75話 二人目の転生者
メルが転生者!?
思いがけない情報に、動揺を隠すことができず表情に出てしまう。
そんな俺を見て、メルがくすくすと笑う。
「ふふっ、驚いてくれたみたいだね。このタイミングで明かした甲斐があったかな」
「本当なのか?」
「ウソはつかないよ。本当だ。とはいえ、それを証明する術は持っていないけどね」
俺も、転生した証拠なんてものはない。
ただ、それに似たものを示すことはできるはずだ。
「いくつか質問をさせてもらうぞ?」
「どうぞ」
「じゃあ……」
俺は500年前の知識、常識などを尋ねた。
その全てに、メルは迷うことなく答えた。
全て正解だ。
「どうかな?」
「……少なくとも、他の人と違うっていうことはわかったな」
誰も知らないような500年前のことを知っている。
その点だけを見ても、メルが特異な存在であることは間違いない。
でも、俺と同じ転生者ということを信じるかどうか……
それはなかなかに微妙なところだ。
転生魔法は、前世の俺がかなり苦労して開発した魔法だ。
自惚れるつもりはないのだけど……
他の人に、あの魔法を使えるほどの力があったとは思えない。
メルの言葉が本当なら、どうやって転生したのだろう?
「色々と聞きたいことはあると思うけど、まずはボクの話を聞いてくれないかな? その後に、質問を受け付けるから」
「……わかった、話を聞こう」
「ありがとう」
メルがにっこりと笑う。
口調は男っぽいけれど、こうして笑うとかなりかわいい。
見た目と性格が一致していないように思うけど……
それも、転生の影響なのだろうか?
俺も、子供にしてはずいぶんませていると思うからな。
「ボクは、レンと同じ転生者だ。ただ、同じ時期に転生したわけじゃない。レンが転生魔法を使用した50年後……つまり、450年前に転生したんだ」
「なるほど……」
50年のタイムラグがあったということか。
それなら、メルが転生魔法を使うことができたのも納得だ。
それだけの年月があれば、俺が残した魔法を解析して、己のものにすることができるだろう。
「ボクの目的は……ちょっと大げさな言葉になってしまうけど、人類という種の存続」
「ホントに大げさだな。どういう意味だ?」
「未来に賭けて転生をすることで、過去の災厄から逃れた……っていうところかな」
「災厄……?」
「簡単に言うと……450年前に、一度、世界は滅びたんだ」
「なっ!?」
予想の遥か斜め上を行くことを告げられて、言葉をなくしてしまう。
世界が滅びた?
そんなバカなことが……
そうだとしたら、なぜ、俺達はここに存在している?
あれこれと考えて、でも、答えを見つけることができなくて。
情報過多になってしまい、混乱してしまう。
そんな俺が落ち着くだけの時間を置いた後、メルは言葉を続ける。
「正確に言うと、滅びかけた……かな? ごめんね、ちょっとまぎらわしい言い方だったよね」
「……続きを」
「450年前……魔神が復活したんだよ」
「なっ……!?」
驚きの声をあげるのは何度目だろうか?
間違いなく、今日一日で記録を更新したな。
そんなくだらないことを考えないと、平静を保つことができない。
「遥か彼方に封印されていた、魔王を上回る存在。実は、レンだけじゃなくて、他にも数人、知っている人がいたんだ。ボクがその一人、っていうわけ」
「メルは、いったい……?」
「おっと、ボクの話は後だよ。とりあえず、450年前になにが起きたのか、それを話そうじゃないか」
メルの話によると……
450年前に魔神が復活した。
封印はまだ保つはずなのだけど……
俺の予想に反して、封印は解けた。
俺の予想が間違っていたのか。
それとも、第三者の介入があったのか。
それはわからない。
ただ、魔神は復活して……
世界は滅びの危機に瀕した。
圧倒的な力を持つ魔神に対抗する術は誰も持たない。
破壊の嵐が吹き荒れて、次々と国が消滅していった。
人類は一つとなり、総力戦を挑むものの……
それでも、魔神を倒すことは敵わない。
対抗する術はなく……
人類は、ただ滅びを待つだけとなった。
しかし、わずかな可能性に賭ける者がいた。
未来に賭けて転生をする。
転生ならば『個』が消滅することはなく、記憶を引き継ぐことができる。
新しい世界で新しい人生をやり直すがことができる。
ただ、賭けになる。
魔神が復活した後の世界で、人類は生きていられるのか?
絶滅しなかったといても、文明レベルは大きく後退するだろう。
転生したことでさらなる絶望を味わうかもしれない。
それでも、メルは未来に賭けて転生をした。
450年前は絶望しかなくて……
まだ、見知らぬ未来の方がマシだと思えたから。
そうして、メルは現代に生まれ変わり……
今に至る。
「なるほど……ね」
メルの事情はだいたい把握した。
ただ、逆に謎が増えた。
なぜ魔神が復活したのか?
そして……
「結局、450年前の世界はどうなったんだ?」
「滅んだよ」
わりとあっさりと、メルは断言するのだった。




