79話 ニセの恋人
「今、なんて……?」
「だから、あたしの恋人になってほしい、って言ったのよ」
聞き間違いじゃなかった。
突然、シャルロッテはなにを言うのだろうか?
今まで、ぜんぜんそんな素振りは見せなかったけど、もしかして俺のことを好きだったのか?
ツンツンしていたのは、好意の裏返し?
そうだとしても、限度っていうものがあるだろうに。
というか、俺はまだ12歳だ。
シャルロッテはショタなのか?
でも、シャルロッテは14歳だから、そのことを考えると不自然じゃないのか?
最近は早熟というか……
これくらいで付き合うのが普通と聞く。
それなら俺もシャルロッテも当たり前のことで……
明日から俺は、レン・ブリューナクに!?
やばい。
エリゼがどんな反応をするか、ものすごく気になるぞ。
「ちょっと、聞いてるの?」
あれこれと妄想を爆発させてしまい、シャルロッテの話をまるで聞いていなかった。
「あ、悪い。聞いてなかった。」
「あのね……このあたしがちゃんと説明しようとしてあげているんだから、話を聞きなさい!」
「えっと……どういうことなんだ? 俺のこと、好きなのか?」
「嫌いじゃないけど、好きでもないわ」
シャルロッテがあっさりと言う。
照れ隠しをしているようには到底見えないから、それが本心なのだろう。
だとしたら、なんで付き合うことに……?
「実は、見合いの話が出てるのよ」
「見合い? シャルロッテに?」
「そうよ。別に不思議なことじゃないでしょう? あたしくらいに超絶かわいい美少女なら、世の男たちはこぞって求婚したくなるでしょうね! ふふんっ」
ドヤ顔で胸を張るシャルロッテ。
ちょっとうざい。
でも、うざいところが間抜けで、ちょっとかわいい。
うざかわいい、とでも言うのか?
「あー……なんとなく話が見えてきたぞ」
これは、よくあるアレだな?
見合いを断るために、俺をニセモノの恋人に仕立て上げる。
劇やおとぎ話などでよくあるパターンだ。
一応、シャルロッテに確認をとると、そういう認識で問題ないと言われた。
ただ、疑問は残る。
「見合いって、シャルロッテの母さんが?」
「ええ。母さまが進めているの。あたしはまだ14歳だけど、来年には大人になるじゃない?」
ちなみに、15歳で成人したとみなされる。
「だから、今から色々と備えておきたいみたい」
「シャルロッテが望まないのに、そんな話を進めるのか?」
シャルロッテの父親は相当にダメ人間だったと聞く。
そんな父親の件があるから、望まない見合いなんてさせないように思うのだが……
「母さまは、自分と同じ失敗をあたしにしてほしくないみたい。だから、あたしにしっかりとした相手を紹介したいみたいね」
「あー、なるほどね。基本は、シャルロッテのことを想ってくれているのか」
「見合い相手は今選んでいる最中で、まだ絞られていないんだけど……どれもこれも、そこそこの相手よ。悪い人、くだらない人はいないと思う」
「なら、受けてみてもいいんじゃないか?」
「イヤよ。あたし、恋愛なんてしてるヒマはないの。もっともっと強くなって、超一流の魔法使いになるの」
強くなりたいという思いは共通するところなので、シャルロッテの気持ちはわからないでもなかった。
「その気持ちは、シャルロッテの母さんには?」
「話したわよ。でも、母さん押しの強いところがあるから……こうするのがあなたのためになるのよ、って話を聞いてくれないの。頑固なんだから」
「さすが、シャルロッテの母親だな」
「それ、どういう意味よ?」
「えっと……そ、それで、俺の出番というわけか」
「そういうこと。あたしに恋人がいるとわかれば、母さまも諦めると思うわ」
「俺、大丈夫か? 娘をたぶらかす馬の骨として処分されたりしないか?」
「しないわよ。母さまをなんだと思ってるわけ?」
だって、シャルロッテの母親だからなあ……
シャルロッテをそのまま成長させて、さらに個性が強くなった、という感じをイメージしている。
「そういうわけだから、レンをあたしの恋人にしてあげる。ふふんっ、喜びなさい? フリとはいえ、あたしの恋人になれるんだから! うれしいでしょ、うれしいわよね? おおはしゃぎしてもいいのよ」
「いや、別に」
「……うれしくないの?」
「特に思うところはないかな」
「……うううううっ」
シャルロッテがむぐぐぐと歯を噛んだ。
子供みたいだ。
拗ねるところがちょっとかわいい。
「まあ、そういうことなら引き受けるよ」
「いいの?」
「禁忌図書館の件もあるし……それに、困っているんだろ? なら、力になるさ」
「ありがと! レンは男だけど、頼りになるわね♪」
シャルロッテは喜びを表現するように、笑顔で俺の手を握る。
少しドキッとした。
癖のある性格はしているものの……
シャルロッテは普通にかわいいからな。
そんな行動をされると、色々と勘違いするヤツが出てくるぞ?
……ここは女の子しかいないから、勘違いするヤツなんていないか。
いや、勘違いするヤツはいてもおかしくないか。
お姉さまとシャルロッテのことを慕い、女の子と女の子の関係……
うん。
それはそれで悪くないな。
って、アホなことを考えてる場合じゃない。
ちゃんと話を聞かないと、また怒られてしまう。
「それで、俺はどうすればいい?」
「このままいくと、見合いは二週間後くらいにセッティングされるから……そうね、来週、レンを恋人として母さまに紹介するわ」
「なんで来週?」
「いきなり紹介しても、ボロが出るかもしれないでしょ? 一週間で恋人らしいところを身に着けないと」
「それもそうか」
「そういうわけだから、レンは今日からあたしの恋人よ! よろしくねっ」
「ああ、よろしく」
思わぬ展開になったけれど……
この件をうまく解決すれば、禁忌図書館に入ることができるかもしれない。
報酬のためにがんばることにしよう。
「ところで……」
「うん? どうした?」
「恋人らしさって、どうやって身につければいいのかしら?」
「……さあ?」
前世では戦うことばかり考えていた俺に、そんな質問をしないでほしい。




