64話 祝勝会
「それじゃあ、フィアの勝利を祝って……」
「「「かんぱーーーいっ!!!」」」
「か、かんぱい……」
魔法大会一日目が終了した後。
部屋に集まり、みんなでフィアの祝勝会を開いた。
まだ成人していないので、飲み物は冷たく冷やした果物の果汁。
それと、甘いサクサクのクッキー。
ちなみに、エリゼの手作りだ。
それらをみんなでつまみながら、魔法大会の話をする。
「改めて、おめでとうございます。フィアさん」
「すごい逆転劇だったわ。あたしだったら、あんな風にうまくいかないと思う」
「そ、そんな……はわわわっ」
エリゼとアリーシャの称賛の言葉に、フィアは顔を赤くして慌てた。
褒められていることに慣れていないのだろう。
「いやいや、謙遜することないぞ。ちょっとハラハラしたけど、いい感じに戦えていたと思う」
「れ、レン君まで……」
「前に教えた魔法式もきちんと使っていたし、フィアがすごい優秀だから、教えた身としては鼻が高いよ」
「あう……」
どんどんフィアが赤くなっていく。
ちょっとおもしろい。
「フィア」
「は、はいっ」
最後にシャルロッテが、フィアを見た。
なにを言われるのだろうか? と緊張しているらしく、フィアはガチガチだ。
そんなフィアに、シャルロッテは笑みを見せた。
「あなた、やればできるじゃない。これからも、その調子でいてね」
「あ……は、はいっ!」
わかりづらいけれど、今のは、シャルロッテの最大限の褒め言葉なのだろう。
そのことを理解しているらしく、フィアは一番うれしそうな顔をした。
やっぱり、フィアにとってシャルロッテは特別な存在なのだろう。
仕えている家のお嬢さまというだけではなくて……
身分を越えた親友関係、というところか。
そんなシャルロッテに褒められることが一番うれしいらしい。
フィアは照れくさそうにしながらも、うれしそうに、柔らかい笑みを浮かべていた。
「それにしても……みんな、二回戦を突破できましたね!」
エリゼの言うように、ここにいる全員、二回戦を突破した。
ちなみに、魔法大会は三日に分けて行われる。
初日は二回戦まで。
二日目は準々決勝まで。
そして、三日目で優勝者を決める……という流れだ。
みんな、バラバラのブロックに分かれていたから、今日はぶつかることはなかったけれど……
明日以降は激突する可能性が高い。
ここにいる皆がライバルになる。
「この調子で勝ち進めば、明日はエリゼと戦うことになるのかしら?」
「むっ。負けませんからね、アリーシャちゃん!」
「私だって負けないわよ」
互いに競い合い、友情を育む一方で……
「あわわわ……あ、明日はシャルロッテさまと……」
「なに震えてるのよ。この超絶天才魔法使いのシャルロッテちゃんと戦えるんだから、光栄に思いなさい?」
「あ、ありがとうございますっ!?」
「なんでお礼を言うのよ。まったく、困った子ね」
すでに緊張しているフィアは、妙なコメントを連発していた。
それに対して、シャルロッテはやれやれと肩をすくめながらも、優しい顔をしている。
以前に、フィアのことを大事だと思っている、と言っていたけれど……
このやりとりを見る限り、その言葉にウソはないみたいだ。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん」
「うん?」
「明日に向けて、なにか一言、お願いします」
「なんで俺?」
「このメンバーのまとめ役は、レン以外にいないでしょう?」
アリーシャがそう言う。
俺、いつの間にそんな立場になっていたのだろうか?
「えっと……」
場の雰囲気もあり、促されるまま立ち上がる。
「まあ、堅苦しいことは言わないでおこう。まだ魔法大会が終わったわけじゃないからな。で……明日はこの面子で激突する可能性もあるわけだ。でも、それはそれで、俺は楽しみにしている。日頃の成果を見せるチャンスだからな。こういう機会は……」
「ちょっと、長いわよ」
「しゃ、シャルロッテさま。こういう時は、じっとしておいた方が……」
「だって、長いんだもん」
「あー……まあ、まとめるとだ。悔いが残らないように、全力でがんばろうっていうことだ。せっかくだから、この中から優勝者を出すぞっ!!!」
「「「おーーーっ!!!」」」
「お、おぉ……!」
みんなが元気よく声をあげて……フィアはおどおどとしていたが……祝勝会は楽しく続けられるのだった。
――――――――――
祝勝会も終わり……深夜。
「……ん?」
ふと、人の気配がした。
目を開けると、フィアが寝室を出ていくのが見えた。
こんな時間にどうしたんだろう?
気になり、追いかけてみる。
「フィア」
「ひゃ!?」
ベランダに出たフィアに声をかけると、ぴょんっと飛び上がる。
「お、驚きましたぁ……うぅ……驚かせないでくださいよぉ」
「ごめんごめん。でも、こんな時間にこんなところにいるフィアも悪いと思うぞ?」
「う……そう言われると……」
「どうしたんだ?」
「なんか、夢みたい……って思っていたんです。それで、なかなか眠れなくて夜風にあたろうと」
「夢?」
「わたしが魔法大会で勝てるなんて……しかも、その相手がフニンさんだなんて……正直言うと、今でも信じられません」
「夢なんかじゃないさ。それは、フィアの実力で勝ち取ったものだ」
「で、でもでも、わたし一人じゃ無理でした。エリゼさんとアリーシャさんに応援してもらって、シャルロッテさまに励ましてもらって……そして、レン君が助けてくれました」
フィアはじっとこちらを見る。
ややあって、ぺこりと頭を下げた。
「ありがとうございます、レン君」
「別に、俺は大したことはしてないんだけど……」
新しい魔法式を教えたくらいだ。
それと、ちょっとトレーニングに付き合っただけで、大したことはしていない。
全部、フィアの力だと思う。
彼女には、それだけの才能があったと思う。
「い、いえいえ! やっぱり、レン君のおかげですよ。レン君は色々なことを教えてくれましたし……それに、試合の前にかけてくれた言葉。あの言葉のおかげで、わたしは戦うことができました。前を向いて歩くことができるようになりました。だから……」
そこで一度言葉を区切り、
「ありがとうございます」
フィアはにっこりと笑う。
その笑顔は、夜空に輝く月と同じように綺麗だった。く、大事に育てていきたいと思います。
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