73話 優勝おめでとう
「「「おめでとうーーー!!!」」」
夜。
寮の部屋で祝勝会が開かれた。
メンバーは、俺とエリゼとアリーシャとフィア。
それと、ゲストとしてシャルロッテが迎えられていた。
アラム?
そんなのは知らない。
「お兄ちゃん、おめでとうございます♪」
「さすがね。あたしは、レンが優勝すると思っていたわ」
「えと、あの……す、すごい試合でした!」
「まっ、あたしに勝ったんだから当然よね!」
「ありがとう」
みんなの言葉に、俺は笑顔で応えた。
俺の優勝を、自分のことのように喜んでくれることがうれしい。
俺も素直に喜びたいところなのだけど……
「……うーん」
メルのことが気になって気になって、祝勝会に集中できない。
気がつけば、彼女が何者なのか考えている。
まるで恋煩いだ。
どうにかして話をできないだろうか?
魔法大会に出場していたから、俺と同じ新入生であることは間違いない。
同じクラスの『ガナス』にはいないから……
『シルカード』か『マーセナル』のどちらかということになる。
対象のクラスは二つだけだから、探すのは簡単だ。
名前も容姿も判明しているから、後日、二つのクラスを順々に訪ねて探せばいい。
「お兄ちゃん」
「うわっ」
気がつけば、エリゼの顔が目の前にあった。
じーっと、至近距離で見つめてくる。
「ど、どうしたんだ?」
「お兄ちゃんこそ、どうしたんですか? ぼーっとしていますよ」
「そ、そうか?」
「そうですよ。心ここにあらず、っていう感じです」
むっすー、という感じでエリゼが頬を膨らませた。
不機嫌ですよ、とわかりやすくアピールしている。
「私達じゃない、他の女の子のことを考えていましたね……?」
「えっ」
図星なので、ついつい言葉に詰まってしまう。
そんな俺の反応を見て、エリゼがますます険しい表情になる。
「やっぱり……お兄ちゃんが他の女の子のことを……」
「ふーん。レンって、見境がないのね……こんな時まで、女の子のことを考えているなんて」
「えと、えと……そ、そういうのはよくないと思いますっ」
「ちょっと! 考えるならあたしのことを考えなさいよ」
なぜか、他の三人も加わる。
合計で4つのジト目にさらされて、なんともいえない居心地の悪さを味わう。
「お兄ちゃんっ!」
みんなを代表するように、エリゼが大きな声をあげた。
俺は兄なのだけど、妹さまに逆らうことできず、その場で正座をしてしまう。
「は、はいっ」
「今日は、お兄ちゃんが魔法大会で優勝したおめでたい日なんです。そのお祝いをしているんです。お兄ちゃんにも、色々と考えるところはあるのかもしれませんが、今は、他のことは考えないでほしいです」
「そう……だな。俺が悪かったよ」
俺のためにみんなが祝勝会を開いてくれているのだ。
エリゼの言うことはもっともなので、俺は素直に頭を下げた。
「わかればいいんです」
「それじゃあ、気を取り直して、祝勝会を再開しましょうか」
アリーシャがそう言って、みんながグラスを持つ。
中に入っているのは、もちろん、ジュースだ。
改めて乾杯をしよう、ということらしい。
メルのことについて考えるのは後回しだ。
今は祝勝会を楽しもう。
「「「かんぱーいっ」」」
一口でジュースを飲む。
ほのかに香る果実の匂い。
そして、喉を刺激する微炭酸。
独特のアルコールの味が……
「うん?」
アルコール?
自問自答した時……
「えへへぇ、お兄ちゃーーーんっ」
赤い顔をしたエリゼが、にへらとだらしない笑顔を浮かべながらこちらに抱きついてきた。
そのまま、猫のようにすりすりと顔を擦りつけてくる。
「え、エリゼ? なにをしているんだ?」
「んー、お兄ちゃん成分を補充しているんですぅ」
「なんだ、そのわけのわからない成分は?」
「わけがわからないとか、そんなひどいこと言わないでくださいっ! お兄ちゃんは鬼ですか!? 鬼畜ですか!? 妹にそんな態度をとるなんて、私、泣いちゃいますよ!?」
「お、おう……悪い」
「わかればいいんです、わかれば。というわけで……えへへへぇ、このまま、ぎゅうってさせてくださいね♪」
エリゼは甘えん坊だけど……
いつも以上に甘えまくってくる。
「ちょっとぉ、レン!」
同じく赤い顔をして、目が座っているアリーシャに絡まれた。
「あんた、魔法大会で優勝するなんて、どういうことなのよ!? あたしだって優勝を狙っていたのに、それをあっさりとかっさらうなんて……くうううっ、むかついてきたわ! レンっ、絶対にあんたに追いついて見せるんだからね! いい!? 待ってなさいよ!?」
「わ、わかった。わかったから、絡まないでくれ」
「なによ!? あたしがいつ絡んでいるっていうの!? そんなことしてないでしょ! 言いがかりはやめてくれない!?」
まさに今、絡まれているんだけど……
「ひっく、ぐす、えっぐっ……うううぅ、わたしはダメです。ダメダメ人間ですぅ……こんなわたしが生きていていいんでしょうか? いいえ、ダメですよね。神様、ごめんなさい、わたしなんかが存在してて……」
「フィア!?」
フィアも顔を赤くして、なぜかおもいきり泣いていた。
意味不明な謝罪をしつつ、だーっと滝のような涙を流している。
「あはははっ、フィア、あなたなんで泣いてるのよ、あはははっ!」
「ちょ、シャルロッテ!? そんな風に笑うなんて失礼だろ!?」
「だって、おもしろいんだもの、あはははっ! あはっ! って、よーく見たらレンの顔もおもしろいし……ぷっ、くすくす……あはははっ、ダメ、お腹痛い、笑い止まらない、あはははははっ!!!」
どこに笑いのツボがあるのか、まったく理解できない様子で、シャルロッテが笑い声を響かせていた。
みんなと同じく顔が赤い。
とある予感……というか確信を覚えながら、『ジュース』のラベルを見る。
アルコール度数5%、と書かれていた。
「誰だよ、間違えて酒を持ってきたの……というか、一口でこんなになるなんて、みんな酒に弱すぎだろ……」
祝勝会が一転して、酒乱大集合大会になってしまい、どたばた騒ぎが繰り広げられるのだった。




