90話 調査開始
「やあやあ、無事にボクの依頼を達成してくれたみたいでうれしいよ」
後日……
寮の部屋で、にこにこ顔のメルに話しかけられた。
どこで話を聞きつけたのか、シャルロッテ経由で禁忌図書館に立ち入る許可を得たことを知ったのだろう。
「メルの依頼っていうわけじゃないだろ。俺達の共通の目的のために、やるべきことをやっただけだ」
「そのためにシャルロッテさんの彼氏役をして、あれこれと楽しんだんだね。うんうん、わかるよ」
言葉に悪意があるぞ。
「でも、自由に立ち入りできるわけじゃないぞ?」
シャルロッテが色々と動いてくれたものの、俺のようなただの子供が入れるような場所ではなくて……
制限が設けられることになった。
立ち入りが許可されたのは半日だけ。
単独行動は許されず、クラリッサさんの立会がなければいけない。
半分くらいは閲覧できない箇所がある。
……改めて考えると、かなり制限が多い。
こんな状況で魔神について調べることができるのだろうか?
「はいはい、暗い顔をしない。禁忌図書館の入館許可が降りただけでも奇跡みたいなものなんだから。それ以上を求めるというのは欲張りというものだよ?」
「その通りかもしれないが、メルに言われるとなんとなくむかつくな」
「ひどいな。ボクがなにをしたんだい?」
「なにもしてないからむかつくんだろ」
コイツ、別の方向からアプローチしてみると言っていたが……
結局、なんの成果も出なかったらしいからな。
俺はシャルロッテの彼氏役をしたり、クラリッサさんとガチバトルをしたり、色々と苦労したというのに……
少しは文句を言いたくなる。
「まあまあ、細かいことを気にしていたら疲れるよ?」
「まったく……」
「それで、ボクらはいつ禁忌図書館に?」
「明後日。昼は学院があるから、放課後だな」
「学院なんてサボればいいんじゃないかな?」
「クラリッサさんが同行するんだ。そんなことをしたら、禁忌図書館に立ち入るどころじゃなくなる」
「ああ、なるほど」
「それじゃあ、明後日に学院の裏口で」
「表じゃないのかい?」
「他の面子にバレたら面倒なことになる。私も行く、とか言い出しそうだからな」
「なるほど。了解したよ。ボク達二人で行くことにしよう」
――――――――――
そして、二日後……
授業が終わり、放課後が訪れる。
裏口へ移動すると……
「やあ」
以前と同じように、にこやかに笑うメルの姿が。
「むぅううう……」
「あら、遅いじゃない」
「あ、あのあの……えと、その……あううう」
「レン、あなたが最後よ。まったく、レディを待たせるなんてなってないわね」
なぜか、エリゼとアリーシャとフィアとシャルロッテがいた。
他の面子にバレバレだ。
勢揃いじゃないか。
「おい、どういうことだ?」
メルを睨みつけるが、彼女は飄々として言う。
「いやあ、同じ部屋で一緒に行動していると、隠し事をするのは難しいよね。うんうん。だから、ボクの責任じゃないよね」
「あのな……」
「というか……クラリッサさんが同行するというのなら、バレるのは当然のことじゃないかな? 娘のシャルロッテさんに話は筒抜けになるだろうし、そこから他のみんなにも話が伝わり……仕方ないことだと思わないかな?」
「そう言われると……」
この状況も仕方ない気がしてきた。
「お兄ちゃん!」
エリゼが頬を膨らませて、ものすごいジト目を向けてきた。
まずい。
これはものすごく不機嫌な時の合図だ。
「シャルロッテさんの彼氏役をするだけじゃ飽き足らず、今度はメルさんと内緒のデートに繰り出そうとするなんて……むう、むうううっ! お兄ちゃんはいつから女たらしになったんですか!」
「い、いや、これはデートとかそういうんじゃなくて……」
「言い訳無用です!」
「はい……すみません……」
拗ねた妹に勝てる兄なんていない。
俺は素直に頭を下げて、みんなの同行を認めるのだった。
――――――――――
学院を後にして、まずはシャルロッテの実家へ。
そこでクラリッサさんと合流して、そこから禁忌図書館へ。
禁忌図書館はその機密上、どこに建てられているのか場所は秘密となっている。
中へ行く方法はただ一つ。
転送の魔道具を使うのみだ。
そうして、俺達一行は転送の魔道具を使い、禁忌図書館へ移動した。
「ここが禁忌図書館か……」
普通の図書館は、大きなホールの中に無数の本棚が整然と並べられているが……
ここは雑然としていた。
規則的に本棚が並べられているということはなくて、片っ端から手当たり次第、乱雑に詰め込んだという印象を受ける。
そして……とんでもなく広い。
建物の中央は吹き抜けになっていて、上の階が見えた。
10階くらいはあるだろうか?
巨大な空間に数えきれないほどの本棚が並んでいるのが見える。
「さあ、みなさん。私はここにいるので、私の目の届く範囲でのみ行動をお願いします。遠くへ行きたい場合は声をかけてくださいね。決して、一人で行動しないように。迷うという危険もありますが、それ以上に、ここで勝手なことをした場合は、最悪罪に問われることもありますから」
クラリッサさんが、さらりと恐ろしい注意をした。
「まさか、ここまでとはなあ……うーん、この中から目的のものを探すのは大変そうだ」
メルがたらりと汗を流していた。
禁忌図書館に入ればなんとかなると思っていたらしいが……
さすがにこの本の量は想定外だったらしい。
「うーん、どうしようか? みんなで手分けしてみるかい?」
「バカ言うな。魔神のことをみんなに教えるわけにはいかないだろ。かといって、遠回しに伝えても、ちゃんと目的の書物にたどり着けるかわからない」
「なら、虱潰しに探すしかないのかな?」
「もっと良い方法がある」
「え?」
「魔法で探せばいい」




