表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
73/138

73話 優勝おめでとう

「「「おめでとうーーー!!!」」」


 夜。

 寮の部屋で祝勝会が開かれた。


 メンバーは、俺とエリゼとアリーシャとフィア。

 それと、ゲストとしてシャルロッテが迎えられていた。


 アラム?

 そんなのは知らない。


「お兄ちゃん、おめでとうございます♪」

「さすがね。あたしは、レンが優勝すると思っていたわ」

「えと、あの……す、すごい試合でした!」

「まっ、あたしに勝ったんだから当然よね!」

「ありがとう」


 みんなの言葉に、俺は笑顔で応えた。

 俺の優勝を、自分のことのように喜んでくれることがうれしい。

 俺も素直に喜びたいところなのだけど……


「……うーん」


 メルのことが気になって気になって、祝勝会に集中できない。

 気がつけば、彼女が何者なのか考えている。

 まるで恋煩いだ。


 どうにかして話をできないだろうか?


 魔法大会に出場していたから、俺と同じ新入生であることは間違いない。

 同じクラスの『ガナス』にはいないから……

 『シルカード』か『マーセナル』のどちらかということになる。


 対象のクラスは二つだけだから、探すのは簡単だ。

 名前も容姿も判明しているから、後日、二つのクラスを順々に訪ねて探せばいい。


「お兄ちゃん」

「うわっ」


 気がつけば、エリゼの顔が目の前にあった。

 じーっと、至近距離で見つめてくる。


「ど、どうしたんだ?」

「お兄ちゃんこそ、どうしたんですか? ぼーっとしていますよ」

「そ、そうか?」

「そうですよ。心ここにあらず、っていう感じです」


 むっすー、という感じでエリゼが頬を膨らませた。

 不機嫌ですよ、とわかりやすくアピールしている。


「私達じゃない、他の女の子のことを考えていましたね……?」

「えっ」


 図星なので、ついつい言葉に詰まってしまう。


 そんな俺の反応を見て、エリゼがますます険しい表情になる。


「やっぱり……お兄ちゃんが他の女の子のことを……」

「ふーん。レンって、見境がないのね……こんな時まで、女の子のことを考えているなんて」

「えと、えと……そ、そういうのはよくないと思いますっ」

「ちょっと! 考えるならあたしのことを考えなさいよ」


 なぜか、他の三人も加わる。

 合計で4つのジト目にさらされて、なんともいえない居心地の悪さを味わう。


「お兄ちゃんっ!」


 みんなを代表するように、エリゼが大きな声をあげた。

 俺は兄なのだけど、妹さまに逆らうことできず、その場で正座をしてしまう。


「は、はいっ」

「今日は、お兄ちゃんが魔法大会で優勝したおめでたい日なんです。そのお祝いをしているんです。お兄ちゃんにも、色々と考えるところはあるのかもしれませんが、今は、他のことは考えないでほしいです」

「そう……だな。俺が悪かったよ」


 俺のためにみんなが祝勝会を開いてくれているのだ。

 エリゼの言うことはもっともなので、俺は素直に頭を下げた。


「わかればいいんです」

「それじゃあ、気を取り直して、祝勝会を再開しましょうか」


 アリーシャがそう言って、みんながグラスを持つ。

 中に入っているのは、もちろん、ジュースだ。

 改めて乾杯をしよう、ということらしい。


 メルのことについて考えるのは後回しだ。

 今は祝勝会を楽しもう。


「「「かんぱーいっ」」」


 一口でジュースを飲む。


 ほのかに香る果実の匂い。

 そして、喉を刺激する微炭酸。

 独特のアルコールの味が……


「うん?」


 アルコール?


 自問自答した時……


「えへへぇ、お兄ちゃーーーんっ」


 赤い顔をしたエリゼが、にへらとだらしない笑顔を浮かべながらこちらに抱きついてきた。

 そのまま、猫のようにすりすりと顔を擦りつけてくる。


「え、エリゼ? なにをしているんだ?」

「んー、お兄ちゃん成分を補充しているんですぅ」

「なんだ、そのわけのわからない成分は?」

「わけがわからないとか、そんなひどいこと言わないでくださいっ! お兄ちゃんは鬼ですか!? 鬼畜ですか!? 妹にそんな態度をとるなんて、私、泣いちゃいますよ!?」

「お、おう……悪い」

「わかればいいんです、わかれば。というわけで……えへへへぇ、このまま、ぎゅうってさせてくださいね♪」


 エリゼは甘えん坊だけど……

 いつも以上に甘えまくってくる。


「ちょっとぉ、レン!」


 同じく赤い顔をして、目が座っているアリーシャに絡まれた。


「あんた、魔法大会で優勝するなんて、どういうことなのよ!? あたしだって優勝を狙っていたのに、それをあっさりとかっさらうなんて……くうううっ、むかついてきたわ! レンっ、絶対にあんたに追いついて見せるんだからね! いい!? 待ってなさいよ!?」

「わ、わかった。わかったから、絡まないでくれ」

「なによ!? あたしがいつ絡んでいるっていうの!? そんなことしてないでしょ! 言いがかりはやめてくれない!?」


 まさに今、絡まれているんだけど……


「ひっく、ぐす、えっぐっ……うううぅ、わたしはダメです。ダメダメ人間ですぅ……こんなわたしが生きていていいんでしょうか? いいえ、ダメですよね。神様、ごめんなさい、わたしなんかが存在してて……」

「フィア!?」


 フィアも顔を赤くして、なぜかおもいきり泣いていた。

 意味不明な謝罪をしつつ、だーっと滝のような涙を流している。


「あはははっ、フィア、あなたなんで泣いてるのよ、あはははっ!」

「ちょ、シャルロッテ!? そんな風に笑うなんて失礼だろ!?」

「だって、おもしろいんだもの、あはははっ! あはっ! って、よーく見たらレンの顔もおもしろいし……ぷっ、くすくす……あはははっ、ダメ、お腹痛い、笑い止まらない、あはははははっ!!!」


 どこに笑いのツボがあるのか、まったく理解できない様子で、シャルロッテが笑い声を響かせていた。

 みんなと同じく顔が赤い。


 とある予感……というか確信を覚えながら、『ジュース』のラベルを見る。

 アルコール度数5%、と書かれていた。


「誰だよ、間違えて酒を持ってきたの……というか、一口でこんなになるなんて、みんな酒に弱すぎだろ……」


 祝勝会が一転して、酒乱大集合大会になってしまい、どたばた騒ぎが繰り広げられるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◆ お知らせ ◆

ビーストテイマーのスピンオフを書いてみました。
【勇者パーティーを追放されたビーストテイマー、最強の少女達ともふもふライフを送る】
こちらも読んでもらえたらうれしいです。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ