないのだけど……

 メルの視線は本に集中していて、忙しなく動いていた。


 なにをしているのか気になるが……

 メルはすごく集中している様子で声をかけづらい。

 とにかく待つことにしよう。


 そして、30分後。


「んー……終わり!」


 三冊目の本を置いて、メルがぐぐっと伸びをした。


「ふうううぅ、これでバッチリだよ!」

「なにが?」

「この本に書かれていること、全部記憶したから」

「……本気で言ってるのか?」


 パラパラと流し見しただけなのに、全部記憶したって……

 どんな記憶回路を持っているんだ、コイツは?


 世の中には、完全記憶能力とかそういう能力を持つ人がいるけれど……

 そういう人たちでも、本に書かれていることを記憶するためには、しっかりと読み込まないといけないと聞く。

 メルはただ単に、パラパラとめくっていただけだ。


「これがボクの特殊能力なんだ。どんなものでも一目見ただけで記憶することができるの! 完全記憶能力の上位互換かな」

「すごいな……そんな能力を持っていたのか」

「ウソなんだけどね」

「コノヤロウ」


 睨みつけると、メルは適当に笑う。


「冗談だよ、冗談」

「あのな……ふざけるのはその性格だけにしてくれ」

「りょーかい。って……あれ? ボク、今ディスられた?」

「さてな」


 ちょっとした仕返しだ。


「それで、結局、どういうことなんだ? ちゃんと覚えたのか?」

「それは大丈夫。ボクも魔法を使ったんだよ」

「魔法を?」

「一度見た映像を頭の中に焼き付けて、記憶する魔法。完全記憶能力の上位互換、っていうのもあながちウソじゃないんだよね」

「そんな魔法があるのか……」

「ボクのオリジナルだけどね」


 メルは得意そうな顔をした。

 ドヤ顔というやつだ。

 ちょっとイラッとする。


「まあ、記録した映像は脳内再生するしかないから、自分以外の人は見ることができないっていうこと。それと、魔力の消費量が半端ないから、長時間の使用は困難で、すべての記録を再生するには時間がかかるっていう問題点があるんだけどね」

「それでも、十分にすごいと思うぞ」

「えへへー、でしょ? ボクってすごいでしょ?」


 褒めれば褒めるだけ調子に乗るタイプだな。


「とりあえず……ちょっと疲れたから、残り時間、ボクはゆっくりしているよ。悪いけど、後は一人でお願い」

「わかった。まあ、これ以上なにかが見つかるとは思えないが……ひとまず、後は任せておいてくれ」

「任せました」


 茶化すように言って、メルは近くの椅子に座り、テーブルの上にぐでーとなった。

 そのまま寝息を立てる。


「さて……みんなの様子を見てみるか」


 エリゼのところに行こう。

 最近、放置気味だったからな。

 ここで構わないと、さらに膨れてしまいそうだ。


「エリゼ」


 エリゼはすぐに見つけることができた。

 クラリッサさんの視界の範囲内しか行動が許されていないので、見つけるのは簡単だった。


「あっ、お兄ちゃん」

「なにかおもしろい本でも見つけたか?」

「はい。とても興味深いものを見つけました」


 エリゼに本のタイトルを見せてもらう。


 『アニスの書』


 アニス……それは、魔法を生み出したといわれている始祖魔法使いの名前だった。

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