88話 デートその2
シャルロッテと一緒に舞台を観た。
そして……一緒に寝た。
シャルロッテが舞台を退屈って言った意味、よく理解できた。
あれは眠くなる。
舞台が好きな人にとってはたまらないのだろうけど、こちらは魔法の方が興味がある学生だからなあ。
「んんんーーーっ、よく寝たあ!」
シャルロッテが大きく伸びをして、よく通る声で言う。
ただ、劇場の前でそんなことを言うのはやめてくれ……
周囲の視線が痛い。
「これからどうする? 学院に戻るか?」
「え? まだ昼前じゃない。せっかく街に出たんだから、もっと色々と楽しみましょう」
「それもそうだな」
たまの休日。
体を休めても罰は当たらないだろう。
「なにをしようか?」
「えー、それを女の子に尋ねるわけ? まったく……レンは魔法の腕はすごいけど、レディのエスコートはまだまだみたいね」
ほっとけ。
「じゃあ……そろそろいい時間だから、なにか食べに行かないか?」
「ええ、賛成ね。それで、どこへ連れて行ってくれるの?」
「え? まさか俺のおごりなのか?」
「うそよ」
デートなんだから男が払って当然……と言われると思っていたのだけど、そんなことはなくて、シャルロッテはいたずらに成功した子供のように顔を輝かせた。
「誕生日とか特別な日は、甘えてもいいかな、なんて思うけどね。でも、普通の日までそんなことは求めないわ。対等であることが、関係を長続きさせるコツなのよ」
「シャルロッテって、恋人がいたことあるのか?」
「ないわよ。なんで?」
「見てきたかのように言うから」
「父さまと母さまを見ての経験よ。二人は全然対等じゃなかったから……もしも、対等になっていたら、今と違う結果になっていたのかしら?」
最後は誰に向けるともわからない問いかけになっていた。
なんだかんだで、シャルロッテも父親のことを多少は気にしているのかもしれない。
それも仕方ないとは思う。
強気なところが目立ったとしても、シャルロッテはまだ14だ。
自立するには早いし、まだまだ両親の愛情を受けたいと思うだろう。
こうしてデートをすると、普段と違う一面を見ることができる。
女の子に対してどぎまぎするのとは違い……妙な感じで胸が少しだけドキドキした。
――――――――――
「はむっ」
シャルロッテは小さな口をいっぱいに開いて、ホットドッグを口にした。
次の瞬間、キラキラと笑顔が輝く。
ホットドッグの屋台を見つけて昼が決定した。
これでいいのか? と思わないでもないが、シャルロッテは喜んでいるみたいだ。
「んーーーっ、おいしい♪」
「意外だな」
同じくホットドッグを食べながら言う。
「なによ?」
「お嬢さまなんだから、こういう庶民の食べ物には興味ないと思ってた」
「逆よ、逆。今まで食べたことがないからこそ、気になるんじゃない。あたし、食わず嫌いはしないの」
「なるほどね」
デートの昼食にホットドッグはどうかと思うが……
まあ、シャルロッテが喜んでいるみたいだから、それでよしとしよう。
「次はどうしましょうか?」
「特に希望がないなら、俺に任せてくれないか」
「あら、ようやくエスコートをしてくれる気に?」
「満足してもらえるかわからないけどな」
「そこは、絶対に満足させてみせる、って言いなさいよ」
「こういうのは苦手なんだよ……」
「ふふんっ、あたしは苦手じゃないわ。よって、このデート勝負はあたしの勝ちね!」
いつの間に勝負になったんだ。
それにしても……
シャルロッテは、いつでもどんな時でも変わらないよな。
我を貫き続けるというか……
ブレることがない。
こんな性格をしているから、今まで、色々とトラブルはあっただろうに。
それでも己の道をまっすぐに進み続けている。
それはとてもすごいことのように思えて……
この時だけは、シャルロッテがキラキラと輝いているように見えた。
「じゃあ、行こうか」
「楽しみにしてるわよ」
シャルロッテを連れて、露店が並んでいた広場を離れる。
そのまま繁華街を通り抜けて……
民家が立ち並ぶ住宅街へ。
その一角にある、広い公園に到着した。
「いいところって、ここの公園のこと? 見たところ、特に何もないけれど……まさか、この歳になって遊具で遊べっていうわけ?」
「違うよ」
さすがにそれは、俺も遠慮したい。
まあ、俺はギリで許される年齢かもしれないが……
だからこそ遠慮したい。
「こっちだ」
「わっ」
シャルロッテの手を引いて、公園の奥へ。
芝生が広がっていて、温かい陽光が降り注いでいた。
俺は芝生の上にごろんと転がる。
そのまま仰向けに寝た。
「んーっ、気持ちいい」
「ちょっと、どうしたの? 眠いの?」
不思議そうにするシャルロッテに手招きをする。
えー……という顔をしていたけれど、仕方なくという様子でシャルロッテが隣に座る。
ためらうような間を置いた後、えいやっ、と寝る。
「ん? ……おっ、おぉ……?」
妙な声をあげて……
それから、シャルロッテは猫のような感じで、気持ちよさそうに目を細くした。
「なにこれ……すごいぽかぽか……温かくて気持ちいいわ」
「だろう?」
「ここ……レンの秘密スポットなの?」
「そういうわけじゃないさ。今日は天気もいいし、公園でこんな風に寝たら気持ちいいだろうな、って思っただけ。いつも来てるわけじゃない」
「なるほど……ふぁ、ホント、気持ちいいわ……」
「食べた後は眠くなるからな。それもあって、余計に心地いいんだろう」
「あっ……やばいわ、本気で眠く……こんなところで……でも、気持ちいい……はふぅ」
お嬢さまのプライドと睡眠欲が激突して……
睡眠欲が勝ったらしく、ほどなくしてシャルロッテは小さな寝息をこぼし始めた。
気持ちよさそうに寝ているよなあ……
でも、どこか品があって……
「……俺も眠くなってきた」
すやすやと昼寝をするシャルロッテを見ていたら、うとうとしてきた。
寝るのは生物として普通のこと。
自然の摂理に逆らうことなく、俺はまぶたを閉じた。




