69話 とっておき
シャルロッテがにやりと笑うのが見えた。
思い通り、と言っているかのようだ。
「氷烈牙<フリーズストライク>!」
シャルロッテは、まず新しく魔法を唱えて、オレの攻撃をしのいだ。
そして、
「火炎槍<ファイアランス>! 風嵐槍<エアロランス>! 大地槍<アースランス>! 閃光槍<フラッシュランス!> 水流槍<ウォーターランス>!」
「なっ!?」
「これがあたしのとっておきよっ、くらいなさい! 全開放<フルバースト>!!!」
5つの魔法が同時に放たれた。
左、右、上、斜め上……ありとあらゆる角度から襲いかかってくる。
これがシャルロッテの切り札!
おそらく、あらかじめ充填しておいた魔法を一つの術式としてまとめて、一気に解き放っているのだろう。
まさか、そんなことができるなんて……
この時代、全体の魔法理論は衰退しているが……
個人個人にまではそれは当てはまらないみたいだ。
アリーシャやシャルロッテのように、時代の流れに飲まれることなく、独自の技術を開発しているものがいる。
なかなか侮れない。
俺は知らず知らずのうちに笑っていた。
俺の知らない力、理論に触れることは楽しくて仕方がない。
「空間歪曲場<ディメンションフィールド>!」
第7位の魔法を使い、シャルロッテの攻撃を防ぐ。
同時にいくつもの魔法を使っているとはいえ、全て第10位の魔法。
これで防ぐことができるはずなのだけど……
「ぐっ!?」
いつかの入学試験で、ベヒーモスと戦った時と同等の衝撃が訪れた。
第10位の魔法と侮っていたことがまずかったらしい。
複数の魔法が重なることで、数倍の効果を生み出しているみたいだ。
巨人に体当たりをされているような圧力を感じて、押されてしまう。
それでも、全力でふんばり……
なんとか耐えることに成功した。
「ふぅ……とんでもないな」
「ふふーんっ、あたしの力に恐れ入ったみたいね! 今なら、降参を受け付けてあげるわよ?」
シャルロッテは得意げだ。
そうなるのも無理はない。
今の同時詠唱は、本当に驚いた。
遅延魔法だけじゃなくて、こんな切り札まで持っているなんて……シャルロッテは本当の天才だろう。
しかし。
ここで負けてやるわけにはいかない。
高みを目指す者として、立ち止まるわけにはいかないのだ。
「それじゃあ、今度は俺の切り札を見せようか」
「えっ?」
シャルロッテが驚いたような顔になり……
次いで、ふんっと笑う。
「おもしろいじゃない。まだ隠し玉があるっていうの? 受けて立とうじゃない。レンの切り札とやらを打ち砕いて、あたしが上っていうことを証明してあげる!」
「なんていうか……俺とシャルロッテって、似た者同士かもしれないな」
「な、なによいきなり」
「そういう負けず嫌いなところ、似ていると思うんだよな」
俺に切り札を使わせることなく、さっさと倒してしまえばいいものを……
あえて受けて立とうとする。
俺とよく似ていた。
妙なところで共感を覚えてしまう。
「さて、いくぞ」
俺の切り札は、シャルロッテのように驚くものじゃない。
ただの魔法を唱えるだけだ。
誰もが見たことのない技術なんてものは使われていない。
ちなみに、現状で使える最強の攻撃……第2位の魔法を使う、というわけじゃない。
そんなことをしたら、どうなるか。
第2位の魔法を使うことなんて、誰も想定していないだろう。
学院側も考えていないはず。
そんなものを使えば、もしかしたら結界が壊れてしまうかもしれない。
そしたら、シャルロッテに深刻なダメージを与えてしまうわけで……
だから、全力で戦うことはできない。
でも、力任せにシャルロッテから勝利を得たところで、あまりうれしくない。
シャルロッテを相手にするなら、技術や戦術で勝ちたいところだ。
「暗黒槍<ダークランス>!」
「なっ!?」
漆黒の槍を放ち……
シャルロッテが目を大きくして驚愕した。
人に扱えるはずがないと言われている、闇属性の魔法。
それが俺の切り札だ。
エル師匠直伝の闇属性の魔法。
シャルロッテを驚かせるには十分だったらしい。
シャルロッテはぽかんとして……ややあって我に返り、迎撃を試みようとした。
しかし、遅い。
「くっ」
シャルロッテは迎撃を諦めて回避行動に移った。
横に大きく跳んで、漆黒の槍をやりすごす。
「まさか、闇属性の魔法を使えるなんて……レンって、とんでもないわね!」
「褒め言葉、ありがとう」
「でも、それだけじゃあたしは倒せないわよ! さっきは驚いたけど、二度目はないんだからっ」
「残念、もう終わりだ」
「え?」
これみよがしに『暗黒槍<ダークランス>』を使用したのは、シャルロッテに驚いてもらうためだ。
隙を見せてもらい……
次の魔法を詠唱するための時間を稼ぐためのものだ。
その目的は達成されて……
俺は本命の魔法を唱える。
「影移動<シャドウシーカー>!」
俺の姿が影に溶けるように消えて……
シャルロッテの影から湧き上がる。
「えっ!?」
瞬時に背後に回られたシャルロッテにできることはない。
俺はシャルロッテの背中に手を軽く当てて、そして、全力で魔法を解き放つ。
「暗黒槍<ダークランス>!」
「にゃあああああっ!!!?」
シャルロッテが吹き飛ばされて、目を回して……そのまま気絶した。
魔力が枯渇したのだろう。
闇属性の魔法を使い、シャルロッテを驚かせて隙を作り……
その間に本命の魔法を使い、ゼロ距離まで接近する。
そして、痛烈な一撃を叩き込む。
それが俺の作戦だ。
「勝者、レン・ストライン!」
こうして、俺とシャルロッテの試合は終わりを告げた。




