63話 もう言うことはきかない
「フィア、おめでとう!」
「「「おめでとう!!!」」」
ロビーに戻ってきたフィアをみんなで迎える。
ちなみに、シャルロッテは『やることがあるので』と言い残して、どこかへ行ってしまった。
「あ、ありがとうございます……」
みんなの祝福を受けて、フィアは照れくさそうに笑い……
次いで、じっと俺の顔を見つめてきた。
「あ、あの……レン君。お願いがあるんですけど……」
「うん? なんだ?」
「えっと、その……わたしの頬をつねってくれませんか?」
「え?」
「あ、あのあのっ、変な趣味とかそういうわけじゃなくてですね!? その、未だに勝ったことが信じられないというか、夢なんじゃないかって思っていたりして……それでその、これが夢なのか現実なのかレン君に確かめてもらいたいなあ……って」
「あ、そういうことか」
一瞬、フィアが変な趣味に目覚めたのではないかと焦った。
フィアなら似合いそうだからなあ……
って、バカなことを考えるのはよそう。
「じゃあ……ほい」
「ふぁ」
フィアの柔らかい頬をつねるのではなくて、指先でぷにぷにと突いた。
「夢じゃない……みたいですね」
「なんで他人事なんだよ」
「やっぱり、し、信じられなくて……」
「自分でやり遂げたことなんだ。信じてやらないと、自分がかわいそうだぞ」
「はい!」
フィアは気持ちのいい笑顔を見せた。
やっぱり、この子は笑っている方が似合うな。
「フィア!」
甲高い、耳障りな声が響いた。
見るとフニンの姿があった。
俺達のことは目に入っていないらしい。
怒りで目を吊り上げながら、フィアのところへ。
「あ……ふ、フニンさん……」
「あなた、よくも私に恥をかかせてくれたわね!?」
「えっ、えっ?」
「私があんたごときに負けるなんてありえない! なにかいかさまをしたんでしょう!? そうに決まっているわ! 汚い手を使うなんて最低ね!」
自分の敗北が信じられず……
今度は、フィアにケチをつけにきたみたいだ。
言葉も出ないほどに呆れるとは、このことをいうのだろうか。
いかさまもなにもしていない。
フィアはきちんと実力で勝利したのだ。
そんなこともわからないなんて……
底がしれているな、この女は。
とはいえ、面倒な相手には変わりない。
俺はフニンを追い払おうと、フィアの前に……
立とうとしたところで、フィアが一歩前に出た。
真正面からフニンと対峙する。
「あ、あの……! もうひどいことはしないでくださいっ」
「な、なによ……」
今まで反論なんてされなかったフィアに、強い口調で言われて驚いたみたいだ。
フニンがたじろぐ。
「私は、その……もうあなたの言うことなんて聞きませんから!」
「なっ……」
「シャルロッテさまのためになるからとか、そんなことを言われてて、でも、そんなことはなくて……もうあなたに従うことなんてありません!」
「な、生意気な口をきいて……!」
フニンが激怒する。
それでも、フィアは一歩も引かない。
フィアは、ただ魔法が強くなるだけではなくて……
一人で歩いていけるだけの強さも手に入れた。
その証を見せるように、フニンと対等に渡り合っている。
なんていうか……
親になったような気分で、うれしい。
フィアが強くなったところを見ることができるなんて……
「私にそんな口をきいたこと、後悔させてやるわよっ! あんたごときが、この私に逆らうなんて……絶対に許されないんだからっ。あんただけじゃないわ……そこでお友達ごっこしてる連中も一緒に後悔させてやる!」
「みんなを巻き込んだら絶対に許しません!」
「っ……!?」
フィアの強い視線を受けて、フニンが一歩、後ろに下がる。
本能的にフィアに恐怖を覚えて……
心が負けた瞬間だった。
「こ、このっ……!」
それでもフニンは退くという選択をとることができず、悔しそうに歯噛みしながら、フィアを睨みつけた。
ギリギリと奥歯を噛んでいる。
そのまま平手打ちでもしそうな雰囲気だ。
さすがに、そろそろ俺の出番かな?
そう思ったところで……
「フニン」
シャルロッテの声が響いた。
「あっ……しゃ、シャルロッテさま……どうしてここに……」
「決まっているでしょう? 愚か者に制裁を与えるためよ」
「ひっ」
シャルロッテがにっこりと、極上の笑顔を浮かべる。
でも、こんな時にそんな顔をする方が怖い。
フニンも恐怖を覚えたらしく、足を震わせていた。
「あたしの名前を騙り、好き勝手やってくれたみたいね」
「そ、そんなことは……」
「だまりなさい。あなたの声は、もう聞くだけで不愉快よ」
「っ」
「まあ……もうあなたの声を聞く機会もないだろうから、そこは安心ね」
「え……ど、どういう意味ですか?」
「今回のこと、あなたの独断でしょう? 母さまを通じて、あなたの家に全て報告させてもらったわ」
「なっ!?」
「ついでに、あたしに不愉快な思いをさせたことも伝えておいたわ。あなたの両親、控えめに言っても激怒してたわよ?」
なるほど。
どこへ行っていたかと思えば、フニンに完全にトドメを刺すための準備をしていたということか。
俺は、フィアが自力でフニンのいじめを跳ね除ければ問題は解決するかと思っていたが……
そうでもない場合もあると、シャルロッテは先を考えていたらしい。
「あなたは学院を自主退学。家に連れ戻されて、そこで一から教育される……という展開みたいね。まあ、お似合いの結末じゃないかしら?」
「そ、そんな……この私が……大魔法使いになるはずの私が……」
フニンは床に膝をついてうなだれて……
そして今度こそ、フィアに関する事件が完全に終了した。
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