83話 VSクラリッサ・その1
「準備はできましたか?」
クラリッサさんが静かに問いかけてきた。
余裕たっぷり。
王者のような風格が漂っている。
なるほど。
シャルロッテが話す通り、強い力を感じる。
メルと同等……それ以上かもしれない。
「いつでもどうぞ」
「では……まずは条件を話しておきましょうか」
「条件?」
「私に認められる条件ですよ。そうですね……五分間、私の攻撃に耐えられるかどうか。見事に耐えて、その足で立ち続けていたのならば、その時はレン君を力ある者と認めましょう」
「ずいぶんと優しいんですね」
「優しい? いいえ、そのようなことはありませんよ」
クラリッサさんが笑う。
その笑みは……己に対する自信に満ち溢れていた。
「私と戦い、五分間耐えた人は数えるほどしかいませんからね。そのことを考えると、妥当なところかと」
「……それ、妥当というか、理不尽では?」
その話が本当なら、クラリッサさんが俺に求めているレベルは遥かに大きいものになる。
12歳の子供に、どれだけのものを求めているのやら。
それだけの力がないと、シャルロッテの相手としては認められない、ということか。
おもしろい。
やってやろうじゃないか。
5分、耐えるとはいわず……
逆に、その5分でクラリッサさんを倒してやる!
「いきますよ。準備はいいですか?」
「ええ、問題ありません」
「では……始めます!」
クラリッサさんの合図で試合が始まる。
俺はすぐに魔力を練り上げて……
「火炎槍<ファイアランス>! 風嵐槍<エアロランス>! 大地槍<アースランス>! 閃光槍<フラッシュランス!> 水流槍<ウォーターランス>! 全開放<フルバースト>!!!」
「ちょっ……!?」
魔法大会でシャルロッテが使用した、とっておき。
クラリッサさんは、開幕と同時に、いきなりそれを使用した。
あらかじめ魔法をストックしておいたことは間違いない。
しかし、いつ……?
「私は敵が多いので……いつ不届き者に出会ったとしても問題のないように、常に10以上の魔法を充填しているのですよ」
「解説どうもです!」
攻撃魔法の嵐が吹き荒れた。
第10位の魔法とはいえ、同時に放たれることで威力が数倍に増している。
飲み込まれたらタダでは済まない。
とはいえ、一度は見た攻撃だ。
俺は冷静に思考を巡らせる。
魔法と魔法の間……わずかな安全地帯を見極めて、そこに体を滑り込ませる。
もちろん、それで全てを回避できるわけではない。
「空間歪曲場<ディメンションフィールド>!」
三発は体を動かすことで避けて……
残りの二発は魔法で防いだ。
よし。
ここから反撃を……
「紅蓮刃<フレアソード>!」
反撃する間なんて与えないというように、クラリッサさんは立て続けに魔法を解放した。
荒れ狂う炎の剣が右手に収められる。
第5位の魔法だ。
今の時代の力で換算すると、第2~3位というところか?
そんなものを12歳の子供にぶつけようとするなんて……
これはガチだな。
あまりの容赦のなさに、思わず冷や汗をかいてしまう。
「氷雪刃<アイシクルソード>!」
対極の属性の魔法を使い、クラリッサさんの炎剣を受け止めた。
炎と氷。
力が拮抗していて、魔力の余波が嵐となって吹き荒れる。
「今のコンビネーションを防ぐとは……なるほど。シャルロッテが認めるだけのことはありますね」
「できれば、これで認めてくれるとうれしいんですけど……」
「冗談を言ってはいけませんよ。まだ1分しか経っていません。さあ、続けていきますよ」
クラリッサさんは炎剣を大きく横に薙ぎ、俺と距離をとる。
ここで始めて、魔力を一から練り上げた。
充填している魔法はまだ残っているはずなのだけど……
それでは足りないと判断したのかもしれない。
今まで以上に強力な攻撃が来る。
俺も即座に魔力を練り上げる。
「第2位の魔法、受け止められますか!? 雷神槌<トールハンマー>!」
クラリッサさんは勘違いしているが……
『雷神槌<トールハンマー>』は、本来は第4位の魔法だ。
それはともかく……
その威力はとんでもない。
個人に使うような魔法ではなくて、戦場で多くの敵を相手にする時に使うような魔法だ。
無数の雷撃が雨のように降り注ぎ……
光の濁流となって襲いかかってくる。
これがクラリッサさんの力。
決して侮ることはできない。
だから……全力でいこう。
「氷紋爆<ダイヤモンドノヴァ>!」
第3位の魔法を発動させた。
今の時代で換算すると、第1位だろうか?
大地が隆起して、氷の塊が飛び出してくる。
氷河時代に逆戻りしたように一面が白くなり、氷塊が嵐となって吹き荒れる。
氷と雷。
その二つが激突して……
氷が打ち勝つ。
無数の氷撃がクラリッサさんを飲み込んだ。
封印をするようにその体を包み込み……
家一軒ほどもある巨大な氷の中に閉じ込めることに成功した。
「ふう」
勝った。
まさか、第4位の魔法まで使えるとは思わなかったので、ヒヤリと焦るところがあった。
とはいえ、純粋な力比べでこの時代の人に負ける気はしない。
強引なやり方ではあったけれど、無事に勝利を掴むことができた。
「レンっ、まだよ!」
シャルロッテが悲鳴に近い声をあげた。
何事かと思っていると……
キィンッ!!!
氷が砕けて、クラリッサさんが自由を取り戻した。




