71話 初めての強敵
「メルっ、お前はいったい……!?」
「今は試合に集中してほしいな。でないと、あっさり負けるよ? ボクは全力でいくからね」
「くっ」
聞く耳を持たないとはこのことか。
俺の問いかけを聞き入れることはなく、メルは魔法を詠唱する。
そして……
「疾風連撃波<タービュランスウェイブ>!」
第8位の魔法を解き放つ。
「なにっ!?」
今の世界の基準だと、『疾風連撃波<タービュランスウェイブ>』は第3位に相当する魔法だ。
そんなものを顔色一つ変えることなく、あっさりと使うことができるなんて……
メル・ティアーズ。
本当に、いったい何者なんだ……?
「空間歪曲場<ディメンションフィールド>!」
魔法で空間を歪めて、メルの攻撃を防いだ。
「やるね」
「くっ」
攻撃が防がれたというのに、メルはうれしそうにしていた。
戦いがいがある、と思っているのかもしれない。
しかし、俺はそれどころじゃない。
メルの先程の発言が気になって気になって仕方がない。
戦いに集中することなんてできなくて、後手後手に回っていた。
「炎爆陣<クリムゾンフレア>!」
今度は第6位の魔法だ。
巨大な魔法陣がリングの上に描かれて、そこから無限の炎が溢れ出す。
溢れ出した炎は災厄となり、俺という獲物を飲み込むために、怒涛の勢いで押し寄せてきた。
これだけの攻撃……『空間歪曲場<ディメンションフィールド>』では防ぎきれない。
ならば……!
「氷雪陣<アイシクルフォール>!」
対属性となる水属性の魔法を放つ。
炎の塊と氷の壁が互いを相殺した。
今の魔法、それなりの魔力を込めたというのに、相殺することが精一杯だった。
コイツ……強い!
「お前は……!」
「おしゃべりしているヒマなんてないよ。ほら、どんどん行くよ」
「くっ!」
雨のように魔法が連射された。
詠唱速度がとんでもなく速い。
さすがに、シャルロッテの遅延魔法に比べると遅いが……
それでも、普通に唱える分にはかなりのものだ。
無駄という無駄が一切省かれていて、次から次に魔法を放っている。
俺の質問に答えるつもりは一切ないらしい。
ひたすらに攻撃を叩き込んでくる。
ひょっとして、話を聞きたいならボクに勝ってみせろ……ということか?
なら、やってやろうじゃないか。
「能力加速<アクセル>!」
身体能力を強化する魔法を使う。
体が羽のように軽くなり、風の速度で駆ける。
「速い!?」
「まだまだっ」
次いで、魔法を唱える。
「紅蓮刃<フレアソード>!」
第5位の魔法を詠唱。
右手に炎の剣を作り出した。
ひょっとしたら、やりすぎかもしれない。
第5位となると、具体的に確認したわけではないが、今の時代だと2位か3位に相当するだろう。
それだけの魔法をぶつければ……結界が保たないかもしれない。
下手をしたら、メルに怪我を負わせてしまうかもしれない。
しかし。
手加減をしていたらメルに勝てない。
そう思った。
というか、そんなことをしたら逆に負けてしまう。
それだけの驚異を感じていた。
メル・ティアーズ。
彼女は、一流の魔法使いだ。
「氷雪刃<アイシクルソード>!」
俺に応えるように、メルは氷の剣を作り出した。
同じく、第5位の魔法だ。
「せぇえええええいっ!!!」
「はぁあああああっ!!!」
炎と氷が激突した!
威力は互角。
「これが賢者の力……さすが」
「おまえもやるな!」
「でも、負けられない。あなたに勝つ。それが最初の目標」
どういう意味だろう?
問いかける間もなく、メルは次の行動に移る。
魔力で編み込まれた剣を振り払い、後ろに跳躍。
大きく距離を取る。
そして、とある魔法の詠唱を開始。
それは……
「第3位……だと!?」
メルが解き放とうとしていた魔法は、第3位のものだった。
魔法が衰退しているこの時代で、俺以外に第3位の魔法を使える者がいるなんて……
驚いたけれど、同時にわくわくしていた。
楽しみだ。
メルは、いったいどれだけの力を持っているのだろう?
転生してから、一度も全力を出していない。
それはそれで、この時代が平和という証なのかもしれないが……
正直なところ、くすぶっているものはあった。
でも……
今は全力を出すことができるかもしれない。
心が躍る。
「炎紋爆<エクスプロージョンノヴァ>!」
「神撃<グランドクロス>!」
メルの第3位の魔法と、俺の第2位の魔法が激突した!




