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9話 師との出会い

「エリゼっ、俺の後ろに!」

「え? で、でも……」

「あれは行き倒れなんかじゃない、魔物だ!」


 リッチ。

 不死者の王と呼ばれている、非常に厄介な魔物だ。

 いくつもの強力な魔法を操り、村の一つや二つ、壊滅させるだけの力を持っている。


 俺なら、さほど苦戦することはないが……

 今はエリゼが一緒だ。

 万が一にも油断は許されない。


 なぜ、リッチがこんなところで寝ているのかわからないが……

 先手必勝だ。

 ヤツが起き上がる前に、トドメを刺す!


 俺は魔力を手の平に収束させて……


「うっ、うぅ……は、腹が減った……」

「……は?」


 あまりにもこの場にそぐわないセリフがリッチの口から飛び出して、思わず間の抜けた声を漏らしてしまう。


 次いで、キュルルル、と情けない腹の音が聞こえてきた。

 リッチのものだ。


 骨だけなのに、どこから音が鳴っているのだろう?

 ついつい、そんなどうでもいいことを考えてしまう。


「お兄ちゃん、お兄ちゃん」

「エリゼ、危ないから俺の後ろに……」

「あのガイコツさん、なんだか、かわいそうですよ」


 そんなことを言われても……どうしろと?


「うぅ……なにやらおいしそうな魔力の匂いが……」


 リッチがこちらに気がついて、顔を上げた。


「そこの嬢ちゃん……すまないが、魔力を分けてくれないか? ほんの少しでいいのだ……もう何日も魔力を補給しておらず、空っぽなのだ……」

「エリゼになんてことを頼むんだ。魔物を相手にそんなことをするわけないだろう」

「そ、そこをなんとか……このままでは、わしは消えてしまう……」

「お兄ちゃん……かわいそうですよ」

「し、しかし、相手は魔物なんだぞ?」

「でも……やっぱり、かわいそうです」

「……わかったよ」


 兄は妹に勝てないものなのだ。

 俺はため息をこぼした。


「ここは俺がなんとかする。だから、エリゼはここで待っていてくれ。絶対に、アイツに近づかないように」


 しっかりと言い含めてから、俺一人でリッチのところへ向かう。


「な、なんじゃ……わしは魔力を欲しているのであって、少年、お主では……」

「いいから黙ってろ」


 手の平をリッチにかざして、魔力を放出。


「お、おぉ……」


 リッチの体が淡く輝いて、その顔に生気が……すでに死んでいるはずなのにおかしな言葉になるが……戻り、元気になる。


「驚いたぞ……お主、男なのに魔法を使えるのか?」

「まあね」

「なんと。長い間生きていると、とんでもないことにめぐりあうものだ」


 お前、死んでるだろ。


「ふう……なにはともあれ、助かったぞ、少年よ。お主のおかげで、なんとか生きながらえることができた」

「妹に頼まれたからだ。でなければ、魔物なんて助けない」

「ふふふ、わかるぞ。お主、ツンデレというヤツだな?」


 したり顔のリッチに、ムカッとくる。

 殴ってやろうか?


「お兄ちゃん、お兄ちゃん。ガイコツさんは元気になりましたか?」

「ばっ……エリゼ、こっちに来るな! 危ないっ」


 エリゼがこちらに歩いてきたので、慌てて背中にかばう。

 それを見たリッチが、不満そうに言う。


「おいおい、わしをなんだと思っているんだ? わしは確かに魔物だけど、恩人やその妹を襲うようなことはしないぞ?」

「怪しいな。どこまで信じられるものか」

「そもそも、わしは人を襲ったことはない。こんな体になったのは研究の結果で、元は人間だったのだ」

「本当なのか……?」

「本当だとも。わしは魔法の研究をしていてな。魔法の真髄……至高に達するのが夢なのだ。しかし、人に与えられた時間はあまりに短い……そこで、この体を不死者としたのだ。全ては研究を続けるために」

「あんた、女だったのか」

「ピチピチのギャルじゃぞ」


 見た目がガイコツで、こんな喋り方だからさっぱりわからん。


 それはともかく。


 そんな話を聞かされると、親近感が湧いてきた。

 俺も、さらなる力を求めて『転生』という手段をとったからな……

 リッチの言うことも、わからないではなかった。


「そして、各地を旅しながら研究を続けていたのだが……この体を維持するには魔力が必要でな。そこらの魔物を倒してなんとかしのいでいたのだが、この辺りは平和でな……魔物がおらず、ついに行き倒れてしまったというわけなのだよ」

「間抜けな話だな」

「ははは、その通りだな。うむ。まるで反論できないぞ」


 こうして話してみると、意外と良いヤツなのかもしれない。

 境遇が似ていることもあり、俺はリッチに心を許し始めていた。


「ガイコツさんは、どこから来たんですか?」


 エリゼは物怖じしないで、そんなことを尋ねていた。

 我が妹ながら、肝が座っているよなあ。

 これがアラムだったら、脱兎のごとく逃げ出していたに違いない。


「あちこちを旅しているから、故郷というものはないな。旅を始めて、かれこれ数十年になるだろうか」

「わぁ、長いんですね。一人で寂しくないんですか?」

「うむ……」


 エリゼのそんな問いかけに、リッチは寂しそうな顔をした……ような気がした。

 顔がガイコツなので、表情の判断がつかない。


「一人は寂しいな。生前はそのようなことは思わなかったが……このような身になって、本当の独り身となり、寂しさを痛感したよ」

「ガイコツさん、かわいそうです……」

「そのガイコツというのはやめてくれないか? わしには、エルという名前があるのだよ」

「わかりました、エルさん! 私はエリゼっていいます」

「うむ。よろしくな、エリゼ嬢」


 もう名前で呼び合う仲になっていた。

 妹のコミュ力半端ない。


「俺はレンだ。わかっているかもしれないが、エリゼの兄だ」


 エリゼが自己紹介をしたので、俺も自分の名前を告げておいた。


「ふむ、レン坊か」

「坊はやめてくれ。呼び捨ての方がいい」

「わかったぞ、レンよ」


 リッチ改め、エルが手を差し出してきた。

 握手に応じる。


「助けてくれてありがとう。ぜひ、礼をしたいのだが……うーむ」

「どうしたんですか?」

「あいにく、人間の金は持っていなくてな。このような体だから、街に寄ることもないし、大したものも持っていない。さて、どうしたものか」

「別に礼なんていらないって。エリゼに言われたから助けただけだし」

「それでも、恩を受けた以上、しっかりと返さなくては。貸し借りはしっかりとしないといけないのだぞ?」


 意外と律儀なリッチだった。


「うーむ、うーむ……何をすればいいものか? わしが持っているものといえば、魔法の知識くらいしかないが……」


 その言葉に、俺はピクリと反応した。


「そういえば、魔法の研究をしているとか言ってたよな。それは、どんなものなんだ?」

「色々な研究をしているが……そうだな。最近は、闇属性の魔法の研究をしているぞ」

「闇属性!」


 魔法は七つの属性に分かれている。

 『火』『水』『土』『風』『光』『闇』『無』……だ。


 これらの属性のうち、才能にもよるが、人が使える魔法は闇属性を除いた六つだ。

 闇属性の魔法は魔物が扱うものといわれていて、人が扱うことはできなかった。


 しかし、俺の考えは違う。

 闇属性の魔法も人が扱うことはできる。

 ただ、そのためのトリガーが見つからず、使えないと思われているだけだ……そう考えていた。


 前世でも闇属性の魔法の研究は進めていたものの……

 結局、習得するまでには至らず、転生してしまった。


「恩を返したいっていうのなら、俺に闇属性の魔法を教えてくれないか!?」

「む? なんだ、レンは闇属性の魔法に興味があるのか?」

「ものすごくある!」


 新しい属性の魔法を極めることができれば、さらに強くなることができるはずだ。


「それとも、人間には習得できないものなのか?」

「いや、そんなことはないぞ。リッチになったからこそわかったのだが……闇属性の魔法は、普通の人間でも習得することができる」

「なら、それを教えてくれないか?」

「ふむ。習得にはそれなりの才能を必要とするが……まあ、教えろと言うのならば教えよう。しかし、習得できなかったとしても、わしを恨まないでくれよ? レンは男なのだから、普通に考えて無理だと思うのだが……」

「必ず習得してみせるよ」

「うむ、その意気やよし。今日から、レンはわしの弟子だ!」


 こうして、俺は成り行きでリッチに弟子入りすることになった。


「むー……お兄ちゃんだけずるいです。私も魔法を習いたいです」


 仲間はずれにされたと思ったらしく、エリゼが頬を膨らませた。


「では、エリゼ嬢も魔法を習うかね?」

「習いたいです! お兄ちゃんと一緒がいいです!」

「おい、エリゼ。あまり無理を言って、師匠を困らせるな」

「だってだって、私もお兄ちゃんと一緒に魔法を習いたいです……」


 上目遣いに俺を見るエリゼ。

 そんな顔をされたら、反対なんてできないじゃないか。


「わしは構わないぞ。一人も二人も、教えるのに大差はないからな」

「まあ、師匠がそう言うのなら」

「やった……えへへ、おねがいします」


 エリゼも一緒に弟子入りすることになり……

 リッチの師匠による魔法修行が始まるのだった。

今日から一日一度の更新になります。


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