8話 強くなるための方法は?
その後も、何人か家庭教師を雇ってもらうものの……
いずれも『自分には無理だぁあああ!』と叫びながら出ていってしまい、魔法を教えてもらうことは叶わなかった。
「いったい、どうして?」
「「レンのせいだから」」
父さんと母さんに、揃ってツッコミを入れられてしまった。
俺のせいと言われても、何もしていないんだけどな……
先生があえて間違った魔法理論を教えてくるから、その間違いを指摘しただけなのに。
「しかし、困りましたね」
母さんがため息をこぼした。
俺が魔法の勉強をすることは賛成らしい。
しかし、どうやって伸ばせばいいかわからない。
そんな感じで、母さんは難しい顔をしていた。
「あなた、どうしましょうか?」
「そうだな……ふむ、こうしてみるか」
父さんは何か思いついた様子で、こちらを見た。
「レン。今すぐというわけにはいかないが……学校に通ってみるか?」
「学校……ですか?」
「エレニウム魔法学院だ。聞いたことはあるだろう?」
エレニウム魔法学院。
別名、魔法使い育成学校。
その名前の通り、魔法使いを育成する学校だ。
エリートのみが入学することを許される、超難関の学校と聞く。
確かに、学校ならばより高度な魔法を学ぶことができるかもしれない。
その中に、俺が求めるものがあるかもしれない。
しかし……
「入学できるんですか? 俺、男ですよ?」
魔法使いを育成する学校なので……
自然と、生徒は女の子だけになってしまう。
そんな中に、男である俺が入学できるのだろうか?
「うーん、そこなんだよな」
父さんは難しい顔をした。
俺と同じ懸念を抱いているらしい。
対する母さんは気楽なものだった。
「大丈夫じゃありませんか?」
「しかしだな……レンは男だぞ?」
「でも、魔法が使えるんですよ? 学校に入学する方法は、試験をくぐり抜けることと、魔法を扱えること。条件はクリアーしていますよ。それに、レンなら試験もきっと突破できるわ」
「う、む……そうだな。男ではあるが、レンなら、あるいは……」
「えっと……結局、俺は学校に通えるんですか?」
「レンならきっと大丈夫よ。私が太鼓判を押してあげます」
「やった!」
わくわくしてきた。
学校に通うことができれば、俺はさらに強くなれるに違いない。
「じゃあ、さっそく手続きをお願いできますか!?」
「落ち着いて、レン。残念だけど……学校に入学できるのは10歳からなの」
母さんの話によると……
エレニウム魔法学院では、実戦に近い授業も行われるらしい。
危険もあるらしい。
そのため、年齢制限もつけられているそうだ。
納得の話だけど……
それじゃあ、俺は、あと2年も待たないといけないのか?
「2年も待てない?」
「それは……」
正直に言うと、待てない。
時間の貴重性は、前世でイヤというほど学んだ。
特に、子供の頃の時間は貴重だ。
子供は伸び代が大きい。
子供時代をどう過ごしたかで、その後の一生が決まると言っても過言ではない。
「こればかりはどうしようもないの。我慢してくれる?」
「……わかりました」
父さんと母さんを困らせるつもりはない。
もどかしいけれど……
それ以上は何も言わず、俺は素直に頷いた。
――――――――――
「どうしたものかなあ……」
一人になり、ふらふらと庭を散歩した。
早く学校の授業も受けてみたい。
しかし、あと2年待たないといけないという。
8歳になり、500年後の世界の言語も知識も常識も、あらかた覚えることができた。
体も自由に動くようになってきた。
前世と同じように魔法を使えるようになってきた。
さあ、これから本格的な訓練を始めるぞ!
……と思った矢先に、コレである。
やる気が空回してしてしまい、どうしていいかわからなくなる。
「学校に通えばさらなる力を手に入れられると思ったんだけど……とはいえ、年齢制限はどうしようもないからなあ。今までどおり、地道にトレーニングを続けるしかないのか?」
「お兄ちゃん」
「でも、トレーニングだけっていうのはな……もちろん、日々のトレーニングは大事だ。欠かすことはできない。でも、それだけじゃあ、劇的に強くなることはできない」
「お兄ちゃん、聞いていますか?」
「地道に強くなっても仕方ないんだ。もっともっと上を目指さないと……そうしないと、とてもじゃないけれど魔神に打ち勝つことはできないし……」
「もうっ、お兄ちゃん!」
「うわっ!? え、エリゼ……?」
気がついたらエリゼが傍にいた。
頬を膨らませていて、不機嫌ですよ、と全力でアピールしている。
「どうしたんだ、エリゼ? というか、驚かさないでくれ」
「私、何度も話しかけましたよ。それなのに、お兄ちゃんが気づいてくれなかったんじゃないですか」
「悪い、ちょっとぼーっとしてた。それで、どうしたんだ?」
「お兄ちゃんと一緒にお散歩に行きたいです」
「いいよ。じゃあ、庭を……」
「違います。今日は秘密の場所に行きたいです」
「……あそこか?」
秘密の場所というのは、街の外にある丘のことだ。
花畑があり、とても綺麗な場所ということを覚えている。
この街……『フラムベルク』は魔物対策として、四方を高い壁に囲まれている。
街の外に出る時は、衛兵の検査を潜り抜けないといけないのだけど……
壁の一部に穴が空いていて、子供なら通れるようになっている。
そこを偶然見つけた俺とエリゼは、そのまま外に出て、街の外にある丘を見つけた……というわけだ。
もっとも、あの時はまだエリゼは元気だったから、多少の無茶はできたが……
体が弱くなっている今、そんなことをしていいものか。
「お兄ちゃん。今日の私、すごく体の調子がいいんです。だから、お願いできませんか?」
「しかしな……」
「絶対に無理はしません。お兄ちゃんの言うこともちゃんと聞きますから」
「……わかった。そこまで言うのなら」
確かに、元気なように見えるし……
いざという時は、魔法を使って家に戻ればいいか。
もっとも、このことがアラムにバレたら面倒なことになりそうだな。
ガーガーと怒鳴られるに違いない。
まあ、あの試合以来、アラムは意気消沈して別人のようにおとなしくなっているから、そんな気力はないかもしれないが。
「じゃあ、行こうか」
「はい♪」
――――――――――
秘密の抜け道を通り、エリゼと一緒に街の外の丘へやってきた。
以前来た時と同じように花が咲いていて、とても綺麗だ。
「わぁ」
エリゼが目をキラキラと輝かせる」
「綺麗ですね、お兄ちゃん」
「そうだな」
「せっかくだから、花かんむりを作ってあげましょうか?」
「えっと……俺、男なんだけど」
「大丈夫です。お兄ちゃんなら、きっと似合いますよ」
あまりうれしくない言葉だ。
「あれ?」
「どうしたんだ、エリゼ」
「あそこ……誰かが倒れています!」
そう言って、エリゼが指さした先には……
ボロボロのローブをまとう骸骨の姿があった。
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