表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
69/138

69話 とっておき

 シャルロッテがにやりと笑うのが見えた。

 思い通り、と言っているかのようだ。


「氷烈牙<フリーズストライク>!」


 シャルロッテは、まず新しく魔法を唱えて、オレの攻撃をしのいだ。

 そして、


「火炎槍<ファイアランス>! 風嵐槍<エアロランス>! 大地槍<アースランス>! 閃光槍<フラッシュランス!> 水流槍<ウォーターランス>!」

「なっ!?」

「これがあたしのとっておきよっ、くらいなさい! 全開放<フルバースト>!!!」


 5つの魔法が同時に放たれた。

 左、右、上、斜め上……ありとあらゆる角度から襲いかかってくる。


 これがシャルロッテの切り札!


 おそらく、あらかじめ充填しておいた魔法を一つの術式としてまとめて、一気に解き放っているのだろう。

 まさか、そんなことができるなんて……


 この時代、全体の魔法理論は衰退しているが……

 個人個人にまではそれは当てはまらないみたいだ。

 アリーシャやシャルロッテのように、時代の流れに飲まれることなく、独自の技術を開発しているものがいる。

 なかなか侮れない。


 俺は知らず知らずのうちに笑っていた。

 俺の知らない力、理論に触れることは楽しくて仕方がない。


「空間歪曲場<ディメンションフィールド>!」


 第7位の魔法を使い、シャルロッテの攻撃を防ぐ。


 同時にいくつもの魔法を使っているとはいえ、全て第10位の魔法。

 これで防ぐことができるはずなのだけど……


「ぐっ!?」


 いつかの入学試験で、ベヒーモスと戦った時と同等の衝撃が訪れた。

 第10位の魔法と侮っていたことがまずかったらしい。

 複数の魔法が重なることで、数倍の効果を生み出しているみたいだ。


 巨人に体当たりをされているような圧力を感じて、押されてしまう。

 それでも、全力でふんばり……

 なんとか耐えることに成功した。


「ふぅ……とんでもないな」

「ふふーんっ、あたしの力に恐れ入ったみたいね! 今なら、降参を受け付けてあげるわよ?」


 シャルロッテは得意げだ。

 そうなるのも無理はない。

 今の同時詠唱は、本当に驚いた。

 遅延魔法だけじゃなくて、こんな切り札まで持っているなんて……シャルロッテは本当の天才だろう。


 しかし。


 ここで負けてやるわけにはいかない。

 高みを目指す者として、立ち止まるわけにはいかないのだ。


「それじゃあ、今度は俺の切り札を見せようか」

「えっ?」


 シャルロッテが驚いたような顔になり……

 次いで、ふんっと笑う。


「おもしろいじゃない。まだ隠し玉があるっていうの? 受けて立とうじゃない。レンの切り札とやらを打ち砕いて、あたしが上っていうことを証明してあげる!」

「なんていうか……俺とシャルロッテって、似た者同士かもしれないな」

「な、なによいきなり」

「そういう負けず嫌いなところ、似ていると思うんだよな」


 俺に切り札を使わせることなく、さっさと倒してしまえばいいものを……

 あえて受けて立とうとする。

 俺とよく似ていた。

 妙なところで共感を覚えてしまう。


「さて、いくぞ」


 俺の切り札は、シャルロッテのように驚くものじゃない。

 ただの魔法を唱えるだけだ。

 誰もが見たことのない技術なんてものは使われていない。


 ちなみに、現状で使える最強の攻撃……第2位の魔法を使う、というわけじゃない。

 そんなことをしたら、どうなるか。


 第2位の魔法を使うことなんて、誰も想定していないだろう。

 学院側も考えていないはず。

 そんなものを使えば、もしかしたら結界が壊れてしまうかもしれない。

 そしたら、シャルロッテに深刻なダメージを与えてしまうわけで……


 だから、全力で戦うことはできない。

 でも、力任せにシャルロッテから勝利を得たところで、あまりうれしくない。

 シャルロッテを相手にするなら、技術や戦術で勝ちたいところだ。


「暗黒槍<ダークランス>!」

「なっ!?」


 漆黒の槍を放ち……

 シャルロッテが目を大きくして驚愕した。


 人に扱えるはずがないと言われている、闇属性の魔法。

 それが俺の切り札だ。


 エル師匠直伝の闇属性の魔法。

 シャルロッテを驚かせるには十分だったらしい。

 シャルロッテはぽかんとして……ややあって我に返り、迎撃を試みようとした。

 しかし、遅い。


「くっ」


 シャルロッテは迎撃を諦めて回避行動に移った。

 横に大きく跳んで、漆黒の槍をやりすごす。


「まさか、闇属性の魔法を使えるなんて……レンって、とんでもないわね!」

「褒め言葉、ありがとう」

「でも、それだけじゃあたしは倒せないわよ! さっきは驚いたけど、二度目はないんだからっ」

「残念、もう終わりだ」

「え?」


 これみよがしに『暗黒槍<ダークランス>』を使用したのは、シャルロッテに驚いてもらうためだ。

 隙を見せてもらい……

 次の魔法を詠唱するための時間を稼ぐためのものだ。


 その目的は達成されて……

 俺は本命の魔法を唱える。


「影移動<シャドウシーカー>!」


 俺の姿が影に溶けるように消えて……

 シャルロッテの影から湧き上がる。


「えっ!?」


 瞬時に背後に回られたシャルロッテにできることはない。

 俺はシャルロッテの背中に手を軽く当てて、そして、全力で魔法を解き放つ。


「暗黒槍<ダークランス>!」

「にゃあああああっ!!!?」


 シャルロッテが吹き飛ばされて、目を回して……そのまま気絶した。

 魔力が枯渇したのだろう。


 闇属性の魔法を使い、シャルロッテを驚かせて隙を作り……

 その間に本命の魔法を使い、ゼロ距離まで接近する。

 そして、痛烈な一撃を叩き込む。

 それが俺の作戦だ。


「勝者、レン・ストライン!」


 こうして、俺とシャルロッテの試合は終わりを告げた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◆ お知らせ ◆

ビーストテイマーのスピンオフを書いてみました。
【勇者パーティーを追放されたビーストテイマー、最強の少女達ともふもふライフを送る】
こちらも読んでもらえたらうれしいです。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ